金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~   作:上下左右(じょうげさゆう)

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第三章 ~『金融商品開発職とは』~

ブルータス領の中心街、高層ビルが立ち並んでいる区画に一際大きい建物があった。ブルータス銀行。ブルータス領最大の商業銀行である。

 

 

 

 商業銀行は投資銀行の対義語として使われる単語で、一般人が銀行と聞けばまず思い浮かぶのがこちらだ。個人や法人を顧客とした預金や融資を中心業務としており、他にも金融商品の販売なども行っている。

 

 

 

「旨い紅茶だな」

 

 

 

 ブルータス銀行の応接間に通された俺は、出された紅茶を口に付けていた。隣のイーリスも美味しそうに紅茶を啜っている。

 

 

 

「それにしても戦争中の敵国のボスと会っても良かったのか?」

 

「儲け話であれば、相手が誰であるかは問いません」

 

 

 

 眼前の眼鏡をかけた男が愛想笑いを浮かべる。男はブルータス銀行の頭取である。俺が会いたいと連絡し、時間を作ってもらったのだ。

 

 

 

「ブルータス伯爵からの圧力はないのか?」

 

「そこは問題ありません。我々は魔王領全体で活動しています。ブルータス領がメインではありますが、経営を口出しされるほど、ブルータス領に依存しているわけではありませんから」

 

 

 

 頭取が「それに……」と続けながらニッコリと笑う。

 

 

 

「ブルータス伯爵から睨まれるリスクを背負ってでも、あなたの提案をお聞きしたかった。それほどにこのサブプライムローンは画期的だ」

 

 

 

 俺は事前にサブプライムローンに関する資料を送っていた。この資料には如何にサブプライムローンが魅力的かが書かれている。

 

 

 

「特に貧困層相手に住宅ローンを組めることが素晴らしい」

 

 

 

 サブプライムとは信用力の低いという意味で、金を貸しても回収するのが難しい相手のことを指す。

 

 

 

 サブプライムローンはそんな信用力の低い相手にも金を貸せ、しかもほぼ確実に回収できる。そんな夢のようなローンだった。

 

 

 

「サブプライムローンについては資料に記載した通りの内容だ」

 

 

 

 俺は資料を捲り乍ら説明する。

 

 

 

「貧困層は金がない。だが家は欲しい。その夢を叶えるのがサブプライムローンだ」

 

「我々銀行としても多くの人間に融資をしたい。特にブルータス領の大多数を占める貧困層をお客としたい。ですが貧困層にお金を貸すのはリスクが高い」

 

「そのリスクを最大限減らしたのが、サブプライムローンだ」

 

 

 

 具体的には高い金利と購入した住宅を担保とすることでリスクを減らす。銀行としては大きな利息を得ることができ、もしローンを返せなくとも担保とした住宅を売ればいい。

 

 

 

 魔王領では需要の増加による住宅価格の高騰が進んでいる。おかげで時間が経てば、買った時より高く売れる。

 

 

 

 つまり銀行としては債務者が高い利息を払ってくれ、払えなくなったとしても家を売却すれば元金を回収することができるのだ。

 

 

 

「このサブプライムローン。折角開発したのは良いが、我々は販売網を持っていない。だがブルータス銀行なら――」

 

「ええ。いくらでも捌くことができます」

 

 

 

 投資銀行業務ではこのような金融商品の開発も珍しいことではない。最先端の金融工学を学んだエリートが集まる投資銀行が金融商品を開発し、商業銀行のような販売網を持つ企業に販売権利を売るのである。

 

 

 

 ちなみに金融商品の開発業務は、数学専攻の理系出身も多いが、文系でも就職できる開発職なので、アメリカだと就職希望者がかなり多い。そのため難易度が高く、中途しか採用していない事も多い。

 

 

 

 日本人だと新卒で面接を受けられ、しかも金融商品の開発職は日本だとマイナーな業務なので意外と就職しやすいかもしれない。

 

 

 

 ただ日本企業だとそもそも金融商品の開発業務をしていないことも多いため、こういった仕事をしたいなら外資系銀行の日本法人へ就職するのがオススメである。

 

 

 

「販売権利の価格は一契約につき、一パーセントの金利でどうだ」

 

 

 

 サブプライムローンは金利八パーセント以上が当たり前だった。ちなみに普通の住宅ローンは金利四パーセント程度だと考えると、倍近い高金利ということになる。

 

 

 

 その八パーセント近い金利の内、一パーセントを俺が受け取るという条件を聞いて、頭取は表情を明るくする。

 

 

 

 かなりの好条件で提案したのだから、その反応も当然だ。

 

 

 

 もっともこちらの目的は金利で稼ぐことではなく、ブルータス領にサブプライムローンをばら撒くことである。拒否されるような高利率を提示する訳にはいかない。

 

 

 

「本当に一パーセントでよろしいので?」

 

「ああ。もし債務者がサブプライムローンを返せない場合のリスクを我々は負わないからな」

 

「そのリスクもサブプライムローンの特性を考えればないに等しいですよ」

 

「高くして欲しいのか?」

 

「いえいえ、我々としては販売権利が安いに越したことはないです」

 

 

 

 頭取は笑いながら話す。

 

 

 

「この内容であればぜひとも契約した。ですがその前に一つお聞きしたい」

 

「なにか気になることがあるのか」

 

「あなたはなぜ敵国を利するようなことをするのですか?」

 

 

 

 サブプライムローンはブルータス銀行を儲けさせる金融商品だ。それを敵国に与えれば、戦争で不利になるのではないかと、頭取は訊ねているのだ。

 

 

 

「俺は戦争の原因は貧困から生まれると考えている」

 

「ほぉ」

 

「皆がマイホームを持てば、戦争をする気もなくなるだろう。つまり戦争を回避できるかもしれない」

 

「さすがはサイゼ国王。素晴らしいお考えだ」

 

 

 

 俺は頬を掻く。嘘を吐くのはやはり苦手だ。俺は本音を何とか飲み込む。

 

 

 

 てめえを嵌めるための罠だよバーカ、とはさすがに言えない。こんなことを言えば、交渉は決裂だ。

 

 

 

 そう、サブプライムローンは表面上低リスクの優良な金融商品だ。だが一つ大きな落とし穴があるのだ。

 

 

 

 俺は口元を歪めながら、ブルータス銀行を後にする。災厄の種は撒かれたのである。




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