実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
9月25日によう実9巻、10月5日に禁書3期放送開始
秋が待ちきれないですね
今思ったら禁書ってやべえヒロインしかいない
一之瀬と別れてDクラスの連中に合流した俺はデッキで下船待機をしていた。どうやらAクラスから順番に下船するようだ。
俺が汗を拭ってるとようやく堀北も合流してきた。髪が乱れてるけど昼寝でもしてたのだろうか。……いや、違う。寒気を感じてるのか腕をさすってる。夏風邪でも引いたのか。
「今まで何してたの?」
腕をさすりながら堀北が聞いてきた。
「部屋で博士と一緒にアニメを見てた」
「本当にアニメが好きなのね」
呆れた様子で堀北が言う。
「堀北は何してたんだ?」
「部屋で読書」
「お互いまったくクルージングの旅を満喫できてないようだな」
「そうね」
まあ、船上ではしゃぐ堀北なんて見たくないけどね。一之瀬や櫛田と違って堀北にそういうのは似合わないだろうし。
「ねえ。妙に慎重というか警戒していない? 携帯を没収するなんてテストの時にもやってないことだわ。余計な私物の持ち込みも禁止することも」
「確かにな。……つまりそういうことなんじゃないか?」
堀北も薄々気づいてるだろう。
それより堀北の体調が気になる。本人に直接聞いてみるとするか。
「堀北。体調悪いのか?」
「え」
「寒気を感じてるんだろ。夏風邪か?」
俺が問うと、堀北は驚いたような表情をした。
ばれないと思っていたのだろうか。
「……大したことないわ。微熱よ」
「薬は飲んだのか?」
「ええ。医務室で貰ってきたわ」
薬は飲んでるのか。なら大丈夫か。
一安心した俺はジャージの上着を脱ぎ、堀北に差し出した。
「……なに?」
「寒気が収まらないんだろ。なら着てろよ」
「で、でも……」
「これ以上悪化したら堀北だって困るだろ」
俺がそう言うと、堀北は黙って上着を受け取った。
そしてジャージに身を包む。サイズが大きいので重ね着してもきつく感じることはないだろう。
「……ありがとう」
ぶっきらぼうにお礼を言う堀北。
顔が赤くなっているのは、風邪なのか照れてるせいなのかわからない。
やがてDクラスの番がやってきて、厳重な検査を受けた後タラップを降りた。
「今からDクラスの点呼を行う。名前を呼ばれた者はしっかりと返事をするように」
同時に整列するよう指示をされ、全クラス一斉に出席の確認を始めた。
ちなみに茶柱先生は生徒と同じジャージに身を包んでいる。コスプレ感が否めない。
程なくしてAクラスの担任を担当している真嶋先生が前へと出てきた。
「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった生徒がいることは残念でならない」
病欠か。さて参加できなかったことが吉と出るか凶と出るか。
しかし先生方、随分険しい表情をしているな。星之宮先生はいつも通りだけど。
先生たちの様子を伺ってると、作業着に身を包んだ大人たちが、テントや机、パソコンを設置し始めているのが見えた。
他の生徒たちもそれに気づき、ざわめきだした。
「ではこれより―――――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
やっぱりな。しかしあんな炎天下の場所にパソコンを置いて大丈夫なのだろうか。
俺がどうでもいい心配をしていると、更に生徒たちがざわめきだす。
愚かな奴らだ。まさか本当にバカンス旅行を楽しめると思っていたのか。
……やべぇ。心の声まで赤司の口調になってる……。
「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了だ。君たちはこれから1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを説明しておく」
「実際にある研修なのか。国立の学校なのにオリジナル性がないな……」
俺がそう呟くと先生方に睨まれてしまった。
やべえ、思ったより大きな声で呟いてたらしい。
「馬鹿」
隣に立つ松下に軽く叩かれる。
改めて先生方を見ると、星之宮先生が笑いを堪えてるのがわかった。何がそんなに面白かったのだろうか。
「説明を再開する。試験中の乗船は正当な理由無く認められない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、君たち自身で考える必要がある。スタート時点で、各クラスにテントを2つ、懐中電灯を2つ、マッチを1箱支給する。また、日焼け止めは無制限、歯ブラシに関しては各生徒に1つずつ配布することとする。特例で女子生徒のみ生理用品は無制限で許可している。各自担任に願い出るように。以上だ」
以上ということは、それ以外のものは支給されないのだろうか。シャンプーや洗顔はどうすればいいんだろう。
真嶋先生の説明が終わると、案の定池が騒ぎ出したが、すぐに先生方に論破された。
「先生。今は夏休みのはずです。そして我々は旅行という名目で連れてこられました。企業研修ではこんな騙し討ちのような真似はしないと思いますが」
不服を覚えたらしい他クラスの生徒が、そんな風に立てついた。
「その点に関しては間違った認識ではない。不平不満が出るのは当然だ」
認識が甘いな。真嶋先生は甘いことを言っているが、この学校で生きていくなら騙された方が悪いと思うようにならないと生き残れないぞ。
「だが安心していい。この試験は過酷な生活を強いるものではない。今からの1週間、君たちは海で泳ぐのもバーベキューをするのもいいだろう。この特別試験のテーマは『自由』だ」
「え? それって試験って言えるのか? ちょっと意味がわからなくなってきた……」
池が混乱するのもわかる。試験なのに遊ぶのは自由。俺たち生徒に疑問点ばかりが増えていく。
「この無人島における特別試験では大前提として、試験専用のクラスポイントを各クラスに300ポイント支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで特別試験を楽しむことも可能だ。そのためのマニュアルも用意してある」
真嶋先生は別の教師から冊子を受け取った。
「このマニュアルにポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活必需品や娯楽品など無数に揃えている」
「つまりその300ポイントで何でも貰えるってことですか?」
「そうだ。もちろん計画的に使う必要はあるが、堅実なプランを立てれば無理なく1週間過ごせるようになっている」
堅実なプランか。つーか説明長いな……。マニュアルに書いてあるなら省略してくれてもいいんだけど。
「でも先生。特別試験って言うんだから難しい何かがあるんでしょう?」
池が通販番組の出演者みたいな口調で質問する。
「難しいものは何もない。2学期以降への悪影響もない。保証しよう」
「じゃあ本当に、1週間遊ぶだけでもオッケーだと?」
「そうだ。全てお前たちの自由だ。もちろん集団生活を送る上で必要最低限のルールは存在するがな」
さっきからやたら自由を連呼するな。某水泳アニメが見たくなっちゃうからやめてくれ。
俺が心の中で愚痴ってると真嶋先生が続けて説明する。
「この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する」
真嶋先生の発した一言により、生徒たちに今日一番の衝撃が走る。
今回の試験は今までの学力テストとは違う。学力ではなく我慢を競う戦いだ。
……うん、我慢を競う戦いでもDクラスが一番不利なのは変わらないな。
「マニュアルを各クラス1冊ずつ配布する。紛失の際は再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように。また、特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした生徒がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与えるルールになっている。今回の旅行の欠席者がAクラスに1人いる。なのでAクラスは270ポイントからのスタートとする」
真嶋先生の説明にAクラスの生徒たちは動揺した様子は見せなかった。
他クラスの生徒たちは30ポイント縮まったことに驚きの様子を見せる。
真嶋先生の話が終わりを告げると同時に解散宣言がなされた。俺たちはすぐに茶柱先生の元へ集まった。
クラスポイントを大量に増やすチャンスが来たことに、クラスメイトの大半が歓喜している。
「今からお前たち全員に腕時計を配布する。試験終了後まで腕時計を許可なく外すことは認められていないので必ず身につけておくように。この腕時計は時刻の確認だけではなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPS機能も備わっている。また万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載されている。緊急時には迷わずそのボタンを押すように」
茶柱先生の近くに支給品が次々に積み上げられていく。
なんだこのハイテク腕時計は。これで麻酔銃が搭載されていれば完璧じゃないか。
俺が腕時計を装着していると、質問のスペシャリスト池が茶柱先生へいつものように質問をしていた。
池の質問により腕時計が完全防水機能であることがわかった。故障した場合は代替品と交換するとのことだ。
「茶柱先生。今からこの島で1週間生活するとのことですが、ポイントを使わない限り全て僕たちで何とかしなければならないということでしょうか」
池に続いて、平田が質問する。
「そうだ。学校は一切関与しない。食料も水も、お前たちで用意して貰う。足りないテントもそうだ。解決方法を考えるのも試験のうちだ」
茶柱先生の回答に戸惑いの色を見せる生徒たち。特に女子の方は非常に困惑している。
「大丈夫だって。食料は魚捕まえたり、果物を探せばいいじゃん。最悪、体調不良になっても我慢我慢」
300ポイントをゲットしたい池は、あっけらかんとそう言った。
池、お前に1週間我慢できる忍耐力はないぞ……。
「残念だが池、配布されたマニュアルを開け。お前の目論見通りにいくとは限らんぞ」
平田は茶柱先生の指示に従い、受け取ったマニュアルを開く。
「最後のページにマイナス査定の項目が記載してある。これはこの特別試験を象徴する非常に重要な情報になる。生かすも殺すもお前たち次第だ」
俺は平田の隣に移動して、マニュアルを覗きこもうとすると、平田が俺に見やすいようにマニュアルの角度を変えてくれた。……やだ、優しい。
平田と一緒に最終ページを見る。そのページには『以下に該当するものは、定められたペナルティを科す』と記載があった。
『著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者がいる場合はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアになる』『環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント』『毎日午前8時、午後8時に行う点呼に不在の場合。1人につきマイナス5ポイント』『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損を行なった場合、生徒の所属するクラスは即失格、対象者のプライベートポイント全没収』と合計4つの事項が記載されていた。
なるほど。しかし4つ目の事項はどう確認するんだ。後で監視カメラがあるか確認しておいた方がいいかもな。
「池。お前が無茶をするのは勝手だが、もし10人の生徒が体調不良に陥ったら、それで我慢と努力は全て泡となって消える。強行するときはそれを覚悟しておくんだな」
我慢で乗り切る手を封じられ、池たち一部の生徒が困惑する。
いかに効率よくポイントを使い、節約して1週間を乗り切るかが重要だ。
「つまりさ、ある程度のポイント使用は仕方ないってことなんじゃない?」
篠原が意見を述べる。
「最初から妥協する戦い方は反対だぜ。やれるところまで我慢するべきだろ」
池がそう反論する。
俺を挟んで言い争うのはやめてくれないだろうか。挟むなら平田だけにしてくれ。
「界外くんはどう思う?」
平田に聞かれてしまった。なんで俺に聞くんだよ。マニュアル見るために平田の隣に来たのは失敗だったな。
平田が俺に意見を求めたせいで、クラス中の視線が俺に集中する。
「とりあえず池は大事なことを忘れてる」
「大事なことって何だよ?」
池が俺に確認してくる。
「俺たちに我慢なんて出来るわけないだろ。俺たちはDクラスだぞ」
俺は視線を気にしつつ、言い放った。
「た、確かに……」
「説得力ある回答と思ってしまう自分が悲しい……」
「早く学校に戻ってアニメが見たいでござる……」
俺の発した言葉に同調する声が次々に上がる。
博士、俺も同じだよ。でも頑張るしかないんだよ。
「まあ、効率よくポイントを使って、節約して過ごすのがベストじゃないか」
俺の答えに池も渋々納得してくれたようだ。篠原には「よく言った」と背中を叩かれた。
再度マニュアルに目を通すと、購入できるアイテムの幅が広いことがわかった。
テントや調理器具などのサバイバルに必要な道具、デジカメや無線機などの機器、浮輪や花火などの娯楽品、食料や水も記載されている。
ポイントを使用したい場合は都度担任に申し出ることで、誰でも申請可能らしい。
「茶柱先生、答えられることであれば教えて下さい。仮に300ポイント全てを使用後にリタイアする者が現れた場合にはどうなるんでしょうか」
いつの間にか俺の後ろにいた堀北が挙手し、茶柱先生に質問をする。
「その場合、リタイアする人間が増えるだけで、ポイントは0から変動はしない」
「つまりこの試験でマイナスに陥ることはない、ということですね?」
堀北の問いに茶柱先生が肯定する。そういえば真嶋先生も試験による悪影響はないと言っていたな。茶柱先生が話を続ける。
「支給テントは1つが10人用の大きなものになる。重量が15キロ近いから運ぶ際は気をつけるように。また、支給品の破損や紛失に関しては学校側は一切手助けしない。新しいテントが必要な場合はポイントを消費することを覚えておけ」
「僕からもよろしいですか先生。点呼はどこで行うんですか?」
「担任は各クラスと共に試験終了まで行動を共にする決まりになっている。お前たちでベースキャンプを決めたら報告するように。私はそこで拠点を構え、点呼はそこで行う決まりだ。ちなみに正当な理由無くベースキャンプの変更はできないからよく考えるように。これらは他クラスも同様の条件になる」
茶柱先生も一緒に1週間過ごすのか。まあ、本当に手助けはしてくれないんだろうけど。
「続いてトイレの説明をする。トイレをする際はこれを使え」
茶柱先生はそう言うと、段ボール箱から折りたたまれた段ボールを取り出した。
「なんですかそれ?」
平田が問う。
「簡易トイレだ。クラスに1つずつ支給されるものだ。大切に扱うように」
その説明にクラスの女子たちが大いに戸惑う。
「もしかして、私たちもそれを使うんですか!?」
声を大にして篠原が質問する。池と仲良いからか質問癖がついたのだろうか。
「男女共有だ。だが安心しろ。着替えにも使えるワンタッチテントがついてる。誰かに見られることもない」
「そう言う問題じゃないです! 段ボールでなんて無理です!」
茶柱先生は、女子からのブーイングを聞き流し、簡易トイレの使い方をレクチャーした。
説明の中にあった給水ポリマーシートは無制限で支給されるとのことだったので、トイレ以外に役立つかもしれない。
茶柱先生のレクチャーが終わると、簡易トイレの使用について池と篠原が言い争っている。本当に仲が良いな、近くに居る松下も呆れている。
「やっほ~」
気の抜けた声が俺たちの背後から聞こえてきた。
後ろを振り返ると、星之宮先生が茶柱先生の二の腕を撫でていた。
茶柱先生は冷たくあしらってるが、星之宮先生は離れる様子はない。
しばらくアラサーの百合を見てると、星之宮先生に声をかけられた。
「界外くんじゃない。久しぶり~」
「どうも」
こうして話すのは佐倉のストーカー事件以来だ。俺は軽く会釈をする。
「夏は恋の季節。好きな子に告白するなら、こういう綺麗な海の前が効果的かもよ~?」
「綺麗な海の前でもジャージじゃ台無しじゃないですか」
「確かにそうかもね~」
この人適当だな。つか、自分のクラスを放置しておいていいのだろうか。
「そろそろ帰れ」
「う、そんなに睨まなくても……。わかったわよぉ。じゃあね~」
星之宮先生は悲しげな顔をしながらBクラスの陣に戻っていった。
Bクラスの方を見ると、一之瀬と目があった。手を振ってきてくれたので、手を振り返した。
「いたっ」
直後、足に痛みが軽く走った。足元を見ると、堀北が俺の足を踏んでいるのがわかった。
「なにすんだよ」
「真面目に話を聞かないからよ」
いや、今は誰も話してないよね。貸した上着を剥ぎってやろうか。
俺と堀北が睨みあってると、茶柱先生が話を切り出した。
「ではこれより追加ルールを説明する」
「つ、追加ルール? まだ何かあるのかよぉ……」
池がげっそりと言う。
「まもなくお前らにはこの島を自由に移動する許可が与えられるが、島の各所にはスポットとされる箇所が複数設けられている。それらには占有権が存在し、占有したクラスのみ使用できる権利が与えられる。ただし占有権は効力上8時間しか意味を持たず、自動的に権利が取り消されることになる。そして、スポットを1度占有するごとに1ポイントのボーナスポイントが付与される。ただしこのポイントは暫定的なもので試験中に使用は不可だ。なので、試験終了時にのみ精算され、加算される仕組みになっている。学校側は常に監視をしているため、このルールにおける不正の余地はない。注意するように」
「それすっげぇ大事じゃないすか! 俺たちで全部取ってやろうぜ!」
池は目を輝かせて山内たちを誘い始める。
「焦る気持ちはわかるが、このルールには大きなリスクがある。そのリスクを考慮した上で利用するか検討するように。そのリスクも含め全てマニュアルに記載してあるぞ」
茶柱先生の言った通り、マニュアルに箇条書きで追加ルールのことが書き記されていた。
・スポットを占有するには専用のキーカードが必要である
・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる
・他が占有しているスポットを許可無く使用した場合50ポイントのペナルティを受ける
・キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される
・正当な理由なくリーダーを変更することは出来ない
大まかなルールは以上だ。後は7日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。リーダーを的中出来た場合、的中させたクラス1つに付き50ポイントを得る。逆に言い当てられたクラスは50ポイントを支払わなければならない。安易にスポット獲得に動けばリーダーを見破られ、大量にポイントを失う可能性がある。ハイリスクハイリターンだな。
また、他クラスのリーダーを違う人間で報告した場合は、判断を誤ったとしてマイナス50ポイントされてしまう。これに付け加えてリーダーを見破られたクラスは、貯めたボーナスポイントも失うことになる。確実な情報を得ないと報告するのも難しいな。
「参加するしないは自由だが、リーダーは必ず決めて貰う必要がある。決まったら私に報告をするように。その際にリーダーの名前を刻印したキーカードを支給する。制限時間は今日の点呼まで。以上だ」
つまりカードを盗み見られただけでも、リーダーの正体がばれてしまうということか。
茶柱先生の説明が終わるとすぐに平田が行動を開始する。
「リーダーに関してはまだ時間もあるし後にしよう。まずはベースキャンプをどこにするかだね。このまま浜辺に陣取るか、森の中に入っていくか。スポットはその後で考えたほうがいいと思う」
「先生たちがいる船の傍がいいんじゃないの?」
篠原が意見を述べる。
「いや、そうとも限らないよ。ここには何もないからね」
確かにここには何もない。水もなければ食料もない。そしてもアニメを見れる環境もない……。
「ねえ、界外くんはベースキャンプどこがいいと思う?」
佐藤が俺に聞いてくる。
俺は無言で船を指さす。
「いやいや、それリタイアじゃん!」
「冗談だよ」
「もう真面目に答えてよね」
佐藤はそう言いながら、腕を軽く叩いてくる。
俺が佐藤と駄弁ってると、いつの間にか篠原と池が言い争っていた。
「仮設トイレ絶対いるから! 本当はそれも嫌だけど……それじゃないと無理!」
「20ポイントだぞ! 水や食料じゃないんだからさー! たかがトイレだぜ!」
篠原と池を代表にして多くの女子と一部の男子が対立をしている。まあ、女子からしたら簡易トイレなんて無理だよな。
「佐藤は仮設トイレ欲しいか?」
「そりゃーね。さすがに簡易トイレはきついし……」
「だよな」
「界外くんはどうなの?」
「俺も仮設トイレは欲しい。現代っ子だから簡易トイレは無理」
仮設トイレの購入を反対している男子の面々を見る。中心人物は池だな。あいつを言いくるめれば大丈夫そうだ。
俺はゆっくりと池に近づいていき、肩に腕を回した。
「うわっ!」
池は驚いた様子で俺を見る。
「な、なんだ界外かよ。脅かすなよ……」
「悪い。それよりちょっといいか」
「な、なんだよ……」
俺は池を連れて集団から少し遠ざかった。
「池。お前は仮設トイレの購入に反対なんだな」
「当たり前だろ。20ポイントもするんだぞ」
「そうだな。……でもいいのか?」
「なにが?」
俺は少し離れた場所にいる櫛田の方を見る。
「お前の愛しの櫛田にあんなトイレで用を済まさせていいのか?」
「うっ、そ、それは……」
「ここは女子の味方をした方が櫛田の好感度が良くなるぞ」
「な、なるほど……。それじゃ女子用で1個購入すれば……」
「いや、男子用にも1個購入しよう」
「な、なんでだよ……?」
俺も仮設トイレが欲しいから、とは言えない。池を説得するために再度櫛田を利用する。
「あんな簡易トイレで用を足す男子を櫛田はどう思うんだろうな」
「え」
「不潔だと思うんじゃないか?」
「不潔っ!?」
「櫛田に不潔だと思われていいのか?」
「よ、よくない……!」
「だろ? なら男女用に1個ずつ購入すべきだ」
「そ、そうだな。界外の言う通りだ!」
計画通り! 恐らく今の俺はデスノート所持者のような顔をしているだろう。
池を説得し終えた俺は元いた場所に戻る。池は意気揚々と平田と篠原の元へ向かった。
「男女用に2つ仮設トイレ購入しようぜ!」
先ほどと180度反対な池の意見に全員戸惑いの声をあげる。
「やっぱ女子には簡易トイレじゃきついと思うんだよな。それに衛生面の問題もあるだろ。だから男女1個ずつ購入した方がいいと思うんだよ」
「あ、アンタ、急にどうしたの……?」
篠原が心配そうに言う。
「界外くん、彼に何を吹き込んだの?」
隣に立つ堀北が聞いてくる。
「男心を利用した」
「……そう」
「堀北も仮設トイレはあった方がいいだろ?」
「それはあるにこしたことないけれど」
体調不良な堀北に密室空間があった方がいいだろう。微熱ということだがこれから悪化する可能性もある。堀北の性格上我慢しそうだから、気をつけて見ておかないといけない。
「じゃあ、仮設トイレは2つ購入ということでいいかな?」
「待ってくれ」
平田の問いかけに幸村が反応した。
「この試験は他クラスとのポイント差を埋める絶好のチャンスだ。仮設トイレなんかにポイントを使うのは馬鹿げている。俺はいつまでもDクラスにいるつもりはないからな」
どうやら幸村は仮設トイレの購入に反対なようだ。せっかく池を説得したのに面倒なやつだな……。
「えっと……」
この流れで反対意見が上がるとは思わなかったのだろう。平田が困惑している。
「まあ待てよ幸村」
そこに須藤が参戦してきた。……お前かよ!
「なんだ須藤」
「1ポイントでも残しておきたいお前の気持ちはわかるぜ。でも女子は俺たちが思ってるよりデリケートな生き物なんだ。だからもう少し女子に寄り添って考えてやろうぜ」
だから誰だよお前は! なんでそんな爽やかになってるんだよ! 夏目と座禅にそんな効果があるのかよ!
俺が心の中で突っ込んでいると、女子たちが悲鳴をあげていた。
いいこと言ってるのに可哀相に……。でも今までの行動があれだから仕方ないね。もう少し時間が経てば今のお前も受け入れてくれるだろう。
「界外も効率的にポイントを使った方がいいって言ってたじゃねぇか。な?」
「……わかった。なら設置すればいいだろ」
やっと幸村が折れてくれたようだ。
まさか須藤が説得してくれるとは。まさに青天の霹靂だな。
また明日投下します
主人公が一之瀬に骨抜きにされます