プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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「私達が死して尚存在する理由……なんだと思う?」

 

 薄ら雲が月の光を遮る東京の市街、「殺戮人形」の衣装(ドレス)を身に纏い佇む少女……毛先にウェーブがかった艶やかな金色の髪、光り煌くインペリアルトパーズの瞳、誰もが眼を惹く美麗な顔立ち……見て取れるような「美人」の彼女「レイナ」は、自身が率いるチームBのメンバーにふと、問いかけた。

 

「なんですか?薮から棒に」

 

 メンバーが一人……「覚醒人形」の衣装(ドレス)のナナミは、怪訝な表情の顎に手を当てて最年少ながらも少しでもと知的に振舞う。 

 

「いえ、少し気になっただけ」

 

 レイナの、漂う雲のような曖昧な問い。その問いに、頭に人差し指を当てながら幼げな容姿を「殺戮人形」の衣装(ドレス)で攻撃的に着飾ったヒヨは一つの想いとして素直に答えた。

 

「女の子としてもう一度生きるため?」

 

「言うまでもなく、私達の忌むべき敵を倒すため、でしょうかね」

 

 そして、また別の答えをナナミは口に出す。この場面、前者に乗っかるのは容易だがそうでは無い気がして彼女は答えて。その二つの考え……レイナの求めていた答えが、両方(・・)ともこの場に揃った。

 

「そう。どちらも正解だと私は思うわ。ごめんなさい、変な事を聞いて。さ、行きましょう?」

 

 レイナは満足げに頷くと、笑みを一瞬で戦う為の表情に変えた。チームリーダーの合図を皮切りに、ヒヨはテアトルを展開し始める。

 

「ヒヨ、行くよ!」

 

「ま、やりましょうか」

 

「さあ、美しく無いものを狩りに」

 

 ああ、今日もそれが始まる。私達の存在意義、求める為に殺戮の闇へと身を投げて――

 

――時刻は昼下がり。場所は中庭。洋風の白いテーブルを中心として二人は椅子に腰掛ていた。レイナとシオリ、アッサムティーの芳醇な香りが包み込む二人きりのビューティフル・スペース。

 

「ねぇ、シオリ。貴女は、DOLLS(わたしたち)が美しくないと思ったことはあるかしら?」

 

「……あら、どうしたんですか?レイナさん。らしくもない質問で」

 

「貴女に、だから聞きたいの。見たく無い物を見ず生きるのは幸せな事だわ。けれど、私達にそれはきっと許されない。だから、貴女にだから聞きたいの」

 

「……本気でしょうか?」

 

「勿論よ。素直なのが美徳だから」

 

「まあ……。例えるなら……そう。私達は、飾られる場所を無くした惨めな人形。記憶を無くして、心を手放して、目を背けて、罪を背負って生まれてきた存在……ふふ」

 

「……ふぅん?やっぱり。貴女で良かったわ」

 

「給仕の些細な戯言(たわごと)……何でもありませんよお嬢様。お役に立てたでしょうか?」

 

「ええ。とても参考になったわ。ふふふ……」

 

「それはよかったです。うふふふふ……」

 

「あっははははは……」

 

「あははははは……!」

 

 存在の意義に迷える人形。美と歪、其の狭間で彼女は天秤のように揺れ動く――

 

――Border line――

 

――「どっせゃああああ!!」

 

 紫色の呪具のような槌を思いっきり振るい、周りのピグマリオンを散らしていくナナミ。一撃の威力は申し分無い。けれど、この場は些か不利……?

 

 ちぃっ……!次から次へと……数が!!

 

「無理です!!」

 

 手一杯のナナミに、襲いかかる口だけのピグマリオン「イーター」。その大きくかっ開いた口に鋭い閃光が放たれて、一瞬で敵は消滅する。

 

 ズッ、ガガガガガン……焦る最中、リズミカルに音が鳴ると周囲を一斉に静音が包む。

 

 気が付けば背後にはレイナが降り立ち、水色に煌く水晶で造られたかのような二振りの銃「アルテミス」を構えて佇んでいた。月の女神を冠する透りにまるで芸術の一品であるようなそれは、彼女が手にする事でより一層輝いて映える。

 

「あら、随分弱気ね?けれど素直なのは良い事だわ」

 

「チームワークですよ、作戦的です!」

 

 不敵に静かに笑うレイナ、ナナミも頬を若干引き攣らせつつも広角を歪めて笑い返す。恐らく弱点への躊躇無き連打……!それを寸分の狂い無く緻密な射撃で……?体幹力バツグンのレイナさんだからこそ出来る芸当……ちっ、うちのリーダーは化物ですか!?

 

 心強くもあり、恐ろしくもある。ともかくは、この人が仲間である事を何よりの幸運と理解した方がいいだろう。

 

 ほんの僅かな、束の間の夜の無音。テアトルに包まれた一帯を、しかし直ぐにざわついた空気がそれを壊す為に現れる。

 

「さあ、フィナーレよ。杜撰なハムアクターのお出ましね」

 

 レイナが呟くと、ナナミは目の前に巨大な質量反応を確認する。えっ、この大きさは……!?

 

 闇から出てきたのは、まるで巨大な岩。聳え立つ威圧感、巨大な胴体に大きなアギト。見るからにそれは……ファンタジーの中にだけ登場していい西洋龍。データベースに記録され、付けられた月並みなピグマリオンネームは「ドラゴン」。

 

 薄ら雲はとうに過ぎて、空に燦然と輝くはほんの僅かに欠けた満ちかけの月。

 

「明日の月はきっと――美しいでしょうね」

 

 アルテミスを構え優雅に笑みを浮かべつつ、レイナは敵に耽美な殺害予告を送った――

 

――給仕とお嬢様の茶会に、紛れ込んだ庭師。お茶を出された庭師にもまた、お嬢様は意地悪な問いを出す。

 

「ねえ、庭師さん(マスター)。DOLLSとしての私達と人形としての私達。どちが本物か……貴方は分かるかしら?」

 

「レイナさん」

 

「シオリ、これは何れ向き合ってもらう答えだわ。今、此処に居る私達。さて、それは本物かしら?本当に、真実なのかしら……」

 

 レイナは一口、アッサムティーで口を潤す。

 

「DOLLSとしての私達か、人形としての私達か……或いは、そのどちらでもない(・・・・・・・・・)のかしら……?ねえ。貴方の口から、その答えは聞きたいの」――

 

――

 

 ドラゴンが首を引き、口に赤き灼熱を渦巻かせる。

 

「ッ、ブレス!!」

 

 次に何が来るか分かる。ナナミはその場から退避、しかしレイナは動かない。

 

 ちょっ、レイナさん……!?

 

「ヴゥゥゥルオオォォォォォ!!」

 

 直後、口から吐き出される周囲一帯を焼く煉獄の焔。そのマグマの中に、取り残されるレイナ……焔が過ぎさって、彼女は無傷。

 

 両の手のアルテミスを前方に構え、その場に立っていた。焔の渦、その丁度中心……「台風の目」を捉え、的確に打ち抜いてその場に憚っていた。

 

レイナはアルテミスをナナミの方へと放り投げると、その右手にフィールで織り成した光の剣を造り、それを日本刀を構えるように目前のドラゴンに向けた。足を縦に揃え、その姿勢……さながら、武士。

 

「ナナミ、手筈をお願い。……さあ、来なさいな。私と違って、美しくないモノよ」

 

 ドラゴンが巨大な上体を起こし、大きく爪を振り上げた。勢いを乗せた、前進をしながらの振り降ろし。余りにも大きなその一撃は当たればひとたまりも無いだろう。

 

「グアアアアアアアッッッ!!!」

 

 ……だが、レイナが待ち望んでいたのはその一撃だった。

 

 山が降るかのような物量。その波が地に降り立つ頃には。ドラゴンを置き去りにして、レイナはその向こう側へと「透り抜けて」居た。……抜き胴。完成された足運びから来る、瞬間移動にも錯覚する魔法染みた歩法。

 

 なんて綺麗すぎる体躯……!?レイナさんのバランス力が圧倒的なのは知っていましたが、あそこまで行くと本当に化物の領域……!今、私は何を見た?視界が幻でも見たんじゃないかって程の!!

 

「ヒヨ、お願い。ナナミ、ガーデンコールよ」

 

『うん、決めるよ!!』

 

「ッ!……了解!!」

 

 レイナの指示を元に、テアトルを展開していたヒヨと後方で待機していたナナミが動き出す。ヒヨがドラゴンに対して繰り出したのは、ヒヨの小さな体に溜め込んだ、ありったけを込めた溢れる衝撃。敵の外側では無く、内側に響く鼓動。

 

「グヴォォッ!?」

 

 ドラゴン、ブレイク。先程まで威圧感を放っていた巨大な身体が、地にひれ伏して最早見る影も無い。水揚げされたマグロにも満たない、まな板の上の鯉。

 

「感情の極致、迸れ!!」

 

 ナナミが準備していた、テアトルで編まれた想いの槍。それを、感情をぶつけるようにドラゴンに思いっきり打ち付ける。

 

 巨大な肉体に槍が楔を打ち、まるで目打ちをされたウナギのように無防備に。

 

 トッ、レイナがドラゴンの上に飛び乗った。場所は頭蓋の上へ。そして今度、両の手に握るのは……白いボディの、長銃。

 

 傍から見れば、何の変哲も無い長銃かもしれない。しかし、ナナミはそれが何なのか知っていた。

 

「あれは……っ、ファクトリーが躍起になって開発していた秘蔵の設計図「インパクトライフル」……!?完成していたんですか!??」

 

「弘法、故に筆を選ぶ。戦いは勝つべくして勝つ。美しいでしょ?」

 

 ズガンッ、ズガンッ!試し打ちの二発。重い衝撃がドラゴンの硬い皮膚へとねじ込まれた。手に残る確かな威力を実感し、レイナは目を細めて真下のドラゴンを嘲笑った。

 

「今の私は、闇の狩人」

 

 ズガンッ!ズガンッ!ズガンッ!ズガンッ!人類の敵に容赦など要らない。憎しみが込められたとも観える射撃の連打、その姿がどう他人にどう観えようと間違いでは無いと納得して撃ちまくった。

 

「全ての敵を屠り尽くすまでは、止まる事無き殺戮人形!!」

 

 ズガガガガガガガガガガガガガン!!!無数の弾雨をドラゴンの頭蓋に打ち付けた。

 トッ。当たり前に事切れたドラゴンの頭部からアスファルトへと降り立ち、ライフルを一丁。両の手で、構える。

 

「さようなら」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 最後の一撃。介錯を受け、ドラゴンは黒い霧となって深い夜の闇へと消えて逝った。

 

「ありがとう、ナナミ、ヒヨ。perfectな戦いだったわ。お疲れ様」

 

 吹き散る暗雲を厭わず優雅に座するレイナ。月に照らされた彼女の姿の何処にも傷は見えない。ナナミは、改めて彼女の持つカリスマ性というのを思い知った。

 

『ナナミちゃん、レイナちゃん、お疲れ様ーー!』

 

「やれやれ、本当にこの人はどれだけ完璧超人なんだか……お疲れ様です」

 

 レイナは空を見上げた。東京の夜、星が綺麗に見える訳じゃ無い。けれど、見上げればいつだってそれは其処にある。

 

 どちらも本物のレイナ達だ。だって、僕にはどっちも本物なんだから。

 

 存在の証明……そんなちっぽけな事で悩んでいたなんて。ふふ、其処に在るなら構わないじゃない。境界線なんて関係無い。ええ、マスター……今の私は。

 

「とても美しいわ」

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