プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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星空に駆けるヒーロー

「は……ッ、はッ……!!」

 

 少年は走っていた。雲越しの月が照らす夜の街を、星空の下で、逃げ惑うように、追われ、駆られ、路地の裏へと何かを振り払うように必死で走っていた。

 

 なんだ……!?何かが来る……!わかんねーけど、そういう気がする!!

 

 目には見えない何かを第六感で感じ取っていた少年は、得体の知れないそれ(・・)から全力で逃げていた。

 幽霊?妖怪?分からない。分からないけれど、確かなのは。決まっているのは!絶対に此処で足を止めてはいけないということ……!!

 

 けど……っ、もう持たない!駄目だ、もう無理……!いやっ……持ってくれ……!!?

 

 がろんっ、鈍い音と共に視界が廻る。痛い。肩からアスファルトに倒れ込んで地を転がった。右足が焼けるように唸っている。これは、捻った。

 

 動けない。這ってでも……いや、無理だ。すぐ其処まで迫っているそれ(・・)が分かった。駄目だ、逃げられない。

 

「クソッ……」

 

「間に合ったようね」

 

 ザシュン。そういう音がした。少年の瞳に映ったのは、それ(・・)を切り裂く無骨な剣に、黄金色のツーサイドアップを揺らした──少年と然程背の変わらぬ小柄な少女。

 

 これは、一人の少年が僅一夜限(たったいちやかぎ)りの夢を目の当たりにする。その光景を記憶に焼き付けた、唯其(ただそ)れだけの英雄譚である。

 

──星空に駆けるヒーロー──

 

「大丈夫?立てる?」

 

 少女に差し伸べられた手を、少年は決して取らずに一人で立ち上がった。足は……痛い。けれど、別に歩ける。これぐらいなら。

 そんなどうせもいい事より。もっと気にする事はある。一体。

 

「誰だよお前……」

 

 少年は問いかけた。目の前の少女に。よく分からない恐怖を一瞬で消し去った、謎の少女の正体を。

 

「あたし?あたしはねぇ……」

 

 ふふん、自信げに笑い。赤いスカートをダイナミックに揺らして彼女は名乗りを挙げる。

 

「容姿端麗!ハイっパー美少女!!」

 

 ツーサイドアップの片方を空いている右手で払い、少女にしてはやけに発達した胸部……じゃない、其処「心臓」をトントン、とノックする。

 

「お転婆率いるチームCのカリスマ的リーダー、「DOLLS」の「アヤ」とはこのあたし様の事よ!!!」

 

 ンビシィッッッ!!!自己主張に一切の躊躇いを捨て自信満々のその尊顔を彼女は惜しげ無くその親指で指した。

 

 ……

 

「……知らね」

 

「はァ!??」

 

 少女……アヤが先程までの顔とは一転、驚愕の表情で少年を見やった。

 

 いや、知らんもんは知らんし。

 

「えっ、いや、ドールズよ!?今をトキメくアイドルの!!恥ずかしがっちゃって、まーーー」

 

「アイドルって女が見るヤツだろ?」

 

「れ、霊感ウィッチの……」

 

「アニメってガキが見るもんだろ。俺戦隊とライダーしか見ねーし」

 

 少年の心に壁を作った対応にアヤは遂に頭を抱えだした。

 

「擦れたお子様ね~~~……」

 

「いや、お前も子供だろ……」

 

「へっ、こう見えてもあたしはもう19歳なんですーーあんた何歳?」

 

「うげっ!?……じ、12歳……」

 

「歴然の差ね。まだまだ子供だわ」

 

「っせ……!!で、その、アヤは……」

 

 ずぅん……。辺り一帯の空気が一気に重くなったのが分かる。目に見えなくとも、何かがおかしいのが分かる。

 

「……見えてんの?」

 

「わかんねー……けど、なんかおかしいよな……!?」

 

「そう。そのおかしさを元に戻すのが私達の仕事。ね?あんた──」

 

釖太郎(とうたろう)

 

 少年は名を名乗った。こっちがそっちの名前を教えてもらったのに、こっちから名乗らないのはフェアじゃない。

 

「俺の名前はあんたじゃない、帯刀(おびなた)釖太郎だ」

 

「そっか。ね、トウタロウ。其処で見てなさいな、このアヤ様の活躍する舞台ってヤツを……!」

 

 そう言い残して、彼女──アヤは駆け出した。目の前にある何かを、きっと、倒す為に。

 

 ザシュン、ガキンッ!ザンッ……!彼女が舞い剣を振るう度に、辺りの違和感が直っていく。何をしているのかは分からない。けれど、きっと彼女は……

 

「はあぁぁぁッ!!!」

 

 戦っている。

 

 小さな身体をああも駆使して、少女は勇敢に立ち向かう。一体なんで?なんの為に?

 

 突如降り注ぐ、巨大な威圧感。地響きが起こった。アヤが剣を盾にするように構えたが、そのまま弾かれるように後方に吹っ飛ぶ。

 

「アヤっ!?」

 

「っチィッ!!」

 

 が、片手を地面に着いてすぐさま体勢を立て直した。少し強引滲みた華麗な身のこなしで再び剣を目前に構える。

 

 今、気が付いた。彼女の姿は。少年が普段から画面の中で憧れる「ヒーロー」の姿そのものだ。ふと、思わず、少年はそれを口に出していた。

 

「っ、勝て!頑張れ、アヤーーーっ!!!」

 

「うおおおぉぉぉーーーッッッ!!!」──

 

──『ふわふわ 浮かべたのはCandy Star──』

 

 夕方のテレビ番組。リビングにて、その光景に齧り付く少年が一人。

 

「釖太郎ー、もうご飯よー……って、何。DOLLSじゃない」

 

 台所から聞こえてくる母親の声。けれど、そっちのけで。普段なら飛び付く夕飯。だが今は、こっちに熱中している。

 

「アイドルなんて絶対見ないのに……あんた、そういうの見る年頃なの?」

 

「あ?分かってねーなー、かーちゃん。DOLLSはな、アヤはな……」

 

 画面に映っている三人の少女達。そのセンターで、華麗なパフォーマンスをこなす彼女、あの夜出会ったあまりにもヒロイックなアイドル。

 

 今夜の出来事は、あたしとトウタロウだけの秘密。ね?

 

「格好いいんだ」

 

 星空の下で見た最高のヒーローに憧れと淡い想いを抱いて、少年は今日も少女達にエールを送った。

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