プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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100回目の死

「ひくっ」

 

 DOLL HOUSEのリビングルームで高く跳ねる声が一人。いつも通りの明るめでキュートなコーデの私服、紫水晶の瞳に桃色の髪……特徴的に跳ねたカーブ掛かったアンテナのような一線の髪が目を惹く少女、「サクラ」。声を上げたのは、彼女だった。

 

「あらあら、しゃっくりですか?」

 

 心配そうに声を掛けた彼女……草原(グラス)を彷彿とさせるような透き通った薄緑色の髪、水色のスカート、近くに居るだけで安心出来るお姉さん染みた雰囲気を纏うDOLLSの癒し「シオリ」。頬に手を当て、翡翠のような瞳でサクラを見詰める。

 

 口に手を当て、不安そうな瞳でシオリを見るサクラ。心なしか、何処か涙ぐんでいるようにも見える。

 

「……うう、シオリさん……!もし、治らなかったら……」

 

「『100回しゃっくりをすると人は死んでしまう』……とでも、言いたげですね?サクラさん」

 

 キィ……開いたドアに背を預け、首の角度を少し上げて赤紫色の瞳を覗かせる眼鏡をクイ、と右手の人差し指でさも意味深に微調整するこれまた少女……短めに切りそろえた紫の髪の最年少ドール「ナナミ」は、サクラの心の内を代弁するようにその言葉を紡いだ。サクラはハッとする。

 

「えっ……?ナナミちゃん、どうしてわかったの!?」

 

「純粋無垢なサクラさんの事です。どうせそんな迷信を信じているんじゃないかって思いましてね……その反応を見るに図星のようです」

 

 満足げに首を縦に振るナナミ。ドアを閉め、リビングには三人の少女が見合い合う。

 

「でも……しゃっくりで死んでしまうなんて。サクラさん、本当に思っているんですか?」

 

「うう……だって、そうやって言うじゃないですか……!ひくっ」

 

「しゃっくりを100回する程横隔膜が弱っているなら有り得なくもない、とは言いますね」

 

「ひぐっ!?……うえぇ……また出ちゃった……」

 

「もう、ナナミさんったら」

 

 しゃっくりが次いで出るサクラを面白そうに煽るナナミ。困ったようにシオリは咎めるが、とはいえまだ楽観視の色は見て取れる。なにせ、しゃっくりだ。そう深く考える事も無い……当人のサクラを除いては。

 

 ピコン!人差し指を立てて、ナナミはサクラに提案をする。

 

「しかし、この私なら!しゃっくりを止める方法を知っています。さあさあ、お任せください!」

 

──治療手法【壱】:飲水──

 

「えぇっ!?本当?ナナミちゃん!……ひくっ」

 

 両の手を合わせ、パアァっと表情を明るくするサクラ。しゃっくりが漏れるが、其処はしょうがない。得意げな顔でナナミは続ける。

 

「ふふん……ズバリ、コップに冷水を注ぎ!それを手前の反対側から飲めばいいのです!」

 

「ほぉ……!」

 

 そして、言われた通りに冷水を注いだコップを用意したサクラ。しっかりと両の手で持ち、コップの対岸に口を近付ける。

 

 んおぉ……むうぅ……ええぇ……?

 

「……どうやって飲むの?ひくっ」

 

「……そこまで深く考えた事は無かったですね。策士策に溺れましたか」

 

 上手く反対側から水を飲む事が叶わず、治療失敗。

 

──治療手法【弐】:服薬──

 

 作戦に失敗したサクラと付き添ってくれるシオリの次の手は、手早く最終手段を取る事にした。コンコン、と一つのドアをノックする。

 

 ガチャリ。中から広袖を羽織った気だるそうな水色の髪の少女が顔を覗かせた。

 

「んあーー……ジブンになんか用すかー?」

 

「ひくっ、あっ、あのっ!ヤマダさん、しゃっくりに効くお薬って持ってませんか?」

 

 ドールズ内でもサプリメントのエキスパート、ヤマダ。彼女への相談というのが次の手だった。これほど手早い手段というのも無いだろう。

 

「あー……あるにはあるっすよ。ちょっと待つっす…………はい、コレ」

 

 案の定。ほんの数分ヤマダが自室を探したかと思うと、サクラの手に渡されたのは一片のブリスターパック……中には一錠、カプセルの薬剤が入っていた。ほわぁ……!なんとスムーズで有り難い事だろうか。サクラは直ぐにそのカプセルを取り出し、掌に乗せる。

 

「ありがとうございましゅっひくっ、ヤマダさん!」

 

 そして、満面の笑顔でそのカプセルを飲もうとして。

 

「ところで、あれは何の薬ですか?」

 

「くしゃみの誘発剤っすよ。30分程持続するやつっす」

 

 ぴたり。サクラの動きが止まった。

 

「へぐっ!?……あ、あの、それって……」

 

「しゃっくりってのは息を吸う行為。それを止めるには息を吐く行為をしてやればいいんです。それがくしゃみ……片方を迎え、片方に別れを。『ハロー!そしてグッドバイ!』……まあ、試した事は無いですが理論上止まります」

 

 事細かく説明をしてくれているヤマダ。薬をくれたのもありがたい。しかし、それでも。サクラはその顔を青褪める。

 

「あっ、あのっ!私、用事思い出しちゃいました!ヤマダさん、これ、後で飲みますね!……へぅっ」

 

 そう言うと、小さなしゃっくりを最後にその手にカプセルを握り締め小走りでサクラはその場を去ってしまった。

 

「あら、サクラさん……ヤマダさん、有難うございますね」

 

 そして、それを追うようにシオリは歩いて向かう。その後ろ姿をヤマダはぼーっとした瞳で見送り。

 

「辛くなったらちゃんと飲むんすよー」

 

 そう声をかけて、静かに自室へと戻っていった。

 

──治療手法【参】:息縛──

 

 小走りで通路を行くサクラは、目の前に人が居る事でその足を止めた。

 

「どうか、しましたか?」

 

 急いでいる此方に気が付いて声をかけてくれた銀髪の大人しそうな少女、ユキ。普段から協調性はあれど、人柄上自由な彼女だ。半ば期待は無くとも、サクラは藁にもすがるような思いでユキに事情を話す。

 

「ユキさん……っ!しゃっくりを止める方法、知りませんか……?ひくっ」

 

 ユキはその言葉の意味を受け取った後、ほんの少し空を仰ぎ……そして、首を縦に振った。

 

「しゃっくり……止めれます、わたし」

 

「えっ……!?おっ、教えて……くださ!ひゃうっ」

 

「まあ……!」

 

 まさかの言葉に、サクラと追いついたシオリは顔を明るくした。

 

「では、わたしと一緒に息を吸ってください……」

 

 すう、とユキはその胸を膨らますように大きく息を吸い込んでいく。

 

「はっ、はい……!すぅ……」

 

 そして続くようにサクラも息を吸い込んでいく。……段々、吸うのが苦しくなっていく。肺が、お腹が空気でいっぱいになる感覚。もう、限界というところで

 

「ストップです」

 

 ユキは掌をサクラの目の前にかざすと、その言葉を皮切りに口を閉ざした。サクラも、それを真似する……これは、息止め!?

 

「成る程……息を止めるのも効果的と聞いたことがあります」

 

 感心するようにその光景を見届けるシオリ。……数十秒、経って。そして一分、差し掛かった所で。

 

「……ぱぁっ!!げっ、限界です……!」

 

「……ふぅ、お疲れ様です。サクラさん」

 

 肺の容量に限界が訪れ、その息を盛大に漏らし新しい酸素を一気に取り込むサクラ。それに合わせるようにユキも息の交換をする。

 

 顔を赤くしいっぱいいっぱいというサクラとは別に、ユキのその表情はとても涼しげだ。目の前の少女は、一体どれだけの余裕があったのだろう。

 

「……ユキさん、どれだけ息止められるんですか……?」

 

「えっと……時計の針で数えて……4分、ぐらいです」

 

「よっ……!?」

 

 静かな表情でその事実を告げられたサクラは驚愕する。多分、自分のベストの三倍~四倍……凄い、ユキさん。

 

 でも、これで。私のしゃっくりも止まった……!

 

「ひくっ」

 

 ……え?

 

──治療手法【肆】:驚愕──

 

「ひぐっ!?……うぅ……今何回目ですかシオリさぁん……」

 

「93回……100回まで、後7回です」

 

「うっふぅ~~……!!」

 

 声になりそうもない悲しみの音をあげ、サクラは嘆く。ユキさんの教えてくれた方法は、自分には効果が無かった。肺活量の問題なのだろうか……?後、七回。そうすれば、もう一度。手に入れたこの命を散らしてしまう……!

 

 かくなる上は、とヤマダから渡されたカプセルを見る。くしゃみの誘発剤。これに、頼るしかない……!くしゃみが止まらなくなるの、嫌だけど!!

 

「あら、二人してこんな所でどうしたのかしら」

 

 ふと、通路を通りがかった青色のポニーテールと泣きぼくろが特徴的な凛々しい彼女……同じチームAの、ミサキ。サクラはその姿を見ると、駆け寄って懐に飛びついた。

 

「うわぁ~~ん!ミサキさん!私、死んじゃうんです!!……ひぐっ」

 

「ちょっ、何!?暑っ苦しいわね……!って、サクラ。貴女もしかして」

 

 その様を鬱陶しそうに邪険にしつつも、サクラの息の吸い方に違和感を覚えるミサキ。

 

「そうなんです……しゃっくりが止まらなくて、今ので94回目です」

 

「呆れた……」

 

 シオリの状況説明にミサキは軽くこめかみを指で押さえると、自分の腹部に抱きつくように引っ付いていたサクラを剥がして目の前にしっかりと立たせる。その瞳が潤んでいるのを見て、やれやれ、と首を軽く振った。

 

「はぁ……貴女のしゃっくりがどうなろうと私には関係無いけれど、いつまでも引っ張られていては厄介だわ。ものの1分で解決してあげる」

 

 肩に置かれた手。その柔らかくも力強い手から、サクラは彼女にいつも通りの頼もしさをひしひしと感じ取る。顔に綻びが混じっていく。心強いなぁ……!

 

「わあぁ……!ミサキさん……!!ひくっ」

 

「シオリ、これまで取った手段は?」

 

「コップの反対側から水を飲むのは断念、息止めは失敗、最終手段はくしゃみの誘発剤を投与します」

 

「OK……なら、これね」

 

 ミサキは簡潔に状況を聞くと、自分の財布から三枚のスタンプカードを取り出した。それを、手品師が如く巧みな手捌きであたかも握られた左手の中に隠れるようにサクラに観せる。

 

「3、2、1、0で消えるわ」

 

 しゃっくりの治療法……これまで挙げられた代表的な三種の他に、「意識を逸らす」というものがある。要は、意識をしゃっくりから切り離してしまえばいい。

 

「3」

 

 ミサキが折り込まれた人差し指を展開した。一枚、隠れたスタンプカードが出てくる。

 

「2」

 

 サクラが息を飲み、次に中指が伸び、二枚目のスタンプカードがミサキの手から現れた。残るは、あと1枚。

 

「1」

 

 シオリがその場を見守る中、ついにミサキの薬指と小指が伸び、三枚目のスタンプカードが現れる。次の瞬間には、消える……!

 

「0」

 

 ブォンッ!!……消えた。サクラが注視していた、左手の三枚のスタンプカードなぞでは無い。消えたのは、ミサキの右手(・・)だった。

 気が付けば、サクラの左頬の下……首の横を掠めるようにして、鋭利な貫手が通り過ぎていた。勿論、当たってなどいない。でも、その瞬間に感じた「死んだ」と感じる明確な「生命感(スリル)」は、サクラの意識を逸らすにはこの上なく充分過ぎる物だった。その時の脅威たるや、正に殺戮人形のそれで。

 

 気が付けば、その命が脅かされていると錯覚し納得させる状況のトリック。いきなり驚かす。これもまた、しゃっくりを止める常套手段の一つ。

 

「は……っ、あ、あぁ……」

 

「ほら、消えたでしょ?貴女のしゃっくり」

 

 そうミサキは得意げにウインクして見せると、貫手の構えを解いてスタンプカードを綺麗に財布に仕舞い、自分の髪を軽く撫でた。僅かワンミニッツにも満たない消失手品(ミスディレクション)の寸劇……意識からしゃっくりを分断する、二段構えの殺戮手法。

 サクラは少しばかりの冷や汗を流して、自分の首が繋がっている事を確認しようと手を当てた。……あ、しゃっくりが出ない。

 

「あ……ありがとうございます!」

 

「ミサキさんの手際の良さは本当に惚れ惚れしますね……少し、びっくりしましたけれど」

 

 喜ぶ二人に背を向けて、ミサキは歩きだす。その手を振り、最後に言葉を残して。

 

「これからはいつでも言いなさい。また一瞬で止めてあげるわ」

 

「えと……次は、遠慮しておきます」

 

「えっ!?なんでよ!」

 

 申し訳なさそうに断るサクラの言葉を聞いて、ミサキは驚愕に振り返る。

 

「……ミサキさんのやり方だと、いつか心臓の方が止まっちゃいそうですもんね」

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