実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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アライブ表紙の堀北の絶対領域の肉のはみ出し具合がたまらないです


40話 夏の風物詩といえば?

 念願の映画館デート当日の朝。寮の玄関ホールで俺は愛しの一之瀬を待っていた。

 私服で一之瀬と出掛けるのは今日で二回目だ。

 昨晩はクローゼットの前で一人ファッションショーをしていた。

 結局、黒いTシャツにチノパンとシンプルな格好にした。

 

「おかしくないよな」

 

 急に不安になってきた。

 友達と彼女がいたことがなかったので、今まで私服に気を使うことなんてなかった。

 恥ずかしいけれど、私服はほぼ母親が購入してきたものを着ていた。

 けれどそれには理由がある。

 母親がメンズファッション誌の編集者をしているからだ。

 さすがにファッションに興味がない俺もしまむ○で購入してきたものを着る気はない。

 その道のプロの母親が購入してきたものだから安心して着てきたのだ。

 安心して着てきたはずなのに……何でこんな不安になるのだろう。

 あれ? 前に私服で一之瀬と遊んだ時って何の服着てたっけ?

 

「お待たせ、界外くん」

 

 顔を上げると、そこにいたのはとびきり可愛い女の子。

 水色のチュニックに、落ち着いたデザインのショートパンツを穿いて、肉付きのよい太ももを惜しげもなくさらしている。

 圧倒的な可愛さに胸を撃ち抜かれていると、一之瀬が躊躇いがちに俺を見つめてきた。

 

「どう……かな?」

「とても……可愛いと思います」

「ありがとう。界外くんに可愛いって言ってもらいたくて奮発して買ったんだ」

 

 嬉しそうにはにかんだ一之瀬の破壊力53万。

 

「界外くんもカッコいいよ」

 

 よかった。やはり母親のファッションセンスに間違いはなかった。

 

「あ、ありがとう」

「ううん。それじゃ行こっか?」

「そうだな」

 

 そうして一之瀬とのデートが始まった。

 

「ねえ、100万部限定の漫画は手に入るかな?」

 

 一之瀬が言ってるのは、100万人限定の入場者プレゼントである漫画のことだ。

 

「どうだろうな。公開して2週間経ってるからな……」

「だよね……」

 

 そもそも敷地内の映画館に漫画自体用意されているのかも疑問だ。

 

「ま、なくても映画と同じ内容だろうから大丈夫だろ」

「うん! そうだよね!」

 

 限定で配布される漫画を気にするあたり、一之瀬もやっぱオタクなんだなと思ってしまう。

 俺もオタクだから大歓迎なんだけどね。

 

「旅行の疲れはとれたか?」

「うん。そもそもそこまで疲れてなかったしね」

「そっか。後半は船上だったもんな」

「そうそう。溜まったアニメは消化出来た?」

「ぼちぼちだな」

 

 2週間もアニメから離れたのは生まれて初めてだった。……正確には船で氷菓を見てたから完全に離れていたわけじゃないけど。

 

「私もあんまり見れてないからネタバレしないでね」

「もちろん」

 

 ネタバレなんて言語道断だ。

 そうこう話してるうちにケヤキモール内にある映画館に着いた。

 館内はそれなりに賑わっていた。

 券売機を操作して、チケットを購入する。

 本当は一之瀬の分も購入しようとしたが、隣の券売機で購入してたので諦めた。

 ドリンクを購入し、ヒロアカが上映されるスクリーンに向かう。

 

「結構空いてるね」

「だな」

 

 ヒロアカのスクリーンはそこまで人は多くなかった。

 公開して2週間も経っているので、こんなもんだろう。

 ちなみに限定本はゲット出来なかった。

 

「界外くんはここ来るの初めて?」

「そうだな。一之瀬は?」

「私も何回か来てるよ。友達に映画好きの子がいるから」

 

 うちのクラスにも映画好きはいるんだろうけど、今のクラスポイントじゃ何回も来るなんて無理だろうな。

 暫くして照明が暗くなった。

 俺も一之瀬も自然と無言になる。

 他の映画の予告を見てると、一之瀬がさりげなく手を重ねてきた。

 チラッと一之瀬を見るが、彼女はまっすぐスクリーンを見ている。

 仕方ない。ここは甘んじて一之瀬の柔らかい手の感触を受け入れよう。

 結局、映画が終わるまで手は重ねたままだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 次に足を運んだのは同じくケヤキモール内にあるフードコート。

 二人ともファーストフード店でハンバーガーセットを注文した。

 

「美味しいね」

「だな」

 

 ファーストフードを食べるのは久しぶりだった。

 特に美食家というわけではないけれど、アスリートだったので自然と避けていたのかもしれない。

 

「うーん、幸せ」

 

 本当に幸せそうに食べる一之瀬。見てるだけでお腹いっぱいになりそう。

 そんな一之瀬に見惚れてか、あの噂のせいか、先ほどから視線が気になる。

 これで龍園が絡んできたら、あの船の再現になるな。

 

「この後はどうしよっか?」

「適当にモール内をぶらぶらしてからカラオケに行くか」

「うん、そうしよっか」

 

 結局、龍園も来ることなく俺たちは軽めの昼食を済ませ、フードコートを後にした。

 その後、ウィンドウショッピングを満喫した俺たちは、いつもお世話になっているカラオケ店に入った。

 三人くらいが適正人数であろう狭い個室に入り、ソファに並んで腰を落ち着ける。

 

「それじゃ乾杯しようか」

「そうだな」

 

 お互いドリンクバーを掲げる。そして……

 

「乾杯!」

 

 恒例の二人だけの打ち上げが始まった。

 

「まさかこんな早く界外くんたちに追いつかれそうになるとは思わなかったよ」

「運も味方したからな」

 

 俺たちDクラスは特別試験を経て、クラスポイントが627まで上がった。Bクラスは773。完全に射程圏内だ。

 

「でもAクラスが200もクラスポイントが下がったのも驚きだったよ」

「そうだな」

 

 坂柳が完全に葛城を潰しに掛かってますからね。恐らく200程度のクラスポイントなど痛くもかゆくもないのだろう。

 

「今回の葛城の失態で、Aクラスは坂柳が主導権を握るだろうな」

「私もそう思う」

「お互いAクラスも狙える位置にいる。龍園だけでなく、坂柳にも気をつけないとな」

 

 船上試験で協力して貰ったが、2学期以降は完全に敵だ。

 

「坂柳さんか」

「どうした?」

「実は一度だけ、坂柳さんと遊んだことがあるんだよね」

「マジで?」

「うん」

 

 まさかAクラスとBクラスのリーダーが遊ぶ仲だったとは。……いや、一度だけと言うんだから仲良いわけではないのか。

 

「坂柳さんって可愛いよね」

 

 一之瀬の言う通り坂柳は美少女だ。ロリコン四天王がいたら格好の餌食になっていただろう。

 

「界外くんもそう思うでしょ?」

 

 以前の俺なら「うん」と返事をしてしまっただろう。だが経験を積んだ俺は一味違うぜ。

 

「俺は一之瀬の方が可愛いと思う」

「えっ!?」

 

 女の子の前で、違う女の子を褒めてはいけない。これは最近読んだラノベに書いてあった。

 

「……あ、ありがと。……嬉しいけど、恥ずかしいよぅ……」

 

 一之瀬は真っ赤な顔を両手で隠した。

 こうして素直に可愛いと言えるんだ。ヘタレな俺も少しは成長しているのかもしれない。

 

「トイレに行ってくる」

「う、うん……」

 

 少しの間一之瀬を一人にさせよう。そうすれば照れもなくなるだろう。

 5分ほどして部屋に戻ると、予想通り一之瀬の顔の赤みはなくなっていた。

 

「おかえり」

「ただいま。そろそろ歌うか」

「うん。歌おう」

 

 雑談を交えながら夕方まで俺と一之瀬は歌いまくった。

 一之瀬は俺のリクエストしたアニソンを沢山歌ってくれた。

 ちなみにお気に入りは中川かのんのキャラソン。歌声がそっくりなんだよね。

 

「あ、そうだ。二人で写真獲ろ?」

 

 部屋から出ようとしたところ、一之瀬が携帯を片手に言ってきた。

 

「いいぞ」

「それじゃ界外くん、もっとこっち来て」

「このくらい?」

「ううん。このくらいだよ」

 

 腕に抱きつかれてしまい、その体の柔らかさに照れてしまう。

 これってカップル仕様の距離感だよね。

 片手を前に突き出し、携帯を構えた一之瀬が満足げに微笑む。

 

「はい、チーズ!」

 

 パシャリとシャッター音が鳴り、二人で携帯の画面を確認する。ちなみに腕は抱きつかれたままである。

 

「うん。いい感じじゃない?」

「そうだな」

 

 俺も自然に笑えてる感じがする。最初は酷かったもんね。

 

「界外くんにも送っておくね」

「ああ」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 時刻は午後5時半。少し早めの夕食をとるため俺と一之瀬はいつものファミレスに来ていた。

 店員に四人用のテーブル席を案内されると、案の定一之瀬は俺の隣に腰を下ろした。

 

「なに食べよっかな」

 

 鼻歌を歌いながらメニューを見る一之瀬。

 

「俺はペペロンチーノでいいかな」

「それじゃ私はミートソースにしようかなー」

 

 どうやらお互いパスタに決まりのようだ。

 店員を呼び、ペペロンチーノ、ミートソース、ドリンクバーを注文する。

 

「飲み物入れてくるよ。何飲む?」

「カルピスで」

「質問するまでもなかったね」

 

 一之瀬が苦笑いながら席を立った。

 ドリンクバーに向かう一之瀬の後ろ姿を眺めてると、急に肩を叩かれた。

 

「おっす」

 

 振り返るとそこには正義の姿があった。

 

「よう」

「一之瀬とデートか?」

「ああ」

「羨ましいねぇ」

「お前は?」

 

 見たところ一人のようだけど。

 

「友達と食べてたんだけど、急用で先に帰ったんだよ」

「お互い早い夕食だな」

「そうだな。それじゃそろそろ行くわ」

「おう。またな」

 

 なんか正義って俺と会う時、いつも一人のような気がする。

 もしかして友達がいないんじゃ……。

 

「はい、カルピス」

 

 一之瀬がコップを両手に戻ってきた。

 

「ありがとう」

「ううん。今の人ってAクラスの橋本くんだよね?」

「知ってるのか?」

「うん。界外くん、知り合いなの?」

「サッカークラブのチームメイトだったんだよ」

 

 あの頃の正義は坊主で可愛かったのに……。何であんな風になってしまったんだろうか……。

 

「そうだったんだ。幼馴染と高校で再会するなんて凄くない?」

「そうだな。俺も再会した時は驚いたよ」

「だよね」

「一之瀬は高校で知り合いはいなかったのか?」

「……一人だけいるよ」

 

 一之瀬もいるのか。なら再会した時は嬉しかっただろうな。

 

「へえ。誰なんだ?」

「今はまだ言えないかな」

「まだってことはそのうち教えてくれるのか?」

「うん。……そのうちね」

 

 なんか意味深な感じがするけど気のせいだろう。

 その後、夕食を済ませ、食器を下げられた後も俺たちは店内で駄弁っていた。

 

「クラスメイトともプールに行くことになったのか」

「うん。界外くんは私以外とプールに行く予定ないの?」

「それがないんだよな」

 

 そもそもクラスメイトはプールが開放されること自体知ってるのだろうか。

 

「そっか。……よかったら一緒に来る?」

「Bクラスの面子と?」

「うん。みんな界外くんの知ってる人だし、気まずくはならないと思うんだよね」

 

 俺の知ってる人だと神崎や白波さんあたりか。

 

「いや、遠慮しておくよ。顔見知りでも部外者であることに変わりはないからな」

「そっか」

 

 俺の返事に一之瀬は少し寂し気な表情をした。

 

「それに一之瀬と二人で行く予定があるからな。それで十分だよ」

「……うんっ!」

 

 今の言葉で元気を取り戻してくれたようだ。

 

「そういえば界外くんは水着持ってるの?」

「いや。今度買いに行く予定。一之瀬は?」

「私も千尋ちゃんたちと買いに行く予定だよ」

 

 これがハーレムラノベなら一緒に水着を買いに行って、試着室でラッキースケベが起きるんだろうな。……羨ましい!

 

「なんで悔しそうな顔してるの?」

「え」

 

 やばい。一之瀬がジト目で見てる……。

 

「……えっと、轟の出番が思ったより少なくて残念だったなって……」

「なんでいきなりヒロアカの話なの!? それに出番多かったよね!?」

 

 さすがに苦し紛れ過ぎたか……。

 

「まあいいけど……。そろそろ帰ろっか」

「ああ。あ、帰りにレンタルショップに寄っていいか?」

「うん。何借りるの?」

「それは見てのお楽しみだ」

 

 ファミレスを後にした俺たちは、レンタルショップに足を運んだ。

 店内は大勢の人たちで賑わっている。

 

「人多いねー」

「レンタルならポイントをそこまで使わず暇つぶしが出来るからな」

「なるほどね」

 

 そういえば佐藤にアニメお勧めしないといけないんだった。

 佐藤のことだから四月は君の嘘やあの花が合いそうだな。

 

「それで界外くんは何を借りるつもり?」

「こっちだよ」

「アニメじゃないの?」

 

 アニメコーナーを通り過ぎるとそこには……

 

「心霊特集……?」

「ああ。夏と言えば心霊番組だろう」

「界外くんってこういうの好きだったんだ」

「大好きだ。幽霊にはロマンがある」

「ロマンって……」

 

 一之瀬が呆れてるようだけど構わず続ける。

 

「昔は心霊番組が多かったんだけど、最近は夏休みに特番を数本やる程度になってしまったんだ。だからレンタルで借りて不足分を補うんだよ」

「そうなんだ」

「一之瀬は苦手か?」

「…………苦手じゃないよ」

 

 ならなぜ目線を逸らす。

 

「苦手じゃないのか」

「全然」

 

 少しからかってみよう。

 

「そっか。ならこの後一緒に見るか?」

「え」

「元々一之瀬が苦手じゃなかったら誘う予定だったんだよ」

「……そうなの?」

「ああ。どうする?」

 

 一之瀬って雷や幽霊が苦手だったり、案外子供っぽいところがあるよね。

 

「…………見る。一緒に見るよ」

「……いいのか?」

「もちろん。界外くんの部屋で見るんだよね?」

「そうだな」

 

 一之瀬の部屋でもいいんだけど。でもブルーレイ見れる環境がないか。

 

「それじゃ今夜は心霊映像見て涼もっか」

「ああ」

 

 本当に大丈夫だろうか。少し不安だけど本人が見ると言ってるんだから仕方ないか。

 心霊映像のブルーレイを3枚借り、店を出た俺たちは帰路につく。

 寮に着いた俺たちは、一旦解散することにした。

 一之瀬が部屋にやってくるのは21時の予定になっている。

 

「まさか本当に一之瀬と見ることになるとは」

 

 からかってみるもんだな。

 これで怖がる一之瀬が見れる。それに寝間着姿も見れるチャンスだ。

 まさか悪戯心からこんな有難い展開になるとは思わなかった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 約束の時間になり、一之瀬がやって来た。

 そんな彼女は、白いTシャツにショートパンツと完全に寝間着姿だった。

 しかも昼間のショートパンツより明らかにショートなパンツだ。

 

「寝間着で来ちゃったんだけど変かな?」

「全然変じゃないです」

 

 むしろありがとうございます。素晴らしいものを見させて頂きました。

 

「上がってくれ」

「はーい」

 

 一之瀬を部屋に上げる。

 風呂上がりだからだろう。髪は若干湿っており、シャンプーのいい香りがする。

 

「オレンジジュースでいいか?」

「うん」

 

 一之瀬をお客さん用のクッションに座らせ、ジュースを用意する。

 

「胸も生足もやばいな」

 

 コップにオレンジジュースを注ぎながら呟いた。

 あれは本当にやばい。薄着なので胸はいつもより強調されてるし、生足も私服以上にさらけ出してる。

 

「お待たせ」

「ありがとう」

 

 テープルにコップを置き、ベッドに腰を下ろした。

 

「一日たっぷり遊んだけど、眠たくないか?」

「全然。界外くんは大丈夫?」

「ああ。……それじゃ早速見るか」

「……う、うん」

 

 ディスクをレコーダーに挿入する。

 明らかに一之瀬の顔が強張ってるのがわかる。

 

「……見づらいから移動するね」

「ん?」

 

 一之瀬はそう言うと、俺の隣に移動してきた。

 

「……一之瀬?」

「あ、あそこだと見づらいから……。ここが一番見やすいかなって……」

 

 いや、そんな変わらないと思うんだけど。

 

「なら俺があっちへ行くよ」

「だ、駄目っ!」

 

 腕を両手で掴まれてしまった。

 

「こ、ここで一緒に見よ……?」

「わかった」

 

 少し意地悪しようと思ったけど、涙目でお願いされたら言うことを聞くしかない。

 一之瀬の涙目+上目遣い。これは絶対遵守の力と同じと言っても過言じゃない。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ひぃっ!」

 

 心霊映像を見始めて30分が経った。

 俺の隣に座る一之瀬は、幽霊らしきものが映る度に悲鳴を上げている。ちなみに俺の右腕は彼女に抱きつかれて完全にロックされている。

 

「今のはけっこう怖かったな」

 

 今の映像は単身赴任している父親に向けて撮ったホームビデオだった。公園で母親が子供を撮影していたのだが、後ろにメリーさんっぽい幽霊が映りこんでいた。最後は子供の真後ろまで来ており、幽霊の顔がアップに映って映像は終了した。

 

「そ、そうだね……」

 

 一之瀬は完全に涙目になっている。

 

「もうギブアップするか?」

「し、しないよっ!」

「……そうか」

 

 なんでそこまで意地を張るんだろう。

 怖がってる一之瀬を見るのは楽しいからいいんだけどね。

 その後も心霊映像を見続け、気づいたら夜の10時半を過ぎていた。

 腕に抱きついてる一之瀬は涙目はもちろん、震えが止まらない状態になっている。

 

「今日はこれくらいにしておくか」

「……うん」

 

 俺がそう言うと、一之瀬はほっとした表情を浮かべた。

 ディスクを取り出そうとしたところ、一之瀬が小さな悲鳴を上げた。

 

「どうした―――――――タオル出すから待ってろ」

 

 ジュースをこぼしてしまったようだ。上着に思いっきりかかっている。

 

「ご、ごめんね……」

 

 箪笥からタオルを取り出し、一之瀬に渡そうとしたところで、俺はとんでもないものを見てしまった。

 

「えへへ、ドジっちゃった」

 

 完全にブラが透けて見えてる。

 

「い、一之瀬……」

「なに?」

「その……透けてる」

「え」

 

 タオルを渡しながら指摘する。一之瀬がゆっくりと目線を下にずらしたところ……

 

「や、やだ……っ。ご、ごめん……!」

 

 慌てて透けてる部分をタオルで隠した。

 今日のブラは青か。無人島試験の時も青だったな。一之瀬は青色の下着が好きなのかもしれない。

 

「いや、大丈夫だ」

 

 むしろありがとうございますだ。今日だけで何回一之瀬にお礼を言ってるんだろう。

 

「着替え用意するよ」

「ありがと……」

 

 クローゼットを空けて、一之瀬が着られそうなものを確認する。

 

「あ、着替えならこれでいいよ」

「ん?」

 

 一之瀬は、ハンガーに掛けられた学校指定のYシャツを指さした。

 

「これ学校のYシャツだぞ?」

「うん。私これがいい。この涼しさなら長袖の方がいいかなって」

「涼しいならエアコンの温度上げるけど」

「大丈夫だよ」

「そっか。それじゃこれ」

 

 一之瀬にYシャツを渡す。

 

「ありがと。着替えてくるね」

 

 彼女はそれを受け取ると、脱衣所に駆け込んで行った。

 数分後、俺のYシャツを身にまとった一之瀬が脱衣所から出てきた。

 

「にゃはは。やっぱYシャツも大きいね」

 

 やばい。これはやばすぎる。何がやばいかと言うと、Yシャツの丈が長いので、ショートパンツが完全に隠れてしまってる。つまり下に何も穿いてないように見えているのだ。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない……っ!」

 

 やべえ。これが裸Yシャツというものか。なんて破壊力なんだ。私服、寝間着、裸Yシャツと一之瀬が完全に俺を殺しに来てる……。

 

「そう……?」

「ああ。……それよりブルーレイも見終わったことだし、そろそろ解散するか」

「え」

「その格好じゃ帰りづらいだろうから、ジャージも貸すぞ」

 

 さすがにその格好で外に出たら、一之瀬がエッチな女の子に見られてしまう。それにこんな姿の一之瀬を他の男子に見せたくない。

 

「え、えっと……」

「どうした?」

「あのね……お願いがあるんだけど……」

 

 なんか嫌な予感がしてきたぞ。

 

「その、恥ずかしいんだけど、一人で寝るの怖くて……今日泊まってもいいかな?」

 

 嫌な予感が的中した。俺の天使がお泊りをご所望だ。

 

「やっぱ苦手だったんじゃないか」

「うっ」

「意地張らないで見るの止めればよかったのに」

「だ、だって……」

 

 一之瀬は反論しようとして、口ごもってしまった。

 

「それに泊まるなら女子の友達を頼ればいいだろ?」

「……こ、この時間にお願いしたら、迷惑掛かっちゃうし……」

 

 俺なら迷惑を掛けてもいいと思ってるのか。それは嬉しい。

 

「それに……かっこ悪いところ見せたくないし……」

 

 Bクラスの頼れる学級委員長だもんね。

 

「……お願い」

 

 またもや一之瀬は涙目+上目遣いで懇願してきた。

 

「……わかったよ」

 

 結局、絶対遵守の力には勝てなかったよ……。

 了承をしたのはいいけれど、俺の理性が保つかどうか。最悪、また風呂場で寝るしかない。

 

「あ、ありがと……っ!」

「どういたしまして。それでどうする? 寝るか?」

「うーん。界外くんは眠い?」

「いや」

 

 一之瀬の透けブラと裸Yシャツで完全に目が覚めたぞ。

 

「それじゃ一緒にアニメでも見ない?」

「心霊映像の続きでもいいぞ」

「そ、それは……遠慮しておこうかな……」

「そうか」

 

 11時半まで俺たちはハッピーシュガーライフを見た。

 一之瀬は今期これが一番好きらしい。

 

「絵は可愛いけど、内容は怖いよな」

「うん。でも主人公の気持ちは少しわかるかも」

 

 わかっちゃうのかよ。もしかして一之瀬は可愛い幼女がタイプなのだろうか。

 とりあえずここは深く掘り下げないようにしておこう。

 

「それじゃ寝るか。一之瀬はベッド使っていいぞ」

「界外くんは?」

「俺はまた風呂場で寝るよ」

「だ、駄目だよ……っ!」

 

 またもや一之瀬に腕を掴まれる。

 

「界外くんがベッド使って。私は床でいいから」

「いやいや、女の子を雑魚寝させるわけにはいかないだろ」

「……それじゃお言葉に甘えて。でも風呂場はやめて。私の近くにいてほしいの」

 

 風呂場も近いと思うんだけど。

 

「その、怖いから、私を一人にしないで欲しいの……」

「風呂場じゃ遠いと?」

「うん。……実は、前に金縛りにあったことがあって……」

 

 マジかよ。羨ましい。俺なんて一回もないのに。

 

「だからお願い。一人にしないで」

「わかったよ。それじゃ俺は雑魚寝するから、一之瀬はベッドで寝てくれ」

「ごめんね。……何だったら一緒にベッドで寝る?」

「いや、さすがにそれは……」

 

 無理だ。絶対に理性が崩壊する。ただでさえ刺激的な恰好してるのに。

 

「だよね。ごめんごめん」

「もう寝ようぜ」

「うん」

 

 電気を消して、横になったけど、まったく寝れる気がしない。

 

「久しぶりの界外くんのベッドだ~」

 

 すぐ近くて美少女が寝てるんだもの。気になって仕方がない。

 

「これで二回目だね」

「だな。あの時は驚いたぞ」

「にゃはは。私も驚いちゃったよ。あんな熟睡しちゃうなんて」

 

 あの時は制服だった。絶妙に下着が見えないスカートに視線を奪われたのを覚えている。

 

「……ねえ」

「ん?」

「今日のデート、楽しかったね」

「そうだな。楽しかった」

 

 まさかデートの後にお泊りという一大イベントがあるとは思わなかったけど。

 

「えへへ。また行こうね?」

「そうだな。プールの前にまた遊びに行くか」

「うん!」

 

 会話が途絶え、数分経つと、一之瀬は規則正しい寝息をたてた。

 どうやら、一之瀬は異性の部屋だからといって、緊張はしていないらしい。

 その後、俺も何とか眠りについたが、何度も目を覚ました。どうやら浅い眠りを繰り返してるようだ。

 

「……3時か」

 

 体を起こし、冷蔵庫に向かう。カルピスを飲もうとして、扉を開けたが、あいにくカルピスは切らしていた。

 

「自販機に買いにいくとするか」

 

 一之瀬は熟睡してるようだし、起きないだろう。

 それに丑の刻も過ぎてるから、幽霊も出ないだろうし。……多分。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「うわっ、びっくりした」

 

 自販機でカルピスを買い、自室戻ると、玄関に一之瀬が立っていた。

 

「……どこ行ってたの?」

 

 何だろう。口調に怒気が混じってるような気がする。

 

「喉が渇いたから、カルピス買いに行ってた」

 

 俺がそう答えるが、一之瀬からの反応がない。顔も俯いたままだ。

 

「……一人にしないでって言ったのに……」

「あ、いや、それは、丑の刻過ぎてるから大丈夫かなって……」

「一人にしないでって言ったっ!!」

 

 一之瀬が声を荒げる。

 やばい。完全に怒ってる。

 

「……私、さっき金縛りにあったんだよ……?」

「え」

「……なのに、界外くん、いないんだもん……」

 

 なるほど。金縛りになった時に頼りにしたかった俺がいなかった。だからこんなに怒ってるのか。

 

「凄い怖かったんだからっ!!」

 

 一之瀬は顔を上げ再度声を荒げた。

 やばい。完全に泣いてる。そんなに怖い思いをしたのか。

 

「ごめん」

 

 とりあえず謝るしかない。約束を破った俺が悪い。

 

「……抱きしめて」

「え」

「本当に悪いと思ってるなら私を抱きしめて」

「……それはどういう……」

 

 なぜその流れで一之瀬を抱きしめることになるんだろうか。

 

「私が安心できるまで抱きしめてよ……」

 

 そういう意味か。チラッと一之瀬の顔を見る。潤んだ大きな瞳を俺を見つめている。

 

「……抱きしめて……」

 

 しょうがない。ここは覚悟を決めて一之瀬を抱きしめるしかない。

 

「わかった」

 

 恐る恐る腕を広げて、包み込むようにして彼女を抱きしめた。

 

「んっ」

 

 生まれて初めて女の子を抱きしめた。

 今まで一之瀬と堀北の二人に抱きつかれたことはあったが、自分から抱きしめるのは初めてだ。

 一之瀬も俺の背中に手を回してきた。

 

「……もっと強く抱きしめていいよ……」

 

 そう言われ、少し強めに抱きしめる。

 

「痛くないのか……?」

「うん。大丈夫。……ていうか、少し痛いくらいがいい」

「え」

「その方が……抱きしめられてるって感じがするから」

 

 そういうことか。一瞬、一之瀬がマゾなのかと勘違いしそうになった。

 

「だからもう少し強くしていいよ?」

「こうか?」

 

 ギュっと更に力強く抱きしめる。

 

「……んっ……」

 

 一之瀬に言われるがままに抱きしめてるけど、胸がやばいことになってる。

 俺の胸板で、一之瀬の胸が完全に押し潰されてる。おっぱいは柔らかいから潰されても痛くないのだろうか。

 何分くらい抱きしめ合ってるのだろう。恐らく30分以上は経ってるはずだ。

 

「一之瀬、そろそろいいか?」

「まだ駄目」

 

 まだ安心しきれていないようだ。

 ……やばいな。ずっとこの状態だと、俺の息子が反応してしまう……。

 

「……悪い。一之瀬」

「……なに?」

「立ちっぱなしがきついんだ。足に限界がきてる」

 

 本当はきてないんだけどね。

 

「……きついの?」

「ああ」

「わかった。それじゃこっちに来て」

「え」

 

 一之瀬に腕を掴まれ、ベッドまで連れてこられた。

 

「ここ座って」

「お、おう……」

 

 ゆっくりベッドに腰を下ろす。

 どうやら俺の足を気遣ってくれたようだ。

 

「これなら足疲れないよね」

 

 一之瀬はそう言いながら、跨ってきた。

 

「一之瀬……っ!?」

「言っておくけど……まだ安心しきれてないから」

 

 そのまま、両手両足で抱きつかれてしまった。

 

「界外くんも早く抱きしめて」

 

 やばい。さっきよりまずい体勢になってる!!

 

「早く」

「はい」

 

 言われるがまま、彼女を抱きしめる。

 これってだいしゅきホールドってやつじゃないか。

 

「これ凄いね」

 

 一之瀬が耳元で囁く。体勢を変えたことにより、距離感も近くなってる。

 

「……もっと強く抱きしめていいよ……?」

「わかったよ」

 

 思いっきり強く抱きしめてみた。

 

「……あっ……」

 

 一之瀬が何か声を漏らしてるが気にしない。

 特に何も言われないので、このくらいの強さなら問題ないのだろう。

 

「これで安心出来るのか?」

「うん。出来るよ」

 

 そうなのか。俺が一之瀬と堀北に抱きつかれた時は、ドキドキして安心は出来なかったけど。

 

「こうやって抱きしめられてるとね、守られてる感じがするの」

「そうなのか」

「うん。だから今は界外くんに守られてる感じがして安心出来そう」

 

 そう言ってくれるのは嬉しい。

 

「……んんっ……。界外くん、少し苦しいよ……」

「あ、悪い……」

 

 どうやら無意識に強く抱きしめてしまったようだ。

 

「ううん。……もう少しこのまま抱きしめてくれる?」

「一之瀬が安心しきるまで抱きしめる約束だろ?」

「そうだったね。それじゃ私がいいって言うまで離さないでね?」

「あいよ」

 

 ベッドの上で一之瀬を抱きしめてから30分が経っただろうか。

 一之瀬は離れるどころか、頬ずりをしたり、胸を擦り付けたりしている。

 このままではやばい。また俺の息子が反応してしまう。

 今は頭の中で萎える映像を思い浮かべてるがそれも限界だ。……そろそろ一之瀬を本格的に離れさせなくては。

 どうやって一之瀬を離れさせようか。この体勢で出来ることは限られる。……そうだ。一之瀬の弱点を責めよう。

 

「一之瀬」

「なーに?」

「髪撫でてもいい?」

「いいよ」

 

 まずは彼女の綺麗な髪に右手を添える。

 

「……ん……」

 

 暫くの間、髪を撫で続ける。

 

「私、界外くんに撫でられるの好き」

 

 おっふ。そんなこと言われたら、朝まで撫で続けてしまいそうになるからやめてくれ。

 よし。そろそろいいだろう。

 髪を撫で続けてる手を、そっと耳に触れさせる。

 

「……んぁっ……」

 

 少し触れただけでこの反応。やはり一之瀬の弱点は耳に間違いない。

 俺はそのまま小指を上下に動かし、耳の裏側を刺激する。

 

「ひぁっ、んんっ」

 

 よしよし。思った以上の反応だ。

 

「か、界外く……んっ……にゃに……をっ……!?」

 

 一之瀬が問いかけてきたが無視して責め続ける。

 

「やっ、だ、だめっ……!」

「嫌だったら離れてくれ」

 

 俺はそう言い、一旦耳責めをストップする。

 いよいよ交渉開始だ。

 

「……な、なんでぇ……?」

「色々とやばいので離れてくれないと困る。離れてくれれば耳に悪戯はしない」

 

 さすがに本人に耳責めとは言い辛い。

 

「……つまり、私が離れるまでそれをし続けるってこと……?」

「そうだ」

 

 頭のいい一之瀬ならどっちが賢明な判断かわかるだろ。

 

「……わかった」

 

 ようやく解放される。

 

「離れない」

「え」

「私、絶対離れないから」

 

 なんでだよ。もう十分抱きしめたでしょ。

 

「……わかった」

 

 一之瀬の返事を聞き入れ、耳責めを再開させた。

 耳の裏は十分責めたので、そこより敏感そうな耳殻を親指と人差し指で挟みながら刺激を与える。

 

「……んはっ……あぁううっ……!」

 

 一之瀬の体が少しだけびくびくと震える。

 

「あ、あ、ああっ、ん……っ!」

「どうだ? 時間も時間だしそろそろ離れて寝ないか?」

「ね、ねな……ひぃ……んっ……!」

 

 一之瀬が耐えながら答える。

 俺は責めるスポットを耳殻から耳たぶにチェンジした。

 

「やっ! っだ……そこっ……ふぁああぅっ」

 

 先ほどより明らかに体が震えている。どうやら耳たぶの方が感じやすいようだ。

 

「ふむ」

「なにが、ふむなのっ」

「べつに」

 

 一之瀬の質問を流し、耳たぶを責め続ける。

 

「……ひぁ……んんっ……やぁんぅぅ!」

 

 耳たぶをくすぐったり、軽く押し潰したり、引っ張ったりするたびに一之瀬の腰が跳ねる。

 

「なあ、そろそろリタイアしてくれないか?」

「し、しない……よぉ……んぁんっ、んンンっ!」

 

 懸命に耐える一之瀬。俺はそんな彼女を見て屈服させたいと思うようになった。

 

「……後悔するなよ……」

 

 彼女の責め続けてる耳元で小さく呟く。

 

「……ふぇ……?」

 

 小指を伸ばす。そして……耳の内側に挿入した。

 

「ひゃぁぁぁっ! や、やめっ、んんッ!」

 

 初めて一之瀬が拒否反応を示した。

 

「あっ、あっ、やっだぁ……!」

 

 敏感な耳珠を強く擦りつける。

 俺自身は何も刺激を与えられていないのにゾクゾクと背筋を駆け上がるものがある。

 

「やっ、だっ、だめっ! んんっ、これ、いじょはぁ、あ、あ、あぁ……ンッ!」

 

 一之瀬の腰がいままでになく強く跳ねた。

 

「……んくぅ……ふぁ……」

 

 そして脱力したかのように体重を預けてきた。

 

「一之瀬……?」

「……ぜ、絶対に……離れないからぁ……」

 

 息を切らしながら一之瀬が言う。

 これだけ責めても折れないのかよ……。

 

「……わかった。俺の負けだ」

「……え?」

「一之瀬が満足するまで好きにしてくれ」

 

 俺がやれることは全てやった。あれだけ責めても一之瀬は折れなかった。俺の完敗だ。

 

「……もうしないの?」

 

 今の一之瀬の一言で気づいてしまった。

 どうやら俺は勘違いをしていたようだ。

 性感帯を責めても気持ちよさを受け入れられてしまってはギブアップするわけがない。

 つまり俺の行為は一之瀬を気持ちよくさせていただけだった。

 

「もうしない」

 

 これ以上しても一之瀬を気持ちよくさせるだけ。彼女が折れて俺から離れることはない。

 

「……そっか。残念……」

 

 一之瀬が何か呟いてるが聞こえちゃいけない気がする。

 

「それじゃ言われた通り、好きにさせてもらうね」

 

 結局、俺と一之瀬は早朝まで抱きしめ合った。

 お互い眠気には勝てず、名残惜しさを感じつつも、俺と一之瀬は離れた。

 ちなみに一之瀬が一緒にベッドで寝るよう誘ってきたが、理性が崩壊しそうだったので断った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「界外くん、起きて。もう10時だよ」

「ん……」

 

 なんで一之瀬が俺を起こしてるんだろう?

 ……そっか。昨晩、心霊映像を見て一人で眠れなくなった一之瀬を泊めたんだった。

 

「おはよ」

「……おはよう」

「気持ちよさそうに寝てたのにごめんね」

「いや、起こしてくれて助かった」

 

 休日でも基本6時起きなので、こんな時間まで寝てるなんて久しぶりだ。

 寝る前に堀北にチャットを送っておいてよかった。早朝ランニングをさぼったと思われるところだった。

 

「ならよかった。……昨日は感情的になっちゃってごめんね」

「え」

「泊まらせてもらってる立場のなのにあれはないよね。……本当にごめんなさい」

 

 一之瀬が頭を下げてきた。

 

「いや、俺が約束を守らなかったのが悪いんだし。……それに俺も一之瀬に変なことをしてしまったし……」

「あっ」

 

 一瞬で一之瀬の顔が赤く染まる。恐らく俺も同じ状態になっているだろう。

 

「い、嫌だったよな……。ごめん……」

「嫌じゃないよ!」

「え」

「嫌だなんて全然思ってないからっ!」

 

 必死に否定する一之瀬。

 

「……本当に?」

「本当だよ。そもそも嫌だったら抱きしめたりしないし……」

 

 手をもじもじしながら顔を逸らす。

 

「そうか」

「うん」

 

 朝から微妙な雰囲気になってしまった。

 

「と、とりあえずこの話はもう終わりだ! 朝食にしよう!」

「あ、なら私が作ってもいい?」

「いいのか?」

 

 マジかよ。一之瀬の料理が食えるなんて……。

 

「うん。泊まらせてくれたお礼っていうか」

「それじゃよろしく頼む」

「任せて。後洗濯も私がするから」

「いや、そこまでしなくても……」

「するから!」

「お、おう……」

 

 そこまで強く言われたら従うしかない。

 

「エプロン借りてもいいかな?」

「ああ。……これ使ってくれ」

 

 壁にかけてあったエプロンを一之瀬に渡す。

 

「ありがと」

 

 それを受け取ると、一之瀬はエプロンを身につけた。

 

「エプロンもやっぱ大きめだねー」

 

 おっふ。裸Yシャツ風にエプロンをつけると、こんな破壊力を増すとは……。

 

「界外くんは適当にくつろいでてね」

「あいよ」

 

 一之瀬が料理をしてる間、俺はアニメを見て時間を潰した。

 20分ほど経つと、一之瀬が朝食をテーブルに運んできた。メニューは食パン、ウインナー、スクランブルエッグだった。

 簡単なもので一之瀬は申し訳なさそうにしてたが、朝食なのでこのくらいで十分だろう。

 味は一之瀬補正もあったがとても美味しかった。

 

 朝食を食べ終えると、洗濯するからと言って、着替えさせられた。自室なので寝間着のまま過ごそうとしたが、寝てる間に汗をかいたので着替えるよう促された。

 洗濯をしてる間は、二人で録画したアニメを見続けた。

 やがて洗濯が終わり、ベランダで洗濯物を干す一之瀬の姿を俺は見つめていた。

 

「なんか同棲してるみたいだな」

 

 俺の視線に気づかない一之瀬は、鼻歌を歌いながら洗濯物を干している。なんでそんな楽しそうにしているんだろうか。

 

「よし、終わり」

 

 洗濯物を干し終えた一之瀬が部屋に戻ってきた。

 

「悪いな。洗濯物まで干させて」

「ううん。私がしたいからしてるだけだから」

 

 笑顔でそう答える一之瀬。……結婚したい。

 

「そっか。…………あれ?」

「どうしたの?」

 

 おかしい。ふと物干しハンガーを見ると、あるはずの洗濯物がそこにはなかった。

 

「パンツがない」

「え」

「おかしいな。カゴに入ってなかったか?」

「う、うん。……入ってなかったよ?」

「そうか」

 

 でもそれでよかったのかもしれない。彼女じゃない女の子にパンツを干させるなんてありえないもんね。

 

「あれじゃない?」

「ん?」

「無人島試験でパンツを粗末にしたから。パンツの神様が怒って、神隠しにあったのかもしれないよ」

 

 いや、パンツの神様って……。一之瀬は何を言ってるんだろうか。

 

「なんちゃってね」

「なんだ、冗談か」

「当たり前だよ。私だって高校生なんだから」

「だよな」

 

 本気で言ってたら心配するところだったよ。

 

「それじゃそろそろ帰るね」

「わかった。ジャージ穿いて行った方がいいぞ」

「え」

「その格好で外出るのはやばいから」

 

 裸Yシャツにしか見えないからね。こんな姿で俺の部屋から出るところ見られたら、またとんでもない噂が流れてしまう。

 

「……そうだよね。それじゃ貸してもらってもいいかな?」

「ああ。学校のでいいよな?」

「うん」

 

 一之瀬にジャージを渡すと、彼女は脱衣所に入っていった。さらば一之瀬の生足。また会う日まで。

 その後、一之瀬はYシャツにジャージという奇妙な恰好で帰って行った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 自室に戻った私は、彼のYシャツを着たままベッドで横になっていた。

 

「……今朝は凄かったなぁ……」

 

 昨晩。私は彼の部屋に泊まった。

 心霊映像を見て怖くなったので泊まらせてほしいと彼にお願いをした。最初は渋っていた彼だったけど、上目遣いでお願いしたらすぐに了承してくれた。

 ちなみに幽霊が苦手なのは本当。以前、心霊映像を見た日の夜に金縛りにあったことがある。それ以来そういった類のものは避けてきた。

 だけど彼から一緒に心霊映像を見るよう誘われたら受けるしかない。彼の誘いを断るなんて私の選択肢にはなかった。

 最初は不安だったけれど、彼の部屋に泊まれるいい機会だとすぐに気持ちを切り替えた。

 

 自室で夕食とシャワーを済ませてから、彼の部屋に向かった。

 そして一緒に心霊映像を鑑賞した。もちろん彼の隣のポジションを確保してね。

 久しぶりに心霊映像を見たけど怖かった。でも隣に彼がいたので少しは恐怖を和らげたと思う。

 

 心霊映像を見終わった私は、わざとジュースを上着にこぼした。理由はもちろん彼の服を借りるためだ。

 彼から学校指定のYシャツを借りて身に纏った。これも前からやりたかったことの一つ。

 いわゆる『彼シャツ』というものだ。

 脱衣所の鏡で彼シャツをした自分を見たけれど、なかなかエッチな格好だった。多分彼も興奮してくれたと思う。なぜならチラチラ私の下半身を見てたから。

 

 就寝した私だけれど、以前と同じように金縛りにあってしまった。でも今回はそこまで怖くはなかった。近くに彼がいたから。

 数分経つと金縛りが解けた。すぐに彼に声をかけたが一向に返事がない。

 そう。彼はいつの間にかいなくなっていたのだ。

 5分後。彼が帰ってきた。

 私は裏切られた気分になり、彼を怒鳴ってしまった。彼はすぐに謝ってくれたが、私の怒りは収まらなかった。私がここまで怒るとは思わなかったのだろう。彼は完全にうろたえていた。

 そんな彼に私は、自分が安心出来るまで抱きしめるよう要求した。

 経緯はどうであれ、彼は私を始めて抱きしめてくれた。彼の胸元に顔を埋めながら抱きしめ返す。

 彼からは他の女の匂いはしなかった。どうやら私以外の女と会ってたわけではなさそうだった。それがわかると私の怒りは一気に静まった。

 そっか。私以外の女と逢瀬してたのか不安になったから、あんなに感情的になってしまったんだ。

 

 暫く抱き合ってると、彼が離れるよう言ってきた。どうやら足が限界らしい。当然私は離れる気はなかったので、彼をベッドに座らせた。彼は休めると思ったのだろう。安心したような顔をしていた。

 違うよ。もっと私を感じて貰うために座らせたんだよ。

 私は腰を下ろした彼に跨り抱きしめた。彼は戸惑っていたけれど、私を抱きしめるようお願いをすると素直に従ってくれた。

 いま思うととんでもない体勢で抱きしめあってたと思う。

 だって対面座位にしか見えないもの……。

 

 ドキドキしながら抱きしめ合ってると、彼が私の髪を撫でてきた。私は彼に撫でられるのが好きだ。彼に撫でられると安心する。

 そんな安心してた私に衝撃が走った。

 なんと彼が私の耳を責めてきたのだ。

 密着したままだと色々やばいということで、彼は離れるよう要求してきた。私が離れないかぎり、耳責めをし続けるとのことだ。

 私は離れる気はなかったので、すぐに断った。それから彼の執拗な耳責めが始まった。彼は耳の色んな箇所を責めた。私は喘ぎながらも必死に耐えた。

 けれどそんな耐えも長くは続かなかった。

 彼が私の耳の内側に指を入れた瞬間、自分の身体に電撃が走ったのがすぐにわかった。

 彼はそのまま耳の内側を責めた。私は止めるよう懇願したが、している間にイかされてしまった。

 まさか耳だけでイかされるとは思わなかったよ……。しかも一人でするより気持ちよかった。

 彼はどこであんなテクニックを覚えたのだろう。

 ともかく彼にイかされた私だけれど、ギブアップはしなかった。

 何度やられても彼から離れるつもりはなかったから。結局、彼が折れて、私たちは早朝まで抱き合った。

 

「……ていうか私喘ぎすぎだよね。付き合う前に喘ぎ声を聞かせちゃうとかどうなの……」

 

 私の喘ぎ声を聞いて、彼は興奮してくれただろうか。

 いや、してくれなきゃ困る。あれだけ乱れた私の面子がなくなる。

 耳だけで乱れちゃうとか。また彼に開発されてしまった……。

 もう私は彼なしでは生きていけない身体になっているような気がする。

 耳だけであんな気持ちよくしてくれるのだ。もし彼とエッ○したら、どれだけ気持ちよくしてくれるのだろう。

 

「まだお昼なんだ」

 

 置き時計を見ると12時を過ぎた頃だった。

 

「でも……いいよね」

 

 今から行う行為を誰からも邪魔されないように携帯の電源を切る。

 そしてテーブルの上に置いてある、彼の下着を手に取った。

 

「私も堕ちるところまで堕ちちゃったなぁ」

 

 もちろんYシャツとジャージと違って、彼に借りたわけではない。

 彼の部屋から盗んできたのだ。

 洗濯籠に入っていた下着なので、恐らく洗濯前だろう。

 

「ごめんね、帝人くん。私、こんなに変態で」

 

 彼に謝罪をしながら、行為に及んだ。

 

 何度果てただろう。気づいたら夕日が落ちる時間になっていた。

 

「はぁ……本当は溜まったアニメを消化しようとしたのに……」

 

 これも帝人くんのせいだ。

 帝人くんが私を壊していくから。

 付き合う前から私のことを壊しすぎだよ。

 帝人くんに壊されてることを自覚してる私だけど、彼はどうなんだろう。

 今回、初めて彼からしてくれた。

 今までの彼ならあの場面で耳責めなんてするはずがない。

 もしかして彼も壊れているのだろうか。

 もしそうなら、彼を壊しているのは私だ。

 堀北さんでも櫛田さんでもない。

 私が彼を壊してるんだ。

 いいよ。

 お互い壊し合おうよ。

 砕けるくらい壊し合って、お互いの破片をくっつけて、一緒になろうよ。

 

「愛してるよ、帝人くん」

 

 彼の下着を抱きしめながら愛を囁く。

 そういえば彼はいま何をしているのだろうか。

 私のことを考えてくれてるのかな。

 考えてくれてるといいな。

 だって私がこんなに帝人くんのことを考えてるんだもん。

 だから……

 

「他の女のこと考えちゃ駄目だよ帝人くん」




今回やり過ぎちゃったかもしれないけど気にしない
一之瀬の私服は4.5巻のカラーイラストと同じです
彼シャツも漫画の扉絵見て思いつきましたw
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