実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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誤字脱字報告いつもありがとうございます!

無人島試験編完結です
またちょいエロ描写ありますのでご注意を

9巻のあらすじきましたね
一之瀬やばい……


30話 ふたりなら

 8月7日。色々あった無人島生活がついに終わりの時を迎える。

 終了時間とされていた正午になっても、まだ周囲には先生たちの姿はない。遅刻はよくないですよ先生方。

 

『ただいま試験結果の集計を行っております。暫くお待ちください。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用下さい』

 

 そんなアナウンスが流れ、俺は速攻で休憩所に向かった。

 休憩所に辿り着くと、そこには俺の大好きなカルピスが置いてあった。

 

「五臓六腑に染み渡る……」

 

 一週間ぶりのカルピスを味わう。こんな長い間飲まなかったのは初めてだったので、いつもより美味しく感じた。

 

「お疲れ様。この一週間色々ありがとう。本当に助かったよ」

 

 平田が労いの言葉をしながら現れた。

 

「お疲れさん。平田こそリーダーのお勤め大変だっただろ」

「そんなことないよ」

 

 謙遜するなって。荷物持ちなど嫌な役を率先して引き受けて帝人的にポイント高かったぞ。

 

「そういえば堀北さんや高円寺くんは客船に乗ったままみたいだね」

「ああ。昨日は事後報告になってわるかったな」

「理由を聞いたら責められないよ。それにしてもCクラスは異常だね……別次元だ」

 

 Cクラスの生徒は2日目に殆どリタイアしたため、この場には姿がない。スパイの伊吹と金田の姿も見受けられない。いるのは龍園ただ一人だけ。

 

「どうして龍園くんだけはリタイアしていなかったんだろう?」

 

 平田と遠巻きに様子を伺ってると、その視線に気づいたようでこちらを振り返った。

 そしてゆっくりと距離を詰めてくる。周りに緊張が走る。

 

「よう猿野郎」

 

 いきなり猿呼ばわりされてしまった。俺はサイヤ人じゃないぞ。

 

「なんで俺が猿野郎なんだよ」

 

 俺は不満げな表情で返す。

 

「ククク。俺は知ってるんだぜ」

 

 龍園はにやにやしながら俺を見据える。

 

「なにを?」

「毎日、神社の本殿で一之瀬とよろしくやってたことをよ」

 

 龍園の発言により周囲がざわめきだす。

 もしかして俺たち以外に本殿に入った痕跡があったのって……。

 

「……何のことだかわからないな」

「とぼけんじゃねぇよ。毎日2時間以上も中にこもってたじゃねぇか。随分お盛んなこって」

 

 龍園が嘲笑いながら言う。

 そして一斉に好奇の目が向けられる。

 こいつ、俺と一之瀬を辱めるのが目的か?

 一之瀬は大丈夫だろうか。周囲を見渡すと一之瀬の姿が見受けられた。彼女は視線に耐え切れなかったのか俯いていた。俺の隣に立つ平田は右手で顔を覆い天を仰いでる。

 平田のリアクションが気になるが冷静に状況を判断する。ここで反論しても状況が悪化するだけだろう。

 なら龍園。お前も俺と同じ視線を味わって貰うぞ。

 

「俺と一之瀬のことはお前には関係ないだろ。それにクラスメイトの女子を殴る奴にとやかく言われる筋合いはないな」

 

 俺の発言により更に周囲がざわめく。

 

「何のことだか知らねぇな」

 

 わざとらしくとぼける龍園。

 

「お前が伊吹を殴ったのはDクラス全員が知ってることだぞ」

「不良品のDクラスの証言じゃ信用性がねぇな」

 

 どうやらこの場では認めるつもりはないようだ。

 

「その不良品の―――――――――――」

 

 俺の言葉は拡声器のスイッチが入る音に遮られた。どうやら俺の反撃はここまでのようだ。

 音が鳴った方を見ると、真嶋先生が立っていた。

 慌てて列を形成しようとする一年生だったが、それを真嶋先生が手を制止させた。

 

「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了しているので、今は夏休みの一部のようなものだ」

 

 そんなこと言っても試験結果が発表されるんだろう。リラックスなんて出来ないと思うんだけど……。

 

「それではこれより、特別試験の結果を発表したいと思う」

 

 真嶋先生の言葉により、一気に緊張感が走る。

 

「なお結果に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」

「だそうだ。すぐに一之瀬に慰めてもらえよ?」

「ならお前はガッツ石崎に慰めてもらえ」

 

 龍園の安い挑発を受け流す。

 

「僕らはボーナスポイントを含め140ポイント残した。立派だったと思ってるよ」

 

 平田は龍園の挑発に苛立ちを感じたようだ。平田の言葉に龍園は吐くような仕草を見せて呆れかえった。

 

「はっ。その程度のポイントで満足できるなんて、雑魚の神経が羨ましいな」

「何を言っても構わないけれど、Cクラスのポイントが0なことに変わりはないよ」

「勝手に決めつけてんじゃねえよ。確かに俺は300ポイントを全て使い切った。だがな、この試験の追加ルールを忘れてるんじゃねえか?」

「……クラスのリーダーを当てることを言ってるんだよね、それは」

「そうだ。俺は紙に書いたぜ? お前らDクラスのリーダーの名前をな」

 

 俺は龍園の言葉を聞いて、笑うのを必死にこらえた。平田も顔に出ないように努めている。

 

「そしてAの連中も同じように書いた。これがどういうことだかわかるか?」

 

 わかってるよ。わかってるから必死に笑いを押し殺してるんだよ。

 

「ではこれより特別試験の結果を発表する。最下位は―――――Cクラスの0ポイント」

「……0だと?」

 

 龍園は事態が理解できない様子だ。

 ククク、ピエロ役ご苦労さん。……笑い方が被ってしまった。

 

「続いて3位はAクラスの120ポイント。2位はBクラスの160ポイントだ」

 

 どよめきが起こる。誰も想定していなかった順位、そしてポイント。

 そういえばBクラスはリーダーをリタイアさせたのかな。後で一之瀬に確認したいところだが、この状況で話しかけていいものだろうか。

 

「そしてDクラスは……」

 

 一瞬、真嶋先生の言葉が硬直した。正直な反応どうもありがとうございます。

 

「……240ポイントで1位となった。以上で結果発表を終える」

 

 結果発表を終え、俺と平田は顔を見合わせて笑い、ハイタッチを交わした。

 平田と綾小路以外のDクラスの生徒たちは、いまだに何が起きたのか理解していない様子だった。王さんが鼻血を出して、櫛田に抱きかかえられていたが気にしないでおこう。

 

「どういうことだよ葛城!」

 

 反対側の休憩所から、そんな声が届いた。Aクラスの生徒が葛城を取り囲んでいる。

 

「何かがおかしい……。どういうことだ……」

 

 別におかしくはない。お前が俺たちに負けただけだ。

 

「うぉぉぉぉぉ! やったぜ! ざまぁみろぉぉぉぉ!!」

 

 池の叫び声と共に、Dクラスの生徒たちは一斉に集まりだす。

 

「界外、平田。これは一体どういうことなんだ?」

 

 須藤が落ち着いた口調で説明を求めてくる。

 

「……向こうで説明するよ。それじゃ龍園くん、僕はここで失礼するよ」

 

 意味深な言葉を残し、平田は須藤たちを連れ船に向かい歩き出す。

 よし。Dクラスの勝利により雰囲気が一気に変わった。これならみんな、俺と一之瀬のことも忘れてくれるかも。

 俺もついていこうとした瞬間、茶柱先生と星之宮先生が姿を現した。

 

「一之瀬と界外は私たちに付いてこい。お前たちに聞きたいことがある」

 

 俺の微かな希望は一瞬で崩れ去った。この教師陣は気配りと言う言葉を知らないのだろうか。

 またしても晒し者になった俺と一之瀬は、先生たちに連れられて船に上がっていった。

 Dクラスの面々が心配そうに俺を見送ってくれたのがせめてもの救いだな。男子の大半は俺に殺意を向けていたけど……。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「事情はわかった。あまり誤解されるような行動はしないように。もう帰っていいぞ」

 

 茶柱先生の事情聴取を終え、俺と一之瀬は部屋を後にした。ちなみに星之宮先生はにやにやしているだけだった。その笑顔壊したい。

 先生方の部屋を出て、自室に戻ろうとするも、一之瀬は俯いて立ち止まったままだ。

 

「一之瀬……?」

「……ごめんね」

 

 声を震わせながら一之瀬が謝った。

 

「私があそこに連れ出したから……界外くんに迷惑掛けちゃった……」

 

 顔を上げた一之瀬の目には涙が浮かんでいる。

 

「私のせいでみんなに変な目で見られちゃうよね。……ほんとごめん」

「一之瀬が謝る必要ないだろ」

「でも……っ!」

「悪いのは龍園だ。俺と一之瀬は何もやましいことはしてないんだから」

 

 そうだ。龍園が全て悪い。俺と一之瀬は楽しく過ごしていただけだ。

 

「そ、そうかもしれないけど……。でも変な目で見られるんだよ……嫌じゃないの?」

 

 恐らく旅行期間中は好奇な視線に晒されるだろう。ならば俺と一之瀬は一緒にいない方がいいのかもしれない。けれど……

 

「そうだな。確かに好奇の目に晒されるのは好きじゃない。……それでも俺は一之瀬と一緒にいたい」

 

 龍園のいいようにやれるのはまっぴらごめんだ。

 

「もちろん一之瀬が嫌なら無理強いはしないけど……」

「……ううん! 私も一緒にいたい! 周りの目なんて関係ないもん!」

 

 はっきりとした口調で一之瀬が言う。

 よかった。これで一之瀬に距離を置こうとか言われたら俺だけ意気込んで恥ずかしいところだった。

 

「でも意外かも」

「なにが?」

「界外くんのことだからさ、私を気遣って、距離を置こうとか言われると思ってた」

 

 軽く頭を掻きながら苦笑いする一之瀬。

 

「そうだな。最初はそうしようかと思ったんだけど。……一之瀬なら周りの目を気にせずに堂々としようって言うと思ってな」

「……そっか、そうだよね。私ならそう言うよね」

「ああ」

 

 どうやら涙は完全に引っ込んだようだ。いつもの明るい表情に戻っている。

 

「それじゃ改めてよろしくね」

 

 一之瀬はそう言うと、満面の笑みを浮かべながら右手を差し出してきた。

 俺は少し差し出された彼女の手を見つめる。

 一之瀬に一緒にいたいと力強く言った俺だけど、不安な気持ちがないわけではなかった。

 好奇の目に晒されるのは中学で嫌と言うほど経験してきた。ただあの時は羞恥心がなかったので気にせずにいられた。今の俺はどうだろうか。

 そんな少しばかりの不安を抱いていたが、彼女の笑顔を見て一瞬で消え去った。

 

「こちらこそ」

 

 俺はしっかりと彼女と握手を交わした。

 

「それじゃとりあえず部屋に戻ろっか」

「そうだな」

「シャワー浴びたら一緒に船を回らない?」

「そうするか。約束してたもんな」

「うん」

 

 彼女と一緒ならば耐えられる。根拠はないけれど俺は確かにそう感じた。

 

「はい!」

 

 一之瀬は俺の隣に立つと、またも右手を差し出してきた。

 どうやら無人島生活の時と同じように、手を繋ぐのがご所望のようだ。

 

「本当に一之瀬は強いな」

 

 俺は彼女の右手を、左手で握る。そして歩き出す。

 

「そうでもないよ。ただ……」

「ただ?」

「界外くんと一緒ならいつもより少しは強くなれるかも」

 

 これまで何度彼女の笑顔にやられてきただろうか。もう数えきれないくらい一之瀬の笑顔に魅了されていると思う。願わくばその笑顔をこれからも見続けていたい。彼女の一番近くで。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 部屋に戻ると、ルームメイトの綾小路、平田、博士の3人が迎えてくれた。3人ともシャワーを浴びたようで髪が若干湿っている。

 

「お疲れ様。それと大丈夫だった?」

 

 平田が一番に声をかけてきた。俺と一之瀬が呼び出されたことを心配してくれているのだろう。

 

「ああ。処分は科されなかったよ。やましいことはしてないしな」

「そっか。それはよかったよ」

「心配掛けて悪かったな」

「ううん。……そっか。セフレならセック○するのはやましいことに入らないんだね」

 

 平田がボソッと言う。何を言ってるのか聞き取れない。

 

「それより龍園くんに見られたのはついてなかったね」

 

 本当についてない。しかも一之瀬を辱めやがって。次の試験でもボコボコにしてやる。

 

「それと僕のアドバイスがいけなかったのかもしれない」

「え」

「ほら、前に一之瀬さんとのことで他の人に見られないように注意したことだよ」

 

 指しゃぶりの件か。あれは平田のアドバイスは的確だったと思うんだけど。

 

「いや、平田のせいじゃないだろ」

「そう言って貰えると助かるよ。……それと本当に一之瀬さんとは付き合ってないんだよね?」

「ああ」

 

 あんな噂流れてるので大抵の人は信じてくれないよね。

 

「つまり一之瀬氏と付き合ってないけど、突き合ってる仲ということでござるか」

「お前は黙ってろ」

「ぐぇっ!」

 

 博士がふざけたことを言ったので手刀で喉を潰した。

 

「ぼ、暴力反対でござる……」

 

 喉を押さえながら博士が訴えてくる。

 

「今のは博士くんが悪いと思うよ」

「そうだな」

「そ、そげな……」

 

 平田と綾小路に責められ、落ち込む博士。

 

「とりあえずシャワー浴びてくるよ」

「うん。いってらっしゃい」

 

 久しぶりにまともなシャワーを浴びた。水圧がウォーターシャワーとは全然違った。

 頭を乾かして部屋に戻ると、綾小路以外の2人が熟睡していた。疲労と試験を無事乗り越えたことによる安堵感で眠気が襲ってきたのだろう。

 

「綾小路は寝ないのか?」

「眠気を感じないからな」

「タフだな」

「そうか? それよりスマホが鳴っていたぞ」

 

 綾小路に言われ、スマホを確認する。スマホを弄るのも一週間ぶりだ。画面にはチャットの通知が表示されていた。差出人は堀北だ。

 

『試験お疲れ様。少し話したいのだけれど時間ある?』

 

 一之瀬との待ち合わせまで40分以上あるので問題ないだろう。

 

『あるぞ。ただよからぬ噂が流れてるので俺と会うのは好ましくないかもしれないぞ』

 

 一応、堀北に警告しておいた。

 

『そんなの関係ないわ。それじゃ今からラウンジに来て』

 

 ま、堀北ならそう言うと思ったよ。堀北に了承の返信を送る。

 

「綾小路。堀北から呼び出されたので行ってくる」

「わかった」

「そのまま一之瀬と遊ぶ予定だから当分帰ってこないのでよろしく」

「……一之瀬と遊ぶのか?」

 

 綾小路が驚いたように聞き返してきた。

 

「ああ」

「そうか。どうやらオレはお前たちの精神力を再評価しないといけないようだ」

「メンタルに関しては一之瀬はトップクラスだと思うぞ」

 

 俺はそう言い残し、ラウンジへと向かった。

 5分ほど歩き、目的地に辿り着くと、既に堀北がテーブルに座っていた。

 

「お疲れ様」

「おう、お疲れさん」

 

 堀北の目の前に座り店員にドリンクを注文する。

 

「風邪はもう大丈夫そうだな」

「ええ。一晩寝たら回復したわ」

「それはなにより。それで俺に聞きたいことがあるんだろ?」

「ええ。なぜ全て私の手柄にしたのかしら?」

 

 そう。堀北の言った通り、俺と綾小路は今回のDクラスの完全勝利をすべて堀北の手柄にした。伊吹をスパイと見抜いたこと、AクラスとCクラスのリーダーを当てたことは全て堀北の功績になっている。

 ちなみに堀北がリタイアした理由は、功績の代償で体調が悪化したことになっている。これなら功績者の堀北のリタイアを責める生徒はいないだろう。

 

「堀北なら聞かなくてもわかるんじゃないか」

「……そうね。あなたのことだから、私がクラスに溶け込むきっかけを作ろうとしたのでしょ?」

「正解」

 

 試験6日目の夜。堀北は自分を変えると俺に宣言した。このことを綾小路に報告した時は随分驚いていた。

 そして俺と綾小路は相談した結果、全て堀北の功績にすることを決断した。

 

「あなたは本当に過保護ね」

「そうでもないだろ。俺はただきっかけを与えたに過ぎない。それを活かすかどうかはお前にかかってる」

 

 自分を変えると言うのは難しいことだ。特に堀北は何年間も他人を拒み続けていた。俺と親しくなったのは奇跡と言っていいかもしれない。

 

「わかってるわ。だから、その……」

 

 急に俯きもじもじし出した。

 

「これからも……私を見ていてくれる……?」

 

 堀北はそう言うと、テーブルの上に置いてあった俺の右手に自身の左手を乗せてきた。

 彼女の顔は照れてるのが一目でわかるように、頬が赤く染まっていた。

 

「……ああ。見てるよ」

「ありがとう」

 

 俺がそう答えると、満足そうな表情を浮かべた。

 

「それともう一つ聞きたいことがあるのだけれど」

 

 表情を一変させ、俺を睨んできた。さっきまでの優しい表情は何処に……。

 

「な、なんでしょう……?」

「あなたが言ってたよからぬ噂についてなのだけれど……」

 

 どうやら堀北の耳にも入っていたようだ。

 

「どうなの?」

「俺と一之瀬はやましいことはしてない。龍園が尾ひれをつけただけだ」

「……そう。ならあなたと一之瀬さんはやましいこともしてなければ、付き合ってもいないのね?」

「ああ」

 

 さてさて堀北は信じてくれるだろうか。

 

「わかった。あなたの言うことを信じる」

「さすが堀北。俺のことをわかってくれてるな」

「え、ええ……。わ、私と界外くんの仲だもの……」

 

 またもや顔を紅潮させる堀北。俺の前だと表情が豊かだな。

 

「ねえ、この後なのだけれど……一緒に船を回らない?」

「悪い。この後は先約が入ってるんだ」

 

 一之瀬との船内デートなんだよね。

 

「そう……」

 

 そんな寂しそうな表情しないでくれ。罪悪感を感じてしまうだろうが。

 

「……明日はどうだ?」

「え」

「明日は特に予定入ってないから。勉強する時間以外は堀北に付き合うぞ」

「ほ、本当に……?」

「ああ」

 

 さすがに一之瀬も二日連続で俺と遊びまわることはないだろう。

 

「それじゃ明日、一緒に回ってくれる?」

「あいよ」

「約束よ」

 

 堀北が笑顔を浮かべながら言う。くっそ、可愛いなこの野郎。

 さっきまで一之瀬にときめいていたのに、すぐに他の女の子にときめいてしまう。

 俺って本当にチョロすぎじゃないだろうか……。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 堀北と別れた俺は一之瀬との待ち合わせ場所に向かった。

 向かう途中に何人かの生徒とすれ違った。どの生徒も予想通りの視線を向けてきた。ちなみに男子からは嫉妬、女子からは侮蔑の視線が多かった。

 

「界外くーん!」

 

 待ち合わせ場所に辿り着くと、一之瀬が元気よく手を振ってきた。

 

「悪い。待たせたか?」

「ううん。私も今来たところだから」

 

 一週間ぶりの一之瀬の制服姿。そして生足。眼福眼福。

 

「それじゃ早速いこっか」

「ああ」

 

 俺と一之瀬は船内の様々な施設を見て回った。

 今回は一通り施設を見て回り、後日に行きたい場所に二人で行く予定になっている。

 一之瀬は口には出してないが、高級スパに興味があるようだ。俺も興味あるんだけどさすがにスパは一緒に行けないので友達と行ってきてくれ。俺は一人で行く。

 途中で見て回るだけじゃ味気ないということで、ビリヤードをすることになった。ビリヤードは二人とも初体験だったので中々に酷い結果になった。ちなみに一之瀬が玉を突く際、胸をこれでもかと強調する姿勢になっており、非常に眼福だったことは内緒である。その場に俺以外の男子がいなくてよかった。

 ビリヤードを終えた俺たちはカフェでくつろいでいる。

 

「初めてやったけど、やっぱり難しいね」

 

 アイスコーヒーを飲みながら一之瀬が言う。

 

「そうだな。思ったより難しかった」

「でも最後の方は凄かったよ。やっぱり界外くんってスポーツ全般得意なんだね」

「そうでもあるな」

「にゃはは。認めちゃうんだ」

 

 だって事実だもの。はぁ、バスケやバレーをしてた頃の俺を一之瀬に見せたかった。……いや、駄目だ。赤司や影山をトレースしてた俺なんて怖すぎる。現に活躍しても女子に声をかけられることはなかった。

 

「そういえば秋には体育祭があるよね」

「だな。今から楽しみだ」

「運動神経ある人はいいよね。私は普通だから少し憂鬱かも」

 

 そういえば前にも運動神経に自信がないことを言ってたな。

 

「意外だよな」

「そう?」

「ああ。一之瀬って見た目は勉強じゃなくて運動が出来る方に見えるから」

「それって私が勉強が出来ない子に見えるってこと……?」

 

 ジト目で睨まれてしまった。ジト目の一之瀬も写真に撮っておきたいくらいに可愛い。

 

「冗談だよ。たまに言動がアホの娘みたいに思えるけど」

 

 たまに言動が猫娘みたいになるもんね君。

 

「ひどーい! 今日の界外くん、少し意地悪じゃない?」

 

 今度は頬を膨らませながら睨んできた。ほっぺつんつんしたい。したいと思うだけで実行出来ないんだけどね。

 

「悪い。試験が終わって浮かれてるのかもしれない」

「そっか。一週間も無人島で生活してたからね」

「ああ。ルームメイトなんて熟睡してたぞ」

「私のルームメイトもだよ」

「女子には特にストレスが溜まる生活だっただろうからな」

 

 本当みんなよく耐えたと思う。堀北なんて風邪を引きながら6日間も生活してたからな。

 

「そういえばお祝いするの忘れてたよ」

「お祝い?」

「うん。今更だけど1位おめでとう!」

 

 一之瀬が天使の微笑みを浮かべながら祝ってくれた。

 

「ありがとう。……Bクラスの学級委員長がそんなこと言っていいのか?」

「大丈夫大丈夫。Dクラスとは協力関係だからね。それに界外くんのおかげで私たちも2位をとれたことだし」

「一之瀬たちの力だと思うけどな。……そういえばリーダーはリタイアさせたのか?」

「うん。金田くんが6日目の夜にいなくなってたから。見破られたと思ったからリーダーの子にリタイアしてもらったよ」

 

 Bクラスも見破られたのか。うちのクラスはわざとだけど。

 それにしてもリーダーを見破るとは金田は意外に優秀なのかもしれない。いや、優秀だからこそスパイとして送り込まれたんだろう。

 しかし一つだけ疑問が残る。俺が金田はスパイだと忠告して、一之瀬と神崎があれだけ警戒していたのにBクラスのリーダーがそう簡単に見破られるだろうか。いくら金田が優秀な生徒だとしてもにわかに信じがたい。もしかしたらBクラスに裏切者がいるのかもしれない。例えば一之瀬か神崎を好ましく思っていない生徒が龍園や葛城と組んでいる可能性もある。……いや、考えすぎか。

 

「界外くん?」

「え」

「どうしたの? 凄い難しい顔してたけど」

 

 一之瀬が心配そうに見つめてくる。

 

「いや、今回の試験を振り返ってただけだ」

「そっか。ならいいんだけど……困ったことがあったら相談して欲しいな」

 

 さすがに一之瀬にBクラスに裏切者がいる可能性があるとは言えない。

 

「ああ。何かあったらすぐに相談するよ」

「うん。……それより」

 

 一之瀬が目をあちこちの方向に動かした。

 

「人、多くなってきたね」

「だな」

 

 人が多い。つまりそれだけ俺と一之瀬に向けられる好奇な視線が多くなっているということだ。

 

「居辛かったら部屋に戻るか?」

「ううん。界外くんと一緒にいたいから戻らないよ」

 

 嬉しいことを言ってくれる。もしかしたら人生で一番幸せな時間を過ごしてるのかもしれない。

 

「界外くんは大丈夫?」

「ああ。……けど男子たちに殺されないか心配だな」

「え、なんで?」

「いや、一之瀬みたいな可愛い子とあんな噂流されたら嫉妬されるだろ?」

「か、可愛い子……」

 

 嫉妬から生まれる殺意に要注意。

 

「や、やだ。どうしよう……」

「ん?」

「ごめん。ちょっとお手洗い行ってくるね!」

「あ、ああ……」

 

 一之瀬はそう言うと、駆け足でトイレに向かった。

 俺はトイレに駆け込む一之瀬の姿を追ったが、嫌でも彼女に向けられる不快な視線に気づいてしまう。

 好奇な視線だけなら我慢出来る。けど男子から一之瀬に向けられる性的な視線だけは我慢出来そうにない。

 思春期の男子の妄想力は逞しい。くわえて龍園のせいで一之瀬にはいかがわしい噂が流れている。その内容は男子共の妄想を捗らせるには十分なネタだ。

 他の男子たちに妄想とは言え、一之瀬が汚されてると思うと腸が煮えくり返りそうだ。

 ならいっそ、俺が現実の一之瀬を汚してしまえばいいのではないだろうか。……駄目だ。マイナスな感情が支配して思考がおかしくなってる。さっきまで楽しく過ごしてたのに……。

 落ち着け、俺。こういう時は夏目の名シーンでも思い出すんだ。そうすればドス黒い感情が浄化されるはずだ。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 駆け足でトイレに駆け込んだ私は個室にこもっていた。

 なぜ急いでトイレに逃げてきたかと言うと、彼にはとうてい見せられない顔をしているからだ。

 

「どうしよう……。ニヤニヤが止まらないよ……」

 

 顔の緩みが治らない理由は単純明快。

 

 可愛いって言って貰えた可愛いって言って貰えた可愛いって言って貰えた。

 可愛いって言って貰えた可愛いって言って貰えた可愛いって言って貰えた。

 

「駄目。嬉しすぎて死んじゃいそう……」

 

 彼が私の容姿を評価してくれているのは知っていた。けれど面と向かって言われたのは今回が初めてだった。

 好きな人に可愛いと言って貰えるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて……。

 やばい。暫く個室から出れそうにないや。頑張って表情治そうとしても、どうしてもにやけてしまう。

 でも仕方ないよね。彼に可愛いって言って貰えたのだから。

 

「けっこうお店混んでるね」

 

 扉が開くとともにそんな声が聞こえてきた。

 

「ね。それより龍園くんが言ってたの本当らしいよ?」

「一之瀬さんと界外くんのことでしょ」

「そうそう」

 

 知らない声なので恐らく他クラスの女子だろう。

 早速私と彼のこと話題にしてくれてるんだ。

 

「しかも一之瀬さんが神社に連れ込んだんだって」

「うっそ。一之瀬さんって肉食系だったんだ」

 

 確かに私は肉食系なのかもしれない。

 神社の本殿で寝てる彼の頬にキスをしたり、首を吸ったりした。起きるか心配だったけれど彼は熟睡してるようで全く起きる気配がなかった。

 それをいいことに私の行為はエスカレートしていった。一緒に横になって、彼の腕を掴み、私の胸を触らせた。夢の中でもいいから直接掌で私の胸を感じて欲しかった。そのまま彼の手を動かして胸も存分に揉ませた。

 徐々に興奮していった私は、彼の手を自身の下半身に持っていこうとした。長い無人島生活で溜まりに溜まった私の性欲が爆発してしまった。

 けれど調子に乗り過ぎた私に天罰が下った。彼の手を下半身に動かそうとした瞬間、胸を鷲掴みされたのだ。驚いて彼の顔を見たが、彼は熟睡したままだった。

 そして私の胸に激痛が走った。彼が力強く胸を握りしめてきたのだ。私は何とか彼の手を引き離そうとしたがひ弱な私の腕力ではどうすることも出来なかった。そのまま胸を握りつぶされると思った私は涙ながらに彼を起こそうとした。けれど彼は起きなかった。球技で鍛えられたであろう彼の握力は凄まじかった。彼が寝言で「僕に跪け」と言っていたので、私は「跪くから離して」と懇願したが彼に私の声は届かなかった。

 私はその痛みに必死に耐え続けた。徐々に私の体は彼から与えられる痛みに慣れていった。そして痛みと同時にある感覚が私を支配していった。それは『快感』。私は痛いのに気持ちいいと思ってしまったのだ。

 結局、10分ほどして彼は私の胸から手を離してくれた。離れた時は少し残念な気持ちになってしまった。

 なんだろう。彼とは付き合う前なのに、喉奥に指を突っ込まれ嘔吐させられそうになったり、胸を握りつぶされそうになったり、色々開発されてる気がする……。

 私が回想してる間も、彼女たちのお喋りは続いている。

 

「意外だよねー。てか、試験中なのによくやるよね」

「確かに。しかも時間が2時間以上って生々しいよね」

「それが毎日だもんね。どんだけ盛ってるんだっつーの」

「「あはははは!」」

 

 女子がトイレでどんな会話をしてるのか、男子が知ったらショックを受けるんだろうな。

 実際、学校のお手洗いでも似たような話を耳にすることはある。

 私を含めて目立つ女子は、私たちがいないところで結構悪口を言われてたりする。

 ちなみになぜ私がそれを知ってるかと言うと、学校のトイレでもよく個室にこもってるからだ。個室にこもってる理由は、スマホに保存してる彼の写真を見たり、彼の位置情報を見て、何をしてるのか妄想したりする為だ。

 彼に可愛いと言って貰えたおかげで、今晩は妄想が捗りそうな気がする。

 

「ま、でも彼氏がいるのは羨ましいかもね」

「確かに。あの2人って入学当初から仲良かったよね?」

「うん。毎朝一緒登校もしているようだよ」

「ラブラブじゃん。私も早く彼氏が欲しいなー」

「私も私も」

 

 彼女たちは、願望を口に出しながらトイレから出て行った。

 顔の緩みも収まったことだし、状況を整理しようかな。

 まず私と彼と親しくない人たちは、間違いなく私たちが恋人だと思ってるだろう。ていうか今回の噂で淫乱カップルって思われてそうだよ……。

 そして彼は好奇な視線に晒されても私と一緒にいたいと言ってくれた。これは確実に彼から私への思いが強くなってる証拠だ。

 やっぱり無人島での2人きりの時間が大きかったのかな。あれで距離がぐんと縮まった気がする。

 神社の本殿で私たちは毎日楽しく過ごしていた。他愛もないお喋りをしたり、身を寄せ合ったり、お昼寝したり、寝てる彼に悪戯したり、天罰が下ったりして本当に楽しかった。

 まさか龍園くんに本殿に入るところを見られてるなんて思わなかったけどね。

 

 龍園翔。Cクラスのリーダー。

 彼には1学期散々苦しめられてきた。

 そんな彼の言動により、特別試験結果発表の場で、私と彼は晒し者にされた。

 あの時は本気で潰してしまおうかと思った。なぜなら私を気遣って彼が私から距離を置こうとするのが予想できたから。結果、私と彼の絆はより深まった。

 なので今の私は龍園くんにとても感謝している。まさか天敵だった龍園くんに感謝をする日が来るなんて。人生何が起きるかわからないよね。

 

 試験6日目に愛しの彼に質問したことがある。もし私が龍園くんに酷い目にあわされたらどうするか。彼は龍園くんを半殺しにすると言った。

 その答えは冗談でも、アニメネタでもなく、本気で言っていた。彼は本気で龍園くんを半殺しにするつもりだ。

 もちろん彼を停学や退学にさせるわけにはいかないので、龍園くんとトラブルにならないよう気をつけていくつもり。

 けれど万が一、私と彼の関係が思うように進展しなかったら……。その時は龍園くんを利用させて貰おうかな。

 だからもう少し彼に潰されないように気をつけてね。

 私と彼の為に。

 

 それと今回の件で、私に失望したクラスメイトがいるかもしれない。

 でもそんなことはどうでもいい。

 私と彼の関係が進展したのだから。

 それに何人か私に不満を持ってくれる生徒がいた方が、彼と結ばれた時に学級委員長を辞めやすくなる。

 そう。私は彼と恋人になったら、学級委員長を辞めるつもりだ。

 彼と付き合えたら、もう一之瀬帆波というブランドは必要ないから。

 学級委員長を辞めればクラスの為に費やしてた時間を、彼の為に使えるようになる。

 もちろんBクラスの人たちと敵対するつもりはない。出来るだけ一緒にAクラスを目指すつもり。けれどあくまでBクラスの一生徒としてだ。学級委員長の一之瀬帆波としてじゃない。

 私が学級委員長を辞めても、神崎くんがクラスを引っ張ってくれると思う。千尋ちゃんもいるし、私と学級委員長の座を争ったあの子もいる。だから大丈夫。

 

「……あ、もうこんな時間……」

 

 スマホで時刻を見ると、トイレに駆け込んでから10分以上経っていた。しまった、彼を10分も待たせてしまった。

 私は急いで彼の元に戻った。何故か彼は「ニャンコ先生」と呟いていた。一週間もアニメが見れなかったので禁断症状でも起こしてるのか心配になった。

 私が声をかけると、いつもの彼に戻っていた。

 結局、カフェには2時間以上もいた。本当はファミレスみたいに彼の隣に座りたかったけれど、真正面にしか椅子がなかったので我慢した。

 カフェを後にした私たちは、自室に戻ることにした。

 道中、須藤くんたちと遭遇した。山内くんの私を見る目が物凄く気持ち悪かった。私はすぐに彼の背中に隠れた。そんな山内くんを嗜めたのは、愛しの彼ではなく須藤くんだった。須藤くんは以前と雰囲気が全然違った。あんな爽やかで落ち着いた人だったっけ。

 山内くんからいやらしい視線を受けた私だけど、カフェでもラウンジでも通路でも同じような視線を受けた。

 もちろん彼以外にそんな視線を向けられるのは不快だ。けれど彼との仲を深めるためだと思えば我慢出来た。

 それに今日は彼が隣にいる。彼が隣にいてくれればどんな視線だって耐えられる。

 彼は私の部屋まで送ってくれた。本当はこのまま部屋に連れ込みたかったけれど個室じゃないので泣く泣く諦めた。

 

 その日の夜。久しぶりのふかふかのベッドを味わいながら私は横になっていた。

 そんな私は、一人の女子生徒のことを考えていた。

 堀北鈴音さん。彼と同じDクラスの子。そして私が一番嫌いな子だ。

 試験2日目の朝。BクラスとDクラスの情報交換の場で、私は初めて堀北さんと言葉を交わした。

 彼女から若干敵意を感じた。向こうも私を嫌ってるようだった。実際、神崎くんの言葉には反応するのに、私の言葉には反応してくれなかったからね。

 別に無理に彼女と仲良くするつもりはないので気にしていない。

 私が気になったのは彼女が彼のジャージを着ていたことだ。

 わざとだろうか。彼女は必要以上に上着を指で掴んでいた。もしかして私を挑発していたのかもしれない。私の前で彼の上着を着ている自分を見せつけるために。

 もしかして彼女も私と同じように、彼の衣服を抱いて、夜な夜な自分を慰めてるのだろうか。

 冗談はさておき、もしあれが私に対する挑発だったなら、彼女は自分の気持ちに気づいたということになる。

 彼に恋心を抱いていると自覚した堀北さんはどんな行動に出るのだろうか。

 予想はつかないけれど不安はない。

 だって私は彼女に負けるなんてこれっぽっちも思ってない。

 彼に依存している堀北さんだけれど、彼が私のものになったらどうするのだろう。

 寄生先がなくなった寄生虫は生きていけるのだろうか。

 私はそんなことを思いながら、意識を手放した。

 

 




なんかバカップルの話になってしまった
それと実は一之瀬に天罰が下ってました

次回タイトル「堀北鈴音:ライジング」
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