プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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そう、私こそが

 意識が透水していく。研ぎ澄まされた感覚のダイブ、とっくにこなれた浮遊感を超えて、目指すは他の何でもない忌まわしき奴の元へ――

 

 

【挿絵表示】

 

 

──彼女は降り立った。紫の装飾、水色に輝く心の鍵穴を携えた漆黒の衣装(ドレス)「殺戮人形」……敵を倒すために造られた少女の姿を身に纏った、青き結われたポニーテールを揺らし右目に泣きぼくろを付けた凛々しい表情のDOLLSが一人「ミサキ」。白き地に足を付けると、その瞳でただ目の前を見据えた。

 

 シミュレーター用に拵えた無機質な白い空間。その一帯が彼女が降り立つと共に水色に染まり、辺りに閉ざされた扉や飛び散った瓦礫、爪痕を残した壁面を形成していく。……忘れもしない、世界から忘れ去られた場所「魔都新宿・『アタラクシア』内部」。私はこの光景を、脳裏から外した事は無い。

 

 クケケ。

 

 嫌味な呟きが聞こえた。ミサキはその手に少女が持つには無骨過ぎる灰色の大剣「傀剣カルディア」を握り締め、瞳を閉じる。

 ……空。建物の上部から降ってくる威圧感の塊を五感で確かめると、振り降ろされる鋭利な刃を剣で受け流して、目前にそびえ立った怪物に瞳を開けて対峙した。

 

「また会いに来たわ……死神」

 

 歯を剥き出しにした白きノーフェイス、圧倒的な巨躯に赤き爪が殺意を体現するピグマリオン「リーパー」。これまで戦ったピグマリオンの中でも知性・凶暴性共にトップクラス……死神の名を冠するに相応しい忌々しい怪物。ミサキはシミュレーターにて、この最悪の敵の再現データを復元して1対1での討伐を試みていた。

 危険度設定はMAX……つまり、実物と同じデータ。本来はDOLLSの力を集約して紙一重ギリギリでようやく倒せた相手だ。一人での討伐など、おこがましいだろう。

 しかし、私達は強くなっている。まだ、先へ進まなければならない。これより先……もっと強い敵が出てきた時に負けない為に。勝つ為に、今日こそはこの敵を、一人で倒してみせる!

 

「さあ、狩りの時間よ」

 

「ケケケッ!」

 

 剣を両手で敵に構え、ミサキは地を駆けた。リーパーの懐、肉薄の距離へと接近をする。

 

 キンッ!ギギンッ!!剣と爪が擦れ合う音が建物の壁に響いていく。この無謀なシミュレーター……今に始まったばかりではない。ミサキは週に数回、通常のシミュレーターをこなした後のトップギア、ベストコンディションの状態でこの空間に入り浸っていた。誰に話すでも無く、たった一人で。それがNo.1の努め。誰よりも最前線で、誰をも傷付けず、この身が朽ちるまで敵を倒し続ける……!それが、彼女との約束……。約束……?

 

 突き出される爪の攻撃を防ぎ、合間合間に斬撃を刻んでいく。僅か数ミリの舞踏、薄皮一枚で致命打を避けての死と隣り合わせの攻防戦。

 

 攻撃が理解(わか)る……眼に見えている!これならッ!

 

 ぐにゃぐにゃとした、まるで道化師のような挙動。動きが読みづらいのがこの敵の大きな強さだろう。

 

 けれど、基礎行動のパターンはこの体に馴染ませてある。予測不能のモーションは、私の反射神経で凌駕する……!!

 

 爪の振り下ろしをワンステップで回避、勢いで地を蹴って地面に叩きつけられたリーパーの腕に飛び乗り、さらに其処から跳躍。リーパーの白き顔面に思いっきり剣を叩き込む。

 

「せやあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 ガシュリッッ!リーパーの額が割れ、生き物と(うそぶ)くように赤い血が吹き出る。ミサキは機を逃すまいと、さらに手を伸ばして追い打ちをかけた。

 

 生意気なのよ……ッ!

 

(いなな)け!!」

 

 ミサキが開いた掌を握りこむと、そこから青白い光が弾け飛ぶように敵に放たれた。50弾の、フィールの衝撃。割れたリーパーの顔面に追撃が矢次早に捩じ込まれていく。

 

「キキャキャキャキャ!」

 

 地面に着地したミサキにリーパーは攻撃を受けている途中ながらも突っ込んできた。この痛みを厭わない動き方、予測はしているがッ!来た、四連撃!!

 

「ちぃっ!」

 

 一発目。左爪からの大振りな素早い切り上げ。幾ら早くとも動きがテレフォンになっていて此処の反応は意識していれば確実に間に合う。その初手を手始めに難なく剣で受け流す。息をする間も無く二撃目が飛んでくる。右爪の振り下ろし。勿論、理想的な動きは完成されている。ベストタイミングでのガード、逆に言えば此処を防げないと次は無い……!

 三発目。この一連の流れでこれが一番辛い……!溜められていた左爪の、最速の直突き。ぶっちゃけ、「視えない」。人間の視力では当然の事ながら、特別なドールの力を以てしても視認が叶わぬ「反射」を馬鹿にしたかのような消える魔爪。こればかりは視力が2.0あろうが、そういう理屈では通らない……!!

 

 ギャリッ、僅かに剣で受け流し損ねる。ミサキの態勢がほんの僅かに崩れる。ほんの僅か、それだけあればこの化物には十分すぎる執行猶予……。

 

「ケアァッ!!」

 

 最終段、両爪による振り下ろし。リーパーの全力とも言えるこの一撃は、これまでの連撃全てをこなした上で受けてようやく無事で済む。つまり、一つでもミスをした場合の彼女は。

 

「きゃあああああああッッ!??」

 

 受け止めきれず、地をぶつかり転がって弾き飛ばされた。

 

 痛い……?熱い……!皮膚が焼けるような感覚。脳髄が混ぜられるような感覚。疲弊した体に鞭を打って、それでも、と必死で剣を地面に突き立てて彼女は立ち上がり釣り上がった瞳で敵を睨み付ける。

 

 ケケケ。

 

 リーパーの笑い声が聞こえる……。恐怖?膝が、体が震える。

 

 (わら)うな……。

 

 ケケケケケ。

 

 駄目押しのように、リーパーは額から溢れ出る血をその全身に纏って鎧を形成していく。此方の攻撃を遮る、嘲り笑うかのような防御壁。お前なんぞ、この程度だと。お前なんぞ、只の餌だと。

 

 嘲笑(わら)うな……!

 

「キケキャギャギャギャギャギャ!!!」

 

 お前では勝てないと。また分かっていて負けに来たのかと嗤うように。

 

(わら)うなーーーッッッ!!!」

 

 ミサキは剣を振り構え、リーパーに向かって走った。最早、満身創痍。その先にあるのは……敗北。

 

『魔法の庭園』

 

 声が聞こえた。何かを通じて声が聞こえた。この声……?よく見知った、とても癒される声……。

 

「ギゲッ!?」

 

 建物内部だったはずの一帯に青色の空と花畑の草原が広がる。リーパーの体が球体に閉じ込められ、拘束された。

 

 覚えがある、この光景。まさか、このテアトルは……!?まさかこのフィールは!!

 

『結末の時です。光よ、飲め』

 

 身動きの取れないリーパーに、この空間を形成するテアトルで織り成された巨大な槍……「想いの槍」が、ミサキの背後から飛んできて楔を打った。

 

「あれ、壊せばいいんですよね?」

 

 さらに、隣から声。声の主が手を敵に向けると、リーパーの体に衝撃が放たれ血の鎧が軽く消し飛ぶ。

 

 呆然とした最中、あっという間の出来事。ミサキが右を見ると、其処にはストイックに敵を倒す為の黒の衣装(ドレス)を身に纏った、頭頂の一本線が特徴的な桃色の髪の少女。左を見ると、胸部から翼を広げるようにオーラを放つ、白と黒を基調に紫のタッチが施された荘厳な衣装(ドレス)を身に纏った、薄緑色の長髪の少女。

 

また(・・)一人でシミュレーターですか……?全く、先日皆で力を合わせるって言ったばかりじゃないですか」

 

「ミサキさん、大丈夫ですか?痛いところ、無いですか?」

 

 よく見知った、二人の仲間。ミサキはその姿に、驚愕を混じえて声を荒げる。

 

「サクラっ、シオリ……!どうして此処に!?これは私一人の戦いよ!」

 

 戸惑いの表情を隠せないミサキの肩に手を置いて、シオリはその顔をじっと、見合わせる。

 

「……すみません、ミサキさん。今から私、ほんのちょっとだけわがままになります」

 

「な、何……?」

 

 柔らかな、でも頑なな静かな圧。その雰囲気に、ミサキは気圧される。

 

「私は悔しい。貴女に頼られない事が。私は悲しい。貴女に置き去りにされる事が」

 

「……ッ!?」

 

 その言の葉が。まるで、過去の自分の姿を映すように。そう聞こえてならなかった。

 

「ミサキさんが一人で立ち向かう姿、とても立派です。格好良いと私は思います」

 

 強く想いを感じる、彼女の瞳。ミサキはその視線から、絶対に逃げることが叶わなかった。

 

「でも、行き過ぎたその姿はただただ傲慢……。一人で居るより、皆で戦える方が絶対に強い筈です。絶対に嬉しい筈です。絶対に楽しい……」

 

 あの時、皆で重ねた手。その温もりが、脳裏に鮮明に浮かび上がってくる。

 

「信じてください、私達は仲間だって。その方が、効率的(・・・)に皆を守る事が出来る、少なくとも私はそう思います。その為のDOLLS(ドールズ)、その為のチームA(わたしたち)ですよ?」

 

 ほんの少し悪戯じみた表情。その様子が、ミサキの強ばった顔に綻びを与えた。

 

「私……まだ未熟で、アイドルも戦いも不慣れです」

 

 サクラは敵を見据えたまま、ミサキにその言葉を紡ぐ。

 

「けれど、皆さんの、ミサキさんの隣に立ちたい。皆を守りたいって気持ちは、負けてません……!だから私は、此処に並び立つんです!」

 

 其処には、不安など一切無い信念を貫く少女の姿。少し前まで新入りで、いつも慌てふためいていた彼女が、もうこんなに立派に想いを伝えられるようになっていて。

 

 ……はは。なんか、一人でもっともっとって先走っていた私が馬鹿みたいだ。

 

「気負わないでくださいね?ミサキさんはそれでいいんです。ただ、ほんの少しだけ……私達と足並みを近付けて欲しい。そうすれば、私達はそれに合わせる事が出来ます。『一蓮托生』、それが私達でしょう?」

 

 随分と好き勝手言ってくれる。この私に足並みを合わせろ?気負うなって?……上等よ。

 

「しょうがないわね。付いてこれるかしら?」

 

「はい!私は……私達は、負けない!」

 

 不敵な笑みを浮かべたミサキに応えるように、サクラは自身のスキルを展開した。地面に広がった紋章を通じて、ミサキへと死を(ついば)(レイヴン)の如き力が宿っていく。

 

「グギャアァァァァァァァァァ!!!」

 

 楔が剥がれ、解き放たれたリーパー。けたたましい雄叫びを上げて、此方の方へと向かってくる。

 随分とおぞましい姿だ。さぞ凶悪な事だろう。けれど、先程まで心の隅にあった翳りはもう無い。今は、こんなにも想いの力が溢れてくる……。

 

 ……嗚呼。私達は。

 

「さあ、見せてください!私達の絆の力……チームAの、エースの力を!」

 

 シオリのエールに、ミサキは満面の笑みを浮かべて応える。

 

「そう、私こそが……!」

 

 翼が生えたように高く、高く飛び上がって、ミサキは青空を背に、その手に握られた光の剣を対峙するリーパーに振り降ろした。

 

 私達は、DOLLSなんだと。

 

「最強のドール!!!」

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