金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
どのテレビチャンネルを付けても魔王軍の侵略を報じていた。このまま進行すれば一週間以内には全面戦争が始まると、報道員が危機感を煽っている。
「うちの国じゃないじゃん」
侵略されているのはサイゼ王国の隣国、コスコ公国だった。
前国王から報告を受けたときは、魔王放送局買収の腹いせに侵略してきたのかと焦ったが、杞憂で終わって何よりである。
「旦那様、コスコ公国が侵略されるのは少々マズイかもしれません」
「国境の問題か……」
現在魔王領とサイゼ王国は国境が接していない。だから魔王軍がサイゼ王国を攻める場合は、橋頭保となる国を占領する必要がある。
だからコスコ公国が魔王領に占領されれば、サイゼ王国にとって国防上の問題が生じるのである。
「魔王軍って色々な国に侵略しているけど、そんなに強いのか?」
「強いです」
魔王領には豊富な鉱山資源があり、輸出で大儲けしている。さらに占領した国から金品を奪い取っている。
この世界では課金額と強さが比例する。資産を豊富に持つ魔王軍は強力な課金兵を何人も生み出しているのだという。
「コスコ公国はどうなんだ?」
「昔は大国でしたが、今では落ちぶれた弱小国家です」
大国だった時の資産のおかげで何とか亡国を免れているが、主要産業は何もなく、赤字を垂れ流している。
「コスコ公国に主要産業はないんだよな。なら魔王領が侵略する理由は、やはり大国時代の貯金狙いか」
「不動産や企業債権など、資産は豊富ですからね」
「俺たちとしてはコスコ公国に戦争で負けてもらうと困るんだがな」
ただし勝たれても困る。ほどほどに疲弊してくれるのが最良だ。
「国王様!」
衛兵の一人が俺のもとへ近づき、耳打ちをする。俺は笑いを堪えられず、口元を歪ませる。
「何か良い知らせでもありましたか?」
「ああ。鴨がネギを背負ってきた」
コスコ公国の使者が俺の経営するファンドに融資を頼みにきたのである。
俺は企業買収や資金調達のアドバイザーなど、投資銀行業務を色々と経験してきた。だが多岐にわたる業務の中でも、資金に困っている会社の足元を見て、債権や株式を買い漁るハイエナ業務を最も得意としていた。
「腕が鳴るぜっ」
銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げるというが、俺はコスコ公国から傘だけでなく身ぐるみをも剥いでしまうつもりだった。
○
コスコ公国の使者として現れたのは、国を治めるコスコ公爵自身だった。コスコ公爵は今回資金を得られるかどうかが、国の将来を左右するとまで考えていた。
「遅いな……」
王の間に通されたコスコ公爵は出された紅茶を口にする。旨いが、今は味を楽しんでいる余裕はない。
コスコ公爵はサイゼ王国を罠に嵌めようと考えていた。上手くいけば大金を稼ぎ、魔王軍との戦いを回避することができるかもしれない。
「待たせたな」
唐沢がコスコ公国の前に姿を現す。黒髪、、黒目の美丈夫だ。隣には銀髪のイーリス姫の姿もある。噂通りの醜さだ。
こんなブスと結婚する。自分なら絶対に嫌だと、コスコ公爵は内心思う。
だがそれ故に唐沢が恐ろしかった。
コスコ公爵は唐沢が国王の座を手に入れるため結婚したのだと考えていた。目的のためなら生き地獄のような結婚生活も許容できる男。油断はできない。
「唐沢国王、本日は急な訪問申し訳ない」
「詫びは良い。それよりも用件を教えてくれ」
「我が国に資金を提供してほしい」
融資でも構わないし、資産を購入して貰う形でも良いと、コスコ公爵は続ける。
「融資は担保があれば構わない。資産の購入は良いモノがあればだな」
「なら資産の購入で進めましょう。こちらがリストになります」
コスコ公爵としては融資より資産を購入して貰いたかった。上手く話が進みよかったと、内心安堵する。
「リストの内容は企業の債権、奴隷の権利、あとは……ダンジョンの経営権なんかもあるのか!」
企業の債権とは、国営銀行が企業に融資した借金の権利であり、唐沢が債権を買えば、その会社から借金を返してもらうことができる。
「まず企業の債権から聞きたいのだが、なぜ自分で回収しない」
「ご存知の通り我々は魔王軍と緊張状態にあります。そのため債権回収するための人手と時間が足らないのです。特に時間はサイゼ王国にまとめて買ってもらえるなら、かなり短縮されますから」
「へぇ~」
唐沢がニヤニヤと嫌らしく笑う。罠に気づかれたかもしれないと、心臓が早鐘を打つ。
「次は奴隷の権利だ。リストを見たところ若者が多いし、これから戦争なら人手も必要だろう」
「戦争で使える人材に育てるには時間が必要です。我々には時間がありませんから」
「ふ~ん」
唐沢は笑うのを止めない。まるで子供の可愛い悪戯を眺める親のような顔だ。
「最後にダンジョンの経営権だな。かなりの収益率だが、本当に良いのか?」
「はい。我々は月々得られるはした金よりも、戦争のための大金が欲しい」
ダンジョンに挑戦する冒険者から入場料を貰うことができるダンジョン経営権は、資産としてかなり魅力的なはずだ。
これなら納得するはずだと唐沢の顔を見るが、目を細めて何かを考え込んでいる。
「どうです! 良い商品ばかりでしょう!」
「素敵な商品ばかりだな」
「なら購入していただけますね?」
「良いだろう、買ってやる」
コスコ公爵はこぶしを握り締める。罠に嵌めることに成功したのだ。
「ただしいくらで買うかは資産の算定を行ってからだな」
「算定であれば、我々の方で調べてあります。リストに価格を記載してあるでしょう」
「そうだな。だが俺も調べておきたい」
「我々を信用していないのですか?」
「信用しているさ。だからこその保険だ。人間誰しもミスはある。我々が調査をすれば、価格の信頼度も増すだろう」
「……分かりました。ただし早急にお願いします」
「数日もあれば算定するさ。分かり次第、連絡する」
コスコ公爵は渋々納得し、席を立つ。公爵が仕込んだ罠は数日調べた程度で分かるようなものじゃない。
あの生意気なサイゼ国王の泣き顔を見るのが楽しみだと、コスコ公爵は笑うのだった。
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