実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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今日から3日連続投稿!


33話 彼女と見る星空

 朝食の時間。昨晩も訪れたカフェ『ブルーオーシャン』の奥のテーブル席に俺は座っていた。ほとんどの生徒はビュッフェに行ってるようで、店内は数人の生徒しかいない。

 

「おはよう」

 

 堀北が颯爽と現れた。

 

「おはよう」

「待たせてしまってごめんなさい」

「いや、約束の時間まで10分あるし大丈夫だぞ」

 

 俺も今来たばかりだしね。

 

「そう。それじゃ朝食を頼みましょうか」

「そうだな」

 

 俺と堀北は店員を呼び、モーニングセットを注文した。

 

「朝食が来るまで、昨日の続きを話しましょうか」

 

 昨晩の試験の説明後、俺と堀北と平田は試験について少し話をしたが、櫛田との約束があったので中断になっていた。

 

「まずグループの割り当てなのだけれど、あなたはどう思う?」

「まず竜グループにリーダー格を集めるよう仕向けているのは間違いないと思う」

 

 恐らく先生方は話し合って決めたのだろう。

 

「そうね。Bクラスの学級委員長である一之瀬さんは担任に気遣われ、他のグループになったと見ていいかしら」

「だろうな」

 

 一之瀬曰く、星之宮先生はそんな気遣い出来ないとのことだけどね。

 

「そろそろ所定の時間ね。本当にメールは来るのかしら」

 

 時刻が午前8時を迎えると、同時に互いの携帯が鳴った。すぐに届いたメールを確認する。ほぼ同時に内容を読み終え、互いに携帯の画面を見せ合う。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人して自覚を持って行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。竜グループの方は2階竜部屋に集合して下さい』

 

 俺と堀北の文章は全く同じだ。

 

「どうやら二人とも優待者には選ばれなかったようね。喜ぶべきか悲しむべきか」

「どうだろうな」

「この試験……優待者に選ばれたかどうかは大きな差よ。優待者以外の生徒は全員、優待者を見つけるために奔走しなければならない。それと学校側はデメリットがないと言っていたけれどそれは嘘。優待者が自分のクラスにいなければ、他のクラスと差が開く可能性は大きいもの」

 

 確かにDクラスが何も出来なくてもマイナスにはならない。しかしクラスポイントで大きな差をつけられることになってしまう。

 

「……あなたは、この試験の結果が見えていたりする?」

「まだ。まずは情報を集めないとな」

 

 とりあえず全グループのメンバーリストが欲しい。これは平田と櫛田あたりにお願いすれば集められるだろう。問題なのは優待者だな。うちのクラスに何人かいてくれればいいんだけど……。

 

「そうね」

「ま、今の俺は氷菓を見てるおかげで頭が冴えてるからな。期待しててくれ」

「期待する理由に根拠がないのだけれど……」

 

 どうやら俺がアニメにどれだけ影響を受けるのか堀北はまだわからないようだ。

 

「いい天気だな鈴音」

 

 不敵な笑みを浮かべながらやって来た二人組。

 Cクラスの龍園と伊吹だ。

 

「気安く名前で呼ばないで。それから……久しぶりね。下着泥棒の伊吹さん」

 

 堀北が挑発するように言う。

 

「……」

 

 挑発された伊吹は不服そうにしている。下唇を噛んでるのを見ると、龍園から噛み付かないよう命令されているのかもしれない。

 

「龍園くんも彼女に気をつけたほうがいいわよ。彼女、男子の下着を盗む変態だから」

 

 堀北が耐えている伊吹に追い打ちをかける。

 

「この……っ!」

 

 その露骨な挑発に、伊吹は苛立ちを隠せず詰め寄った。……なぜか俺に。

 

「お前の下着なんか盗んだ覚えはない!」

「つまり無意識に盗んでしまったと。そんなに俺のことが好きだったのか」

「殺してやる!」

 

 更に伊吹が詰め寄ってきたが、直前で思いとどまったようだ。

 無人島ではわからなかったけど、どうやら短気な性格のようだ。以前の須藤と同様に扱いやすそう。

 

「女にモテるな猿野郎。今日は鈴音と朝食か。一之瀬に飽きたのかよ?」

「言ってろ。それより何の用だよ?」

 

 朝から龍園の顔を見ることになるとは。

 

「昨日の様子を見ると、葛城は随分お前たちを警戒している様子だったな」

「無理もないわ。彼はDクラスの私たちにそれだけの力があるとは思っていなかったようだから」

 

 俺と堀北は社交性と協調性がないからDクラスなだけだ。それ以外のスペックはAクラス……いや、Sクラス並だと認識しておくんだな葛城。

 しかしAクラス、Bクラスとかって幽遊白書の妖怪のクラスみたいだな。個人的に躯の活躍をもっと見たかった……。

 

「だろうな。それに葛城のやつは敗因もわかってないだろうよ」

 

 つまり龍園はわかっているということか。

 

「なら説明してもらっていいかしら。正解していたら答えてあげるわ」

 

 堀北がそう言った。龍園は不敵に笑う。……不敵に笑うの好きだなこいつ。

 

「試験終了時、俺はお前の名前を書いたが結果は違っていた。その理由はただ一つ、試験終了前の段階でリーダーが別の誰かに替わっていたってことだ。これ以外にはない」

「それで看破したつもり? そんなことは少し考えれば誰でもわかることよ」

「続きを聞けよ。恐らくそこの猿野郎が企んだんだろ。伊吹に鈴音がリーダーだと認識させたことも、リーダーを替えたこともよ」

 

 大正解。本当はもう一人協力者がいるんだけどね。

 

「……正解よ」

 

 堀北が淡々を答えた。

 

「龍園。お前は二つミスを犯した。一つ目はスパイをDクラスとBクラスだけに送り込んだこと。二つ目は俺をCクラスのキャンプ地に招いたことだ」

「……ちっ、無線機か」

 

 今のでよく気づいたな。今回の試験は葛城より龍園の方が厄介になりそうだ。……いや、神崎もいるんだよな。厄介な敵ばかりじゃん。

 

「無線機ってどういうこと?」

 

 伊吹が聞いてきた。

 

「伊吹が隠していた無線機と同じものが龍園の近くに置いてあったんだよ。もちろんスパイだと気づいたのはそれだけじゃない。堀北に伊吹の鞄にデジカメが入っていたことも確認している」

「……は?」

 

 本当は漁ったのは綾小路なんだけど。ここは俺じゃなく同性の堀北の方が嫌悪感が少なくてすむだろう。

 

「クラスを追い出された生徒がデジカメを持つわけがない。持つとしたら理由はただ一つ」

「キーカードの撮影よ」

 

 俺の説明に堀北が続く。

 

「伊吹さんはまんまと私たちの作戦にはまってくれたってわけ」

「く……っ」

 

 またも悔しそうな表情を見せる伊吹。

 

「そしてなぜキーカードの撮影が必要だったのか。龍園に教えるだけなら撮影なんて必要ない」

「そうね。わざわざスパイまでして嘘の情報をクラスのリーダーに教える意味がないもの」

「堀北の言う通りだ。だから俺はAクラスとCクラスの関係を疑った。AクラスだけにCクラスの生徒が保護されていないのも気になっていたからな」

「つまり伊吹さんがキーカードを撮影したのは、Aクラスの人に証拠として見せるためだと考え付いたわ」

 

 ほとんど綾小路の手柄なんだけどね。

 

「なるほどな。だが一つ疑問が残る。Aクラスのリーダーをどうやって見抜いた?」

 

 龍園が問う。確かの今の説明だと不足している点だ。ちなみに堀北には、偶然綾小路がキーカードを持っている生徒を見たということにしている。

 

「別に見抜いたわけじゃない」

「あん?」

「見抜かなくてもリーダーがわかる方法が一つあるだろ。その方法こそお前が得意な戦法だと思うんだけどな」

「……坂柳派か?」

「ご名答」

 

 本当は全然違うんだけどね。恐らく龍園にもそのうち嘘だとばれるだろう。だがこれでいい。坂柳派が俺に自クラスのリーダーを密告した。この情報によって少しでもAクラス内の対立が激しくなればいい。俺の言ったことが嘘だとわかってても疑念は残る。これから先お互いの派閥が密告するとのではないかと。最初は小さなヒビかもしれない。だが徐々にヒビが広がっていけば崩壊する。ただでさえ入学当初から派閥争いをしているAクラスだ。他のクラスより効果的だろう。

 

「面白ぇ。俺が好む不意打ちやだまし討ちの類、その戦略を取って来る意外性。……気に入ったぜ猿野郎」

 

 お前に気に入られても嫌なんだけど。

 

「ククク。今回の試験も俺を楽しませてくれよ」

「なんで俺がお前みたいなクズを楽しませなきゃいけないんだよ。死ねよ」

 

 龍園と絡むと口調が汚くなってしまうな……。

 

「つれねぇこと言うなよ。葛城と一之瀬相手じゃつまらねぇと思ってたんだ」

 

 その言い方だと、一之瀬に手を出すことはなさそうだな。……計画通り。

 

「だったら坂柳はどうなのさ」

 

 そう言ったのは、俺ではなく伊吹だった。

 どうやら伊吹は、龍園の優先順位を知りたいようだ。

 

「あの女は最後のご馳走。今食うにはもったいないってだけだ。いくぞ伊吹」

 

 龍園は、伊吹を引き連れて去っていく。

 

「朝から嫌なやつに絡まれたな……」

「お疲れ様」

 

 俺がため息をつくと、堀北が労ってくれた。

 その後、朝食を済ませ俺と堀北は自室に向かっていた。

 

「もしかしたら俺たち、行動を見張られていたのかもしれないな」

「え」

「合流するにしてはタイミングが良すぎるだろ」

「……確かにそうかもしれないわね」

 

 見張りまでさせてるとなると、完全にDクラスを潰しにかかっているのかもしれない。

 ……もしかして、昨日の一之瀬との船内デートも見張られていたのか? 頭なでなでしてるの見られてたらどうしよう……。

 

「話し合いは部屋で行った方がいいわね」

「そうだな」

「あなたが茶柱先生に与えられた個室はどうかしら?」

「あの部屋は駄目だ。あくまで勉強部屋として与えられている。勉強以外の使用や他の生徒を招きいれるのは禁止されてるんだよ」

「……そう。ならお互いの部屋で話すしかなさそうね」

 

 俺の部屋はリーダーの平田、暗躍者の綾小路、自称データベースの博士がいる。話し合いをするならもってこいの面子だ。

 

「話し合いをする時は俺の部屋にしよう」

「ええ」

 

 その後、堀北を部屋まで送り届け、俺は自室に戻った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 時刻は12時50分。指定された部屋に入室したところ、誰もおらず一番乗りのようだ。

 室内には円卓のように並べられた椅子が見受けられる。テーブルは部屋の端っこに置いてあった。

 

「席順の指定もないようだから適当に座っていいみたいだな」

「そうね」

「そうみたいだね」

 

 俺がそう言い、椅子に腰をかけると堀北と平田も順に座っていく。

 この椅子、座り心地が悪い。お尻が痛くなりそうだな……。

 

「もう来てたのか。早いな」

 

 俺が椅子に不満を抱いてると、神崎たちBクラスの三人が入室してきた。

 

「さっき来たばかりだ。神崎たちとそう変わらないぞ」

 

 神崎は「そうか」と言い、俺の右隣の椅子に腰を下ろした。ちなみに左隣には堀北と平田が順に座っている。またもや堀北逆ハーレムの構図が出来たぞ。これで葛城が堀北の正面の椅子に座ってくれれば完璧だな。

 

「界外。お前はこの試験どう見る?」

 

 神崎が聞いてきた。

 

「情報がなさ過ぎて何とも言えないな」

「そうだな。……それより大丈夫なのか?」

 

 どうやら神崎も俺と一之瀬の悪評の件を心配してくれてるようだ。

 

「問題ない」

「ならいいんだが。一之瀬の方は心配しなくていい。クラスの数人の女子が守ってくれている」

 

 白波さんと網倉さんのことかな。その二人が傍にいれば大丈夫だろう。

 その二人がいなくなる試験時が心配だ。後で綾小路に聞かないと。

 

「そっか。迷惑かけるな」

「謝る必要はない。お前たちは悪いことをしたわけじゃないんだ」

 

 やだこの人イケメン過ぎる。そう言えば佐藤がうちのクラスの女子に神崎狙いがそこそこいるって言ってたな。

 俺が神崎に見惚れてると、続々と竜グループのメンバーが入室して来た。葛城と龍園は俺を一瞥して椅子に座る。どうやら大分俺を意識してくれてるようだ。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 簡潔で短いアナウンスが流れる。……いや、短すぎない? もう少し指示出してくれよ。

 案の定、状況も周りのメンバーもよくわからないグループ内で誰も率先して話そうとしない。

 

「えっと、とりあえず学校からの指示通りに自己紹介はした方がいいんじゃないかな」

 

 その嫌な空気を変えようと平田が声を発した。けれど皆の反応が悪い。

 

「平田の言う通りだな。この部屋に監視カメラは見当たらないが、音声を拾うマイクがセッティングされてる可能性もある。不利にならないよう最低限自己紹介だけでもした方がいいと思う」

「確かにその可能性はあるな。葛城、龍園、どうだ?」

 

 俺が平田の援護射撃をすると、神崎が同調し、葛城と龍園に問う。

 

「……そうだな。自己紹介だけはしておくか」

 

 葛城がそう言う。自己紹介だけということは、会話する意思はないということだろうか。

 

「面倒くせぇな」

 

 龍園がぼやく。しかし顔を見る限り、渋々受け入れてるように見える。

 平田との自己紹介を皮切りにぐるりと一周自己紹介が始まった。と言ってもほぼ全員が名前を言うだけの非常に寂しい自己紹介になってしまったわけだけど……。

 自己紹介が終わり、再び静寂の時間が訪れた。誰か進行してくれないだろうか。

 

「平田、この後どうする?」

 

 無音に耐え切れず、平田に問いかける。

 

「そうだね……。僕としてはみんなと協力し合って、結果1を追い求めたいと思うんだけど、どうかな?」

 

 ちなみに平田の発言は嘘だ。俺たちDクラス三人に優待者はいなかった。なので俺たちは結果3を追い求めることにした。つまりクラスポイントを獲得を目指すということだ。

 

「俺は平田の意見に肯定だ。グループとして組む以上協力するのは必須だろう」

 

 神崎が平田に賛同する。後二人のリーダーはどう答えるやら。

 

「確かに平田の言う通りだろう。だが俺たちAクラスは全員沈黙させてもらうことにする」

 

 葛城は本当に自己紹介以外に会話に参加する気がないようだ。

 

「葛城くん、それはどういう意味かな?」

「俺は余計な話し合いをせず試験を終えることが最善だと思っている」

 

 葛城が堂々と言う。

 

「この試験で絶対に避けたい結果は、裏切り者を生み出すことだ。裏切り者が正解しようと失敗しようと、どちらにせよ敗北だ。だがそれ以外の答えの場合はどうなる?」

「……マイナス要素が存在しない、ということかしら」

 

 葛城の問いかけに堀北が答える。

 

「そうだ。残り2つの結果にはデメリットがない。クラスポイントが詰まることも開くこともない。そのうえ大量のプライベートポイントが手に入る。下手に話し合い、周囲の面々を優待者と疑い、過ちを犯す方がよほど危険だと思わないか」

「ある程度の有効性は認めるわ。けれどどこかのクラスに優待者が固まっていたら? 数百万のポイントがそのクラスに流れ込むことになるわ。クラスポイントには影響ないけれど、プライベートポイントの重要性はみんな気づいてるはずよ」

 

 俺は静かに葛城と堀北のやり取りを聞いている。

 

「少し考えればわかることだが、学校が不公平な振り分けを行うはずがない。試験開始前に公平性を嫌というほど、強調していた。前の試験でも公平さは保たれていただろう。 どのクラスも平等なスタートであることは疑う余地がない」

 

 話が長い……。

 

「あー、もういい。ようはAクラスと他のクラスとの差を縮めて欲しくないだけだろ」

「それは――――」

「卒業までに、何回特別試験が行われるかわからない。試験のたびに葛城が提案した作戦を続けたら、最終的なクラスの位置も変わらない。俺たちは貴重なチャンスを棒に振るつもりはないぞ」

 

 特別試験以外にクラスポイントを増やす機会もあるんだけど黙っておく。

 

「俺も同意見だ。Aクラスに逃げ切りを許すつもりはないからな」

 

 神崎が続く。俺たちよりBクラスである神崎がこの中で一番Aクラスを追い越したい気持ちが強いだろう。

 

「なら反対というわけか。先に言っておくが、既にAクラスの方針は固まっている。話し合いには応じない」

 

 坂柳派も同じなのだろうか。後で確認しないと。……確認事項ばかり増えて嫌になってくるな。

 

「はっ、前回の試験で惨敗してビビっちまったのか?」

 

 龍園が挑発するように言った。

 

「そう捉えてもらって構わない」

「つまんねぇ奴だな。そんなんじゃ坂柳に勝てないぜ?」

「……お前には関係ないだろう」

 

 冷静を装ってる葛城の眉間に一瞬皺が入ったのを俺は見逃さなかった。どうやら坂柳と葛城は俺が思っている以上に犬猿の仲のようだ。

 

「龍園くんはどうかな?」

「俺は人に指示されるのが好きじゃねぇんだ。喋りたいときに喋る」

 

 平田の問いかけに、だるそうに龍園が答える。

 

「そっか。それじゃ発言したいときは遠慮なく発言してくれると助かるよ」

 

 勝者の余裕だろうか。平田が大人の対応を見せる。

 

 結局話にまとまりが生まれることもなく、1時間が経過した。自由にしてよいというアナウンスが流れ解散可能な状態となる。

 

「先に失礼する」

 

 すぐにAクラスの面々は固まって部屋を後にした。

 龍園たちCクラスも続けて部屋を出ていく。

 

「僕たちも帰ろうか」

「そうだな」

 

 平田に促され俺たちDクラスも部屋を後にする。

 神崎たちはまだ残るようだ。

 

「とりあえず作戦会議でもするか」

「そうね。場所はあなたの部屋でいいのよね?」

 

 隣を歩く堀北が問う。

 

「ああ。正確には俺たちの部屋だけどな」

「……どうやら他の人たちも来るみたいだよ」

 

 携帯を弄りながら平田が言う。今は少しでも情報が欲しいので助かる。それに平田と櫛田にお願いすることもある。

 部屋に戻ると既に綾小路と博士が戻っていた。そして二人と同じグループの幸村もいる。ちなみに博士は堀北の姿を見て小さく悲鳴をあげていた。

 5分ほどして櫛田も部屋にやってきた。

 

「ごめんね。遅くなっちゃった」

「そんなことないよ。来てくれてありがとう」

 

 平田がイケメンスマイルで言う。

 

「呼び出して悪かったな」

「ううん。私も界外くんたちに報告しようと思ってたから、気にしないで」

 

 櫛田はそう言うと、ベッドに座っている俺の右隣に腰を下ろす。左隣に座る堀北から怒気が感じられるのは無視しよう。

 

「それじゃ面子も揃ったことだし、始めようか」

 

 Dクラスの一部の生徒による作戦会議が開始された。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「なるほど。どうやら葛城の言ってたことは本当のようだな」

 

 幸村から兎グループのAクラスの面々も話し合いに参加しない方針であることが明かされた。

 

「蛇グループも同じだよ。全く会話に参加する意思はない感じだね」

 

 櫛田のグループも同じ。無人島試験で失敗を犯した葛城だが、どうやら統率は取れているようだ。

 けれど葛城の底は知れた。恐らく前回の失敗を踏まえて作戦を立てたのだろう。過去の失敗を引きずる奴なんて俺の敵じゃない。

 対して龍園は前回の失敗を気にしていない。むしろ楽しんでいると言ってもいい。……龍園を敵にするのは案外疲れるかもな。

 

「界外くん。あの場ではみんなで協力し合うと言ったけど、優待者を探し出して、他のクラスなら裏切るという方向でいいんだよね?」

 

 平田が確認してきた。

 

「そうだな。確かに大量のプライベートポイントも大事だが、一番大事なのはクラスポイントだ。目標は今回の試験でCクラスに昇格することだ」

「俺も界外の意見に賛成だ」

 

 珍しく俺と幸村の意見が一致した。

 

「前にも言ったと思うが、俺は一日でも早くAクラスに昇格したい。なので今回の機会を棒に振りたくない」

 

 お、今回の幸村はなんか頼りになりそうな予感。

 

「そうね。私も界外くんの意見に賛成よ」

「拙者もでござる。Aクラスで卒業して、ラノベ作家になって、声優と結婚するでござるよ!」

 

 堀北、博士と続けて同調する。

 それよりAクラスで卒業すれば好きな出版社と契約出来るのだろうか……。

 

「みんな結構野心的なんだね」

「櫛田さんはどうかな?」

 

 平田が櫛田に問う。

 

「うん。私もAクラスになれるならなりたいし……界外くんに賛同するよ」

 

 俺の顔を覗きこみながら微笑む櫛田。

 確かにこんな笑顔を見せられたら池が惚れるのも仕方ないな。

 

「綾小路くんはどうかな?」

「オレもみんなと同意見だ」

 

 平田の問いに綾小路が答える。

 

「それじゃみんなの意見が確認出来たということで、今回はこれでお開きにしようか」

 

 平田がそう言うと、幸村と堀北はすぐに部屋を後にした。

 

「それじゃ私も部屋に戻ろうかな」

「櫛田はちょっと待ってくれ」

 

 立ち上がろうとする櫛田の裾を引っ張り制止する。

 

「実は櫛田と平田にお願いしたいことがあるんだ」

「僕たちに?」

「なにかな?」

 

 平田、櫛田が順に聞いてくる。

 

「Dクラスの優待者に名乗りをあげるよう呼びかけしてもらいたいんだ」

 

 葛城の言うとおり、平等であればDクラスにも3~4人は優待者がいるはずだ。その優待者がわかれば、他のクラスの優待者が誰なのかわかるだろう。優待者を導き出す法則が必ずあるはずだ。

 

「わかった。チャットで呼びかけてみるよ」

「私も」

「助かる。それと平田は女子に、櫛田は男子に呼びかけてくれ」

 

 そっちの方が名乗り出る人が多そうな気がする。

 

「わかったよ。幸い女子なら堀北さん以外の連絡先ならわかるから」

「私も男子なら全員知ってるよ」

 

 さすがトップクラスのコミュ力を持つ二人だ。

 

「優待者がわかったら界外くんに報告すればいいかな?」

 

 櫛田が問う。

 

「そうだな。よろしく頼む」

「うん! 私、頑張るね!」

「お、おう……」

 

 呼びかけするだけだからそこまで頑張らなくてもいいと思うけど。

 

「それじゃ部屋に戻るね」

 

 櫛田はそう言い、自室に戻っていった。

 残ったのはこの部屋に割り当てられた四人。

 

「さてと、博士わかってるな?」

「もちろんでござる」

 

 作戦会議は終わった。これから優待者を探すため頭を使って考えなければならない。ならば俺たちがやるべきことは一つ。

 

「氷菓の続きを見よう」

「でござるな」

 

 俺たちがそう言うと、平田が思いっきりずっこけた。綾小路はやれやれという表情をしている。

 

「な、なんでアニメを……」

「愚問だぞ平田。今回の試験は頭を使う。なので氷菓を見て頭をもっと冴えるようにするんだ」

「ぐふふ。拙者、気になるでござる」

 

 博士がそれ言っても萎えるだけだな。

 平田が心配そうな顔で見てくる。

 

「そう心配するなよ。優待者がわかれば、すぐに法則性がわかるはずだ」

「拙者はデータベースなので答えは導きだせないので界外殿に任せるでござるよ」

「そ、そう……。それじゃ僕は軽井沢さんに呼び出されたから行ってくるよ」

 

 平田は困り顔をしながら部屋を後にした。

 

「綾小路も一緒に見るか?」

「……そうだな。やることもないから見させてもらうか」

「あ、思い出した! 綾小路に聞きたいことがあったんだ」

「なんだ?」

 

 俺は綾小路に一之瀬の様子を伺った。彼女はあの噂を気にすることもなく進行役をしているとのことだった。どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。

 その後、夕方まで三人で氷菓を見続けた。氷菓の主人公と綾小路って少し似てるよね。無気力男子って言えばいいのだろうか。

 途中、櫛田から自分が優待者だとチャットが届いた。あの場で言ってもらってもよかったんだけど……。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 時刻は夜8時10分。

 Aクラスは2度目の集まりでも話し合いには一切参加しなかった。全員腕を組んでだんまりを決め込んでいる。俺みたいに本を持ち込んで読書でもすればいいのに……。

 

「界外。さっきから何の本を読んでいるんだ?」

 

 神崎が本を覗き込みながら聞いてきた。

 

「北欧神話の本だよ」

「北欧神話?」

「ああ。10月から禁書3期が放送されるから、予習みたいなものだ」

 

 禁書には北欧神話が欠かせないからね。3期の範囲にはあまり関わらないかもだけど。

 

「禁書?」

「アニメだよ」

「そ、そうか……」

 

 どうやら引かれてしまったようだ。左隣の堀北もため息をついている。くそ、この場に一之瀬か博士がいてくれたら、「最近は雷神トールが熱いよね」とか盛り上がるのに……。

 

「はっ、まさかアニメオタクだったとはな。気持ち悪い野郎だぜ」

「そんなアニオタに惨敗したのは誰だろうな負け犬の龍園くん」

「あ?」

「お?」

 

 不良とアニオタが睨みあう。人の趣味を貶しやがって。てめぇは早く髪の毛切って、バスケ部に戻りやがれ。

 

「界外くんも龍園くんも不毛な争いはやめるんだ」

 

 平田に注意されてしまった。……安い挑発に乗ってしまった。

 

「……わかったよ」

「ちっ」

 

 龍園も引いたようだ。次にアニメを馬鹿にされても我慢しよう。

 そんなこんなで1時間が経過した。今日も試験が終了するとすぐにAクラスは部屋から出て行った。Cクラスも続けて出て行く。

 

「まったく進展がないね」

「そうだな。思ったより大変な試験になりそうだ」

 

 平田と神崎がため息をつきながら言う。

 

「恐らくこのまま単純に話し合いを続けても、誰も素直に優待者とは認めないだろう。このまま平行線が続くようなら、最悪Aクラスの思惑通りに動くのも一つの手かもしれない」

「神崎くんの言う通りだね。でも諦めないで頑張ろう」

「ああ。とりあえず今日は終わりだ。先に失礼する」

 

 神崎はそう言うと、他の二人を連れて部屋を出て行った。

 

「僕たちも帰ろうか」

「そうだな」

「そうね」

 

 部屋に残ってもすることがないので、俺たちも神崎に続いて部屋を後にした。

 部屋に戻る途中で松下と遭遇したが、目を合わすだけでお互い話しかけることはなかった。理由は、事前に松下から人前で話しかけないよう言われてるからだ。今の状況の俺と話してると変に目立ってしまうからね。こういう松下のドライなところ結構好きだったりする。

 

 夕食とシャワーを済ませ、俺は勉強部屋にこもっていた。

 

「呼びかけに応じたのは櫛田と南だけか……」

 

 そう。俺は夕食後に櫛田から南も優待者であると報告を受けていた。ちなみに櫛田と南が優待者と知っているのは同部屋の三人と堀北のみ。堀北も俺と同様に法則性を考えると言っていた。

 優待者。後一人か二人はいると思うんだが、名乗り出ないのであれば仕方がない。

 とりあえず法則性は導きだせた。けれど二人だけだと心許ないんだよな……。せめて五人は欲しいけど、他のクラスの優待者が教えてくれるはずないしな。

 ……いや、ここは勇気を出して攻めるべきか。

 

「難しいな……」

 

 そうぼやいてると、携帯に学校からの通知が届いた。

 まさかもう裏切り者が出たのか!?

 

『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以後試験に参加する必要がありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』

 

 俺はすぐに猿グループのメンバーリストを確認する。そこには真っ先に裏切りそうな生徒が一人いた。

 

「高円寺か」

 

 もちろん高円寺がメールを送ったのを見たわけではない。けれどこんな行動を起こせるのは高円寺だけだ。

 恐らく拘束されるのを嫌ったのだろう。

 もし猿グループが結果3になれば、高円寺は優待者の情報もなく、この法則性に辿り着いたということになる。……高円寺も協力的ならあっという間にAクラスにいけそうな気がするんだけどな……。嘆いても仕方ない。

 今頃、全生徒が驚いてることだろう。まさか初日から裏切り者が出るなんて誰も思わなかったと思う。 

 

「……そうだよな。守りに入ってもしょうがないよな」

 

 そうだ。何をびびっていたんだ俺は。守りに入った葛城を酷評してたじゃないか。

 もし間違っていても150クラスポイントなら挽回できる。

 明日、綾小路たちに報告しよう。

 

「さて部屋に戻るか」

 

 ベッドから起き上がった瞬間、再度携帯の着信が鳴る。堀北から電話だ。

 

「もしもし」

「通知届いた?」

「届いたぞ。恐らく高円寺だろう」

「……彼ならやりかねないわね」

 

 納得したような諦めたような口調で堀北が言う。

 

「そういえば堀北は法則性わかったか?」

「恐らく」

「それじゃ明日答え合わせをしよう」

「界外くんもわかったのね」

「まぁな」

 

 綾小路も恐らく法則性を導きだしてるだろう。あいつは俺より頭が切れる。

 

「それじゃまた明日な」

「ええ。おやすみなさい」

 

 堀北との通話を終え、勉強部屋を出る。

 時刻はもう11時半。そろそろ寝ないといけない。

 ……今日は一之瀬と会えなかったなぁ……。

 

「ま、試験中だから仕方ないか」

 

 俺はそう自分に言い聞かせ、自室に向かった。

 部屋に戻ると平田は電話の対応に追われていた。恐らくクラスメイトから問い合わせが沢山入ってるのだろう。

 博士は既に眠りの世界に旅立っている。

 

「大変そうだな、平田」

「ああ。もう20分以上あのままだ」

 

 平田に聞いても、平田が裏切ったわけじゃないから意味ないと思うんだけどな。

 

「綾小路はまだ寝ないのか?」

「そろそろ寝ようと思っていたところだ」

「そっか。……法則性はわかったか?」

「一応な。その様子だと界外もわかったようだな」

「まぁな。ちなみに堀北もわかったようだぞ」

「……そうか。堀北も」

 

 少しだけ目を見開く。堀北だってやれば出来る女の子なんだぞ。

 

「これからどうするかは明日話すよ。俺も眠いからもう寝る」

「わかった。おやすみ」

「おやすみ」

 

 俺と綾小路は同時にベッドに横になった。

 ……駄目だ。眠れない。携帯の画面を見ると0時半を過ぎた頃だった。何でこんな寝付けが悪いのだろう。一之瀬不足なのだろうか。

 

「……気分転換に夜の海でも見に行くか」

 

 皆を起こさないようにそっと部屋を出る。

 船外のデッキに着くと、そこには満天の星空が、視界一杯に広がっていた。

 

「綺麗だな」

 

 この星空を一之瀬と一緒に見たかった……。

 周りを見渡すと少数ではあるが男女の生徒が手を取り合ったり肩を組み合ったりして同じ星空を見上げていた。

 

「寂しい……」

 

 この場に一人でいるのが虚しくなってきた。……帰ろうかな。

 

「あれ? 界外くん……?」

 

 踵を返そうしたところで、声をかけられた。

 

「その声は……櫛田か?」

 

 闇から浮かび上がってきたのは櫛田だった。驚いた顔で俺を見ている。

 

「そうだよ。界外くんは一人?」

「ああ。なんだか眠れなくてな」

「私も一人だよ。二人とも独り身だね。ちょっと肩身が狭かったから嬉しいかも」

 

 櫛田はそう言いながら、傍に寄ってきた。

 お風呂から上がって間もないのか、心地よい香りがする。

 

「櫛田が一人なんて珍しいな」

「そうかな?」

「いつも誰かしらと一緒にいるイメージがある」

 

 櫛田が一人で行動してるのを始めて見たかもしれない。

 

「私もたまには一人で行動するよ。それにこんな時間だしね」

 

 時刻は0時半。大半の生徒は寝ている時間帯だ。俺も通常なら眠りの世界の住人になっている。

 

「そっか。……あれだな。綺麗な星空だな」

「うん。こんな素敵な光景を見れただけで、旅行に来た甲斐があったかも」

 

 微笑みながら櫛田が言う。けれどその笑顔はいつもよりどこか儚げに見える。

 

「そうだな。東京じゃこんな夜景見ること出来ないもんな」

「だよね。もしよかったら暫く一緒に夜景を楽しまない?」

「いいぞ」

 

 俺は櫛田は並んで夜空を見上げる。

 

「……私たちもカップルに見えるのかな?」

「男女が一緒に夜景を見てたら、そう見られる可能性は高いだろうな」

 

 どうせ他のカップルたちは自分たちの世界に入って、周りなんて見えてないだろう。

 

「ま、俺とカップルに見られても困るだろうけど」

「そんなことないよ!」

「え」

「そんなことない」

 

 櫛田が俺を見据えて力強く言う。

 

「そ、そっか……。ありがとう」

「ううん。大きな声出しちゃってごめんね」

「いや、別にいいけど……」

 

 なんか気まずい雰囲気になってしまった。……そろそろ帰るか。

 

「櫛田。眠たくなってきから部屋に戻るよ」

「え」

「また明日な」

「ま、待って―――――――――――――」

 

 何を思ったのか櫛田が胸元に飛び込んできた。ジャージ越しとはいえ豊満な胸の感触を感じる。

 

「……ど、どうしたんだ?」

 

 なんで櫛田に抱きつかれてるのだろう。理解不能な展開に困惑する。

 

「……ごめん。なんか急に、その……一人になるのが寂しくなっちゃったのかも」

 

 胸元で櫛田が囁く。何分経っただろう。櫛田は無言で俺の胸元に顔を埋め続けた。そしてゆっくりと距離を取る。

 

「ご、ごめん。界外くんに抱きついちゃったりして……」

「あ、ああ……」

 

 暗がりで櫛田の顔色は伺えなかったが、心なしか赤いような気がする。

 俺が櫛田を見つめてると、彼女はポケットから携帯を取り出した。

 

「……界外くん、私、そろそろ行くね。今からCクラスの人と会うことになっちゃった」

 

 今からかよ。遅すぎるだろ。

 

「そうか。あんま夜更かししないようにな」

「うん。……界外くんも一緒に来る?」

「いや、なんでだよ」

 

 なぜ俺も一緒に会わないといけないんだろうか。

 

「あはは、だよね。それじゃおやすみなさい」

「おやすみ」

 

 櫛田はゆっくりと歩きだし、デッキを後にした。

 取り残された俺は、櫛田の胸の余韻に浸った。

 それよりさっきの櫛田の表情……

 

「なんか泣きそうな顔してたな……」

 

 恐らく俺の気のせいだろうけど。恐らく眠たくてあくびでも我慢していたのだろう。

 その後、部屋に戻る途中で綾小路と遭遇した。綾小路も眠れなかったようだ。




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Aクラス:1124
Bクラス: 823
Cクラス: 342
Dクラス: 327
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