実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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すっかり秋ですね


35話 ラスボスっぽい人登場

 特別試験2日目の午後3時。俺は気分転換をするために船内をうろついていたところ、一人の男子生徒に声をかけられていた。

 

「よう。久しぶりだな」

 

 男子生徒がそう言う。久しぶりって初対面だと思うんだけど。……新手の詐欺だろうか?

 

「おいおい、俺のこと忘れたのかよ。正義だよ、正義。橋本正義」

「橋本正義……? あー、お前、ジャスティスか!?」

「そのあだ名はやめてくれ」

 

 思い出した。橋本正義。サッカークラブでチームメイトだった男子だ。俺が司令塔でジャスティスがストライカー。結構いいコンビだったと思う。

 

「悪い。橋本でいいか?」

「正義でいいよ。……本当に久しぶりだな、帝人」

「そうだな」

 

 正義と最後に会ったのが小三なので、会うのは6年振りか。

 まさか正義が同じ学校に通ってるとは全然気づかなかった。いや、気づかないのは当然だ。なぜなら……

 

「お前、なんだその髪型は……」

 

 金髪で後ろ髪を結んでいる。さらに両サイドは刈り上げている。

 

「お洒落だろ。高校入学を機に染めたんだぜ」

 

 高校デビューかよ。この学校って頭髪や服装に関しては緩いんだよね。

 

「そのせいでお前が同じ学校にいるなんて全然気づかなかったよ」

「俺は帝人がいるのは知ってたぜ」

「ならもっと早く声をかけろよ」

 

 もう入学してから4か月経ってるんですけど……。

 

「悪い。クラスのことで色々と大変だったんだよ」

「どこのクラスなんだ?」

「Aクラスだ」

 

 マジかよ。こいつ、運動だけじゃなくて勉強も出来たのか。

 

「そうか。サッカーは今もやってるのか?」

「いいや、中学で辞めたよ。今はテニス部に入ってる」

「テニスか」

「一応、中学では全国までいったんだぜ」

「凄いじゃないか。ジュニアユースか?」

「違う。部活サッカーだよ」

 

 こいつの実力ならジュニアユースに入団出来たと思うんだが。

 

「引越し先の家の近くに強豪の私立の学校があってな。そこに進学したんだよ」

「なるほどね。……それで俺に試験のことで何か用があって話しかけてきたんじゃないか?」

「……なんでわかった?」

「タイミングだよ。旧友に声をかけるのが目的なら特別試験が始まる前にいくらでも時間があった。なのに特別試験中に声をかけてきたってことは、俺に用があるってことだろ」

 

 俺がそう言うと、正義は諦めたかのように話し始めた。

 

「ご名答。帝人の言う通りだ。……実は俺のボスがお前に会いたがっててな」

「……坂柳か?」

「そうだ。この後時間あるか?」

「あるけど……何の用なんだ?」

「なーに、悪い話じゃないさ。ついてきてくれ」

 

 正義に導かれるがまま通路を歩き続ける。

 辿り着いたのは、とある部屋の前。

 

「ここって男子部屋じゃないのか?」

「そうだ。坂柳さん以外は誰もいない」

 

 人払いは済んでるということか。

 

「坂柳さん。帝人を連れてきました」

「入ってきてください」

 

 正義の声かけに坂柳が応える。

 そして扉を開け、正義に続いて部屋に入る。

 そこには右手に杖を持った一人の美少女が椅子に座っていた。

 

「お呼び立てして申し訳ありません。どうぞ座ってください」

「あ、ああ……」

 

 坂柳に促され、彼女の正面の椅子に腰を下ろす。

 

「橋本くん、ありがとうございました」

「それじゃ俺はこれで失礼します」

 

 正義はそう言うと、そそくさと部屋から出て行った。

 ていうか坂柳に対して敬語なのね。

 

「初めまして。坂柳有栖と申します。以後お見知りおきを」

 

 坂柳有栖。Aクラスの双頭の一人。

 銀髪で肌は色白の美少女。まるでお人形さんみたいだ。

 

「界外帝人。よろしく」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 Aクラスのトップが俺に何の用なんだろう。それより杖が気になる。カッコいいな……。

 

「これが気になりますか?」

 

 俺の視線に気づいたのか。坂柳が軽く杖を持ち上げる。

 

「ああ。カッコいいデザインだな」

 

 禁書3期の放送も近いので、ついつい意識してしまう。

 

「ふふ、面白い方ですね。初対面の方に杖のデザインを褒められたのは初めてです」

「そ、そうなのか」

「ええ」

 

 博士も杖のデザインを褒めそうだな。

 

「なぜ私が杖を持っているかと言いますと、先天性疾患を患っているからです」

「……そうなのか」

 

 大変だな。ま、俺が同情しても意味がないので普通に接するけど。

 

「それで俺に用とは?」

「はい。……実は界外くんに、葛城くんを潰してほしいのです」

 

 なるほど。そういうことか。

 

「無人島試験に続き、この試験でも失態を犯させ、葛城派閥の勢力を衰えさせたいんだな」

「はい。さすが界外くんですね。理解が早くて助かります」

 

 いや、考えなくてもこのくらいすぐにわかるでしょ。

 それより潰すということは、Aクラスの優待者を全員当てるということだろう。

 

「それで葛城を潰すとして、俺にメリットはあるのか?」

「もちろんです。こちらもただでお願いをしようとは思っていませんから」

 

 だよね。大量のポイントでもくれるのだろうか。

 

「Aクラスの優待者二人の情報の提供と10万ポイントを譲渡します」

「……好条件すぎないか?」

 

 Aクラスの優待者二人がわかれば、合計五人の優待者がわかる。

 

「そうでしょうか? 私は正当な対価だと思います」

「いや、坂柳がそれでいいならいいんだけど……」

「その言い方ですと、引き受けてくれるということでいいのでしょうか?」

「もちろん。断る理由がない」

 

 これでDクラス以外の全グループの優待者を当てにいけることが出来るんじゃないか。

 

「ありがとうございます。交渉成立ですね。もし不安なら誓約書を用意致しますが」

「いや、そこは坂柳を信用するよ」

「そうですか。ちなみに界外くんは、優待者をどのくらい把握していますか?」

「把握しているのは自分のクラスの優待者のみ。ただ法則性は導きだせたと思う」

 

 もちろん優待者を三人しか把握していないので、少しばかり不安がある。

 

「それでは竜グループの優待者は誰だと思いますか?」

「葛城だ。……坂柳も気づいているのだろう?」

 

 俺が法則性を導き出したことを言っても、まったく反応がなかった。

 

「正解です。……ええ、私も気づいていました。試すようなことをしてしまい、申し訳ありません」

「いや、それはいいんだけど」

「恐らく界外くんは、法則性は導きだせましたが、優待者の情報が三人しかない為、心許ないとでも思っていたのでしょうか?」

「よくわかったな……」

 

 まさかこの子、学園都市第五位と同じ超能力を持ってるんじゃないだろうか。

 

「ええ。先ほどの条件を出した時の反応と、法則性を導き出せたと"思う"という発言からわかりました」

「発言?」

「ええ。界外くんは、法則性を導き出せた、ではなく、法則性を導きだせたと思う、と発言しました。"思う"と最後に付け加えるのは、自身の答えに少なからず不安を抱いている証拠です」

 

 それだけでこんな読み取ることが出来るのかよ。なんかこの子がラスボスっぽく見えてきたぞ……。

 

「合っておりますか?」

「ああ。坂柳の言う通りだ。……まいったな」

「私は運動が出来ない分、こういったものが得意なのです。では、Aクラスの優待者二人の情報をお送りしますので、連絡先を交換して頂けませんか?」

「もちろんだ」

 

 まさかAクラスのリーダーと連絡先を交換するとは思わなかった。

 

「証拠として優待者のメール画面のスクリーンショットを添付致します」

「助かる。その画面を見せればクラスメイトを説得できる」

 

 それを見せれば平田と綾小路も納得するだろう。

 その後、連絡先の交換に続いて、ポイントも譲渡して貰った。

 

「ポイントは成功報酬じゃなくていいのか?」

「はい。界外くんなら間違いなく結果を残してくれると信じておりますので」

「そ、それはどうも……」

 

 可愛い子に信じてるとか言われると、照れるんですけど。

 

「最後に界外くんに質問をしてもよろしいですか?」

「もちろん」

「界外くんは、綾小路くんをどう評価していますか?」

 

 なんでそこで綾小路の名前が出てくるんだ。

 綾小路は入試以外は目立つ成績も言動もしていないはずだ。それで綾小路の名前が出てくるということは……

 

「正直、底が知れないしか言えない。なにせあいつの本気を見たことがないからな」

「……そうですか。なぜ素直に答えてくれたのですか?」

「それは坂柳が綾小路のことを知っていると思ったからだ」

 

 恐らく坂柳と綾小路は知り合いなのだろう。そうじゃなければ坂柳の口から綾小路の名前が出るのはおかしい。

 

「お前らは知り合いなんだろ?」

「いえ。私が一方的に知っているだけです」

「あれ……?」

 

 知り合いじゃなかった……。恥ずかしい!!

 

「……私は綾小路くんに勝ちたいのです」

「綾小路に?」

「はい。凡人がいくら努力しても、天才には勝てないことを証明したいのです」

「それはどういう……」

 

 坂柳は綾小路が凡人と言っているのだろうか。

 

「彼のプライベートも関わりますので詳しいことは言えません」

「なら仕方ないな。それじゃ俺はそろそろ部屋に戻るよ」

「お時間いただきましてありがとうございました」

「こちらこそ。葛城は責任を持って潰しておくから」

「お願い致します。なにせ誰かさんが私の派閥の生徒が、DクラスにAクラスのリーダーを密告したという嘘の情報を流したようで、以前より対立しているものですから」

「す、すみませんでした……」

 

 やはりばれていたのか……。思ったより早く話が広まっていたようだな。

 

「そ、それじゃ帰ります……」

 

 一気に気まずくなったので帰ろうと腰をあげた瞬間、携帯に学校からの通知が届いた。

 まさか二日連続で裏切り者が出るとは……。

 ポケットから携帯を取り出し、受信したメールを開くと……

 

『羊グループの試験が終了いたしました。羊グループの方は以後試験に参加する必要がありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』

 

 羊グループに裏切り者が出た。

 坂柳を見ると、彼女も怪訝な表情で携帯を見ていた。

 この羊グループの裏切り者により、Dクラスのクラスポイントが-50になるとわかったのは、これから30分後のことだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「いやー、悪い悪い。つい勢いで送っちまったよ」

 

 山内が全く反省していない顔で謝る。

 

「でもこういうのって勢いが大事だろ?」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。周りを見ると綾小路、平田、博士、堀北の四人も信じられないようなものを見る顔をしていた。

 羊グループの裏切り者はクラスメイトの山内だった。

 なぜ裏切り者が山内だとわかったと言うと、優待者を見つけ出したと言い、須藤と池の前でメールを送ったらしい。須藤と池は止めようとしたが間に合わなかったようだ。その後、須藤と池が平田と堀北に報告して今に至る。

 

「これで当たってたら50万ポイントだぜ。それじゃ俺は部屋に戻るから」

 

 山内はそう言い、部屋から出て行った。

 

「まさか高円寺くんに続いて、裏切り者が出るなんてね……」

 

 平田が苦笑いしながら言う。

 

「最悪ね。彼の答えを聞いたけれど、優待者を間違えていたわ」

 

 堀北がため息をつく。

 山内の解答はCクラスの生徒で、正解はBクラスの生徒である。

 

「つまりクラスポイントが50ポイントひかれるのか……」

 

 俺もため息しか出ない。高円寺以外でスタンドプレイする生徒がいるとは想定外だった。

 けれど俺の彼女の関係を考えると、これでよかったのかもしれない。もしBクラスの優待者を全員当てていたら……彼女の立場を危うくしていた可能性もあった。

 

「山内殿に優待者が間違ってることは言わないでいいのでござるか?」

「いいんだ。あいつに言ったら絶対周りに言いふらす」

「た、確かにその可能性は否めないでござるな……」

 

 どうやら博士の山内に対する評価は綾小路と同様に低いようだ。

 

「ま、過ぎたことを気にしても仕方ないか。今は誰に裏切って貰うか決めないとな」

「そうね」

「まさか坂柳さんと協力することになるなんてね」

「平田殿の言う通りでござるな。まさに青天の霹靂!」

 

 山内が部屋に来る前に俺は、坂柳から葛城派を潰す為に優待者の情報提供とポイントの譲渡があったことを説明していた。

 

「それじゃ裏切り者を決める前に内容をおさらいしよう」

 

 俺がそう言うと、全員が頷いた。

 

「まず優待者を教えるのは裏切り者にだけだ。他のDクラスの生徒には言わない。知らせるのは試験終了後。これはなるべくDクラスが裏切ったと他のクラスに悟らせない為だ」

 

 つまり俺以外の裏切り者になる7人にのみ優待者を教えることになる。

 

「正解者に支給される50万プライベートポイントは、Dクラスの生徒で分けること」

 

 今後の保険用にポイントをクラスで貯めておくか考えたけれど、うちのクラスじゃまだ無理そうだな。

 以前、一之瀬のプライベートポイントを見てしまったことがある。あの時はわからなかったが、恐らく一之瀬は保険用に各生徒からポイントを徴収していたのだろう。それならあの大量のプライベートポイントも説明がつく。

 

「ちなみに高円寺が優待者を当てていた場合だが、あいつがクラスメイトにポイントを分けてくれるとは思わないので、高円寺の分は数に入れないことにする」

 

 俺がそう言うと、全員が納得したように頷いた。

 

「なので予定通りいけば350万ポイントをクラスメイトで分けることになる。裏切り者には、この約束事を納得してもらったうえで、裏切ってもらう。以上だ」

「Dクラスの優待者にもポイントを分け与えるのかしら?」

 

 堀北が質問してきた。

 

「そうだな。結果2と4になった場合でもポイントは分け与える」

「わかったわ。それでいつ学校側にメールを送らせるつもりなの?」

「今日の9時20分だ。裏切り者には話し合いが終わったら、すぐに部屋に戻ってもらって、所定の時間にメールを送ってもらう」

 

 試験中にメール送ったら、Dクラスが裏切り者だってばれちゃう可能性が高いからね。

 その後、堀北以外から質問がなかったので、俺たちはいったん解散することになった。堀北は自室に戻り、平田と博士は誰かに誘われたようで堀北と一緒に部屋から出ていった。結果、部屋に残っているのは俺と綾小路の二人だけになる。

 

「久しぶりに二人きりになれたわね」

「気色悪いぞ」

「冗談だよ」

 

 ふざけて女言葉で言ってみたら、綾小路に物凄い嫌な顔をされてしまった。

 

「それで裏切り者は決まってるのか?」

「大体は」

「そうか。それにしてもまさかAクラスの優待者二人の情報を得られるとはな」

「ラッキーだったよ。これで恐らくCクラスに昇格出来るだろう」

 

 当初は11月にCクラスになる予定だった。まさか2か月も前倒しになるとはね。

 

「個人的にCクラスになるには少し早いような気もするが……」

「綾小路の気持ちはわかる。けれど今のDクラスの雰囲気がいい。1学期と比べれば大分まとまっている」

「そうだな。……ま、プライベートポイントが増えるからよしとするか」

 

 軽いな……。いや、俺もプライベートポイントが増えるのは嬉しいけど。

 

「兎グループはどうなんだ? 優待者の軽井沢を守り抜けそうか?」

「一之瀬が厄介そうだ」

 

 一之瀬か。今日一緒に夜空を見る約束してるんだよな。楽しみ楽しみ。

 

「ま、頑張ってくれ。軽井沢の相手は大変だと思うが」

「そうでもない。軽井沢はAクラスの男子にべったりだからな」

「え」

 

 彼氏がいるのに他の男子にべったりしていいのだろうか。

 

「それより綾小路は龍園の言っていたこと、どう思う?」

「全クラスの優待者を把握していると言っていたことか」

「そうだ。本当だと思うか?」

「わからん。もし龍園が言っていることが本当ならば考えられるのは二つ。一つはオレたちと同じく優待者の法則性を導き出せたこと。もう一つは各クラスから優待者の情報を得ていることだ」

 

 試験と違う、本当の裏切り者。

 

「界外はどう思う?」

「俺も綾小路と同じだよ。……あくまで俺の勘なんだが、Bクラスには裏切り者がいると思う」

「無人島試験でリーダーを当てられたからか?」

「ああ。一之瀬と神崎には、金田がスパイだと説明していた。金田がいくら優秀な生徒でも、あの状況でBクラスのリーダーを探し出すのは難しいと思う」

 

 人のいい一之瀬は考えてないかもしれないが、神崎は俺と同じことを思っているかもしれない。

 

「それなら金田を6日間もBクラスに潜らせる必要はなかったんじゃないか?」

「逆だよ。Bクラスの生徒が、金田と話をしていても不自然じゃない状況を作るのに、時間が必要だったんじゃないか?」

 

 恐らく元々6日目の夜にリタイアすることを決めていたのだろう。

 

「なるほど。それならわざわざ人目がつかない場所に呼び出さなくても、クラスのリーダーを伝えられるということか」

「ああ。……あくまで俺の予想だけど」

 

 一之瀬のことを考えると、裏切り者がいないことに越したことはない。彼女が傷つくのはあまり見たくない。

 

「さて、そろそろ氷菓の続きを見るか」

「博士がいないがいいのか?」

「俺も博士も何回も見てるから大丈夫だ」

「……何回も見ていて、面白いか?」

「面白いよ。本当に面白い作品は、何回見ても飽きないからね」

 

 もちろんそれなりに時間は空けてるけどね。

 その後、裏切り者を部屋に呼び出すまで、俺と綾小路は氷菓を見続けた。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 夕食前。俺たちは部屋に6人のクラスメイトを呼び出していた。目的はもちろん裏切り者になってもらうようお願いする為だ。

 呼び出したのは、松下、佐藤、篠原、小野寺、須藤、三宅の6人。

 この6人を裏切り者に選んだ理由は、単純にお願いしやすい間柄だから。小野寺は水泳の授業でよく話しかけられて少しは話すようになった。ちなみに彼女が水泳部だったので、Freeを布教したのは内緒である。

 俺はこの6人に、各グループの優待者がわかったこと、部屋に呼び出したのは裏切ってもらうようお願いするためであることを説明した。

 

「凄いじゃん! 全グループの優待者を見つけ出すなんて!」

 

 佐藤が興奮しながら言う。

 

「私たちを呼び出した理由はわかったけど……なんで私たちなの?」

 

 松下が聞いてきた。

 

「それは俺が話しやすいのと、お前たちなら信用できると思ったからだけど」

「……そっか」

 

 俺がそう言うと、松下と三宅以外の4人が照れてしまったようで、顔が少し赤くなっている。須藤の照れとか誰得……。

 

「それで協力してくれるか?」

「いいよ。9万近くポイントが手に入るわけだし、断る理由はないかな」

 

 松下が即答してくれた。さすが松下。お前ならポイントに釣られて引き受けてくれると信じてたよ。

 

「なんか今失礼なこと考えなかった?」

「考えてません……」

 

 なんでわかったんだよ……。女の勘ってやつだろうか。怖い……。

 

「私もやる!」

「松下さんと佐藤さんがするなら私も引き受けるよ」

「私も。Free教えてくれた恩もあるからね」

「界外からのお願いなんだ。俺もやるぜ!」

「俺もいいぞ」

 

 松下に続いて、全員が了承する。

 難色を示す人が少しはいるかと思ったが、余計な心配だったようだ。

 

「それでいつメールを送ればいいの?」

「9時20分よ。話し合いが終わったら、部屋に戻って、誰にも見つからないようにメールを送ってほしいの」

 

 松下の問いに堀北が答える。

 

「わかった。さすがに話し合いの場でメール送るわけにはいかないもんね」

「ええ。理解が早くて助かるわ」

 

 堀北と松下が普通に話している。平田の時も同じこと思ったけど、堀北が俺と綾小路以外のクラスメイトと会話してるのを見ると新鮮に思える。

 

「そろそろ夕食の時間じゃない?」

 

 篠原が時計を見ながら言った。

 

「それじゃいこっか。堀北さんも一緒に行こう!」

「え、ええ……」

 

 佐藤が堀北の腕を掴む。

 そのままいつもの三人と堀北は部屋を出ていった。続けて小野寺たちも部屋を後にする。

 

「まさか堀北さんが他の女子と一緒にご飯を食べる時がくるなんて……」

 

 平田が俺と同じようなことを言ってる。

 

「これでよりクラスの結束も深まるような気がするよ」

「だといいけどな」

 

 後は櫛田と軽井沢のリーダー格と上手くやっていけるか。

 それと不安がもう一つ。松下の軽井沢に対する不満が爆発しないか。

 

「平田、ちょっといいか?」

「なにかな?」

「軽井沢のことなんだが……」

「軽井沢さん?」

 

 恐らく彼氏の平田からお願いすれば言うことを聞いてくれるだろう。……関係が冷めてなければ。

 

「ああ。1学期に他の女子からポイントを借りてただろ。まだ返してないみたいでな」

「そうなんだ……」

「名前は言わないが、それを不満に思ってる生徒がいる。今回の試験で9万近くポイントが入るから、返すよう言っておいてくれないか?」

「わかった。僕から言っておくよ」

 

 いくら借りてるのか知らないが、9万もあれば充分足りるだろう。

 

「ごめんね。迷惑掛けちゃって」

「俺は迷惑掛かってないぞ」

 

 これでポイントを返してもらえたら松下の不満もなくなるだろう。

 松下には堀北や同じグループの佐倉の面倒を見るよう色々お願いしてるからアフターケアしてあげないと。……ま、二人の面倒を見て貰う代わりに、また食事をおごる約束をしてるんだけどね。




ひよりの出番をどうするか悩み中です

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