金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~ 作:上下左右(じょうげさゆう)
結婚式が終わった後、俺は一週間自室に引き籠もっていた。大臣たちからはマリッジブルーかとも心配された。
だが心配すべきは俺ではなく、この国の方だった。
部屋に引き籠もり、俺はこの国の情報を集めていた。そして情報を集めるに連れて、この国が窮地に立たされていることを理解していく。
「さてどうするかね」
スマホを取り出し、情報を漁る。めぼしい情報はほとんどチェック済みだが、何かしていないと落ち着かなかった。
「それにしても不思議な世界だ」
この世界ではステータスを金で買える。魔法やスキルや能力値を金さえあればいくらでも強化できるのだ。
それ故に、この世界で金は絶対的な価値観となっていた。金があれば有能な人間を何人も生み出せるし、強力な戦士も育成可能だ。つまりは軍事力を含めた国力が金の力で決まるのだ。
「試しに魔法でも買ってみるか」
この国の窮地をどう脱するか考えるのにも少し疲れた。
暇つぶしがてら、課金アプリを起動する。魔法購入ページを開くと、ずらっと項目が並んでいた。
「RPGを思い出すな」
この世界に魔法は四種類存在する。
攻撃魔法。他人に危害を加える魔法。比較的価格は高い。魔力量に応じて威力を増す特性を持つ。
防御魔法。危害から身を守る魔法。回復魔法なんかもここにカテゴライズされる。魔力量に応じて効果が変わる特性を持つ。使い手が攻撃魔法よりも少ない。
普遍魔法。生活をしていく上で役立つ便利な魔法。暗い部屋を照らしたり、濡れた服を乾かしたりなど千差万別。値段もピンキリ。最も保持者が多い魔法。
特殊魔法。三種類の魔法に属さず、生まれながらに保持しているレアな魔法。課金アプリから購入することはできない。ただし保持者から直接購入することは可能。
「とりあえず、この『炎弾』を買ってみるか」
『炎弾。魔力を炎の弾丸として発射する。着弾と同時に爆発させることも可能である。威力は魔力量に応じて変化する』
魔法の説明に目を通す。基本的な魔法らしく、値段も安い。折角だし購入してみる。するとステータス欄には、購入した魔法が追加されていた。
――――――――――
名前:唐沢太一
評価:A
称号:専業主夫希望の国王
魔法:
・炎弾
スキル:
・なし
能力値:
【体力】:999
【魔力】:999
【速度】:999
【攻撃】:999
【防御】:999
――――――――――
称号がゴミから専業主夫希望の国王に変わっている。地味にうれしい。
「これで俺も魔法使いだ」
俺はニヤニヤが止まらなかった。
ゲーマーなら一度は考えるもし魔法が使えたらという妄想。その妄想が現実になったのだ。しかも修行や経験値稼ぎをせずに、課金で一発購入だ。
ゆとりに優しい現実だ。他に良い魔法がないかチェックしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「入っていいかしら」
アリスの声だ。引き籠もっている俺を心配して様子を見に来たのか。
「どうぞ」
「失礼するわ」
アリスが部屋に入ってくる。ベッドと机しかない部屋を見て、驚いた表情を浮かべている。
「この部屋、こんなに質素だったかしら?」
「調度品なんて必要ないからな。全部売った」
「売ったですって!」
「ああ。元国王にも許可を取ったぞ。国宝も含まれていたらしいからな。高く売れたぞ」
「信じられない」
アリスは呆れたと、ため息を漏らす。
「家具なんて使えれば何でもいいさ。それよりも何か用事か?」
「一言お礼を言いたくて。イーリス姉さんと結婚してくれてありがとう」
「あんな美人と結婚できたんだからむしろ俺がお礼を言いたいくらいだ」
顔は良いが、性格が根暗だった俺は、たいしてモテる方じゃない。
元の世界なら、金目当ての女を除けば、イーリスのような美人と結婚することは不可能だったはずだ。
「一つお願いがあるの」
「なんだ?」
「例え国王の地位が目的だったとしても構わない。だからイーリス姉さんを捨てないであげてね」
アリスが床に膝を付き、土下座で頭を下げる。
「俺は国王になりたいから、イーリスと結婚した訳じゃ……」
「それはあなたの反応を見れば分かるわ。けれど人の心は変わるものよ。例えどんなことがあってもイーリス姉さんを裏切らないと誓ってほしいの」
「裏切るつもりは元々ないから安心しろ」
アリスは頭を伏せているため表情は伺えないが、安堵しているのが雰囲気から分かった。
「あなたがイーリス姉さんを裏切らない限り、私はあなたに付き従うわ。私にして欲しいことがあったら何でも言って頂戴」
「なぜ姉のためにそこまでできるんだ?」
「家族だからよ。私はイーリス姉さんがどんな酷い人生を送ってきたか知っている。だからこそ、イーリス姉さんには幸せになってほしいの」
アリスの言葉に嘘偽りはなかった。心からイーリスを心配しているのだと伝わってきた。
イーリスがアリスを必死に助けようとしていた理由が分かった気がした。
「そろそろ頭を上げてくれ」
俺はアリスを立たせようと、肩を掴む。
その瞬間、イーリスが空いた扉から入ってきた。手には食事が乗ったお盆が握られている。だがお盆は手からすり抜けるように、床に落ちてしまう。
「だ、旦那様」
イーリスの瞳に涙が溜まっていく。
「う、うっ……」
イーリスはとうとう泣き出してしまった。どういうことかと客観的に今の自分を考えてみる。アリスと肩を抱き合っているような姿勢になっていた。
もしかして浮気と勘違いされたか。
「ち、違うんだ。これは間違いなんだ」
「だ、旦那様がひと時の間違いを犯すのも無理ないです。妹ちゃんは可愛いですから。それに対して私はこんなにも醜い」
「イーリス姉さん、違うの! 本当に何もなかったの!」
アリスが立ち上がり、イーリスに駆け寄る。
「私があんな死んだ魚と同じ目の男に惚れる訳がないじゃない。それに唐沢はイーリス姉さんと結婚したばかりなのよ。浮気なんてするはずないでしょ」
「ほ、本当に?」
「そう。さっきのはそう! ちょっとよろめいたのを支えてもらっただけ」
「そうなのですか、旦那様?」
「もちろんだ」
土下座していたとは説明できないため、歯切りの悪い回答だったが、イーリスは納得したのか、泣き止んでいく。
「良かった。私、旦那様に捨てられたら、もう死ぬしかなかったです」
この娘、重い! 滅茶苦茶、重い!
「そろそろ引き籠もり生活も飽きてきたし、本気で働くか」
俺は床に散らかった食事を拾い上げながら、そう宣言する。イーリスが浮気の心配をする必要もないほどの激務が始まろうとしていた。
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