プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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イノセント・ノヴァ

「切り取られた断面を目にする事で、初めて理解できる──それが幾つもの層を積み重ねて作られた結果である事を。

 合間には様々なファクターが散りばめられ、また添えられたイレギュラーによりそれは奇跡的な輝きを魅せる」

 

 自室のテーブル。フォークにより切り離したケーキの切れ端をシオリは愛しく見つめ、そして口にした。舌の上で味わい、堪能し、自身の糧にすると、湯呑に継がれた暖かい緑茶を一口。一息ついて、また言葉を紡ぐ。

 

小夜啼鳥(ナイチンゲール)の歌声のように美しく、儚く……人の生涯、それは瞬く間に口の中で溶けてしまうミルクレープ・ケーキによく似ている。そんな風に思う事が、たまにあるんです」

 

 テーブルの向かい側、彼女の部屋にお邪魔した少女「サクラ」は、まるで噺のように語るシオリに、お茶を啜るのも忘れて耳を傾けている。

 

「人の、生涯……」

 

「はい。それは、失われた私たちも同じ事。私たちは幾層も積み重ねて来た。記憶は覚えていなくても、身体は知っている。そう、私たちは「知っている」……」

 

 ドールズと人生、その境界線……それは何をして作られるのだろうか。ある日失った私達は、だけれど確かに続いている。それは新しくやり直したんじゃない、まるでジグソーパズルのようにバラバラになってわからなくなってしまっただけで。

 そして、続いている私達も確かに積み重ねてきた。一つずつのピースを嵌めていき、息を止めることなく、先へ進む。ならば、これもまた。「人生」というのだろうか……?

 

「そうだ、あのお話を」

 

「あの話?」

 

「はい、あれは私が積み上げられた奇跡を目の当たりにした時の話。暮明(くらがり)で彷徨っていた私達を照らしてくれた、真夜中の太陽、それを見上げた時の話」──

 

──「……片付いたか」

 

 殺戮の為の衣装を身に纏いモノトーンの味気ない銃を肩に乗せたシオリは、辺りを見渡した。展開されたテアトルの中で朽ち果てた、幾つものピグマリオンの残骸。街への被害は最小限……と見て良いだろう。それに、今回は得たものも大きい。

 

「さあ、帰りましょう。ミサキさん」

 

「はい、シオリさん」

 

 シオリは振り向き、後ろで静かに剣を握った青い長髪の少女を見る。まだ戦うという運命を背負って間もない、無垢な少女の瞳──落ち着いては居る。戦うという事に怯えが無い訳では無い、か?ただ、「職務をこなす」という事には長けているようだ。

 ミサキ。新入りのドール。身体能力良し、アイドル適正良し、戦闘適性良し、協調性……発展途上。まだ感情を取り戻しきっていないからか動きが堅いが、それでもこのスペックは目を見張る物がある。指示にも素直であり、彼女がドールになったのは僥倖。……いや、そういうのは不謹慎か。ならば、こうプラスに考えよう。「彼女がギアに適合してくれた」事に感謝をしよう。

 私が彼女をしっかりと育て上げる。彼女にはそういう素質がある。それは胸に決めている。そして、私たちは最高のチームになる……!

 

『キュオォォォォン。』

 

「!?」

 

 耳鳴りに近い、嫌な感じの音。背筋に寒さを走らせるこの雰囲気、まさか……?まさかッ!?

 

『ギギャアアアアアッッッ!!!』

 

 シオリは上空を見上げた。其処から降り注ぐは、矢継ぎ早のイーターの群れ。嫌な予感が的中した。その奥に鎮座する、白色の門。

 

「モノリス……ッ!?なんでこんな時に!!」

 

 モノリス。ピグマリオンを召喚する、諸悪の根源。シオリが銃でイーターを撃ち抜いていく。だが、手数が足りない……!迫り来るイーターの噛み付きを銃で殴り飛ばして、一歩、二歩と交代していく。

 

『ちょっと、ヤバいんじゃない!?一旦引いた方が!!』

 

「分かっています!!」

 

 わかってる……けれど!

 

 テアトルを通じて聞こえる声に一瞬の思考回路の混線。言うまでもなく、モノリスは最優先撃破対象だ。放っておくだけでピグマリオンが呼び出され、街が壊される。それはできる限り避けたい。だが、新入りを連れて二人での討伐は荷が重い。違う、防衛をしながら他メンバーとの合流を待って……この戦闘をミサキさんの経験に!だから、その荷が重いって──!

 

「ッ!!」

 

 気が付けば、ほんの数秒の棒立ち。体は逃げることを選んでいた。けれど、頭の中で「あわよくば」を考えていた。この戦いを終わらせる為の、欲張り。だから──目前にイーターが迫る。

 

「ミサキさん、逃げましょう!!!」

 

 漸く決断した。此処で敵を殲滅する「ハイリターン」よりも万が一にも彼女を失う事の方が“圧倒的”に「ハイリスク」である事を理解したからだ。

 

 彼女は私が守る。なんとしても。それが、今の私の最優先事項……!

 

 シオリは足を後ろへ誘導しつつも、目前へと銃を向けた。殿(しんがり)は私が務める。一瞬の判断ミスを犯した、私の覚悟で──

 

「私が出ます」

 

 腕を引っ張られた。体が後方へと下がる。それと同時に、スイッチ。遠心力で前方へと飛んでいった彼女、青い長髪を靡かせたミサキが一閃。速度の乗った剣の横薙ぎで複数のイーターを靄にした。

 

 シオリは瞬いた。何が起きたか分からなかった。あの僅か刹那、あれだけの数のイーターが消し飛ばされた。

 

「っミサキさん!!!」

 

 我に帰る。そんな事より。彼女と一緒に逃げ帰るのが優先で。止めようとした。

 

 イーターが大口を開けてミサキに喰らいかかった。まずい。あれは──マズい!!!

 

 ザスン。シオリが銃を構える前に無慈悲な鈍い音がなった。イーターは喉奥を剣で刺し貫かれ、そのまま跳ね上げる形で上空へと薙ぎ飛ばされる。

 飛ばされたイーターは上空から降ってくるまた別のイーターにぶつかり、そしてよろけた。其処へ──

 

「地上から目測32メートル、残り9メートル弱……容易い」

 

 地を蹴ってジャンプしたミサキが、さらによろけたイーターを踏み台にして跳躍。目指すは本丸、根源たるモノリスへ。

 ミサキがその手に光を集める。フィールの剣を、其処に(そび)えるモノリスへと思いっきり叩き込んだ。

 

『キュイィィン……』

 

 分断されたモノリスと共に、地に降り立つミサキ。モノリスは無機質な音を立ててアスファルトを跳ねると、地に転がって消滅しきった。

 彼女は立ち上がると、そっけない顔でシオリと瞳を合わせる。揺らぎ無い戦士の瞳、それがさも当然であるかのように。

 

「これで任務完了……ですか?シオリさん」

 

「え、ええ……」

 

 呆然とした。驚愕をした。私はその日、光を目の当たりにした。暮明を彷徨っていた私達の、大きな力になるであろう無垢なる少女の輝きを。流星の如く現れたその光景はまるで奇跡、例えるならば真夜中の太陽──

 

──場所は女子寮の食堂。テーブルにはズラリと並べられた大量の逸品。たこ焼き、坦々麺、クスクスのパエリヤ、お好み焼き……どれも煌びやかで、何より、どれも「粉物」だ。

 

「何よレイナ、私のお好み焼きが食べれないっていうの?」

 

「その、今は、Not hungryよ……」

 

 ミサキの剣幕にレイナすらしどろもどろする。そう、彼女の料理は美味しい。美味しいのだが……作る量が尋常じゃないのだ。

 

 そんな様子を遠巻きに笑顔で眺めるシオリ。

 

「ふふ。今でこそああですけれど、昔は「シオリさん」って呼んでくれたんですよ」

 

「……なんか、想像がつきませんね……」

 

 サクラはその時を知らない。気が付けば、あの人一倍気の強い彼女だった。

 

 けれど、と。シオリは思う。今の彼女が、誰にでも分け隔て無いミサキが、私達を「仲間」だと思ってくれてるようで。絆が深まった気がして。それをとても嬉しく思うのだ。

 

 ひょい、とミサキが持っていたお好み焼きを皿ごと貰うシオリ。

 

「それじゃ、私が食べちゃいますね♪ミサキさんのお好み焼きは格別ですもの」

 

「へぇ、見る目があるじゃない。シオリの舌は嘘を吐つかないわね」

 

 二人は笑みを交わし合う。目配せのような交差。シオリが味わったその日のお好み焼きは、やっぱりとても美味しかった。

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