金で買えないスキルはない ~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~   作:上下左右(じょうげさゆう)

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第一章 ~『政府系投資ファンドの立ち上げ』~

 俺はイーリスと共に談話室にいた。

 

 

 

 絨毯に素足を埋め、背中をソファに預ける。隣にはイーリスの姿がある。彼女は頭を俺の肩に預けてくつろいでいる。なんとも幸せな気持ちだった。

 

 

 

 だがそんな幸せな気持ちもテレビに映し出された映像で台無しになる。

 

 

 

 黒髪のトドのような醜い女性が、「私のモテる秘訣」を偉そうに講釈を垂れていた。なんでもこの世界を代表する大女優だそうだ。結婚したい女性ランキング一位だとも書かれている。

 

 

 

 この世界の男どもはこんなトドに欲情して、イーリスのような美少女を醜いと思うのか。

 

 

 

 俺、日本に生まれてよかった。

 

 

 

「番組を変えましょうか」

 

 

 

 別の番組へ切り替えると、「ブス姫結婚」との見出しと、ワインレッドのスーツを着た男が映し出されていた。

 

 

 

 スーツを着た男は顎鬚を蓄え、背中からは黒い羽を生やしていた。話すたびに羽をパタパタと動かしている。

 

 

 

「なんだあの羽? コスプレか?」

 

「旦那様は魔人を見るのは初めてですか?」

 

「魔人?」

 

「魔族と人との融合体です。多くの魔人は魔族の特徴を隠すのですが、エドガーは隠すどころかアピールしていますね」

 

 

 

 イーリスからエドガーについての詳しい情報を教えてもらう。

 

 

 

 名前はエドガー・ド・リュック。魔王領の一六貴族の一人に選ばれているらしい。資金力もかなりのもので、彼が経営する会社は両手の指では足らないそうだ。

 

 

 

 ちなみにだが、今映っているテレビ番組を放送している魔王放送局も彼の会社の一つである。

 

 

 

 金持ちでイケメン。羨ま死ねば良いのに。

 

 

 

「だ、旦那様、番組を変えてもいいでしょうか」

 

 

 

 気づくとイーリスの表情が曇っていた。

 

 

 

 理由はすぐに分かった。エドガーがイーリスのことを番組内で馬鹿にしていたのだ。

 

 

 

「あんなブスと結婚するくらいなら豚と結婚する」だの、「あんなブスと結婚したのだから、新しい国王もさぞかし酷い容貌に違いない」だのと口走る。

 

 

 

「私が馬鹿にされるのは構いません。ですが旦那様まで馬鹿にされるのは耐えられません」

 

 

 

 俺はテレビのスイッチを切る。

 

 

 

 何も知らない第三者に馬鹿にされると、こうもムカツクものらしい。テレビを壊さなかった自分の理性を褒めてやりたい。

 

 

 

「忘れましょう。あんな男のことを考えても楽しい気持ちにはなれませんから」

 

「だな」

 

 

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 

 

 

 どうにも沈黙は苦手だ。一人でいるときの沈黙は平気なのに、二人でいるときの沈黙はなぜこんなにも耐え難いのか。やはりボッチ最高なのか。

 

 

 

「旦那様に一つ聞いてもよろしいですか?」

 

 

 

 沈黙を破ったのはイーリスだった。

 

 

 

「なんでも聞いてくれ」

 

「結婚式の時に、この国が亡ぶと話していましたが、あれはどういう意味なのですか?」

 

「そのままの意味だ。このまま行くと、十年後にこの国はない」

 

「それは魔王軍に侵略されるということですか?」

 

 

 

 イーリスが亡国と聞いて思いついたのが、魔王領の侵略だった。

 

 

 

 過去十年間で、魔王領に滅ぼされた国は百を超えていた。魔王領の軍隊である魔王軍は強大な力を持っており、小国では到底太刀打ちできない。

 

 

 

「魔王軍に侵略される。可能性としてはあるかもしれない。だがそんなことが起こらなくとも、この国は亡ぶ」

 

「災害や流行り病ですか?」

 

「いいや。単純に金を稼げなくなる」

 

 

 

 サイゼ王国の歳入の九割以上を魔法石の輸出に頼っている。魔法石は資源として優れており、一つあれば莫大な魔力を生むことができる。テレビや冷蔵庫などを動かしているのも、魔法石の力に依るものだった。

 

 

 

 不安要素は二つ。一つは代替エネルギーの台頭だ。もし魔法石を欲しがる国がなくなれば、この国は亡ぶ。

 

 

 

 もう一つの不安は貯蔵量だ。このままの勢いで採掘を続けると、十年以内に枯れ果てる。

 

 

 

 その話をイーリスに聞かせると、彼女は不安そうな表情を浮かべた。

 

 

 

「旦那様の仰る通り、この国が如何にマズイのかが分かりました」

 

「いやまだ分かっていないな。本当にマズイのはこの国の国民だ」

 

 

 

 サイゼ王国では魔法石を採掘して得られた利益を国民に還元している。そのおかげで国民全員が働かなくても暮らしていけるのだ。

 

 

 

 国民からすると最高の国だが、国家を運営する上で、国民全員怠け者はよろしくない。なぜならハングリー精神がなければ新しい産業など生まれないからだ。

 

 

 

「では保証を止めますか?」

 

「産業が育ってないから就職先もないんだ。そんな状態で保障だけ打ち切ったらパニックになる」

 

「ならどうされるのですか?」

 

「ファンドを設立しようと思う」

 

 

 

 政府系ファンドや主権国家資産ファンドとも呼ばれる国が運営するファンド。それが俺の立ち上げようとしているファンドだ。

 

 

 

 政府系ファンドはアラブのような資源が豊富だが、外貨を獲得する手段に乏しい国で設立されることが多い。

 

 

 

 ちなみにだが日本でも設立が議論されたことがある。だが優秀なファンドマネージャーを雇うには億単位の金が必要になるのだが、公務員の給料が億を超えて国民に理解してもらえるかのかという問題など、色々と障害があり、結局設立には至っていない。

 

 

 

「魔法石を売った金で他国の有力企業を買い漁る」

 

 

 

 この世界にも株式市場は存在していた。もちろん過半数を超えた株式を取得すれば、経営権を取得することも可能だ。

 

 

 

 経営権さえ握れば、本社をサイゼ王国に移すこともできる。そうなれば雇用も生まれるし、法人税で国も潤う。

 

 

 

「資金源は国庫金だけですか?」

 

「国庫金がメインだが金はあればあるだけ良い。投資家からも資金を集める」

 

 

 

 ちなみに投資家には二種類ある。年金機構のような法人出資者を指す特定投資家と、一個人が出資する一般投資家だ。

 

 

 

 俺が作るファンドではどちらからも金を集める。

 

 

 

「旦那様、ファンドを設立するとして、どんな会社を購入するんですか?」

 

「それは既に決めてある。あれだ!」

 

 

 

 俺はテレビを指さす。

 

 

 

「なるほど。魔道具メーカーを買うのですね」

 

「それもありだが今回は違う。テレビの放送局を買う」

 

「放送局ですか。ちなみにどこの?」

 

「魔王放送局だ。買収して、あの社長を追い出してやる」

 

 

 

 買収方法については既に思いついていた。イーリスに買収内容を説明していく。

 

 

 

「俺の世界では『将を射んと欲せばまず馬を射よ』という諺がある。今回の買収を一言で表現するとその諺通りになる」

 

「なにをするのですか?」

 

「魔王放送局には魔王ラジオという親会社がある。まずはここを狙う」

 

 

 

 魔王ラジオは魔王放送局と比べて事業規模がかなり小さい。それにも関わらず、親子関係が逆転している歪な関係を築いていた。

 

 

 

 実は日本企業でもこういった現象が生じていたことがある。

 

 

 

 有名なのはイトーヨーカ堂とセブンイレブンだ。企業規模はセブンイレブンの方が上だが、イトーヨーカ堂が親会社となっていた。

 

 

 

 今ではセブン&アイホールディングスとして事業再編する際に、この親子関係と企業規模の歪な関係は直されている。

 

 

 

 だがなぜ親子関係と企業規模が逆転するとマズイのか。それは企業買収のリスクが増すからだ。

 

 

 

「魔王ラジオを買収できれば、魔王放送局もオマケで付いてくる」

 

 

 

 さらに魔王ラジオは魔王放送局の株券以外にも、有力な子会社を多数抱えていた。それ以外にも不動産をいくつも保有している。

 

 

 

 時価総額の算出方法はいくつもあるが、企業買収の際に使われることが多い、純利益に二十五倍を掛ける算出方法で見ると、時価総額はかなりの数字を叩きだしている。

 

 

 

 それにも関わらず、株価は安い。本業のラジオ放送が儲かっていないからだ。

 

 

 

 つまり安価な株を買い占めれば、高価な資産が手に入るわけだ。海老で鯛を釣る。それが俺の目的だった。

 

 

 

「不安が一つあります」

 

「なんだ?」

 

「魔王放送局が魔王領の会社だということです」

 

 

 

 政府系ファンドが他国の企業を買収する。もしかすると国際問題に発展するかもしれないと、イーリスは不安を感じているのだ。

 

 

 

「正当な経済活動なんだ、文句は言わせないさ」

 

「だとしてもです。わざわざ魔王領の会社に手を出さなくても良いのでは?」

 

「違うよ、イーリス。わざと魔王領の会社に狙いを絞っているんだ」

 

 

 

 魔王領は他国への侵略を繰り返している。そんな国の会社を買収しようというのだ。魔王領以外の国民感情はどうなるだろうか。

 

 

 

 当然応援の気持ちに傾くだろう。そうなれば広く資金を集めることが可能だ。またテレビ局に狙いを付けたのには、名前を売る目的もあった。どうせ名前を売るなら悪名より、魔王領に立ち向かう正義のファンドとして名前を売った方が良い。

 

 

 

「それにイーリスの心配する国際問題への発展については対策を考えている。心配するな」

 

 

 

 俺はニヤリと笑う。結末への道筋が俺の頭には描かれていた。

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