金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~   作:上下左右(じょうげさゆう)

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第一章 ~『アナリストレポート』~

談話室でスマホを弄りながら、俺はため息を漏らす。

 

 

 

「やっぱりステータスを確認できるようにしたいなぁ」

 

 

 

 現状でも国民のステータスなら確認できるが、これから他国の人間と関係していくことを考えると、必須の能力だと思う。

 

 

 

「けど高いんだよなぁ」

 

 

 

 課金アプリを起動して、他人のステータスを確認できる拡張機能の項目を選択する。

 

 

 

 そのお値段、なんと金貨十万枚。日本円で十億円である。

 

 

 

 十億円あれば一生遊んで暮らすことも不可能ではない。そのお金をアプリに課金するのには抵抗があった。

 

 

 

「証券アナリストのレポートと比べれば安いし、買ってしまうか」

 

 

 

 投資銀行では、企業を買収する際にその企業を調査・分析したレポートを証券アナリストから購入することが多い。

 

 

 

 自社で一から調査するより時間も費用も安いのだが、それでも年間で数十億円の費用を要する。

 

 

 

 つまり信頼できる情報はそれだけ価値があるということだ。

 

 

 

 ちなみにだが投資銀行が個人投資家以上の勝率で利益を得られている理由は、このアナリストレポートの存在が大きい。それを知っている個人投資家の中には、あえてアナリストレポートが発行されていない企業だけを選んで取引する者も多い。

 

 

 

「さらば、十億円」

 

 

 

 俺は購入ボタンを押す。するとアプリ画面に「廃課金乙です!」とのメッセージが表示される。

 

 

 

 ぶん殴りてぇ。

 

 

 

 イライラしながらも俺はページをスライドさせていく。するとお知らせボックスという項目が光っていた。折角なので内容を確認してみる。

 

 

 

「廃課金のあなたに運営からプレゼント。ステータス確認機能に無料でオプションが付けられるよ」

 

 

 

 運営って誰だよとの疑問はあるが無視して、オプション機能に目を通す。

 

 

 

 敵意・忠誠心・友情・愛情の四つのステータスの内、一つを確認できるようになるそうだ。

 

 

 

 国王として考えるなら敵意か忠誠心だろう。この二つが分かれば部下や協力者の裏切りを事前に知ることができる。

 

 

 

 友情も捨てがたい。忠誠心のような部下に限定せず、俺への親密度を知ることができる。もちろん忠誠心を抱いているが、友情を抱いていないやつもいるだろから、どちらが良いとは一概に言えないだろうけど。

 

 

 

「折角だから俺はこの赤いボタンを選ぶぜ」

 

 

 

 俺は愛情と記された赤いチェックボタンを選択する。やっぱり男なら自分がどれくらい惚れられていのか知りたい。最終的には俺への好感度が高い奴だけ集めてハーレムを形成してやる。

 

 

 

「実験してみたいな」

 

 

 

 誰かこないかとワクワクして待つ。するとアリスの姿が見えた。黒髪の頭の上でまとめ、黒衣のドレスを身に纏っている。首からは龍魔宝珠のネックレスが下げられている。

 

 

 

「どこか出かけるのか?」

 

 

 

 アリスが俺に話しかけられ、ピクリと反応する。

 

 

 

「どうしてそう思ったのかしら?」

 

「いや、気合いの入った格好をしているなと思って」

 

「これはただの普段着よ」

 

 

 

 姫というのは普段も着飾らないといけないのか。思えばイーリスも常にきちんとした格好をしている。

 

 

 

「それで……どうかしら? 私の普段着は」

 

「似合っているんじゃないか」

 

「そ、そう。それなら良かったわ」

 

 

 

 アリスは頬を赤らめ、口元を緩める。

 

 

 

 なんだかこいつ、可愛いぞ。

 

 

 

「本来の目的を忘れるところだった」

 

「目的?」

 

「こっちの話だ」

 

 

 

 課金アプリを起動し、アリスのステータスを確認してみる。

 

 

 

――――――――――

 

名前:アリス・サイゼリア

 

評価:B

 

称号:サイゼ王国の美姫

 

魔法:

 

・転移魔法

 

・風魔法

 

スキル:

 

・料理(ランクB)

 

・速読(ランクC)

 

能力値:

 

 【体力】:1

 

 【魔力】:400

 

 【速度】:1

 

 【攻撃】:1

 

 【防御】:1

 

拡張機能:

 

・唐沢への愛情(ランクB)

 

――――――――――

 

 

 

 アリスは魔法を二種類も持っている。

 

 

 

『転移魔法。一度行ったことがある場所へ移動できる魔法。遠くに移動すればするほど魔力の消費量が大きくなる』

 

 

 

『風魔法。風を自由自在に操る上位魔法。使用者のイメージによりできることが変わる』

 

 

 

 どちらの魔法も便利な能力だ。

 

 

 

 特に上位魔法の概念については驚きだった。

 

 

 

 例えば『炎弾』の魔法だと炎の弾丸を飛ばすことしかできない。だが『炎魔法』なら『炎弾』も使えるし、他の炎関連の魔法もすべて扱えるのだという。

 

 

 

 ただ上位魔法の金額は高いらしい。だが金持ちの俺にとって金なんて些細な問題でしかない。

 

 

 

 いずれ買うと俺は心に誓った。

 

 

 

 次に能力値を見てみる。アリスの能力値は魔力極振りだった。それにしても他の能力値すべて1かよ。貧弱にも程がある。

 

 

 

 スキルについてはアリスへのイメージ通りだ。

 

 

 

 ランクCの『速読』を保持しているということは本好きなのだろう。部屋の隅で本を読んでいそうだし、そもそもあの貧弱能力値ではアウトドアなど楽しめまい。

 

 

 

 スキルについてはランクBの『料理』スキルも持っている。サイゼ王国の宮廷料理人がランクCの『料理』スキルを保持していると話していた。

 

 

 

 あの料理より旨いのかと思うと、ランクBの料理、機会があれば一度食べてみたい。

 

 

 

 最後に拡張された俺への愛情の項目を確認する。

 

 

 

 ランクBと記されている。これがどれ程の愛情なのかを、確認してみる。

 

 

 

「百年に一度の恋に相当。告白すれば振られることはありえません。それどころか押し倒しても、喜んであなたを受け入れるでしょう」

 

 

 

 アリスは俺のことをかなり気に入ってるらしい。俺は口元がにやけてくのを感じた。

 

 

 

「あなた笑うと気持ち悪いから人前ではムスッとしておいた方がいいわよ」

 

 

 

 こいつ本当に俺に惚れているのか?

 

 

 

 このステータスが一気に信じられなくなった。

 

 

 

「旦那様と妹ちゃん、こんなところで何をしているの?」

 

 

 

 イーリスが談話室に顔を出す。ダークグレーのスーツが良く似合っていた。

 

 

 

「少し雑談をしていたの。私はそろそろ行くわ。夫婦の時間を邪魔しても悪いしね」

 

 

 

 アリスが談話室を後にする。部屋には俺とイーリスだけが残された。

 

 

 

「次はイーリスで実験してみるか」

 

 

 

 課金アプリでステータスを確認する。

 

 

 

――――――――――

 

名前:イーリス・サイゼリア

 

評価:B

 

称号:サイゼ王国のブス姫

 

魔法:

 

・なし

 

スキル:

 

・剣術(ランクB)

 

・格闘術(ランクC)

 

能力値:

 

 【体力】:300

 

 【魔力】:1

 

 【速度】:400

 

 【攻撃】:350

 

 【防御】:400

 

拡張機能:

 

・唐沢への愛情(ランクS)

 

――――――――――

 

 

 

 妹のアリスと違い、魔力以外の能力値が満遍なく高い。

 

 

 

 魔法は使えないようだが、剣術と格闘術のスキルを保持している。ゲームでいうところの戦士みたいなステータスだった。

 

 

 

 で、お楽しみの俺への愛情だが、ランクSである。ランクBで押し倒してもOKだった。のだ。ランクSだとどうなるのか。俺はゴクリと息を呑む。

 

 

 

「一億と二千年の恋に相当。あなたのことが好きで好きでたまらなく、四六時中あなたのことを考えています。自分の命すら投げ捨てる覚悟を持ち、あなたが死ねと命じれば喜んで死んでくれるでしょう。ただしもし彼女を捨てるなら覚悟した方が良い。運営はどんな事態に陥っても責任を取りません」

 

 

 

 ランクSの愛情、すげえ重い。

 

 

 

 なにこれ、俺が死ねって命じれば死ぬの。怖いんだけど。

 

 

 

「どうかしましたか、旦那様」

 

 

 

 イーリスが俺の視線を感じて微笑んでくれる。

 

 

 

「いや、なんでもない」

 

「そういえば旦那様、魔王ラジオの件はどうなりましたか?」

 

「順調だよ。すべて想定の範囲内だ」

 

 

 

 俺たちが魔王ラジオの株に対してTOBを宣言した直後から、魔王放送局も株の買い占めを開始した。

 

 

 

 魔王ラジオの株価は高騰を始めているが、まだ想定の範囲内の株価に落ち着いている。

 

 

 

「これからどうなると考えているのですか?」

 

「魔王ラジオ側はポイズンピルをやってくる可能性が高いだろうな」

 

 

 

 ポイズンピルとは企業買収の防衛策の一つで、既存株主に新株を発行して割り当てることである。

 

 

 

 今回の既存株主は魔王放送局を指す。つまり分母を増やすことで、全体に対する俺の株の保持率を下げることができるわけだ。

 

 

 

 ただ新株発行は特定の株主を優遇するため、法的に認められないケースも多い。裁判の時間も必要だ。俺は裁判が終わるまで待ってやるほどノロマではない。

 

 

 

「他に可能性としてはクラウンジュエルがあるな」

 

「クラウンジュエル?」

 

「戦争でいうところの焦土作戦のようなものだな」

 

 

 

 有力な子会社を売却したり、有力事業のメインパーソンを別会社に転職させたりすることで、会社の魅力を落とし、買収意欲を削ぐ防衛策のことだ。

 

 

 

「自分から魅力になる部分を捨てるわけだから、最後の手段だな」

 

 

 

 やられる前に買収を成功させるつもりだけどな。

 

 

 

「株の保有率はどんな状況なんですか?」

 

「俺が四十パーセント、魔王放送局が十パーセントだ」

 

「ならあと十パーセントで過半数を超えますね」

 

「過半数だけでは終わらさない。可能なら三分の二を超える」

 

 

 

 持ち株比率が過半数を超えると、役員の選任などができるようになる。つまりは自分の息のかかった人間を送り込み、会社を支配することができる。

 

 

 

 だが過半数では会社の合併などの重要決議を単独で決定することができない。三分の二の同意が必要だからだ。

 

 

 

 逆に三分の一を握られれば、こちらが通したい重要決議を否認される可能性がでてくる。

 

魔王放送局が株を買い集める前に、俺は三分の二を取得する必要があった。

 

 

 

「次の一手でチェックメイトだ」

 

「何か考えがあるのですね」

 

「ああ。奴らの驚く顔が楽しみだ」




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