金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~   作:上下左右(じょうげさゆう)

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第三章 ~『サブプライムローンとリーマンショック』~

朝日が昇ったころ、俺は談話室で新聞を読んでいた。スマホで最新ニュースを知ることもできるが、やはり紙媒体は良いモノだ。

 

 

 

「また魔王軍侵攻のニュースか」

 

 

 

 新聞の一面には魔王軍がサイゼ王国とコスコ公国の国境沿いに部隊を展開していると書かれていた。

 

 

 

 まだ国内へと足を踏み入れてはいない。こちらの戦力を伺っているのだ。

 

 

 

 サイゼ王国でまともな戦闘ができる人間は少ない。もしそのことが露呈すれば、一気に侵攻が始まる。その前に魔王軍を撤退させたい。

 

 

 

「魔王軍うざいなぁ。潰したいなぁ」

 

 

 

 願望を口から漏らすが、口にしただけで叶うなら誰も苦労しない。

 

 

 ○

 

ブルータス伯爵はいらついていた。魔王領にある彼の庭園は、魔王でさえ褒める程の美しさだ。見ている者の心を落ち着かせる花々を眺めながら、紅茶を啜る。ムカムカも少しはマシになった気がする。

 

 

 

「いつになったらサイゼ王国を手中にできるのだっ」

 

 

 

 ブルータス伯爵は髭面の将軍に怒鳴りつける。軍の責任者である将軍ならば彼の質問に答えることができる。そう期待して、庭園に呼びつけたのだ。

 

 

 

「まだサイゼ王国の戦力は明確になっていません。もう少し調査の時間が必要です」

 

「何が調査だ! サイゼ王国など弱小国家ではないかっ!」

 

「ブルータス伯爵、サイゼ王国を舐めない方が良い。あのライザック伯爵でさえ撤退したのをお忘れですか」

 

 

 

 魔王領最強のライザックが撤退したことはブルータス伯爵も聞いていた。本人に理由を訊ねても明確な答えは返ってこない。それどころか今回の侵攻そのものからも手をひいてしまった。

 

 

 

 サイゼ王国に手を出すのは止めておけ。ライザックの忠告だ。だが根拠も示さず、止めろと言われて誰が止めるのだ。

 

 

 

「ここまで準備を整えるのにどれだけの金と時間を要したと思っているのだ」

 

 

 

 コスコ公国との和平交渉、魔王領内の調整、そしてコスコ公国にライザックの娘を誘拐させ、魔王領最強戦力を味方につける。

 

 

 

 計画が予定通り進んでいれば、今頃サイゼ王国城の王座に座っていてもおかしくなかった。

 

 

 

「敵戦力に不安要素があるといっても明確な脅威は明らかではないのだろう」

 

「いいえ、少なくとも敵に高位の魔法使いが複数名おります」

 

 

 

 将軍はブルータス伯爵に戦車隊が『炎弾』で攻撃されたことを話す。

 

 

 

「『炎弾』だと。下級魔法ではないかっ!」

 

「戦車隊、一個大隊を焼き尽くす威力の『炎弾』です。私もそばで見ていましたが、個人で出せる威力ではありませんでした。大規模な魔法使いの部隊がいるのです」

 

 

 

 実際は唐沢が一人で攻撃したのだが、魔力をカンストした人間がいるとは知らない将軍は、編成された魔法使いによる攻撃だと判断したのだ。

 

 

 

 個人と集団だとその意味合いは変わってくる。個人であれば一人を倒せば終わりだが、集団であれば部隊を壊滅させる必要があるからだ。

 

 

 

 さらに集団がいるということは魔法使いを集めて育て上げる方法を確立しているということだ。一つ部隊を潰しても第二第三の部隊が攻めてくるかもしれない。

 

 

 

「魔王様にお願いしてはどうでしょうか?」

 

 

 

 将軍が提案する。魔王の圧倒的力と資金力があれば勝負はすぐに決する。だがその提案を受け入れる訳にはいかなかった。

 

 

 

「そんなことをすれば得られる魔法石の大部分が魔王様のものとなる。それでは何のために戦争をするか分からなくなる」

 

 

 

 通常なら戦争で得られた利益の二割を魔王に捧げるだけで済む。しかし魔王を動かすとなれば、八割以上の利益を捧げなくてはならない。動かすとすれば、どうしても打つ手がなくなった場合だけだ。

 

 

 

「ブルータス伯爵、何はともあれ戦費が必要です」

 

「分かっている」

 

 

 

 戦争をするには金が要る。優秀な人材を雇うのにも、武器を買うのにも、兵士が食べる食事代や衣服の代金もブルータス伯爵が用意しなければならない。

 

 

 

「税金を上げるわけにはいかんしな」

 

 

 

 ブルータス領内では領民たちの不満が広がっている。

 

 

 

 理由は貧困だ。

 

 

 

 ブルータス領は魔王領の中でも特に貧困者が多い地域だ。彼らは皆口にする。莫大な戦費を社会保障に当てろと。

 

 

 

「税金を上げれば、クーデターが起きてもおかしくない」

 

 

 

 それどころか現状でも十分起こりうる。

 

 

 

「では富裕層からのみ税を取ってはどうでしょうか?」

 

「それも難しいな。金持ちだけ税金を上げると、貴重な財源が他国へ逃げる」

 

「ならコスコ公爵から資金提供を受けるのはどうでしょうか」

 

「良いアイデアだ。採用しよう」

 

 

 

 コスコ公爵は唐沢に資産を売り、多大な資金を持っている。その一部を戦費として提供するのは、和平を結んだ同盟国として当然の義務であると、ブルータス伯爵は考えていた。

 

 

 

「次に貧困者の不満ですね」

 

「こちらはどうする?」

 

「私が思うに、貧困者の一番の不満は金持ちになれないことではなく、人間らしい生活を送れないことなのです」

 

 

 

 現在住宅価格が高騰しており、貧困者では手が出せない価格になっている。そのせいで大半の貧困者が車の中で寝泊まりしていた。

 

 

 

「貧困者でも家を買えるように住宅ローンの利息を下げましょう」

 

「なるほど。公定歩合を下げるのだな」

 

 

 

 公定歩合とは国から銀行へ貸し出すお金の利息のことだ。これを下げると、銀行から貧困者へ貸し出されるお金の利息も下がる。利息が下がれば、これがチャンスだとばかりに欲しかった家を買う者も増えるだろう。

 

 

 

 もちろん利息が下がるので一時的に国の収入は低下するが、それ以上に不満を消せることが大きなメリットになると考えていた。

 

 

 

「良い考えだな。それでいこう」

 

 

 

 ブルータス伯爵のイライラは収まっていた。この時の彼はこれが最悪の選択だったとは気づいていなかった。

 

 

 

 

 良いニュースでも見て、心を温めようと、新聞のページを開いていく。

 

 

 

「おおっ、魔王領の住宅メーカーの株価が上がっているな」

 

 

 

 業界別の株価推移を見ていると、住宅関連の株価は上昇傾向にあった。

 

 

 

「魔王軍が他国を侵略しているおかげですね」

 

 

 

 イーリスが紅茶を入れてくれる。

 

 

 

 やはり朝は紅茶に限る。手渡された紅茶を啜ると、僅かな酸味が口の中に広がる。今日の紅茶はレモンティーだった。

 

 

 

「侵略しているのは知っていたが、なぜ住宅メーカーの株価が上がるんだ?」

 

「膨大な土地を手に入れたからです」

 

「なるほどな」

 

 

 

 魔王領では土地が余り、捨て値で購入できるようになっているという。土地があるなら家を建てるかと考える者が出てくるのは自然な考えだ。

 

 

 

「ただその一方で家を買えない貧困層もたくさんいるとのことで、不満が広がっているそうです」

 

 

 

 特にブルータス領では格差が大きいそうだ。金持ちが家を買っている一方で、貧困者は悔しい思いをしているらしい。

 

 

 

「その不満が爆発すれば、戦争どころではなくなるのではないですか?」

 

 

 

 イーリスが提案する。ブルータス領でクーデターでも起これば、サイゼ王国と戦争をしている暇などなくなる。

 

 

 

「領内の不満程度の問題なら、貧困者への補償で十分対処できる。クーデターまでは発展しないだろうな」

 

 

 

 それよりも不満解消に動くのを逆に利用するのはどうだろう。

 

 

 

 そう考えたとき、ある二つの単語が頭を過った。

 

 

 

 サブプライムローンとリーマンショックだ。

 

 

 

「魔王軍を撤退させ、俺たちが大儲けする方法を思いついた」

 

 

 

 俺は口角を釣り上げて笑う。

 

 

 

「なにをするつもりですか?」

 

「酷いことはしない。ただブルータス領の貧乏人共に夢のマイホームをプレゼントしてやるだけさ」




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