金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
目を覚ますと俺は牢屋の中にいた。
まず牢屋から最初に連想したのが警察の留置所だ。
「あいつ痴漢とかやりそうだよね~」
高校時代、クラスメイトの女子たちからは、性犯罪者になりそうなキモイ奴扱いされてきた俺だが、犯罪に手を染めたことは一度もない。
それでも俺はやってないのに、牢屋に入れられるなんて不当逮捕だ。
だがちょっと待て、俺よ。冷静になるんだ。
ここは警察の留置場だと思ったが本当にそうか?
コンクリートの壁と鉄格子。部屋の隅には簡易トイレと簡易ベッドが置かれている。そして正面には銀髪の美少女が鉄格子越しに俺を睨み付けている。
ぼんやりとしていた記憶が鮮明になっていく。俺は眼前の美少女に剣で殴られ、気を失ったのだ。
「俺をここから出せっ!」
俺は鉄格子の隙間から顔を出して叫ぶ。随分と隙間の大きい鉄格子だが、俺の体だとプリズンブレイクは難しそうだ。
「ようやく目を覚ましましたか」
「何が目的で俺を監禁した」
「それはあなたが一番良く知っているでしょう」
「分かったぞ。俺に乱暴する気だな! エロ同人みたいに!」
「その通りです」
「え? その通りなの?」
女性は鍵を開けて、牢屋の中へ入ってくる。そして手を振り上げると、俺の頬を思い切り叩いた。
痛い。頬が熱を持ってるのが分かる。なぜ叩かれたのか分からないまま、今度は反対の頬を叩かれる。
「妹ちゃんをどこへ連れて行ったのか、あなたが口を割るまでは殴るのを止めません」
「妹ちゃん? 誰それ?」
「惚けないでください」
また頬を叩かれる。マゾなら喜ぶのだろうが、俺はノーマルだ。美人に叩かれても痛いものは痛い。
「俺の知っていることなら何でも話す。だから落ち着いてくれ」
「落ち着ける訳がないでしょう。私は家族を浚われたのですよ」
「だからなぜ俺が誘拐したことになる。俺が若い少女を誘拐するような性犯罪者にでも見えるのか?」
「見えます」
諦めたら、そこで説得終了だよ。
「分かった。まず情報が欲しい。なぜ俺が誘拐したと思ったんだ?」
俺の顔が犯罪者顔だからと言われたら立ち直れないぞ。
「犯人は黒髪、黒眼の若い男と聞いています。あなたはその特徴に合致しています」
「それ日本人の若い男なら大抵該当する条件だろ! それに俺は若くない! 中年オヤジだ」
「あなたが中年? 誰が見ても十代の青年でしょう」
「何を言って……」
そこで俺は自分の体の異変に気付いた。
痩せている。いや引き締まっている。中年オヤジらしい腹に詰まった脂肪はきれいさっぱりなくなっている。
シャツを捲って腹を確認すると、ナイフで刺された傷跡もない。見事に三つに割れた腹筋があるだけだ。
「女性の前で肌を晒すなんて!」
銀髪の美人は顔を真っ赤にしている。中年親父のだらしない体を見た少女の反応ではなかった。
「ちょっと試してみたいことがある」
「なんですか」
「写真を撮らせてくれ」
俺は背広の胸ポケットからスマホを取り出して、自分を撮影する。そこには十代のころの自分がいた。
「おおっ、若返ってる!」
「いきなり、どうしたのですか」
「いや若いっていいなと思って」
体は青年、頭脳は大人。最高だ。これで月に一度の健康診断の結果に悩まされることもない。
「ということは今の俺の運動能力も高校時代に戻っている訳だ」
「何が言いたいのですか?」
「今の俺なら君を組み伏せることくらい簡単だと思ってな」
「やってみますか?」
「ならお言葉に甘えて」
女性を拘束しようと、俺が腕を伸ばす。だが女性の姿は一瞬で消え去り、気づくと俺の背後に立っていた。
俺の見間違いでなければ、この女性、今サイヤ人並の動きしたよ。
「力の差がわかりましたか」
「力の差というか。え、君、本当に人間なの?」
「……侮辱の言葉には慣れていますが、こうも直接言われると気分が良いものではないですね」
「いや侮辱したつもりはないんだ。ただあまりに動きが早かったから」
「私はステータス向上のために三千枚の金貨を課金しましたからね」
課金? なにそれ、美味しいの?
「あなた、もしかして課金システムを知らないのですか?」
「すまん、分からん」
「……あなた、いったい何者なんですか? 子供でも知っていますよ」
「分からんものは仕方がないだろう。すまんが、教えてくれ」
女性は何かに悩むように唸り声をあげる。
「嘘ではないのでしょうね。そんなことをしてもメリットがない。もしかして記憶喪失か何かですか?」
「いや記憶はきちんとあるが……」
「自覚症状なしと。もしかして妹ちゃんを誘拐したことも忘れたのですか?」
「だから何の話をしているんだ!」
「状況はおおむね理解できました」
女性が何かに納得したような表情を浮かべる。
「あなたの記憶を戻すために、説明してあげましょう。まずこの国がどこか分かりますか?」
「日本か?」
「どこですか、その国は」
「ならここはどこなんだ?」
「サイゼ王国です。ご存知ですか?」
「いや、知らん」
「サイゼ王国はスカイ帝国の隣に位置する小国です」
王国ならともかく、帝国? 現代世界に帝国は存在しないはずだ。それにスカイ帝国なんて名前も聞いたことがない。
「この国のことを知らないのなら、妹ちゃんのことも知らないのですね?」
「だから誰なんだ、そいつは?」
「この国の姫であり、私の妹。アリス・サイゼリアです」
ファミレスみたいな名前だ。それにこの国の姫が妹ということは、眼前の女性も当然。
「なら君も姫なのか?」
「はい。私はイーリス・サイゼリア。この国の姫です」
「俺は唐沢太一だ。唐沢とでも呼んでくれ」
「名前は覚えているのですね」
「当然だ、俺は記憶喪失ではないからな」
昨日の晩飯が何だったかまできちんと覚えている俺が、記憶喪失なはずがない。
「では話を戻しましょう。課金システムについて説明します。スマホを見せてください」
イーリスにスマホを手渡す。
「魔力が込められていませんね。なるほど。そういうことですか」
「何を納得しているのか知らんが、その課金システムとはいったい何か説明してくれ」
「その前に魔力を通します。これであなたのスマホにも課金アプリが追加されるはずです」
魔力? アプリの名前か何かか。
「あなたのスマホに課金アプリをインストールしました。使ってみてください」
スマホには新しいアプリがインストールされていた。タッチすると、「課金アプリへようこそ。どんどん課金して強くなっちゃおう」と文言が表示されている。
胡散臭いことこの上ないが、俺はガイダンスに目を通していく。その内容を要約するとこうだ。
課金すればするほどステータスを強化することができる。他に魔法やスキルを取得することも可能。強力な魔法やスキルは必要な課金額も大きい。
つまり課金すればするほど強くなる訳だ。
イーリスの言葉を思い出す。彼女は金貨三千枚であの身体能力を手に入れたと話していた。
金貨一枚がどれだけの価値があるのかは知らないが、三千枚あれば俺もサイヤ人並の強さが手に入るのだ。
「さて課金システムについては説明しました。今度はあなたの番です。妹ちゃんをどこへ連れて行ったのですか?」
「だから本当に知らないんだ」
「嘘を言わないでください。黒髪、黒眼の若い男なんてそう何人もいません。あなた以外にいないはずです」
イーリスがそう主張する。どうやらこのサイゼ王国では黒髪、黒眼は珍しいらしい。だがそれでも俺はやっていないのだ。
「姫様!」
スーツ姿の男が息を荒げながら牢屋へと飛び込んでくる。
「どうかしましたか?」
「アリス姫の居場所が分かりました」
「どこにいるのですか?」
「スラム街の酒場にいるとのことです」
どうやら妹が見つかったようだ。
これで俺の疑いも晴れたはずだ。
「姫様、この男は?」
「今回の事件の主犯です」
「ちょっと待て! 俺の無実は証明されただろう」
「妹ちゃんの居場所が分かっただけで、あなたの疑いが晴れた訳ではありません」
「姫様、この男人質として使えるのでは?」
スーツ姿の男が進言する。犯人でない俺を人質として使っても、交渉材料としての価値はない。
「ですね。連れていきましょう」
「おい。俺は無関係なんだ! 面倒事に巻き込むのは止めてくれ」
「騒がれても面倒ですから。少し眠ってもらいますね」
イーリスが剣を振り上げ、俺の頭に振り下ろす。ゴンという音と共に、俺は意識を失なった。
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