プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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あめあめふれふれ

 都内某所、撮影スタジオビル一階エントランス。

 

 フロア内、撮影を終えた私服姿のサクラとシオリは二人して顔を見合わせていた。

 

「雨と風、凄いですねぇ……」

 

「台風ですからね……」

 

 ガラスのドア越しに分かる、建物の外側を吹き荒れる暴風雨。予約していたハズの事務所への送迎車は渋滞により未だ到着していない。ロビーに備え付けられた液晶テレビからはニュース番組による現地のリポーターの必死な声が聞こえる。

 

『えー!ご覧のとおり、街中は大型台風により交通の便に大きな支障が出ています!駅前の椰子の木も、今にも倒れそうな程に揺れています!!』

 

 時刻、夕方四時。まだ明るい筈が、外は真っ暗。このままでは、当分帰れそうに無い。

 

「とりあえず、ミサキさんに電話しておきますね」

 

 サクラがスマートフォンを取り出して、電話帳から「ミサキ」の名前を取り出す。トゥルル、トゥルル……4コール程で電話が繋がった。

 

『もしもし、サクラ。そっち、大丈夫なの?』

 

「あ、ミサキさん……その、お迎えの車が渋滞で遅れてるみたいで……このままじゃ、帰れないかも、です」

 

『そう、なら迎えに行くわ。待ってなさい、30分もあれば着く筈よ』

 

 プツッ。ツー。ツーと其処でミサキとの電話が潔く途絶えた。

 

「ミサキさん、なんて?」

 

「あ、あの、迎えに来てくれるって……でも」

 

『あっ!風で車が一台横転しました!あっ、椰子の木に当たって……』

 

 ググギャン!画面の端でえげつない音が鳴り響いた。その光景に、二人は再度顔を見合わせる。

 

「……大丈夫なんでしょうか?」

 

「さぁ……?」──

 

──ドールハウスの玄関にて、いつも通りの凛々しい私服姿に青いポニーテールを揺らして、しっかりと念入りにスニーカーの紐を結ぶミサキ。

 

「ねえ、ミサキちゃん。本当に行くの?」

 

「仲間が困っているのなら助けるべきです。少なくとも私はそうします」

 

 マスターの問いかけにミサキは断固たる意思の表情で返す。外がどれだけ壮絶であろうとも、決意は揺るがない。

 

「べーつに、今行かなくても良いんじゃないですか?どうせその内送迎車も着くっしょ。迂闊に外に出るとあぶねっすよ」

 

 支度中のミサキに広袖姿のヤマダが声をかけた。ヤマダはヤマダなりにミサキの心配をしているようだ。だが、ミサキはそれを突っぱねる。

 

「その迎えの車よりも私の方が早いと言っているの。それで一分一秒でも彼女達の安心が買えるなら安いものだわ。ああ、ヤマダも安心して。私は大丈夫だから……ですよね、マスター」

 

 ミサキは何故か優しげな表情でマスターの顔を見やる。えっ、こっち?

 

「あ、うん……」

 

「はいはい、ヤマダが悪ぅございましたー。ま、さっさと行くといいっす。泣きっ面で帰ってきたら存分にあやしてあげますよ。おーよちよちって」

 

「それは屈辱ね。その時を楽しみにしてるわ」

 

 微笑で素っ気の無いやり取りを終えるとミサキは右手に竹刀、左手に和傘を持ってマスターにポリエステル製の傘を三つ、さも当然のように渡した。

 

「さ、行きましょう」

 

「あ、僕も行くんだね?うん、そうだよね」

 

 流石に台風の中彼女を一人で行かせる訳にも行かないよなぁと直ぐに納得し、でもまあ頼られている?のだから悪い気はしないなぁと頷いた──

 

──「ねえ、やっぱり無理が無いかな?傘あんまり意味無いよ??」

 

「みたいですね。マスター、私の傘を預けておきます。先陣を切るならその方が効率的です」

 

 雨が風に煽られて街中を打ち付けていく。傘をさしていても、横殴りの水滴が余裕でボディに打ち込んでくる……ミサキは先導をする為にと、和傘を閉じてマスターに預けた。

 

「え、でもそれじゃびしょびしょになっちゃう……」

 

 と、マスターが言いかけた時。雨粒と一緒に前方から道路を転がって何かが跳ねた……。物凄い勢いで迫ってきて目前に現れると、1メートルはあると認識出来たそれは、まごう事なき「看板」だ。

 

 あ、死んだ。

 

(かぁ)ッ!」

 

 マスターが死を意識した刹那。ミサキが持っていた竹刀で、その看板をアスファルトに叩き落とした。

 

「こういう事もあるみたいなので。私の側を離れないでくださいね」

 

「う、うん……頼りにしてるね……」

 

 すまし顔で此方の無事を確認すると、再び進みだすとても頼りになる彼女。男のくせに只の傘持ちの自分が申し訳無い……と思っていた最中、ドールハウスから預かっていた小型インカムがポケットの中で音を立てた。嫌な予感しか感じなくとも、耳に装着して応答する。

 

「もしもし!?」

 

『マスター!聞こえますか?市街地にピグマリオンの反応を確認!その辺りのようです……3体!』

 

「よりにもよってこんな時に……!?」

 

 3体。はぐれピグマリオンだろうか、数は少ないにしろ、今の状況では……!?テアトルもバトルドレスも、武器ですら!!

 

 焦っていると、直ぐ目の前。雨の中の虚空から、入れ歯のようなピグマリオン「イーター」が出現した。丁度、ミサキの真ん前……。いきなり過ぎるニアミス!?

 

「ミサキッ!?」

 

「邪魔ァ!」

 

 マスターの心配をよそにミサキは動揺する様子無く目前のイーターの顎をノータイムで蹴り上げると、浮いたイーターの頭頂に竹刀を振り下ろした。

 

(めぇん)ッッッ!!」

 

「ギャアッッッ!?」

 

 登場して直ぐ。まともに断末魔を述べることも許されず、まるで牙で挟むかのように蹴りと竹刀を喰らったイーターは砕け散って靄の中に消えていった。

 

「え……えぇ?」

 

 驚く暇も無く。マスターは背後の違和感に振り返る。巨大な手に四足が付いたようなピグマリオン「スラッパー」。その手が、此方を叩き潰そうとするかのように仰け反った。

 

 チィッ!

 

「ミサキちゃん、御免っ!」

 

 こういう時、特に躊躇せず足が回避行動を取る辺り、もう自分の感覚が大分麻痺しているのが分かる。しかし、慣れとはありがたいものだ……既に後退のステップを踏んでおり、取る行動はただ一つ。「ミサキに任せる」。

 

 まるでスイッチのようにミサキがマスターの位置と入れ替わると、その手に握りこんだのは竹刀では無く先程地面に叩き落とした看板。

 

小手(コテ)ェッッ!!」

 

 振り降ろされる叩き潰しを、逆にお好み焼きをひっくり返すかのように看板で地面から足元をすくい上げ押し返し、スラッパーは間抜けにもアスファルトに倒れ込んだ。

 

 ……うん。

 

 後一つ、反応があったピグマリオン……横から、人の耳を模したかのようなちょっとグロめのピグマリオン「リスナー」の溜めの行動が見えた。ミサキの居る方へ向いている。マスターは雨音に負けぬよう、大声で叫ぶ。

 

「来るよ、衝撃波!」

 

「マスター、奴の方へその傘を!」

 

「了解!」

 

 リスナーの放つ衝撃波を遮るように、ミサキの望み通りリスナーの方へと開いた傘を投げてやる。衝撃波が雨粒を波紋を広げるように吹き飛ばし、進路上に投げられた傘はいとも簡単にひしゃげて吹っ飛んだ。だが、その先に既にミサキは居ない。

 

 ほんの5秒程。マスターの手から和傘を受け取り、リスナーの背後へ。

 

(つき)ィッッ!!!」

 

 閉じた和傘の先端で、彼女は思いっきりリスナーを貫いた。

 

「~~~ッ!?」

 

 余程痛いのだろう。モリで突き刺された魚のように跳ね打つリスナーは、そのままその先へ──地面に倒れ込んでいたスラッパーの方まで勢いで持って行かれ、そしてスラッパーとまとめて和傘で串打ちにされる。

 

(シメ)ェッッッ!!!」

 

 最後。地面に放った竹刀を拾って、ミサキは和傘の柄を金槌で釘を打ち収めるようにぶっ叩いた。

 

 ずば抜けた空間把握能力。芯を捉えられた和傘が無残に砕け散り、貫かれ内部に深刻な衝撃を受け雨の中に霧散するピグマリオン二体。その間、僅か42秒。

 

「私の行く手を阻むな……ッ!」

 

 腹の其処から響くドス黒い声を呟きながら、雨をふんだんに吸った前髪を手で凪いでミサキは何事も無かったかのようにマスターの方を向く。

 

「お待たせしました。先へ進みましょう」

 

「あ、うん……」

 

 当然のように進み始めるミサキに、残った傘を一つ開いて着いて行くマスター。

 

 あの……言いたい事色々あるんだけれど……テアトルの展開も無しに、まともな武器も使わず、ドレスも無く、一方的にピグマリオンを殲滅する彼女。いやいや、知ってたけどさ。改めて実感した。最強すぎるでしょ……!?──

 

──「ミサキさん……っ、て、びしょびしょじゃないですか!?」

 

 サクラ達が待つビルまで無事?に辿り着いたマスターとミサキ。しかし、そこに着くまで殆ど傘をさしていなかったミサキの服は水分をめいっぱい吸っていた。

 

 が、ミサキは気にする様子など微塵もない。

 

「この程度なら大丈夫よ。活動に支障は無いわ」

 

「もう、そういう事じゃなくて……!まっててください、タオルを借りてきます!」

 

 シオリが怒るような表情を見せて、受付の方へと走っていく。

 

「……そんなに怒らなくても」

 

「それだけ心配なんだよ、ミサキちゃんがサクラちゃんとシオリを心配するようにさ。はい、そんな姿よりはマシだと思う。僕の方が濡れてないしね」

 

 少し眉を潜めるミサキの肩にマスターは自分の着ている上着を被せた。流石に年頃の少女がこの姿というのも可哀想だろう。タオルが来るまでの繋ぎではあるが。

 

「あ……ありがとうございます」

 

 俯くミサキ。雨に濡れて体調が優れないのだろうか?だとしたら大変だ。

 

「ん?顔が赤いけど……風邪とか引いてない!?」

 

「大丈夫ですっ、問題ありません!!」

 

 予想以上に声を張り上げるミサキ。元気なようでホッとする。

 

「それじゃ、帰ろうか。傘、二つしか無いけれど……って、あれ?」

 

 マスターがふとビルの外を見ると、其処には先程までの暗がりは無く、まだ落ちていない陽が斜めに射していた。

 

「台風、通り過ぎたんですかね……?」

 

 台風が予報通りの挙動をしないとはいえ、早すぎる通過。これは僥倖だろう。と思いはしたが……ミサキの表情が、どんどん曇りを見せていく。

 

「あ、あの……ごめんなさい、サクラ、マスター!私、また突っ走ちゃって……もう少し待てば、良かったものを……」

 

 落ち込んだ様子のミサキ。だが、それは違うと。サクラが、真剣な眼差しでミサキの両の手を握った。

 

「いえ!そんな事無いですよ!ミサキさんが来てくれて、凄く嬉しかったんです!」

 

 ミサキの肩に、ふわっと大きめのタオルがかけられる。シオリが笑顔を覗かせた。

 

「そうですよ?無茶のしすぎは駄目ですけれど、ミサキさんの事は信頼しているんですから。ありがとう、ね?優しいうちのエースさん」

 

 パァッ、と表情を明るくするミサキ。その笑顔が、とても嬉しそうで。

 

「二人とも……!」

 

「それじゃ、雨も上がった事だし帰ろうか!凄いんだよ、今日のミサキちゃんの武勇伝はね……」

 

「え?聞きたいです!」

 

「まあ、そんな事を……!」

 

「む、無我夢中だったのよ……!」

 

 台風一過の晴れの下。皆で笑って帰れる事が、とても楽しいと思う4人であった──

 

──とあるビルの屋上。ドールズの制服に身を包んで、空に戦銃「ヘルメス」を構える少女が一人。

 

「ユキさんの指した場所的中っすなぁ。台風が一撃で静まりましたぁ」

 

「台風さん、穏やかになりました。虫の居所が悪かったみたいです……これで、ご機嫌」

 

 ヤマダが銃を下ろすと、隣のユキが空を眺めて笑った。其処には、先程までの黒雲は無く晴れやかな空が。

 

「しっかしまあ。ピグマリオンの反応があるからって出てきたのに、あの人単体で片付けちまうとか。お陰で暇持て余しちゃいましたし……こいつぁおまけって事で。自然ならユキさんにお任せあれ、って感じですけどまさか本当に台風に感情があるわけ無いですし……無いっすよね?」

 

「……」

 

「ま、まあそういう事にしとくっす」

 

 ぼーっと、ただ空を眺めるユキ。少し怖くなったヤマダは、さらっとそれを流した。

 

「あ、そうそう。今日の件、ミサキさんには内緒でお願いしますよ。あのお人好しに貸しなんか作ったらどんな世話を焼かれるやら。ヤマダそういうの苦手なんで」

 

「ヤマダさん……ツン、デレですか?」

 

「ちがいますっての」

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