金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
株の世界には優良不人気株というものが存在する。
会社の業績や財務は優れているのに、流動性が低いために人気がない株のことを指すのだが、外資系投資銀行ではこういった株は敬遠されていた。
というのも人気がないため、株が市場に出回ることが少なく、買い手も少ない。だから売りたいときに売れず、買いたいときに買えないリスクがある。
だが会社そのものは良い会社なのだ。毎年きちんと配当を運んでくれる。だからかそんな株だけを狙って買うマニアも存在する。
そしてイーリスに結婚を申し込んだ俺も、マニア扱いされていた。
「まさか三国一のブス姫と揶揄されるイーリスに結婚を申し込む男がいるとは……」
王は葡萄酒片手に機嫌良く笑う。本当に嬉しそうだ。
「う、うぅ、嬉しいです。こんな私に求婚してくれる殿方がいるなんて……」
イーリスは頬を真っ赤に染めながら、まだ泣き止んでいない。
「イーリス姉さんには悪いけど、一生独身だと思っていたわ」
「ワシも、ワシも!」
こいつら本当にイーリスの家族か。普通に酷いぞ。
「正直、ワシは孫の顔を見るのを半分諦めておった。アリスは美人だから結婚できるじゃろうが、イーリスは、ブスだからのぉ」
「いや、イーリスは美人だろ」
俺が真剣な口調でそう告げると、王は葡萄酒の入ったグラスを俺の前に差し出す。俺も合わせるように手元のワイングラスを持ち上げた。
「唐沢君の腐った魚のような瞳に乾杯」
王は機嫌良くワインをガブガブと飲んでいく。
なんだか馬鹿にされている気がする。
「隣国の王子にも見習わせてやりたいのぉ」
「隣国の王子?」
「イーリスの元婚約者でな。酷い男だった」
「浮気でもしたのか?」
「いや、イーリスの顔を見た瞬間、嘔吐しよった。あまりのブスさに耐えられなかったらしい」
「最低なやつだな」
「そう思うだろ。詳しく聞いてみたら、結婚し、誓いの接吻をする場面を想像したら、我慢できなかったそうだ」
「それで婚約はどうなったんだ?」
「破棄になった。仕方あるまい。隣国の王子の言い分も理解できる。ワシも娘とキスしろと言われれても無理じゃもん」
「ひでぇ」
こいつ本当にイーリスの親なのか。
「だが待ってくれ。アリスは美人なんだよな。イーリスとそう変わらん顔つきだろ」
「顔はそうかもしれん。だが顔なんぞオマケじゃろ」
「なら何で美醜を判断するんだ」
「当然髪の色に決まっている」
王が語る美醜の感覚は、俺とかけ離れたものだった。
この世界では髪の色が魅力と同義だと言うのだ。
黒髪が一番人気があり、美しいと褒めたたえられる。次に金髪と茶髪がこの世界の普通であり、特別モテることもモテないこともない。
そしてイーリスのような銀髪は、どんな男からも避けられ、ブス扱いされるのだそうだ。
つまり黒髪であるアリスは美人で、銀髪のイーリスがブス扱いされる。しかも二人の髪色は濃い。アリスはより一層美人だと褒めたたえられ、イーリスは三国一のブスだと貶される。
「髪なんて染めればいいだろ」
「馬鹿を言え。そんなことをすれば、ファミレ神への侮辱になるじゃろ」
髪を染めるのは宗教的な理由で、できないのか。
「黒髪がモテるなら俺もモテるのか?」
「当たり前じゃろ。お主がモテないのなら誰がモテるんじゃ」
「へぇ、俺ってモテるのか」
「顔が良いのを鼻にかけおって。嫌味な奴だのぉ」
貶されたけど、すげえ嬉しい。
「イーリスとの結婚を途中でやめるのはなしじゃぞ」
「分かっている」
この世界の住人はイーリスの魅力に気づいていない訳だ。
最高だ。優良株が捨て値で売られているのを見つけた気分だ。
イーリスは一国の姫だから金はあるし、性格も真面目だし、なにより顔が良い。元の世界にいたならば、高嶺の華すぎて手を伸ばそうとも思わない美人だ。
イーリスという不人気優良株は、俺にとって最高の証券だった。
「さて明日が楽しみだのぉ」
「明日何かあるのか?」
「戴冠式と結婚式を行う。善は急げだ」
王は狙った獲物は逃がさないと、血走った眼でそう告げた。
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