プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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※いつもよりシリアス成分高いです。貴方の価値観を損なう恐れがあります。




ご了承の方だけ、お読みください。


うつつのゆめ

「ほわぁ~……」

 

 この前までの茹だるような熱さから一転、木陰に入れば肌寒さを感じる空気に触れる街中の公園。太陽から(はぐ)れたベンチの下で、僕は憚らずあくびを溢した。

 

「あら、お疲れですか?」

 

「ああ、ごめん。気が抜けすぎただけだよ。シオリと居ると、どうしても安らぐから」

 

「もう、お上手なんですから」

 

 隣に居るシオリが心配してくれるが、ドールズの皆が日頃頑張っている中で一人疲れている等と弱がれるはずもなく。少しでも男らしく(そもそも目の前であくびをする事自体どうかと思うが)、とびっきりの伊達をかましてみせる。事実、シオリと居ると何処か安心するのは確かだ。

 

 二人っきりのオフ。シオリと僕の休日が重なっただけ。単なる偶然……いや、運命って呼んだ方が格好いいか。その運命を楽しむ最中。昼下がりの午後、人っけの少ない舞台でゆったりとした時間を送る……。

 

「あ、彼岸花……」

 

 ふと流し見た草むらに、特徴的な花を見付けた。まるで打ち上げ花火のような、破裂と表現出来る花弁。彼岸花。あれ、でも、白い……。

 

白花曼珠沙華(しろばなまんじゅしゃげ)……」

 

「え?」

 

 しろば……まんじゅしゃげ?

 

「白い彼岸花ですね。シロバナマンジュシャゲ。曼珠沙華はサンスクリット語の彼岸花を日本語読みにした物で、仏教用語ではよくある事なんです」

 

「へぇ……」

 

 曼珠沙華。そういう呼び方もあるのか。そうか、白花曼珠沙華……よし、覚えたぞ。

 

「あっ、すみません!私ったらつい、説明っぽくなってしまって……」

 

「え?ううん。ありがとう、勉強になったよ。シオリは博識だよね」

 

 何処か思うところがあったのか、慌てる彼女だが此方としてはありがとうと素敵だなぁって気持ちしかない。知的な女性は大好きだ。

 

「あう……そ、その。あのお花が咲くってことは、もう秋なんですよね。秋と言えば、読書の秋!」

 

 顔を少し赤らめて、彼女は持っていた手提げから一冊の本を取り出す。秋、秋……その前に、お昼ご飯で立ち寄ったファミレスの事を思い出してしまった。

 シーザーサラダ、カルボナーラ、マルゲリータ、エスカルゴ、パンケーキ、ティラミス、パフェ……で、足りたっけ??

 

「食欲の秋……」

 

「?今、何か……?」

 

「ああ、うん。秋だなぁってさ」

 

 つい呟いてしまった、印象的過ぎる光景。いや、彼女にとっては秋とか関係無いかも。成る程、そう考えると確かに秋である必要は無いのか。あれだけの栄養、何処へ……。

 

「そうだよね、秋と言えば読書だよ」

 

 嗚呼、駄目だ駄目だ。此処から先はやめておこう。

 

「ふふ。さて、シェヘラザードではありませんが今日はどんなお話をするとしましょう」

 

 本を開き、柔らかな笑みを浮かべるシオリ。また彼女の語りが聞けるのか。僕はなんて幸せ者なんだろう。

 

「どんな話を聞かせてくれるのか楽しみだよ」

 

 この前の撮影の延長線上。なりきりごっこを模した、幸せな一時。僕達の休日は、まろやかに歩いていく──

 

──『物語の主人公というのは、とても情熱的な生き方をしている』

 

 声が聞こえた。暗闇の中で、何処からか声が聞こえた。

 

『一人を殺せば犯罪者、百万人を殺せば英雄とされる』

 

 視界が鮮明になっていく。散らばる瓦礫、残骸となった夥しい程のピグマリオンの亡骸。

 

 ドン。地を転がったイーターに彼女……いつも通りの私服、手に龍を模した銃「ドラグロアー」を握ったシオリはあてつけの様に弾丸を打ち込んだ。

 

『嫌な場所、邪魔な奴、腐った世界、全部壊してもいい……』

 

 ~~♪~~~♪……鼻唄混じりに歩いていく彼女。とてもご機嫌だ。でもそれは、そう呼ぶには、余りにも残酷すぎる情景。

 

『だって主人公は正当化されるんですもの。物語は主人公の為にある』

 

 転がったデュラハンのコア。銃口を突き付け、一発。粉々に砕け散る。

 

『なんて刺激ある人生なのかしら!』

 

 滅びた舞台を、さらに壊しながら彼女はゆっくりと歩んでいく。のに。

 

 僕は、見ている事しか出来ない。

 

『うふふ、ははは!あははははっ!!』

 

 なんで。僕は何処に居る?

 

 なんで。彼女と同じ場所に居ない?

 

『っはーーーーー……』

 

 立ち止まった彼女は、大きく息をついて。恍惚の笑みを浮かべた。とても輝いた笑顔で。

 

『ざまあみろ』──

 

──「シオリ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 夢中で彼女の名前を読んだ僕は、体を跳ね起こした。って、あれ、今、僕はどうしてた……?

 

 辺りはもう薄暗くなっていて、場所は公園のベンチ。身体が横になっていた……振り向くと、其処には本を手にしているシオリの姿が。体勢からして……膝、枕……?

 

「あ、あの……どうしました?その、私の、名前……?」

 

 状況を理解した。きっと僕は、シオリの語りの途中で寝ていた。彼女の穏やかな、子守唄と紛うお話の語りに夢の中に落ちていった。

 

 なのに……なんて奴だ。

 

「……うん?あれ、なんだったろう……覚えてないや……?」

 

 嘘だ。僕はあれを鮮明に覚えている。まるで実際に其の目で観たかのように。有り得ない。吐き気がする。自分で自分を疑った。

 

「そう、ですか……ふふ……」

 

 にこり、と笑う彼女。とても嬉しそうに。

 

 ……最悪だ、僕は。こんな優しい彼女のあんな夢を見るなんて。地獄釜のような自己嫌悪に陥る。もっと罵れ。馬鹿だ馬鹿だ、クソ、クソ、クソ!クソ!!

 

 シオリは持っていた本を手提げに仕舞った。寝る前に見た物と表紙が違う。僕が寝てしまったから、別の本を読んでいたのだろう。……申し訳なさでいっぱいになる。

 

「ごめん、途中で寝ちゃってた……せっかくの休日なのに」

 

「いえいえ、構いませんよ。マスターの可愛い寝顔を見ながら本を読めるなんて、とても良い経験も出来ましたし」

 

「……?あっ」

 

 と、シオリの言葉で思い出した。後頭部をさする、名残惜しむように。……自分だけのじゃない、温もりを感じる。そうだ、膝枕だったんだ……!!

 

「……もう一回、しましょうか?」

 

「ちっ、違う!そうじゃなくて!!えっと、その……ありがとう!!!」

 

 もはや自分で何を言っているか分からない。でも、ここはごめんなさいではなくありがとうだと思った。

 くすくす、シオリが口を軽く抑えて笑う。

 

「さ、そろそろ帰りましょうか。今日は楽しかったですよ?」

 

 手提げを肩にかけ、椅子から立ち上がるシオリ。きっかけを作ろうとしてくれたのだろう、先に進みだそうとするように歩き出したシオリの手を。

 

「──!」

 

 慌てて椅子から離れて、その手を握り締めた。

 

「えっ?」

 

「あっ……」

 

 カー、カー。鴉の鳴き声が聞こえる。それ以外に無音の公園。静寂な中、妙な空気が流れる。

 

「えっと、マスター……?」

 

「……その、はぐれるといけないから。手を繋いで帰りたいなぁ、なんて」

 

 僕が苦し紛れに放った言葉に。電灯の照らす中で少しだけ、シオリは頬を赤くして。

 

「……はい♪」

 

 喜んで、手を握り返してくれた。その柔らかい手で、お互いを固く結んで。

 

 言えない。此処で手を取れなかったら、シオリが何処かへ行ってしまうんじゃないかって。そんな不安を自分勝手に拭う為に手を繋いだなんて。

 

 二人並んで帰路を辿る中、罪悪感に包まれながら、でも手は離せないと。何をしてでも彼女の隣に居る為に、僕は彼女の手を離さなかった。

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