実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
敷地外に出た翌日。俺は櫛田と共に、いつもお世話になっているスーパーに来ていた。
「本当に肉じゃがでいいのか?」
目的は櫛田に料理を教えるために使用する食材の調達だ。
「うん。界外くんは肉じゃが嫌い?」
「好きだぞ。つーか肉じゃが嫌いな人なんてそうそういないだろ」
「あはは。だよね」
食材を調達した後、俺の部屋で櫛田に料理を教えることになっている。
「なんか全体的に野菜が高くなってるよね」
「だな」
それでも敷地外の店舗より安価だろう。
櫛田は次々と食材をかごに入れていく。
「後は牛肉だけかな」
「ああ。二人分だから100グラムで十分足りるだろう」
「うん」
食材を調達した俺たちは、スーパーを後にして寮へと向かった。
「ごめんね。袋持ってもらっちゃって。重たくない?」
「全然。むしろ軽いまである」
堀北によく米を持たされてるからね。
「界外くんって女子の扱い慣れてるよね。さりげなく荷物持ったり」
「いや、普通だろ。俺以外の男子も櫛田相手なら持つと思うぞ」
「なんで私限定なの?」
「そりゃ櫛田がクラスで一番人気の女子だからだよ」
わかって聞いてきてるな。なんてあざとい女なんだ。
「い、一番……。またそんなこと言って……」
「ん?」
「な、なんでもない……っ!」
「そうか」
櫛田が慌てふためくの珍しいな。これも計算で演じてるのだろうか。もしそうならたいした演技力だ。
「えっと、界外くんは試験が終わってから何してたの?」
「うーん、勉強したりアニメ見たりだな。普段と変わらない。櫛田は?」
「私はほぼ毎日友達と遊んでたよ」
「ほぼ毎日……。やっぱ友達多いと大変なんだな」
毎日遊ぶなんて疲れるだろう。俺には無理だ。毎日一之瀬と遊ぶならウェルカムだけど。
「そうでもないよ。色んな友達と遊べて楽しいよ?」
「そっか。だから自分からお願いしておいて、俺への連絡が遅かったわけだ」
「うっ……。ご、ごめんね……?」
指摘されしょんぼりする櫛田。
「冗談だよ」
「本当に? 怒ってないの?」
「本当。そんなんで怒るわけないだろ」
「ならよかったぁ。界外くんに怒られたらどうしようかと思ったよ」
いかんいかん。櫛田にも意地悪してしまった。慎重に接しなければ……。
「そもそも俺は怒らないからな」
「それは嘘だよね。須藤くんとAクラスの男子に怒ってたよね?」
俺の顔を覗きこみながら櫛田が言う。
「……そんなこともあったな……」
懐かしいね。もう俺が須藤を怒ることはなさそうだ。
「あの時の界外くん、怖かったよ」
「まあ怒ってるのに怖くないのはアレだからな……」
怒ると言えば、一之瀬のマジ切れは怖かったな……。
いつも怒る時はぷんぷんしてる感じだったから余計にびっくりした。
「櫛田も怒ったら意外と怖いんじゃないか?」
「えー。私はそんなことないよっ」
いやいや櫛田の本性知ってるから。あざとい攻撃俺には効かないからね。
「普段温厚な奴ほど切れたら怖いって言うし」
「私、切れたことないもんっ」
「そうなのか?」
「うん。だって怒るのって凄いエネルギー使うでしょ?」
「そうだな」
「なら怒るより笑ってエネルギーを使った方がいいでしょ?」
よくそんなくさい台詞言えるね君。
「そうだな」
「だよね。あ、そういえばこのみーちゃんがね――――――」
その後も雑談をしながら、寮まで歩き続けた。
俺の部屋に着くとすぐに櫛田はエプロンを身につけた。
堀北のシンプルなデザインと違い、動物のイラストが描かれてる可愛らしいデザインのエプロンだった。
生まれて初めて他人に料理を教えるので、多少熱が入って指導したけれど、櫛田は文句を言わずに真面目に調理し続けた。
そんな櫛田についつい見惚れてしまった俺はやはりチョロかった。
「よし。後は弱火で15~20分煮れば完成だな」
「うん」
今回は特に小細工はせずに基本に忠実に調理した。
「しかしこれくらいなら櫛田一人でも作れたんじゃないか?」
櫛田の腕前も相当なものだった。恐らく小学生の時から料理をしていたのだろう。
「そんなことないよ。界外くんがしっかり教えてくれたから」
「そうか……?」
「うん」
まあそう言われたら悪い気はしない。
「煮終えるの待ってる間に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいぞ」
「えっと、特別試験のことなんだけどね、優待者を見抜いたのって界外くんなんだよね?」
「ああ。それと堀北もだ」
「堀北さんも見抜いてたんだ。……なんでわかったの?」
「じっちゃんの名に懸けて推理したから」
本当は氷菓を見て頭が冴えてたから。
「もうっ! 真面目に聞いてるんだよっ!」
「悪い。……ま、頭が冴えてたからしか言いようがないな」
「……そっか」
「それと櫛田がクラス内の優待者に名乗り出るよう呼びかけてくれたのも大きかったな」
「私……?」
「ああ。俺が優待者の法則性がわかったのも、三人の優待者の情報を得たからだ。その情報がなければ他のクラスの優待者はわからなかった」
最終的に五人の優待者の情報を得られたんだけどね。
「それじゃ私、界外くんのお役に立てたのかな……?」
「当たり前だろ。これからも櫛田の力が必要になると思うから頼りにさせて貰うよ」
「うん……っ! 私、頑張るねっ!」
嬉しそうに答える櫛田。頼られるのが嬉しいのだろう。今の櫛田はとても演技をしてるようには見えない。
「……しかし、なんで櫛田と南は優待者だと見抜かれたんだろうな」
「それは……ごめんね」
「いや、責めてるわけじゃないんだ。同じグループに観察力が優れた生徒がいたんだろうな」
「多分ね。上手く隠せたと思ったんだけどね……」
「仕方ないさ。優待者だと隠し通せれば50万ポイントもらえたのに残念だったな」
ちなみに櫛田にも9万プライベートポイントが付与されてる。これは特別試験でクラスで得た大量のプライベートポイントを均等に割り当てたからだ。
「そうだね。でも今さら気にしてもしょうがないから。それにクラスポイントが大分上がったし」
「2学期中にBクラスに行きたいな」
「行けるの?」
「特別試験の結果次第だ。ま、何回行われるかわからないんだけどな」
そうこう話してるうちに15分が経った。
煮終わった肉じゃがをお皿に盛りつけ、白米と合わせてテーブルに並べる。
「それじゃいただきます」
「いただきます」
二人同時に手を合わせる。さて出来栄えは……
「……うん! 美味しいっ!」
俺と一緒に作ったんだから美味しいに決まってる。
「今までで一番美味しく出来たかも」
「大げさだな」
「ううん、本当だよ。こんな美味しい肉じゃが初めてっ!」
次々に肉じゃがを口に運ぶ櫛田。幸せそうな表情をしている。
俺たちは10分ほどかけて、完食した。
「洗い物は私がするから界外くんはくつろいでてね」
「いや、俺もやるぞ」
「いいからいいから」
立ち上がろうとしたが肩を押さえられ座らせられた。
「そうか。それじゃお言葉に甘えて」
「うん」
テレビを見ながら、時折櫛田をチラ見する。
楽しそうに洗い物をしている。……料理に関しては本当に好きなんだろうな。
数分経ち、洗い物を終えた櫛田が戻ってきた。
「この後どうしよっか?」
え? 料理も食べ終えたし解散じゃないの?
「うーん、特に考えてないな」
「あのね……よかったら二人で出掛けない?」
「あー、ならもう少し経ってからでいいか? 食後にすぐ動くのは体に悪いから」
「うん、もちろんだよ」
正直暑いので外出したくない。けれど櫛田の二人で出掛けるのは初めてだ。櫛田のことを探るいい機会になるかもしれない。
♢♢♢♢♢♢♢
1時間後。俺と櫛田はケヤキモールに足を運んでいた。
「相変わらず人が多いな……」
「夏休みだからね」
クラスメイトと遭遇しなければいいんだが。特に男子共。
「櫛田は行きたいところあるのか?」
「うん。クレープ屋さんに行きたいんだけど……いいかな?」
「いいぞ」
「ありがとっ!」
櫛田に導かれるようにクレープ屋に向かう。
「夏休みにオープンした新しいお店でね、女の子に大人気なんだって」
「ほーん。女子は甘いもの好きだもんな」
「うん。界外くんは?」
「俺も好きな方だぞ」
そのうちオーブンレンジ買って、ケーキ作りする予定だし。
「よかったぁ」
「でも大人気なら混んでるんじゃないか?」
「かもね」
「それでも食べたいんだろ?」
「うんっ」
満面の笑みを浮かべながら返事をする櫛田。……くそ、可愛いじゃないか。
「ま、時間もあるし付き合うよ」
「ありがとっ!」
櫛田はそう言うと、腕に抱きついてきた。
「……クラスメイトに見られたら困るんじゃないか?」
「大丈夫だよ?」
「いや、ほら、クラスの男子とかさ……」
「別に彼氏がいるわけじゃないから問題ないよ?」
いやいや、みんなの人気者ポジションを失うかもしれないんだぞ。
「こうしてればカップルに見られるでしょ?」
「そりゃそうだろ」
「それが狙いなの」
「……ん?」
「えっと、何処にでもナンパする人っているでしょ?」
「いるのか?」
「うん。そういう人たちって男子の友達と一緒にいても声掛けてくる人もいるの」
マジかよ。凄いなナンパ野郎。
「でもこうして恋人がいることをアピールすれば引きさがってくれるんだよ」
「なるほど」
さすが櫛田。これも計算した上での行為というわけか。
「もし知り合いに見られても私から後で説明するから。だからこのままでいいかな?」
「……わかった」
説明してくれるならいいか。これも人助けの一環だ。
クレープ屋に着くまでの10分間、櫛田と腕を組みながら歩き続けた。
道中松下たちと遭遇して、またもやゴミを見るような目で見られてしまった。
♢♢♢♢♢♢♢
「美味しいね!」
満面の笑みでクレープを頬張る櫛田。
「そうだな」
確かに美味しい。これなら週一で食べてもいいと思う。けれど……
「男子が全然いないな……」
周りと見渡す限り俺しかいない。カップルが少しはいるもんだと思っていたが。
「そうだね。やっぱ男子は入りづらい雰囲気なのかな?」
「だろうな。俺だって櫛田がいなきゃ入れなかったと思う」
このお店に男一人で入店出来る猛者はいるのだろうか。
「そっか。ならまた一緒に来ようね」
「そうだな」
しかし櫛田もよく食べるな。これでクレープ2個目だろ。きっと栄養は全部おっぱいにいってるんだろうな。
「界外くんは2つ目頼まないの?」
「俺はいいよ。櫛田はよく食べるね」
「……沢山食べる女子、苦手だったりする?」
櫛田が不安そうに聞いてきた。
「いや。沢山食べる女子好きだぞ。特に俺の料理を美味しそうに食べてくれる女子」
「そ、そうなんだ。……よかったぁ」
何がよかったんだろうか。
「今度、界外くんの手料理食べてみたいな」
「いつでもいいぞ」
俺の料理を食べてくれるのは大歓迎。一度でも俺の料理を口にしてしまえば、お前の胃袋は俺に完全に掴まされることになるぜ。
「ほんとっ!?」
「ああ」
「ありがとう。それじゃ今度お願いするねっ」
「あいよ」
どうやら次に俺の料理の虜になるのは櫛田になりそうだ。ちなみに綾小路と堀北は既に堕ちている。
「ご馳走様でした」
櫛田がクレープを完食する。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだな。もう寄るところはないか?」
「うん」
「それじゃ帰るとするか」
お店を後にした俺と櫛田は、寮に向かっていた。
ちなみに櫛田はまたもや俺の腕に抱きついてる。
「帰りも必要なのか?」
「必要だよ。どこでナンパされるかわからないからね」
「さいですか」
帰りもクラスの男子に会わないといいんだけど……。
「お、界外と櫛田じゃねえか」
寮まであと5分というところで須藤と鉢合わせてしまった。
「こんにちは、須藤くん」
「よう」
「おう。なんだ? デートか?」
にやにやしながら聞いてくる須藤。
「クレープ屋に付き合っただけだよ」
「でも腕組んでるじゃねえか」
嫌なところ突いてきやがる。
「これはねナンパ防止のためにして貰ってるんだよ」
「そうなのか?」
「うん」
「なるほど。さすが界外だぜ」
なぜさすがなのかわからないが、櫛田の説明に納得してくれたようだ。それより気になることが一つある。
「なあ須藤」
「なんだ?」
「なんでニャンコ先生の縫いぐるみを抱いてるんだ?」
鉢合わせしてからずっと気になってたよ。
「そりゃニャンコ先生は俺の用心棒だからな。バスケの試合がある時はいつもベンチに置いてあるんだぜ?」
マジかよ。ベンチにニャンコ先生とかシュールすぎるだろ。
「これって何の縫いぐるみなの?」
櫛田がニャンコ先生について質問をして来た。
「ニャンコ先生も知らないのかよ櫛田」
「ご、ごめんね」
「今どきのJKなら知ってるのが常識だぜ」
「そ、そうなんだ……」
あははと苦笑いする櫛田。
「これは夏目友人帳に出てくる妖なんだ」
「な、夏目友人帳?」
「アニメだよ。須藤はそのアニメにはまってるんだ」
須藤の説明に補足する。
「須藤くんがアニメ……?」
「おう! 夏目のおかげで人生が変わったぜ!」
人生というより人格が変わってると思うぞ。
「そういえば綾小路も見てるんだよな?」
「ああ。博士と三人でよく見てるよ」
「綾小路くんもアニメ見てるんだ……」
櫛田が驚いた様子で呟く。
「それじゃ俺はそろそろ行くぜ」
「どこに行くんだ?」
「この時間だぜ。座禅に決まってるだろ」
いや知らんけど。座禅する時間帯ってあったのかよ。
「いい座禅スポットを見つけたんだよ。一緒に来るか?」
「行かない」
「そうか……」
俺の回答にしょんぼりする須藤。
「それじゃーな」
「またね須藤くん」
須藤に別れを告げ、再度寮へと向かった。
道中、櫛田が夏目友人帳について聞いてきた。どうやら少しは興味を持ってくれたようだ。
その後、櫛田を部屋まで送り届け、俺は自室でくつろいでいた。
「……結局、櫛田から情報を引き出せなかったな……」
単に一緒に料理をして、クレープ屋に行っただけで終わってしまった。……なんだか櫛田と恋人のような一日を過ごしてしまった。綾小路なら上手く情報を引きだせたのかもしれない。
「とりあえずなぜ櫛田がクラスを裏切ってるのか理由だけは知りたいよな」
櫛田桔梗。
うちのクラスの一番の人気者で優等生。他のクラスにも友人を多く持つコミュ力の申し子だ。
だがそんな彼女には裏の顔がある。
中学時代にクラスを崩壊させたこと。
仮面を被ってること。
そして船上試験でCクラスに情報を流したこと。
旅行の後半で行われた船上試験。
俺たちDクラスの圧勝に終わったが、二人の優待者をCクラスに当てられてしまった。
その二人の優待者が見抜かれたことにより、俺は櫛田がCクラスに情報を流していると確信した。
もし龍園が優待者の法則を見抜いていたなら、もう一人の優待者である軽井沢も同時に当てられていたはずだ。
つまり龍園は櫛田と南が優待者であることは把握していたが、軽井沢に関しては把握していなかったことになる。
櫛田と南が優待者であることを知っている人間。
軽井沢を優待者と知らない人間。
この二つに当てはまるのは……櫛田しかいないのだ。
うちのクラスの裏切り者は櫛田だと判明した。だが動機がわからない。
綾小路曰く櫛田を退学に追い込むのは簡単ということだが、櫛田が退学になるとクラスがパニックになる可能性が非常に高い。
なので俺と綾小路は櫛田が退学させず、裏切り行為をやめるよう方法を模索しているのだ。
その為には動機を知る必要があるんだが……
「なかなか難しいな……」
もう少し泳がせるしかないようだ。
理想は櫛田に二重スパイになって貰うことだ。
別に禁書3期が始まるから、金髪グラサン陰陽師を見習って二重スパイになって貰おうと思ったわけではない。
俺と一之瀬が龍園に宣戦布告されてから一週間以上経ったが、今のところ何か仕掛けてくる様子はない。恐らく2学期以降に仕掛けてくるのだろう。
なので櫛田に二重スパイになって貰い、Cクラスの情報を仕入れたいんだが、そう上手くはいかない。
俺が一番怖いのは龍園が腕力にモノを言わせて来ることだ。
非力な一之瀬では全く勝ち目がない。更にBクラスに腕に自信がある生徒がいるのかわからない。神崎は完全に知略タイプだ。柴田は運動能力は高いが、喧嘩をするタイプには見えない。逆にDクラスには俺、綾小路、堀北、須藤、三宅と腕に自信がある生徒が多い。高円寺も強そうだけど頼りにならないからな。
「レンタルで短期間Bクラスに移籍出来ないだろうか」
軽く現実逃避した直後、携帯の着信音が鳴った。
携帯の画面を見ると、綾小路からのチャットが届いていた。
『PSYCHO-PASSの続きを見たいんだが今から行っていいか?』
どうやら綾小路は、昨日見せたPSYCHO-PASSにはまってくれたようだ。
『いいぞ。夕食もご馳走してやる』
『すぐに行く』
返信早いな。早く来ても夕食出すのは早くならないぞ。
「さて、ブルーレイを準備しておくか」
考えるのは今日はもうよそう。
綾小路と二人でPSYCHO-PASSを楽しもうじゃないか。
ブルーレイをレコーダーに入れる瞬間、ふと思った。
「綾小路って人殺しても犯罪係数上がらなさそうだな」
もちろん本人には言えないけどね。
その後、綾小路と寝るまでPSYCHO-PASSを見続けた。
明日は松下と佐藤のお話