金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
魔王軍がサイゼ王国へ侵攻を初めて二日が過ぎた。だが魔王軍はいまだサイゼ王国の領土を踏んではいない。
その理由は彼らがコスコ公国の領土内にあるダンジョンへと進軍しているからだ。ちなみにそのダンジョンとは現在俺がいるダンジョンである。
「魔王軍はなぜサイゼ王国ではなく、こちらに侵攻してくるのでしょうか?」
「それは俺のせいだな」
「旦那様のせい?」
「ラザリック家の一人娘はここにいると、魔王軍に噂を流したからな」
サイゼ王国の領土に踏み込まれた時点で敗北だ。魔王軍の狙いが娘にあるのなら、こちらへ誘いだすことも可能だと思い、噂を流したのだ。
「成功確率は低いと思っていたんだがな」
奴隷となった一人娘の救出はあくまで大義名分で、実際はサイゼ王国の魔法石が狙いなのだと考えていた。
だが現在の魔王軍の侵攻を見る限り、本気で娘を助け出そうとしているらしい。
「親馬鹿というか何というか」
軍隊を娘救出のために動かしたのだ。娘を如何に溺愛しているのかが見て取れる。
「優しくしといて良かった」
コスコ公爵は俺が奴隷に重労働を課すと考えていたのだろう。そうなれば俺は悪逆の徒となる。
だが俺は、ライザックの娘であるレイリスを奴隷から解放し、傷を治しまでしたのだ。彼女はきっと俺に対して悪い印象を抱いていないはずである。
そのことをレイリスの口から説明してもらおう。そうなれば親馬鹿パパも娘のために矛を収めてくれるはずである。
「そろそろ到着する頃か」
スマホで時間を確認する。侵攻速度から考えると、もう到着していても良い頃合いだ。
「旦那様、来たようですね」
イーリスが指さした方向には、戦車が隊列を組んで進軍する姿があった。
戦車の主砲は前方にいる俺たちへと向けられている。主砲が火を吹けば、周囲の建物が木っ端微塵になるはずだ。
戦車が俺たちの前まで近づき、停車する。部隊の練度が高いことは、停止動作に微塵の乱れもないことから察せられた。
「魔界十六貴族のライザックはいるか!」
俺が名を呼ぶと、先頭の戦車から白髪の老人が姿を現す。鋭い鷹のような瞳で俺を睨みつける。
そういや白髪って、この世界だとどういう扱いなんだろう。
「イーリス、ちょっといいかな?」
「なんでしょう、旦那様」
「白髪ってこの世界だとイケメンなの? それともブサイクなの?」
「茶髪、金髪と同じく一般的な髪色ですね」
銀髪だとブサメンなのに、白髪だとフツメンなのか。この世界の奴らの美的感覚が本当に理解できん。
「ちなみに禿げるとどうなの?」
「格好良くはないですね。ただ銀髪より、印象は悪くありません」
ハゲより銀髪の方がひどいのか。恐ろしい世界だ。
「スキンヘッドのように髪が一切ないとどうなるの?」
「それだと美醜の判断ができませんね」
スキンヘッドは、フルフェイスのヘルメットを被っているようなもので、顔が完全に見えない状態と同じような位置づけなのだそうである。
「イーリス、頼むからスキンヘッドにはしないでくれよ」
「はい。自ら髪を捨てることはファミレ神への冒涜になりますから」
それなら良かった。スキンヘッドの美少女なんて、恋愛がばれた某アイドルくらいでしか見たことがないからな。
「この私、ギル・ド・ライザックを無視して、何をコソコソと話をしている!」
ギルが怒りを含んだ声で怒鳴る。下手なヤクザよりも遥かに怖い。だが俺は能力値をカンストさせた男。俺より強い男なんて存在しないのだから、恐れる必要はない。
「貴様がサイゼ国王だなっ!」
「そうだっ」
「わが娘を返してもらおう」
言われるまでもなく返すつもりだった俺は、ギルの元へと娘を連れて行こうとする。だが彼女は兄である銀髪の大男の背後に隠れたまま動こうとしない。
「レイリスよ! パパが迎えにきたぞっ」
ギルが両手を広げて、レイリスが来るのを待つ。
「パパのことを忘れたのか? それとも奴隷として主人の元から離れるなと洗脳されているのか?」
レイリスは奴隷として売られたときのトラウマのせいで話すことができない。そのことを知らないライザックは、顔を怒りで真っ赤に染めていく。
「無言の助けを求める声、確かにパパに伝わったぞ。この下郎を私の剣で叩き切って見せよう」
ギルは腰の剣を抜く。銀色の刀身に陽光が反射し輝いて見えた。
どうやらギルは、何も話すなと俺がレイリスに命じたと思い込んでいるようだ。
「ちょっと待て、話せばわかる」
「問答無用!」
ギルは剣を上段に構える。隙なんて微塵もない。
投資でもそうだが、何事にもまずは情報が必要だ。俺はスマホを取り出し、ギルのステータスを確認する。
――――――――――
名前:ギル・ド・ラザリック
評価:A
称号:魔界十六貴族
魔法:
・電撃魔法
スキル:
・剣術(ランクA)
・筋力強化(ランクB)
能力値:
【体力】:900
【魔力】:750
【速度】:900
【攻撃】:920
【防御】:930
拡張機能:
・唐沢への愛情(ランクG)
――――――――――
スマホ画面には今まで戦ったどんな敵よりも高いステータスが表示されていた。さすがは魔王領最強と名高いだけはある。
「もしかしたら俺より強いかもな」
俺に僅かばかりの緊張感が生まれる。その隙を逃すほど、ギルは甘くなかった。構えていたギルの姿が消え、気づくと眼前に剣があった。
襲い来る剣を、俺は人差し指を突き出して止める。指の先からは少しだけだが血が出ていた。
「馬鹿なっ! 指一本で止めるだと!」
「驚いているのは俺の方だよ」
今度は俺の攻撃である。指二本によるデコピンを、ギルの肩に食らわせる。その衝撃で彼は吹き飛ばされ、背後の戦車に激突した。
「スマン、過大評価だった。やっぱり君は雑魚だ」
「なんだとっ!」
ギルが起き上がり、再び剣を上段で構えなおす。
能力値は一と一〇〇より九〇〇と九九九の方が力の差は大きくなる。それは能力値の数値が上昇するにつれ、加速度的に強くなるからだ。
つまり俺とギルは能力値の数字だけ見るならさほど離れていないが、実際の力関係は天と地ほどもある訳だ。
「あきらめて降参しろ」
「私をバカにするなっ!」
「魔王領最強がこの程度なら馬鹿にもしたくなるだろ」
「舐めるのいい加減にしろ!」
怒ったギルは体から魔力を放出し始める。その魔力が電撃へと変わり、周囲の空気を焼いていく。
「これは躱せまいっ!」
雷の速度で俺の眼前へと移動したギルが連撃を開始する。数え切れないほどの斬撃が俺を襲う。
剣に切られても、かすり傷が残るだけだが、地味に痛い。躱そうと思えば躱せるが、それも面倒だ。
俺は振り下ろされた剣を素手で掴み取る。手の平にはかすり傷が刻まれていた。
「真剣白羽取り、とは少し違うか」
「馬鹿なっ」
俺は掴んだ剣ごと、ギルを空へと放り投げた。
「魔王領最強なんだし、この程度なら死なないだろ」
俺は『炎弾』をギルに向けて放つ。飛んでいく魔力の弾丸。彼はその危険性を見抜き、剣先で魔力の弾丸の軌道を変える。
魔力の弾丸は遠くにある山に命中する。そして不運なその山は業火に包み込まれ、地図から姿を消した。
「ライザック様。助太刀します!」
ライザックのピンチだと考えた彼の部下たちが、戦車の主砲を俺へと向ける。いつもの彼らなら一対一の決闘に割り込むような真似は絶対にしない。だが今回はしなければならないと判断した。彼らはライザックが勝てないことに本能的に気づいたのだ。
一斉に放たれる砲火。俺なら命中しても死なないだろうが、奴隷たちや建物が壊されては困る。
覚えたばかりの五大魔法、『空間魔法』を発動させる。空間が歪み、砲火を飲み込んでいく。
「あ、ありえないっ! 『空間魔法』の使い手は世界に五人もいないはずだっ」
ライザックの部下たちが叫ぶ。砲撃は止まらない。
雨のように放たれる砲火を、初使用の不慣れな『空間魔法』ですべて止めることはできない。一部の砲撃が『空間魔法』の盾から逃れ、背後にいた奴隷たちに命中してしまう。
「無事か、レイリス!」
ライザックが俺との戦いを中断し、砲撃の命中した場所へと駆け寄る。
爆炎でレイリスが無事かどうかは分からない。
ギルの部下たちは彼に当たることを恐れてか砲撃を中断していた。ここで攻撃を中断するのに、娘であるレイリスへ砲撃が命中するリスクを恐れなかったということは、彼の部下たちがレイリスの命をさほど重要視していない証拠でもある。何か裏がありそうである。
『空間魔法』を解除し、俺も奴隷たちの元へと駆け寄る。
「これは酷いな」
奴隷たちが砲撃を受けて血だらけで転がっている。全員死んではいないようだが、かなりの重症だと見て取れた。
「レイリスも無事なようだな」
交渉材料であるレイリスに死なれては困るのだ。
だがよく見ると、レイリスは泣いている。そばには銀髪の大男の姿がある。
「妹が無事でよかった」
銀髪の大男の背中は焼け爛れていた。そこから状況は推測できる。彼が自分の身を挺して、レイリスを庇ったのだ。
「兄らしいこと、何もできなくてすまんな」
レイリスの涙の勢いは強くなっていく。その様子を魔王領最強の男は戸惑いながら見つめていた。
気づくと大男は瞼を閉じている。痛みで気絶したのだろう。このままだと死ぬのも時間の問題だ。
「レ、レイリス。パパが迎えに来たよ。お家に帰ろう」
ギルがレイリスに近づく。無理矢理浮かべた笑顔はなんだか滑稽だった。レイリスはそんな彼の様子を見て、冷めた表情を浮かべる。
そして平手打ちを、ギルの頬に浴びせる。
「か、返してっ! 私の家族を返してっ」
「レイリス、おまえの家族は私だ。そうだろ!」
レイリスはギルの言葉を無視して泣き続けている。
レイリスの兄は良い奴だった。死なすには惜しい。それに彼を助ければギルに恩を売ることができるはずだ。
「折角回復魔法が使えるんだ。有効活用しないとな」
俺は魔力を放出し、周囲へと広げていく。一人一人傷ついた奴隷たちを触れて治すのは面倒なので、一斉に治すことにした俺は、膨大な魔力を消費し、回復魔法を発動させる。俺の魔力に触れた奴隷たちの傷が瞬く間に回復していく。
傷が癒えていく奴隷の中にはレイリスの兄も含まれている。傷が治った彼は起き上がり、妹のレイリスを抱きしめていた。
「な、なんだっ、いったい何が起こったのだ!」
事態に追いつけないギルは、疑問の回答を求めて、俺へと視線を向ける。誤解を晴らすため、俺は説明を始めるのだった。
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