プロジェクト東京ドールズ 二次創作   作:キングオブコージ

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Just wanna hold your hands

「ふわぁ……っ」

 

 月が昇る、深い夜。まだ光と音が耐えぬ街中で眠たげな息を吐いて伸びをすると、会議が終わった後の黒いスーツ姿のマスターは自分のスマートフォンを開いた。ドールズの皆の待ち受けと共に表される、デジタルタイプクロック。午後12時を過ぎていて。

 

 ……大分遅くなったな。結構、久々かも。

 

 急げば終電に間に合うかな。あー、でも今から走るのはしんどい。……なんでこんなに遅くまで時間かけるかなー、もう。でも、皆の為だし。それだけ熱意を注いでもらえてるのか。悪い気はしないや……。ドールハウスまで、タクシーでも呼ぼうか?……タクシー、高いんだよなぁ。

 

 くたびれながら市街を歩き、とりあえずは駅までの方向を目指す彼。其処で、一つの明かりを見付けた。

 

『夏季限定!ビール300円キャンペーン!!!』

 

 街角の牛丼チェーン店に張り出された広告。魅力的な提案だ、最後に食事をしたのは夕方辺り。ふと、マスターは自分の胃袋をスーツ越しに撫でた。

 

 ……めっちゃお腹空いた。でも、終電が……その気になれば歩いて帰れるし?もう遅いしご飯も無いよな……ああ、飲みてぇ……。この感情は今だけのものだ……。

 

「い、一杯だけなら……」

 

 こんなに疲弊した日、仕事終わりに一杯やらずと帰れるか。そう思っていた時には、彼は小さな店舗の自動ドアへと手をかざしていた。

 

 明るい店内、空いているカウンターが並ぶ静寂な空間へと足を踏み入れる。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店員からかけられる声。ちらほら、人は居るようだ。皆忙しい事だ、こんな夜遅くまで……お疲れ様です。

 心の中でそう思うと、彼は席の一つへと腰を掛けた。……ふう。誰に気遣うでもない空間で一息をつく、その行為だけでとても安らぐ。どっと疲れが出てきた。どんどん出して楽になろう。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は後でよろしかったでしょうか?」

 

「あ、チーズ牛丼の大盛りを一つ。それと生中ください」

 

「かしこまりました」

 

 店員に最初から決めていた商品を頼むと、コップに水を注ごうとして……やめた。焦らず、慌てずのお預け。今の乾きを潤すのは、水ではダメなのだ。この乾きは、もっと崇高で、尊大な……そう、グンと冷えた「ビール(・・・)」で潤わさねば……!

 

 密かにほくそ笑み、心を高鳴らせるマスター。誰に問うでもなく理解した。普段少女に付き添っていて自重しているからこそ、一人だけの時間ではせめて羽根を伸ばしたい。いいだろう?仕事終わりの一杯。頑張っている自分へのご褒美だ……!

 

「いらっしゃいませー」

 

「へぇ、こんな時間でも営業しているなんて近頃の人間は勤勉だなぁ。忙しなさもまた強さの秘訣か」

 

 ……ん?

 

 マスターが聞いたことのある声に目を向けると、入口には銀髪で赤い瞳、おとぎ話の王子様のような服に身を包んだ、街中で見かけたらまず眼を惹くであろう少女の姿を見付けた。

 

 って、アイツは……!?

 

「おや?マスター。奇遇だね」

 

「デウス……!」

 

 瞳を合わせた二人は互いを視認した。あろう事か因縁の二人。ドールズを率いるマスターと、それに敵対したデウス。午夜の思わぬ待ち合わせ、息を飲んでその視線は対峙する──

 

──注文が終わり、隣合って座るマスターとデウス。マスターの手には既に冷えたジョッキが握られていた。

 

「っっっは~~~!!!この一杯で生きてるなぁ~~~……」

 

「そんな物の為に生きられるのかい?不可解な生き物だねキミは」

 

「例えだよ例え。それぐらい美味しいっていう表現さ。もっと優先するものは他にある」

 

 怪訝な様子で此方を覗うデウス。尚、彼女も此方を真似してビールを頼もうとしたが、見た目からして断られた。だって、どう見ても大人には見えないよな……。身分証も持ってないみたいだし。

 

「で、何でこんな所に居るの?」

 

 して。ドールズの敵であった彼女と何故こんな所で呑気に席を一緒にしているのか。別に平和ボケしている訳じゃない。今の彼女に戦う意思は無さそうだし、せめて理由を聞かなければならない。

 

 正直内面彼女がどう答えるか緊張物だったが、デウスはあっさりとその理由を述べた。

 

「単純に世間を知るためさ。『少女たちへの無理解は、お前を殺す』……そう言われてしまったからね。だから知ろうという訳だ、キミたちの事を」

 

「さいですか」

 

 深夜の牛丼屋は決して少女では無い……!と内心思いつつも、口には出さなかった。そんな理由で大人しくしていてもらえるならひとまずは儲け物だ。くくく、存分におっさんへの理解を深めるといい。

 

「お待たせしました。こちら、チーズ牛丼になります」

 

 気が付けばもう二人の目の前の上に置かれる、今腹の其処から求めている神器。それが、この場に並ぶ……。腹を満たすための白米、濃く味付けされた牛肉、そのポテンシャルを最大限に引き出す蕩けたチーズ……。

 

「いいじゃないか」

 

 気が付けば、言葉にしていた。まずはコップを手にする。注がれた水を口に含み、飲み込む。……まっさらな条件が整った。後は、いただく……!

 箸を握り、器に満たされたそれを口の中に放り込む。……美味い。チーズと牛肉がこんなに合うとは。最初に考えた人は天才じゃないだろうか。

 白米をかき込み、咀嚼。其処から、さらにビールを一口……おいおい、いつから此処は地球の裏側になった?まるでリオのカーニバルじゃねぇか……!!

 

 ふう、一息着いた彼は、ただ言葉を漏らした。

 

「最高だぜ……」

 

 美味い、早い、安い。これほどに最高な事があるだろうか?価格はとてもリーズナブルで、注文してからありつけるまでもあっという間、そして何より……「美味い」。これに尽きる。

 

 感嘆のマスターと牛丼をキョロキョロと見比べるデウスが、目を見開いて目前の自分のチーズ牛丼を注視する。

 

「……そんなに凄いのかい?このたった一つの(どんぶり)が?」

 

 怪訝な表情。ほう、知らないらしい、この小さな世界というヤツを。マスターは据わった眼で彼女の瞳を深く捉えた。

 

「なら試してみたらどうだい?それは雄弁にも答えてくれる筈だ」

 

 密かに戸惑いつつもデウスもまた箸を握り(ちゃんと持てるんだ)、丼の表層……チーズと絡んだ牛肉を一口、いただいた。

 

 ゆっくり、丹念に咀嚼する彼女……喉を鳴らした時には、刹那。その表情は驚愕に変化(かわ)っている。

 

Artefact(アーティファクト)……!?素晴らしい物だよこれは……!」

 

「でしょう?」

 

 目配せをするデウスとマスター。後はもうお互い、一心不乱にそれを食らう。

 

 肉を食らう。米を食らう。合間に飲み物を挟む……心を落ち着かせて、もう一度。たかだかそれだけの事が、こんなにも幸せである事。気付けるだろうか……幸福というのは、何処にでも転がっているものである。

 

「成る程……考えを改める必要があるようだね。確かに無理解程、怖い物は無い……!」

 

「分かってもらえて嬉しいよ。僕たちが築き上げてきた物は、こんなにも奇跡に満ち溢れているという事を」──

 

──「──だから言ってやったんだ。「キミのベンヴェーにはウインカーを付けて貰えなかったのかい。可哀想に、リコールにだすといい」……てね」

 

「あっはは!」

 

 すっかり意気投合していた二人は、食事の後に一息付きながら談笑へと洒落込んでいた。デウスが繰り出す奇妙な小話に頷いていると、もう時間が結構経つ事に気が付く。

 

「ああ……もう結構な時間だ。そろそろ帰らなきゃ」

 

「おや、時間が経つのは早いね。いや、キミとのお話が楽しかったからかな?」

 

「はは、そりゃどうも」

 

 それぞれお会計をして(デウスはちゃんとお金を持っていた)店を出ると、暗がりな街中が広がる。……さて、帰るか。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

 デウスが此方の方へと声をかける。一体どうしたのだろう。

 

「もし、此処でボクが手を伸ばしたら。心優しいマスターは手を取ってくれるのかな?」

 

「……それって、どういう」

 

 問いただすより先に。デウスは、此方へと手を伸ばした。

 

「ボクと一緒に来ないか?マスター。キミになら、この手を差し出してもいいかもしれない」

 

「……。」

 

「お迎えにあがりましたわ、マイマスター」

 

 デウスがそう言うと同時に、直ぐに横槍が入った。マスターに声を掛けたのは……私服姿のレイナ。隣にはシオリが佇んでいる。こんな真夜中に想定外の二人だった。

 

「二人共……っ!?なんで此処に!??」

 

「マスターのお帰りがとても遅かったので。さあ、帰りましょう?私達と一緒に」

 

 シオリが優しくほほ笑みかけてくれる。が、何処か……笑ってないような気がして怖い。なんだろう、このゾクっとする感覚。

 

 二人の登場に、軽く頭を抱えるデウス。忌々しく言葉を吐いた。

 

「まったく、とんだ闖入者だよキミたちは……」

 

「それはアナタの事ね。申し訳無いけれど、お引取り願えるかしら?「No entry(お呼びでない)」わ」

 

「断ると言ったら……?キミたちに僕が退けられるかな?脆弱な紛い物風情で……」

 

 鼻で笑うと、デウスから溢れ出る憤怒のフィール。近くに居るからこそ、より一層深く感じる。相変わらずなんてフィール量……!?こんな場所でゴーレムを呼ぶつもりか!!

 

「あら、それはどうでしょうか?今の私達は……」

 

「あの時よりも少し──かなり違うわ」

 

 が、対抗するように。レイナとシオリの身体が眩い程のフィールに包まれる。自信に満ち溢れた、余裕の表情。マスターと彼女達で紡いできた、絆の結晶。

 

 そして、さらに牛丼チェーン店二階のさらに上、屋上。建物のへりに今にも乗り越えんと足をかける二人の人物が。

 

 一人、低く腰を落として脇に構え納刀された日本刀を、直様にでも抜ける形で構えるミサキ。鞘越しに刀から青いフィールが滲み溢れる。今か今かと必殺の一撃を待ち侘びた。

 

「合図で合わせなさい。奴を絶やすわ」

 

 一人、肩に黒猫を模した巨槌を乗っけて振り下ろす準備を終えたヤマダ。全身に赤いフィールが迸る。表情に狂気を漲らせて頷いた。

 

「オーライ、ミサキさぁーーー!!」

 

 地上。気配を感じ取ったデウスは、歯を食いしばって舌打ちをする。

 

「チッ……」

 

「いっそこうしましょうか。勝った方がホンモノ、わかり易いでしょう。Shall We Dance?」

 

 誘うように、手を差し出すようにレイナがデウスに手を開く。意趣返し……あからさまな挑発。デウスは後ろにステップを踏み、拒否をした。刹那、デウスがさっきまで居た場所に斬撃と衝撃が刻み込まれる。その場所にミサキとヤマダが降ってきたのだ。

 

 気が付かなきゃ終わっていた……綺麗な顔をして悪どい……!やるじゃあないか!

 

「食えないね……!分が悪い!!マスター、また会おう!今日はお休みだ!」

 

 笑顔のままデウスは闇の中へと消えていく。……デウス、一体君は……。

 

 場には残された五人。レイナが手を払って呟く。

 

「あら、つれないわね……無事で何よりよ、マスター」

 

「ああ、うん。ありがとう。よく此処が分かったわね」

 

「EsGの観測結果です。マスターの希に出す特徴的なフィールだそうで、なんでしょうね?」

 

「あ、ははは……なんだろうね」

 

 シオリの疑問にぎこちなく笑うマスター。……心当たりが微妙にある。なんだろう、オヤジフィールかなぁ……?

 

 誤魔化していると、ギュッと。近付いてきたシオリが、両の手でマスターの右手を握り締めた。

 

「何処にも行っちゃダメですよ?マスターは、私達のマスターなんですから」

 

 頬を膨らませて、悪戯めいたけれど瞳に隠しきれない真剣な想いが見えて。マスターは、手を優しく、しっかりと握り返す。

 

「うん……ごめん、心配かけたね」

 

「さあ、帰りましょうか。軽く運動したのでカップ麺が食べたくなりました」

 

「おっ、良いすなー。ヤマダもそれ乗りました」

 

「もうっ、お二人ったら……!こんな夜中に食べたら太りますよ?」

 

「あら?適度なストレス解消は美しさの秘訣でもあるのよ?」

 

「ははは……」

 

 しんみりとした空気が、直ぐに賑やかに。皆の優しさが伝わってきてつい笑顔がこぼれてしまう。幸せだなぁ……。

 

 シオリに手を引かれながら皆と帰路を行くマスター。ドールハウスまではちょっと遠いけれど、でも。皆と一緒ならとても楽しい。

 この温もりを確かに感じつつ、これからも皆を幸せに導いていかなければならない。自分の背負った使命に、もっと深く覚悟する夜を彼は過ごした。

 

「ところで、デウスさんとはどんなお話を?」

 

「ああ、ウインカーを付けない不躾なベンヴェーの話とか」

 

「「「「……ベンヴェー???」」」」

 

 あれ、みんな知らないのかな。あのドイツの車メーカー。結構有名だと思うんだけれど……。

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