実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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9巻の表紙が誰になるのか楽しみ
南雲と朝比奈か神崎と橋本だと予想


28話 俺のパンツと軽井沢のパンツ

 特別試験3日目。時刻は朝5時半。今朝も昨日と同じく俺は浜辺を走っている。昨日と違うのは……

 

「がんばれー!」

 

 浜辺に響く天使の声援。

 

「あれ、界外にしか言ってないぜ」

 

 隣を走るBクラスの柴田が言う。

 

「俺もそう思う」

「この野郎! 惚気やがって!」

 

 俺の返しに柴田が突っ込む。

 そう。昨日と違うのは参加してる面子が大量に増えたことだ。面子は昨日の3人にクラスメイトの三宅、Bクラスからは神崎や柴田を含む5人が浜辺で汗を流している。一之瀬から俺たちが早朝にランニングしていることを聞いて一緒に走りたくなったようだ。断る理由がなかったので了承して今に至る。

 

「それより昨日設置されてたテントがなくなってるね」

 

 平田が辺りを伺いながら言った。

 

「恐らくリタイアしたんだろ」

 

 3日目でリタイアか。いや、昨日の夜にはリタイアしてたのかもしれないな。

 それより一之瀬にカッコいいところを見せるためにこいつらを突き放さなければ。

 

「悪いが先に行かせてもらう」

「行かせねぇよ!」

「僕も負けないよ」

 

 俺が一歩抜け出すと柴田と平田が追走してきた。さすが現役サッカー部員だ。ちなみに須藤は走行中に尿意を催しリタイアしている。

 現在、首位を争っている柴田とは今日が初対面だ。初対面なのに関わらず結構打ち解けてる感じがする。これは俺が成長したのか、柴田のコミュ力が半端ないのかわからない。理由はどうであれ柴田とは仲良くやっていけそうな気がした。

 

「お先!」

 

 柴田が俺を追い抜く。平田は相変わらず追走しており、脱落する気配もない。

 

「くっ」

「帰宅部には負けられないからな!」

 

 言ってくれる。いいぜ、柴田。帰宅部だからと言って体力がないと思ってるのなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す! 略して……

 

「そげぶ!」

「そげぶってなんだっ!?」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ぜぇぜぇ」

 

 何とかサッカー部二人に競り勝った俺は仰向けになり息を切らしながら空を眺めていた。

 

「お疲れ様」

 

 青空をバックに一之瀬の顔が映りこんだ。

 

「……ああ」

「凄いね。柴田くんに勝っちゃうなんて」

 

 そりゃ一之瀬の前ですし。好きな子の前では負けられないからね。

 

「代償として完全にガス欠状態だけどな……」

「肩貸そうか?」

「大丈夫だ。暫くこうしてれば回復すると思う」

「そっか。それじゃ1位になったご褒美に膝枕してあげる」

「え」

 

 一之瀬は俺の頭を持ち上げ、自身の膝に乗せた。

 極上枕のような沈む柔らかさではないが、それとは別の女の子の柔らかさを感じる。

 視界には一之瀬の立派な二つの物体が。

 それより周りの目が……。

 

「えっと、他のみんなは?」

「もう帰ったよ。残ってるのは私と界外くんだけ」

 

 俺と一之瀬の二人だけか。なら周りの目を気にする必要はないのか。

 

「帰宅部なのに勝っちゃうなんて凄いよ」

 

 俺の頭を撫でながら褒めてくれた。

 人に頭を撫でて貰うのは久しぶりだけど、こんな気持ちがいいものだったっけ。

 

「負けず嫌いだからな」

「そっか。でもあんま無理しちゃ駄目だよ?」

「……わかった」

「よしよし」

 

 これじゃ母親と子供だな。

 一之瀬も立派な母親になりそうだな。

 俺はそう思いながら一之瀬の顔を見つめた。

 

「どうしたの……?」

「いや。一之瀬は立派なお母さんになるなって思って」

「にゃっ!?」

 

 そうか。俺は今一之瀬の母性を感じてるんだ。ちなみに母性と言っても胸のことじゃない。

 

「き、急に変なこと言わないでよ。もう……」

「すまん」

 

 俺はしばらく頬を紅く染めた美少女を眺めていた。

 そして30分ほど膝枕を堪能し、俺と一之瀬はお互いのベースキャンプに戻った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 時刻は11時。今朝頑張り過ぎた俺は川に体を漬けて休んでいた。

 川にはDクラスの生徒の他にBクラスの生徒の姿も見受けられる。これは今朝のBクラスとの情報交換の場で決まったことだ。Bクラスに川で遊ばせるかわりに、井戸水を提供して貰う。俺たちDクラスは川の水を飲んでるが、どうしても抵抗がある女子がいたため、井戸水を提供してくれるよう一之瀬と神崎に交渉したところ、すぐに了承してくれた。井戸水なら川の水より安心して飲んでくれるだろう。

 ちなみにBクラスにも美少女が多いため、この話を提案した俺は男子たちから称賛されまくった。一つ残念なのはこの場に一之瀬がいないこと。神崎の話だと見張り番をしているとのことだった。まあ、午後に神社で会うからいいんだけどね。水着姿もプールで見れるし。

 

「界外くんは泳がないの?」

 

 櫛田が川を泳ぎながら近寄ってきた。

 

「今朝のランニングで疲れた」

「そうなんだ。無理しちゃ駄目だよ?」

「ああ」

 

 一之瀬と同じこと言われちゃったよ。

 しかし櫛田もスタイルがいいな。水玉模様の水色の水着もよく似合ってる。

 

「それにしても試験でBクラスの人たちと遊べるなんて思わなかったよ」

「だろうな」

「Bクラスには友達が何人かいるんだ」

「そうなのか?」

 

 他のクラスに何人も友達を作っているとは。櫛田のコミュ力も恐ろしいな。

 

「うん。だから一緒に遊べて嬉しい。界外くん、ありがとね!」

「どういたしまして」

 

 櫛田との話を終えた俺は少し早いが昼食の準備に取り掛かっていた。

 隣には堀北が立っている。

 

「今日は堀北がメインで作ってみるか?」

「いいの?」

「たまには違う人が作った方がみんなも飽きないだろ」

「そう。わかったわ。補助お願いね」

「あいよ」

 

 本当は俺が久しぶりに堀北の手料理が食べたいだけなんだけどね。

 その後、調理中に綾小路と佐倉がトウモロコシを持ってきてくれたので、急きょ昼食のメニューに加えた。

 これでますます食材に余裕が出てきた。思ったよりポイントが節約できそうだ。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 試験4日目。俺たちDクラスの無人島生活は順調だった。高円寺のリタイア以外は大きなトラブルもなく、使用ポイントも80を維持。このまま行けば、かなり多くのポイントを残して試験を終えることが出来るだろう。島の地図も半分は埋められている。

 そして綾小路と話し合い、本日から他クラスへの攻撃を行うことになった。今頃綾小路はAクラスのエリアへ移動している頃だろう。俺も行こうとしたが既にAクラスにとって目立つ存在になってしまったため、お留守番となった。

 まあ、お留守番と言ってもベースキャンプを離れて一之瀬といつもの場所で会ってるのだけれど。

 

「今のところ金田くんに怪しい動きはないかな」

「そうか」

 

 BクラスにもCクラスから一人スパイが送り込まれてる。

 一之瀬と神崎が金田を発見した場所を漁ったところ、無線機が見つかり、鞄にはデジカメが入っていたとのことだった。人がいい一之瀬のことなので、鞄を漁るのは抵抗があっただろう。

 

「そっちは?」

「こっちも今のところ動きはない」

「そっか」

 

 だが試験終了まで3日ある。油断は大敵だ。

 

「このまま平和に終わればいいんだけどね」

 

 一之瀬はそう言うと、「んーっ」と大きく伸びをする。

 そんなことしたら大きな胸が暴れて大変なことになるんだが、本人は気にしてないようなので黙って素晴らしい絶景を堪能させて貰った。

 

「お疲れ気味か?」

「少しね。やっぱうちのクラスも男女間でトラブルが起きることがあって……。団体生活って大変だよね」

 

 あのまとまってるBクラスでもトラブルは起きているのか。

 今思うと一之瀬は結構ストレスを抱えてるのかもしれない。

 

「愚痴を吐きたいなら聞くぞ」

「にゃはは。ありがとう。気持ちだけ受け取っておくかな」

「そうか」

 

 さすがに愚痴は吐かないか。単純に疲れが溜まってるだけかもしれないな。

 

「頑張ってる一之瀬に言えることじゃないが、頑張りすぎるなよ」

「……うん」

「もし眠たいなら昼寝してもいいから」

 

 今日も一之瀬は早朝ランニングを見に来ていた。何時に寝てるかわからないがあまり睡眠時間も取れていないのではないだろうか。

 

「うーん、それじゃお言葉に甘えようかなー」

「ああ」

 

 俺がそう答えると、一之瀬がピタっとくっついてきた。そして俺の肩に頭を乗せる。……あれ?

 

「い、一之瀬……?」

「少し肩借りるね」

「え、あ、はい……」

 

 流れで肩枕をすることになってしまった。

 数分経つと、隣から「すぅすぅ」という穏やかな寝息が聞こえてきた。

 

「本当に寝ちゃったよ。……あいかわらず無防備だな」

 

 一之瀬には何度も刺激を与えて貰った。多少ドギマギするが肩枕程度じゃ動揺はしなくなった。

 何分くらい経っただろう。俺は一之瀬の寝顔を見つつ、試験のことを考えていた。

 今回の試験はCクラスとの差を埋めるいい機会だ。今回の試験である程度差を詰め、10月か11月にCクラスに昇格する。俺の予想図はこんな感じだ。11月にはクラスポイントが最低150上がる予定なので、遅くても11月には逆転できるだろう。

 それより一之瀬、熟睡してるな。彼女は学級委員長だ。他の生徒より精神的な疲労もあるだろう。一之瀬にも自由時間を与えるよう提言した神崎と白波さんに感謝だな。

 

「ふわぁ……俺も眠たくなってきたな……」

 

 睡魔の誘惑に耐え切れず、目を閉じる。

 こうしても俺も眠りの世界へ旅立ってしまった。

 

 一之瀬に起こされ、時計を見ると16時半を過ぎていた。どうやらいつの間にか横になり熟睡していたようだ。それより頬や首が濡れてる感じがするんだけど気のせいだろうか。

 神社を後にし、一之瀬をBクラスのキャンプ地に送り届けた。今日も手を繋いで歩いたが、早く恋人繋ぎが出来る関係になれるよう頑張りたいと思う。

 Dクラスのキャンプ地に戻ると、綾小路に首に内出血してる箇所があると指摘を受けた。恐らく虫に刺されて掻いてしまったのだろう。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 無人島生活5日目。目が覚め時計を見ると4時半を過ぎた頃だった。いつもより早く起きてしまったが二度寝はしないでそのまま起きることにした。

 川で顔を洗ってると、背後から声をかけられた。

 

「界外くん、ちょっといい?」

 

 振り向くと、そこには不機嫌な表情の篠原がいた。少し後ろに松下と佐藤もいる。

 

「どうしたんだ?」

 

 タオルで顔を拭きながら応える。

 

「今朝、その……軽井沢さんの下着がなくなってたの」

「え……下着が……?」

 

 篠原の表情からよからぬことだと思ったが、思った以上に重い話だった。

 

「今、軽井沢さん、テントの中で泣いてる。櫛田さんたちが慰めてるけど」

 

 そりゃ自分の下着を盗まれたらショックだろう。

 

「夜中に誰かが軽井沢さんの鞄から盗んだってことだよね。荷物は外に置いてあるから誰でも盗めるわけだし」

「そうだな」

「だから男子全員起こして貰っていい?」

「え」

 

 この流れで男子を全員起こす理由。……つまり篠原は犯人は男子だと思ってるってことか。

 

「犯人捜しをしたいってことか?」

「そう」

「起こすのはいいけど、犯人が男子とは限らないだろ」

「男子に決まってんじゃん!」

 

 ひぇぇ。怒鳴られてしまった。篠原がご乱心である。

 チラッと松下を見ると、肩をすくめて首を横に振られてしまった。どうやら松下も暴走気味の篠原を止められないらしい。

 

「あ、でも界外くんと平田くんは疑ってないから」

「……なんでだ?」

「だって2人とも彼女いるじゃん。しかも界外くんは2人も」

「1人もいないんですけど……」

 

 誰だよ俺の彼女2人。いるなら出てきてくれよ。

 しかし、まいったな。篠原は完全に犯人を男子と決めつけてる。このままだとせっかくのいい雰囲気が壊れてしまう。なんとか篠原をなだめないと。……よしこの作戦でいこう。

 

「篠原」

 

 俺は彼女の両肩に手を置いて名前を呼んだ。そしてまじまじと見つめる。

 

「な、なに……?」

 

 篠原が若干たじろいだ。

 

「確かに犯人は男子の可能性もある。けど女子の可能性だってあるだろ」

「そ、それは……!」

「落ち着け。軽井沢と櫛田が無き今、お前が女子のリーダーなんだ」

「私がリーダー……?」

「軽井沢さんも櫛田さんも死んでないけどね」

 

 松下が突っ込んできたが無視する。

 

「そうだ。リーダーのお前が冷静さを欠いてどうする。こういう時こそ冷静に対処するんだ」

「……うん、わかった」

 

 作戦成功。この子、やっぱ池と似たもの同士だわ。

 松下を見ると、彼女も一安心した様子だった。

 

「とりあえず軽井沢の下着がないことに気づいたのはいつ頃なんだ?」

「ほんの10分前」

 

 俺の問いかけに松下が答える。

 

「10分前か。なんでこんな朝早い時間に起きたんだろうな?」

「多分、界外くんたちが走るの見に行こうとしたんじゃない?」

 

 今度は佐藤が答える。

 

「あー、そういえばそんなこと言ってたね。篠原さんも聞いてたでしょ?」

「うん。言ってた言ってた」

 

 なるほど。彼氏の平田の応援をしに行こうとしたのか。なら早起きなのも納得できる。

 

「とりあえず状況を整理するか」

「お、なんか探偵っぽい」

「茶化すなよ」

「ごめんごめん」

 

 まったく佐藤には緊張感がない。友達が大変なことになってるのに困った子だ。

 

「まず篠原が言った通り、鞄は外にまとめて置いてあるから誰にでも盗める」

「うん」

「鞄には名前が書いてあるから、犯人は軽井沢の下着だとわかって盗んだ」

「そうだね」

「今のところわかってるのはこの2点だけだ」

 

 肝心なのは盗んだ理由だ。単に性欲を押さえきれず盗んだのか。これは篠原が思いついた理由だろう。だから彼女は犯人は男子だと決めつけた。

 

「それで犯人を特定するのに一番大事なのは犯行理由だ」

「理由?」

 

 女子3人が同時に首を傾げる。君たち本当仲良いね。

 

「ああ。考えられる理由は3つ。一つ目は単に性欲を抑えきれなかったから」

「せ、性欲って……」

 

 篠原と佐藤が顔を赤くする。俺だって言うの恥ずかしいんだから堪えてくれ。松下は照れた様子が全くない。さすが経験豊富そうな松下だ。

 

「二つ目は嫌がらせ目的。この場合は軽井沢に恨みがある人物が犯人になるな」

「恨みって……大げさすぎじゃない?」

「大げさじゃないぞ佐藤。確か軽井沢ってクラスメイトからポイントを借りてたよな?」

「う、うん……」

「借りたポイントって軽井沢は返してるのか?」

「多分返してないと思うよ」

 

 俺の質問に松下が答える。

 

「軽井沢さんってそういうのルーズだから。だから界外くんが言いたいこともわかるかな」

 

 続けて松下が説明する。

 

「つまり軽井沢を嫌ってる女子もいると?」

「うん。私とかね」

「え、そうなの!?」

「松下さん!?」

 

 松下の思いもよらぬ告白に佐藤と篠原が動揺する。俺も驚いてる。

 

「私、お金にルーズな人嫌いだから。ま、彼女に逆らうと面倒なことになりそうだから表面上は仲良くしてるだけ。これここだけの話にしてね」

「お、おう……」

 

 女って怖い……。佐藤と篠原を見ると何とも言えない表情をしている。

 

「だから女子が犯人って可能性も十分あると思う。それに男子より女子の方が陰湿だしね」

「な、なんだか経験者っぽい言い方だな」

「ま、中学の時に色々あったから。女子同士って男子が思ってるより色々あるんだよ」

「べ、勉強になります……」

 

 なんだろう。松下が同い年に思えなくなってきた。

 

「それで三つ目の理由は?」

 

 松下が急かす。すみません。今すぐ説明します。

 

「三つ目はDクラスを混乱させる為に女子のリーダーである軽井沢の下着を盗んだ場合だ」

「混乱させるためにって何のために?」

「よく考えろ。俺たちDクラスが混乱して得するのは誰だ?」

 

 篠原の質問に質問で返す。

 

「……もしかして伊吹さん?」

「正解。もちろんこれは伊吹がスパイだった場合の話だ」

 

 松下の答えに補足する。

 

「えー。これじゃ全員怪しいじゃん。犯人の特定なんて無理じゃん」

「だよねー」

 

 篠原と佐藤が音を上げる。

 

「とりあえずテントに戻って軽井沢さんと相談してみる」

「わかった。……もし荷物検査するならクラス全員にするよう説得してくれ。男子だけだと雰囲気が余計に悪くなる」

「了解。それじゃまた後で」

 

 頼むぞ篠原。お前がリーダーだ。

 テントに戻っていく篠原と佐藤を見送りながら祈る。

 

「はぁ、面倒くさ……」

 

 松下がため息をつきながら真情を吐露する。

 

「下着盗まれたくらいで泣かないで欲しいよね」

「そ、そうなのか……?」

「うん。私なんてもっと酷い目にあったしさ」

「え、松下って苛められてたのか……?」

「少しね」

 

 意外だ。まさか松下が苛められっ子だったとは。

 

「それより軽井沢さんって意外とメンタル弱いんだね」

 

 いつもより松下の毒舌がやばい。もしかしたら慣れない無人島生活でストレスが溜まっているのだろうか。いや、溜まっていない方がおかしいか。

 

「堀北さんと口喧嘩する時もいつも言い負かされてるし」

「堀北と口喧嘩?」

「うん。堀北さんから聞いてなかった?」

「聞いてない」

 

 初耳だ。確かに堀北と軽井沢は相性悪そうだけど。

 

「あの二人同じテントなんだけさ、堀北さんっていつも他人を見下す発言をするでしょ?」

「ごめんなさい」

「なんで界外くんが謝るの?」

 

 松下がくすくす笑う。少しは機嫌がよくなってきたようだ。

 

「軽井沢さんはそれが気に食わないみたいでね。けっこう堀北さんに突っかかってくるんだよね」

「それで堀北に論破されると」

「そう。二人の相性が悪いのわかってたけど……」

「ん?」

「堀北さん。なんかいつもより機嫌が悪いみたいでね。それも相まって軽井沢さんと毎日バトってる感じなんだよね」

 

 毎日バトってるのかよ。堀北がいつもより機嫌が悪いのは風邪を引いてるからだろう。

 

「そっか。迷惑掛けるな」

「だから界外くんが謝る必要ないって。……そうだ、伊吹さんなんだけど特に怪しい動きはないから」

「わかった」

「もちろん寝てる間はわからないんだけどね」

 

 松下が髪をかきあげながら言う。なんか色っぽいな。

 

「それじゃ私もテントに戻るから」

「ああ。篠原のフォローよろしくな」

「はいはい」

 

 だるそうに返事をしながら松下は戻っていった。

 俺は平田を起こし報告した後、自身の鞄からある物を取り出し、他の人にばれないように森の中に埋めた。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「え、界外くんの下着も盗まれたのっ!?」

 

 篠原が大きく声をあげる。

 

「ああ。さっきないことに気づいたんだけど」

「そ、そうなんだ……」

 

 俺の被害報告によりクラス全員がざわめきだした。女子だけでなく男子の俺の下着までも盗まれたのだ。混乱するのは当たり前だ。

 

「お気に入りのパンツだったのに……」

「界外くん……」

 

 気落ちする俺に平田が優しく肩に手を置く。

 そして俺は見逃さなかった。軽井沢の時は表情を変えなかった伊吹の表情に変化があったことを。

 それと気になる視線が一つ。俺と平田に熱い視線を送ってる女子が一人いる。王さんだ。なんで王さんはトロ顔で俺たちを見てくるんだ。

 そういえば綾小路に弁当を渡した時も同じような視線を王さんから感じた。まさか王さんって……。

 

「とりあえず荷物検査をしようか」

 

 平田の指示によりクラス全員の荷物検査が行われた。篠原の説得も上手くいったようだ。

 結局、俺と軽井沢の下着が出てくることはなかった。……表向きはね。

 綾小路から聞いた話だと、池の鞄に紛れ込んでおり、池は焦って綾小路にそれを押し付けたとのことだった。綾小路はポケットに隠し、検査後に平田に報告したようだ。

 ちなみに俺の下着が今後見つかることはないだろう。何故なら盗まれたというのは嘘だからだ。これがどれくらい効果があったかわからない。けれど女子だけより男子の下着も盗まれたと言う事実があった方が幾分マシだと思っただけだ。そのおかげで思わぬ収穫があったのは嬉しい誤算だった。

 

 Bクラスとの情報交換を終えた俺と堀北はベースキャンプに戻らず浜辺に向かっている。

 一応、Bクラスには軽井沢と俺の下着が盗まれたことを報告している。その際に一之瀬が激しく動揺していたのが気になるな。……午後に会う時に自作自演だったことを説明しておいた方がよさそうだ。

 浜辺に辿り着き、座るのにちょうど良さそうな丸太を見つけたのでそれに腰を下ろす。堀北が近いような気がするが気のせいだろう。

 

「堀北が海に誘うなんて珍しいな」

「ゆっくり話せる場所が欲しかっただけよ」

 

 ゆっくり話せる場所か。一ついい所があるのだが一之瀬との約束があるので教えることは出来ない。

 

「ねえ、あなたは誰だと思う?」

「犯人がか?」

「それしかないでしょう」

「……わからないな。あの状況じゃ誰でも盗める」

 

 伊吹の表情の変化については綾小路に伝えてある。もちろんそれだけで伊吹を犯人扱いするのは尚早だろう。だがそんなのはどうでもいい。Dクラスのために伊吹には犯人になって貰う。

 

「そうね。……まさかあなたの下着まで盗まれるなんてね」

「俺も結構人気あるってことだな」

「もの好きがいたものね」

「おい」

 

 盗んだのは俺なんだけどね。安らかに眠ってくれ俺のパンツ。

 

「ま、俺の下着が盗まれたことで男女間に亀裂が入らなくてよかったよ」

「そうね。もし被害が軽井沢さんだけなら男子を疑う人が多かったでしょうね」

 

 事実篠原は犯人を男子だと決めつけていたからな。

 

「そうだな。ただ男女間に亀裂が入らなくても、しばらくは微妙な雰囲気が続くだろうな」

「私には関係ないわね」

「軽井沢に八つ当たりされないように気をつけろよ」

「……誰から聞いたの?」

 

 しまった。つい口が滑ってしまった……。

 

「か、風の噂で聞いて……」

「……いいわ。確かに彼女に言いがかりをつけられるかもしれないわね」

「そんなに合わないのか?」

「合わないわ。女子版須藤くんと言えばわかりやすいかしら」

「あー、それは合わないな」

 

 軽井沢にも夏目友人帳を見せて、毎朝座禅をさせれば、綺麗になってくれるだろうか。

 

「ま、体調悪いんだからあまり相手するなよ」

「善処するわ」

「それじゃそろそろ帰るか」

 

 立とうとした瞬間、堀北に腕を掴まれた。

 

「なんだよ?」

「……もう少しここにいない?」

 

 堀北がすがるような目で俺を見上げる。

 

「わかった。お昼までここで時間潰すか」

 

 こくりと頷く堀北。だからそれ可愛いからやめろ。

 

「そう言えばこうして二人きりでゆっくりと話すのは久しぶりかもな」

「そうね」

「二人きりと言えば、綾小路とも話してたよな。久しぶりに二人で話してるところ見たぞ」

 

 俺がそう言うと、堀北は一気に不機嫌な表情になった。

 

「大したことは話してないわ。それに綾小路くんのことはどうでもいいでしょう」

 

 さっきまでの可愛い表情が嘘のように怒気を放つ。

 綾小路は堀北にいったい何をしたんだ……。

 

「……そ、そうだな」

「そうよ。そういえば界外くんがあれを受けることは、一之瀬さんは知っているの?」

「知らないよ。知ってるのは堀北だけだ」

「そう。私だけ……ね」

 

 どうやら機嫌が良くなってきたようだ。やっぱ女の子はよくわからない。

 その後、俺と堀北は1時間以上浜辺で雑談をした。

 時折、潮風で堀北の光った絹糸みたいに、長くまっ黒な髪がなびくのに見惚れていたのは内緒だ。

 

 お昼過ぎ。ベースキャンプから少し離れた森の中で2人の姿があった。

 お互い木に寄りかかる形で向かい合ってる俺と綾小路。

 

「界外。タイムアウトだ」

「わかった。……綾小路から堀北に言ってくれない?」

「オレが言っても堀北は言うことを聞かない。界外からのお願いならあいつも言うことを聞くだろう」

 

 本当にそうだろうか。プライドが高い堀北がこんなお願い事を本当に聞いてくれるのだろうか。

 

「それにオレは堀北を煽りすぎて嫌われているからな。オレがお願いしても絶対に言うことを聞いてくれないだろう」

「どんな煽りをしたんだよ……?」

「界外と違って、クラス間の争いに何も役に立っていない、と言った」

「言い過ぎだろ……」

 

 綾小路は堀北を年頃の女の子と認識してるのだろうか。

 

「事実だろう。現にこの試験で堀北は何をした?」

「何をしたって……。リーダーとか、料理とか……」

「それだけだ。堀北はお前の傍にいるだけで、自分から動くこともなかった」

「た、確かにそうだけど……。ほら、風邪もひいてたし……」

「だが動けないほどじゃなかっただろ」

 

 あかん。綾小路の堀北に対する当たりが酷すぎる。

 

「はぁ……、わかったよ。この後堀北に言うよ」

「頼む」

「憂鬱だな……。堀北にリタイアするようお願いするなんて……」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 時刻は17時。俺は森の中に堀北を連れ出していた。

 

「界外くん。私に大事な話ってなにかしら?」

「堀北。落ち着いて聞いてくれ」

 

 彼女の両肩に手を置き、じっと見つめる。

 

「え、ええ……」

 

 堀北は顔を紅く染め、見つめ返す。

 そんな顔で見つめないでくれ。余計言い辛くなる。

 

「堀北にお願いがあるんだ」

「私に?」

「ああ。もしかしたら堀北のプライドが許さないかもしれないが、俺のお願いを聞いてほしい」

「私のプライド? 気になるけれど界外くんのお願いなら言うことを聞くけれど」

 

 マジかよ。まだお願い事も言ってないのに言質取れたよ。綾小路が言ってたことは本当だったんだ。

 

「ありがとう」

「それでお願い事って?」

「……申し訳ないんだけど、リタイアをして欲しい」

「え」

 

 俺がそう言うと、堀北は何を言われたのか理解できていない様子だった。

 

「……ね、ねぇ。私、何かしてしまった……?」

 

 堀北は俺の上着を掴んで、すがるような目で見上げてきた。

 

「私、リタイアしなければいけないほど何かやらかしてしまったの……?」

 

 堀北が完全にパニクってる。言う順番を間違えたかもしれない。

 

「わ、私、あなたに見捨てられてしまったら……」

「落ち着け堀北。お前が何かミスをしたわけじゃない」

「な、ならなぜそんなことを言うの……?」

 

 今にも泣きだしそうな表情で訴えてくる堀北。

 俺は彼女を落ち着かせ、今回リタイアをお願いすることになった経緯について丁寧に説明した。伊吹がスパイであること、龍園が島に残っていること、CクラスとAクラスが手を組んでいることを。

 

「……そういうことだったのね」

「ああ」

「ごめんなさい。取り乱してしまって」

「いや、俺の方こそ言い方に気をつけるべきだった。ごめん」

 

 あんな取り乱した堀北を見るのは初めてだった。それに俺に見捨てられると思っていただなんて……。

 

「いいえ。それじゃ私は明日の夜にリタイアすればいいのね?」

「いいのか?」

「あなたのお願いなら言うことを聞くって言ったじゃない」

 

 確かに言ったけどこんな素直に従ってくれるなんて。俺も堀北にそれなりに信頼されてるってことでいいのだろうか。

 

「それにしてもよくわかったわね。伊吹さんのことも龍園くんのことも」

 

 俺だけの力じゃないんだけどね。綾小路のことは黙ってないといけないので全て俺の手柄になることに罪悪感を感じてしまう。

 

「ぎりぎり気づいてよかったよ」

「そうね」

 

 これも嘘だ。本当は俺も綾小路も前から気づいていた。そして堀北を試していた。堀北を騙してることにも罪悪感を感じる。

 仕方ない。また明日一之瀬に膝枕をしてもらって癒されよう。

 

「それで明日なのだけれど、伊吹さんにどうやって私がリーダーだと気づかせるの?」

「そうだな。明日、最後の食料探索をするようだから伊吹を連れ出してその時に気づかせるか」

「具体的には?」

「状況を見て判断しよう」

「わかったわ」

 

 これでこの試験も無事に終えることが出来そうだな。

 堀北が意外に従順で助かった。

 それより堀北はいつまで俺にしがみついてるのだろうか。

 

「そういえば風邪はもう大丈夫なのか?」

 

 俺はこの質問を何回してるんだろうか。

 

「え、ええ。……いえ」

 

 どっちだよ。

 

「まだ寒気がするの。……だからもう少しこのままでいてもいい?」

「え」

「その……温かく感じるから」

 

 顔を真っ赤にしながら堀北が言う。なにこの子。可愛すぎて抱きしめたくなるんですけど。

 

「……わかった。もう少しだけな」

「ええ」

 

 長時間このままだと俺の理性が崩れちゃうからね。

 堀北は俺の上着を掴んだまま、顔を胸に埋めてきた。

 それにしてもさっきの堀北の泣きそうな顔……可愛かったな。たまに見せる笑顔もいいけれど、堀北には泣き顔の方が似合うのかも。

 ……いやいや、俺は何を考えてるんだ……。

 結局、30分ほどこの状態が続いた。ていうか最後は抱きつかれていた。一之瀬ほどじゃないけれど胸の感触がやばかった。

 

 

 




堀北が従順になった分、重たくなってますね
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