実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
夏休み最終日の前日。俺は自室で綾小路とアニメ鑑賞をしていた。
PSYCHO-PASSを見終えた俺たちは、現在DARKER THAN BLACKを見ている。
綾小路と二人でアニメを見始めてから何週間か経つが、アニメを見ている時はお互い無言である。最初は博士も参加していたが、無言の時間が苦痛だったようで途中から参加しなくなった。
「切りがいいからそろそろ夕食作るよ」
停止ボタンを押し、綾小路に声をかける。
「わかった。ならオレはシャワーを浴びてくる」
「俺が料理してる間も見てていいんだけど」
「それだと調理の音が気になって集中が出来ない」
「そ、そうか……」
こいつ……夕食を作って貰っている立場だということを忘れているのだろうか。
まあそれだけアニメに集中してくれるのは嬉しいんだけどさ。
「今日は何を作るんだ?」
「お肉が安かったから和風おろしハンバーグ」
「そうか。いつも作って貰って悪いな」
クールに振る舞ってる綾小路だが、涎を手で拭っていた。一瞬だったが、俺の目ははっきりと見ていたぞ。
「別にいいよ」
「そんなお前に日頃の感謝の気持ちを込めて、プールに招待したいと思う」
「……は?」
「期間限定で水泳部が使用しているプールが一般生徒に開放されているのを知ってるか?」
「知ってるもなにも、一之瀬と行ってきたけど」
俺がそう答えると、綾小路が固まってしまった。
「もう行っていたのか……」
「ああ。それで明日プールに行くのか?」
「そうだ。面子はオレ、須藤、池、山内、櫛田、佐倉の六人だ」
綾小路、佐倉を誘ったのか。佐倉は嬉しかっただろうな。
「界外も来ないか?」
「そうだな。行かせてもらうか」
明日は夏休み最終日だ。みんなで遊んで締めくくるのもいいだろう。
「わかった。それとお前に誘ってほしい人物がいる」
「誰だ?」
「堀北だ。須藤がどうしても堀北とプールに行きたいようでな……」
そういえば須藤って堀北のことが好きなんだっけ。もう夏目と座禅のイメージしかないや。
「堀北ね。だめもとで誘っておくよ」
「助かる」
「明日は何時待ち合わせなんだ?」
「朝8時半にロビー集合だ。夕方には解散予定になっている」
早いな。朝から遊んで、夕方解散って途中で飽きるパターンだろ。
「わかった」
「それじゃシャワーを済ませたらすぐに戻る。和風おろしハンバーグ期待しているぞ」
クールな顔でそんなこと言うとは、綾小路もユーモアに溢れてるよな。
「おう。また後でな」
「ああ」
綾小路が部屋を後にしてすぐに、堀北にチャットを送った。
送信してすぐに携帯の通知音が鳴り響く。画面には堀北からの返信が表示されていた。
『行くわ。それで明日は何時にどうすればいいの?』
意外とノリノリのようだ。もしかして前からプールに行きたかったのかもしれない。
『朝8時半にロビーに集合だ』
『了解。界外くんと二人ということでいいのかしら?』
しまった。プールに誘っただけで、面子を送るのを忘れていた。
『面子は三馬鹿、綾小路、櫛田、佐倉だ』
『……そう。わかったわ』
どうやら大人数でも来てくれるようだ。
『櫛田さんも一緒なのね。大丈夫なのかしら?』
『プールで遊ぶだけだ。問題ないだろ』
『そうね。でも気をつけて。彼女は裏切り者なのだから』
特別試験の最終日。寮に帰った俺は堀北を自室に呼び出して、櫛田がクラスの裏切り者であることを告げた。
櫛田が龍園に情報を流していたことに、堀北は大変驚いていた。
櫛田が裏切り者だと知っているのは、俺、堀北、綾小路の三人だけだ。
『わかってるよ。それじゃまた明日な』
『もう少しチャットしない?』
何だろう。珍しく暇してるのだろうか。
『今から料理作るのと、綾小路と遊ぶからまた今度な』
『わかったわ。おやすみなさい』
いや寝るの早すぎでしょ!? まだ夕方6時だぞ!
堀北からのチャットを終え、俺は夕食を作り始めた。
♢♢♢♢♢♢♢
そしてあっという間に翌朝を迎えた。夏休み最後のイベントの始まりだ。
準備を終え、部屋を出ようとしたところで、来客を知らせるインターフォンが鳴った。
玄関ドアを開けると、そこには堀北の姿があった。
「おはよう」
「おはよう。どうしたんだ?」
「界外くんが寝坊してるか不安だったから迎えに来たわ」
「そ、そうか……」
おかしいな。寝坊したことないんだけど。いつから堀北の中で俺は寝坊キャラになったのだろうか。
「準備は出来てるみたいね」
玄関に置いてある鞄を見ながら堀北が言う。
「ああ。ちょうど出ようとしたところだよ」
「そう。それじゃ行きましょうか」
「ああ」
部屋を出たのは8時20分。ロビーに降りると櫛田と佐倉の姿があった。
「界外くん、堀北さん、おはよう!」
「おはよう」
櫛田が満面の笑みで挨拶をしてきた。堀北は相変わらずのスルー。クラスメイトを受け入れることを宣言した堀北だが、櫛田は対象外のようだ。
「お、おはよう。界外くん」
「おはよう佐倉」
やや怯えながら顔を覗かせた佐倉が挨拶をかけてくれる。佐倉と会うのは橘先輩を入れて三人で遊んだ時以来だ。
橘先輩の話をしたかったが、佐倉の性格上、他の人に聞かれたくないだろうと思い、踏みとどまった。
「界外くんも来てくれたんだね」
「綾小路に誘われてな」
「そうなんだ。今日は思いっきり楽しもうねっ!」
櫛田は朝から元気がいいな。
「朝からテンションが高いわね。もう少し抑えたらどうかしら」
「だってこうしてみんなで遊ぶの楽しみなんだもん。堀北さんは楽しみじゃないの?」
「わ、私は別に……」
櫛田にそう言われ、そっぽを向く堀北。どうやら櫛田の勝利のようだ。
「佐倉も綾小路に誘われたのか?」
「うん」
「よかったな」
「ふぇっ!?」
佐倉のダイナマイトボディで綾小路を悩殺してやれ。
「うっす」
「おっす」
佐倉をからかってると、須藤と池が降りてきた。
「後は綾小路と山内だけか」
綾小路のことだから時間ぎりぎりで来るんだろうな。
そして俺の予想通り、綾小路は8時半ちょうどにやって来た。
「綾小路、もう少し時間に余裕を持って行動しろよ」
「まだ約束の時間まで……10秒くらいあっただろ」
「5分前行動は常識だぞ」
「そうか。5分前行動が常識なのか……」
今日も綾小路に一般常識を教えてやったぜ。これで綾小路も常識人に一歩近づけたな。
「山内は?」
「知らん。死んだんじゃないか」
「勝手に殺すなよ……」
綾小路が呆れたように言う。
池が山内に電話するが出ないようだ。
「俺部屋まで行ってくるよ」
池はそう言うと、エレベーターに乗り込んで行った。池って意外と気が利くんだよな。そして行動力もある。
「あれれー? 界外くんだ。おっはよー!」
ロビーで山内の到着を待っていると、一之瀬、白波さん、網倉さん、小橋さんの四人組が降りてきた。一之瀬の手には先日も見たカラフルなビニール袋にバスタオルが顔を覗かせていた。
「もしかして界外くんたちもプールに?」
「正解」
「私以外と行く予定ないって言ってなかったっけ?」
ジト目した一之瀬が睨んでくる。
「綾小路に誘われたんだよ」
「……そうなんだ。ならせっかくだし一緒に遊ぼうよ。どうかな?」
「俺はいいけど」
他の面子はどうだろうか。
「もちろん歓迎だぜ。ここで偶然出会ったのも何か意味があるのかもしれねぇ。出会いの一つ一つを大切にしないとな」
「え、あ、うん……」
まさか須藤からそんなスケールが大きい言葉が来るとは思わなかったのだろ。一之瀬が珍しく困惑している。
他の面子も賛同のようだ。……堀北だけ険しい顔をしていたのは見なかったことにしよう。
「ただ悪いんだけど、一人寝坊してるみたいでな。そいつ待ちなんだけど、いいか?」
「りょーかいっ」
まさか最終日も一之瀬と遊ぶことになるとは。
「これでプールで遊ぶの二回目だね」
「だな。最終日だし思いっきり遊ぶか」
「だね。界外くんたちは何時まで遊ぶ予定なの?」
「夕方までだ。一之瀬たちは?」
「私たちは特に決めてないよ。女子四人だから飽きたら帰る感じだと思う」
だよね。朝から夕方までって飽きるよね。
「帆波ちゃん、久しぶりっ」
「桔梗ちゃん、久しぶりだね」
俺が一之瀬と話してると、櫛田がやって来た。
「今日はよろしくねっ」
「こちらこそだよ」
「うん。帆波ちゃんは今日がプール初めて?」
「ううん。界外くんと二人で行ったことがあるよ。だから今日は二回目かな」
「そうなんだ」
笑顔なのに櫛田から負のオーラが発されてるような気がする。
「一之瀬さんと二人で行ったことがあるのね」
今度は堀北が近づいてきた。
「あ、ああ。……堀北は初めてか?」
「ええ。前に佐藤さんに誘われたけれど、人が多いのは苦手だから断ったのよ」
「そうなのか。今日も混んでると思うけど大丈夫か?」
「問題ないわ。と言いたいところだけど、もし体調が悪くなったらよろしくね?」
「お、おう……」
体調が悪くなったら保健室に連れていけってことだよね。
「体調悪くなったら私に言ってよ。色々と薬持ってきてるからさっ」
一之瀬が鞄を軽く叩きながら言う。
「ごめんなさい。市販の薬はNGなの。だから気持ちだけありがたく受け取っておくわ」
「そっか。桔梗ちゃんは人多いところ大丈夫?」
「うん。私は全然だよ。帆波ちゃんは?」
「私も大丈夫。あまり多すぎるのは嫌だけどね。界外くんと二人で行った時は、人が多すぎて遊べるスペースがなかったしさ。ね?」
そこで俺に振らないでよ一之瀬。
「そうだな。でも今日みたいに朝一で行けば、前より空いてるかもしれないな」
「だといいんだけどね」
一之瀬たちとの会話を終え、俺はそっと綾小路の元へ向かった。
「山内はまだ来ないのか?」
「池から連絡があった。もうすぐ来るそうだ」
「そっか」
なんだか朝から疲れてしまった。早くプールに行って、一之瀬たちの水着姿で癒されたい。
学校の傍に併設された水泳部専用である『特別水泳施設』へと足を運ぶ。
このエリアに関しては特別に制服を着用しなくても入れるように配慮されている。最終日ともあって人が非常に多い。ただ来る時間が早かったので、一之瀬と二人で来た時よりは少なく感じる。
「それじゃみんな20分後にこの場所で集合ってことで」
プールへと続く廊下を指差し一之瀬が言った。最近は甘えん坊な一之瀬しか見てなかったので、まとめ役をしているのを見ると新鮮に感じる。
女子たちと別れ、更衣室に入るなり池と山内は一目散に一番奥のロッカーに陣取った。
「俺たちにとって今日は特別な日になる。そんな予感がする!」
「ああ、俺たちは伝説になるんだっ!」
なんか大声で恥ずかしいこと言ってるんだけど。
「こいつらどうしたんだ?」
須藤が聞いてきた。俺に聞かれても困る。
「さあ。中二病でも発病したんじゃないか」
「なるほど。童心に帰ってるわけだな」
「お前、言い回しが優しいな」
「まあな。夏目見てて、汚い言葉を使えるかよ」
ごめんね。夏目好きなのに汚い言葉使ってて……。
綾小路の方を見ると、携帯を弄っていた。
「わりぃ。トイレに行ってくる」
「ああ。俺は先に行ってるよ」
須藤はトイレに、俺はプールに向かうため更衣室を後にした。
やはりプールに行くときはあらかじめ水着を着用するのが楽だな。
♢♢♢♢♢♢♢
「誰も来てないか」
男子で一番先に更衣室を出たんだ。当たり前か。
しかし池と山内の様子が変だったな。女子の水着が見れるのに興奮しているのだろうか。
「やー、今日も凄い人だかりだねー」
スクール水着姿の一之瀬が姿を現した。……廊下にいる男子たちの視線を一斉に集めながら。
「……だな」
これは反則だろう。一之瀬のグラマラスな体にスクール水着。この組み合わせは犯罪臭がする。
「他の人たちは? 男子ってもっと早いと思ってたよ」
「トイレに行ったり、携帯を弄ったりしてた」
「そうなんだ」
「一之瀬は早いな」
この前はもっと時間がかかってたはずだ。
「あはは。実は水着を着てきたんだよね」
「俺も同じだ」
「界外くんも着てきたんだ。一緒だねっ」
「だな」
スクール水着じゃなくて競泳水着だったら完全に七咲だった。
「てか、今日はスクール水着なんだな」
「うん。この前も言ったでしょ。あの水着は界外くんと二人で遊ぶ時だけだって」
ということは来年まで見られないってことか。
「そうだったな」
「うん。だからね……もし界外くんが見たいなら着てもいいよ?」
「着てもいいって今日で夏休みは終わりだぞ」
「知ってる。だからね、界外くんの部屋で……私の水着姿見せてあげる」
一之瀬が妖艶な笑みを浮かべながら言う。
「ま、マジで……?」
「マジだよ。……どうする?」
「……お願いします」
「うん。見たい時に言ってね」
部屋であんな姿を見せられたら理性を失いそうだけどもういいや。あの水着姿を見られるなら獣になってもいい気がしてきた。
「そういえばこの前も思ったんだけど」
「ん?」
「界外くんって無駄に筋肉を付けてない細身の理想的肉質だよね」
一之瀬はそう言うと、人差し指をピンと立てて俺の腹をつついてきた。
ツンツンツンツンと遠慮なく触り、二の腕やら肩にまでそのアクションを繰り返される。
「一之瀬、くすぐったいんだけど……」
「やめてあげないよ。この前の耳責めのお返し」
「お返しって……気持ちよくなってたくせに」
「にゃっ!?」
あんなに喘いでたくせにお返しとかよく言うよ。
「一之瀬がやめないなら、俺もここで耳を弄ろうかな」
不敵な笑みを浮かべながら一之瀬に言う。
「だ、駄目だよ……。こんなところで……」
「一之瀬が声を我慢すればいいんじゃないか?」
「我慢なんて出来ないよ……」
顔を赤くしながら一之瀬が言う。
そんな彼女を見て、加虐心をくすぐらされた俺は右手を彼女の耳に近づけた。
「あっ……。だ、だめぇ……」
俺の攻撃に耐えるために、ぎゅっと目をつぶる。
俺は一之瀬の耳に近づけた右手を、元の場所に戻した。
「……あ、あれ……?」
一之瀬が恐る恐る目を開ける。
「こんな場所でやるわけないだろ。一之瀬はお馬鹿さんだな」
ふふふ、勝った。俺から主導権を握ろうなんて百年早いぜ。
「むぅ」
頬を膨らませた一之瀬が俺を睨む。
「そんな可愛い顔で睨んできても痛くもかゆくもないぞ」
「……やっぱり界外くんってSなんだ」
「心配するな。自覚はある」
「自覚あるんだっ!?」
前から薄々気づいていた。それが一之瀬や堀北の泣いてる顔を見て確信へと変わっていったのだ。それでもライトなSだと自分では思う。
一之瀬と駄弁ってると女子たちが続々やって来た。
「あれ? 男子は界外くんだけ?」
櫛田が周りを見渡しながら言う。
「ああ。どうやらうちのクラスの男子は恥ずかしがりやのようだ」
「そんなわけないでしょ」
俺の冗談に堀北が突っ込む。
「まあそのうち来るんじゃないか」
「まさか女子の方が早いとはね」
ため息をつく堀北。そんな堀北は白のビキニを着ている。スレンダーでいい身体をしていると思う。櫛田は黄色のビキニを着ている。エロい。佐倉はラッシュガードを着てるので、どんな水着を着てるかはわからなかった。
数分後、綾小路たちがやって来た。遅すぎだろう。
「それじゃ行こっか。とりあえず奥の方が空いてそうだし」
まずは休憩できる拠点の確保に動く。ここでも先導するように一之瀬が歩き出した。そして一之瀬に合わせて櫛田も。すると真後ろにいた池と山内が陣取る。どうやら目当てはプリプリと揺れる一之瀬と櫛田のお尻のようだ。……よし殺そう。
「池、山内」
二人の背後に陣取り声をかける。
「ん?」
「なんだよ?」
振り向いたところで、二人の水着を掴む。
「今すぐ一之瀬を視界から消せ。さもなくばこのまま水着を破く」
「「ひぃっ」」
「どうする? 大人しく言うことを聞くか? 恥を晒すか?」
俺は自分でも驚くような冷淡な声で問いかけた。
「わ、わかったっ! 見ない! 見ないからっ!」
「あ、ああ! 俺たちが悪かった! だからやめてくれっ!」
「……わかった」
二人の返事を聞き、水着から手を離す。
「……次、同じことをしたら……」
「「したら……?」」
「ミミズを耳の中に入れて飼わせてやるよ」
俺がそう言うと、二人は小さな悲鳴をあげ、走って先に行ってしまった。
「あ、駄目だよ。走っちゃっ」
一之瀬が注意するが、二人はそのまま走り去ってしまう。
「あれ一之瀬たちじゃん。そっちも今日来たんだ」
スペースを探し歩いてると、一之瀬が三人の男子生徒に声をかけられた。そのうち二人には見覚えがある。神崎と柴田だ。
「やっほー。柴田くんたちじゃない」
「おう。なんか楽しそうな集まりだな。俺たちも混ぜてくれよ」
「私は全然オッケーなんだけど……いいのかな?」
「悪いな柴田、このプールは12人までしか入れないんだ」
「なんでだよっ!? それといつからスネ○キャラになったんだよ!?」
ふむ。柴田も突っ込みが鋭い。どうやらサッカー部は突っ込みキャラが多いようだ。
「界外くん、あまり苛めちゃ駄目だよ?」
「そうだぜ。イジメかっこ悪い」
「いや、苛めてないから」
結局柴田たちも加わり合計15人の大所帯となった。
「それで何して遊ぶ?」
柴田が聞いてきた。
「うーん、プールでバレーやってみない? こっちは柴田くんたちを入れて7人、そっちは8人だからお互い交代しながらさ」
折角プールに来たんだからと一之瀬が提案した。真っ先に賛同したのは池だ。
「やるやる! 俺小さな巨人になってやる!」
それは絶対無理だが殆どの生徒は賛成のようだ。
「あ、あの。私は運動が苦手なので……見てます」
明らかにバレーをやりたくない様子で佐倉が言う。運動好きじゃなさそうだもんね。
「私も乗り気じゃないわね」
「堀北さん、逃げちゃうのかな?」
笑いながら一之瀬が、挑発するように言った。
「たかが遊びに逃げるもなにもないわ」
「確かに遊びだよ。でもクラスの縮図ではあるよね。どっちが意欲的でどっちがチームワークに優れているか。ある意味クラス対抗戦の模擬って感じかな? それとも私たちとは戦いたくない?」
一之瀬にしては珍しく好戦的だな。
「それに界外くんのバレーしてる姿見たいでしょ?」
一之瀬が堀北の耳に顔を近づけ何か喋り続けてる。
「……いいわ。やりましょう」
おお。まさか堀北にやる気を出させるとは。
「それから試合を盛り上げるためにさ、勝った方が相手のランチを全額負担する。こんなオマケくらいあってもいいんじゃないかな」
「その条件も受けるわ」
こうしてコートの申請をした俺たちは、空きが出来るまでの間各自作戦を練ることになった。
試合のルールは1セット15点の3セットマッチ。先に2セットとった方の勝ちで決まる。サーブ権はローテーションで得点を取った方が再びサーブ権を得る。
「これって私たちの勝ちは決まったようなものじゃないかな」
「どういうことだ桔梗ちゃん?」
櫛田の発言に池が問う。
「だって界外くん全中ベスト4のセッターだったんだよ」
そう言えば櫛田に前に聞かれて教えたんだっけ。
「マジかよっ!?」
「お、俺もインターハイでベスト4だったんだぜ!」
山内よ。中学の大会にインターハイなんてないんだよ。
「そうね。なら楽勝かしら?」
「そうだな。バレーは2年前までやってたから負ける気はしない。ただ……」
「ただ?」
「水上バレーだからジャンプサーブがうまく出来るかどうか……」
久しぶりにやってみたいのに。体育の授業でバレーやらないかな。
「ジャンプサーブは駄目でしょ。試合が成立しなくなるわ」
「堀北さんの言う通りだと思うな。少しはラリーも楽しみたいし」
「……わかった。ジャンプサーブはしない」
美少女二人に言われては、言うことをきくしかない。
♢♢♢♢♢♢♢
「うげっ!?」
俺の高速トスに合わせるように、須藤が高々と飛び上がったが、ジャストミートせずボールは明後日の方向に飛んでしまった。
「須藤ボゲェ!」
影山をトレースした俺は須藤に暴言を吐く。
「テメェが高速トスを要求してきたんだろうが! もうトス上げてやんねーぞ!?」
「わ、わりぃっ! 次は絶対決めるからよ!」
「ボゲェ!」
そんな俺たちのやり取りを櫛田が苦笑いをしながら見つめてる。
「界外くん、無理に高速トスをしなくていいと思うの。普通のトスを上げれば須藤くんもスパイクを打てると思うわ」
「あ?」
「ひっ。……ご、ごめんなさい……」
しまった。つい堀北を睨んでしまった。
「そ、そうよね。界外くんは真剣にプレイしてるのよね。出しゃばったことをしてごめんなさい」
「あ、いや……」
「もっと私を罵っていいのよ……?」
堀北は何を言ってるんだろう。顔も赤くなってるし。
「……須藤。次がラストだ。次決められなかったら高速トスはもう上げない」
「……おうっ!」
覚悟を決めたような表情で須藤が返事をした。
「お前の彼氏怖すぎだろ?」
「あはは。まだ彼氏じゃないんだけどね。バレーであんな人が変わるとは思わなかったかな」
柴田と一之瀬がなにか話してる。
「次ポイント取りましょう」
堀北がみんなを鼓舞するように言う。
スコアは7対5とDクラスがリードしている。
「来るわ!」
一之瀬が放ったサーブを堀北が打ち上げる。
「ナイスレシーブだ堀北」
ボールの落下地点に瞬時に移動し、須藤に目で合図を送る。
「もってこーいっ!」
須藤は既にネット近くで高々と飛び上がってる。
そして須藤のギリギリ届く高さへトスを送る。
「おりゃっ!!」
須藤がボールを叩くと、弾丸のような鋭い球が相手陣地を襲う。
Bクラスの面々は俺と須藤の変人速攻に反応できず、一歩も動けずにいた。
「しゃっ!」
須藤がガッツポーズを決める。
直後、ギャラリーから歓声が湧き上がった。
「へへ、やったぜ!」
「そうだな。次も上げるぞ」
「おう!」
まさか本当に俺の高速トスに合わせるなんてな。どうやら須藤の運動能力は俺が思ってる以上のようだ。
「にゃはは。凄いね。全然反応出来なかったよ」
ボールを渡すため近寄ってきた一之瀬が苦笑いをしながら言う。
「素人があの速攻に反応出来たら怖いよ」
「だよね。……これは勝てる見込みないかも」
「一之瀬も俺がバレーやってたの知ってただろ」
「知ってたよ。だから勝負を申し込んだの。……界外くんのバレーしてるところ見たかったから」
頬を紅く染めながら一之瀬が言う。試合に集中出来なくなるからやめて!
「そ、そうか……。とりあえず試合中だから後でな」
「うん」
ボールを受け取り、ポジションに戻る。
「界外くん、凄いねっ!」
「ありがとう。櫛田もレシーブが上手くて凄いと思うぞ」
「そ、そうかな。褒めてくれて嬉しい」
櫛田も照れてしまったのか、顔を赤くし始めた。
「今は試合中よ。集中して」
堀北が俺と櫛田を嗜める。
「悪い」
「ごめんね堀北さん」
試合を再開したが、結局Dクラスの圧勝で終わった。スコアは1セット目が15対8、2セット目が15対3だった。……もう少し楽しくやればよかったかも。
「にゃぷー。負けたよ。惨敗」
プールから上がると、一之瀬が近づいてきて言った。悔しがってるようには見えない。
「界外くんと須藤くんのコンビで勝ったようなものだけれどね」
素直に褒める堀北の近くで須藤が顔を赤くしている。お前まで赤くなるなよ……。
「やっぱ全中ベスト4は伊達じゃなかったね」
「当たり前でしょう。それに最優秀セッターなのよ」
なぜか堀北がドヤ顔で説明している。
「界外くん、本当にバレーも凄いんだね」
「まあな」
櫛田が尊敬の眼差しで俺を見る。
「そこまで筋肉あるように見えないのに。なんであんな凄いトス出せるのかな?」
櫛田が俺の腕をぷにぷにしてきた。くすぐったいからやめて。
「あ、でも固いや。こういうの細マッチョって言うのかな?」
「マッチョって響きは嫌いだから、違う言い方にしてくれ」
「ちょっと、公共の場で何をしてるの。櫛田さん、場所を考えなさい」
「ごめんっ。それじゃ場所を変えて界外くんの身体を堪能しようかなっ」
「……は?」
櫛田の発言に、眉を顰める堀北。
「だって場所を変えればしてもいいんだよね?」
「私はそんなこと言ってないけれど」
「言ったと思うんだけどなー」
「言ってないわ」
なにこの二人怖い。ここは一之瀬が止めてくれるのを期待するしかない。
「そうだよ。私みたいに二人っきりの時にした方がいいと思うよ」
一之瀬が爆弾を投下しやがった。
「一之瀬さん、あなたまで何を言ってるの?」
「何か問題あるかな堀北さん?」
「ええ。人前でふしだらな発言は自分の価値を下げるだけよ」
「別にふしだらな発言じゃないと思うけど。……堀北さん、頭固すぎじゃないかな?」
「なっ!?」
堀北対櫛田の次は、堀北対一之瀬になってる。
「友達の身体や筋肉をチェックするくらい普通だと思うよ。ね、桔梗ちゃん?」
「うん。それに堀北さんって水泳の授業の時に界外くんと綾小路くんの肉体見てたよね? 本人たちにスポーツしてるかも聞いていたし」
「あ、あれは、その……」
どうやら堀北の負けのようだ。
「えっと、そろそろお昼にしないか?」
空気を変える為、提案する。
「そうだね。そろそろお昼にしよっか。約束も果たさないといけないからね」
みんなで売店に向かう。俺の隣には一之瀬と櫛田がピタッとくっついてる。堀北はやや後方。
周りから注目されてる気がするのは、バレーで活躍したからなのか。それとも美少女たちと一緒だからかわからない。
程なくして売店前まで辿り着くと、一之瀬が振り返った。
「約束通り好きな物、好きなだけ食べていいからね」
「よっしゃ! それじゃ遠慮なく!」
池と山内が一目散に駆け出していく。その姿を一之瀬は微笑ましく見ていた。
「もしかして一之瀬が全額負担するのか?」
「うん。私が言い出しっぺだからね」
確かに言いだしたのは一之瀬だが女の子一人に負担させるのはどうかと思う。
「柴田、神崎、浜口。お前らって将来ヒモになりそうだよな」
たっぷり皮肉を込めて言う。
「うっ。……わ、わかったよ。俺も負担するよ! すればいいんだろ!」
「そうだな。さすがに一之瀬一人に負担させるわけにはいかない」
「僕も払います!」
こいつらチョロいな。神崎までチョロかったのはショックだけど。
「え、いいよいいよ。私が払うってばっ」
「帆波ちゃん、払ってもらおうよ」
「うん。私たちも払うからさ」
「そうそう」
白波さんたちも払ってくれるようだ。
こういうのを見ると、Bクラスの仲の良さがよくわかる。
俺たちDクラスじゃ見られない光景ですね……。
「……それじゃお言葉に甘えようかな」
一之瀬の言葉を聞いて、俺はお目当ての売店に向かう。
「凄いね界外くん」
隣を歩く櫛田が言う。
「なにが?」
「帆波ちゃん一人に負担させないよう、ああやって言ったんでしょ?」
「まあな。さすがに女の子一人に払わせるには心苦しいし」
「そうだよねっ。私もそう思う」
ていうかバレー経験者の俺がいる時点で反則のようなものだよな。
「櫛田。何が食べたい?」
「え?」
「俺が奢ってやる」
「界外くんが? なんで?」
可愛らしく首を傾げながら櫛田が問う。
「今日頑張ったご褒美」
「ご、ご褒美……」
いかん。子供扱いされたと不快に思ってしまっただろうか。
「……いいの?」
「いいよ。ほら、何でも好きな物買っていいぞ」
「ありがとっ!」
満面の笑みでお礼を言う櫛田。……裏の顔をわかっていても可愛いと思ってしまう。
「……私には奢ってくれないのかしら?」
いつの間にか隣に立っていた堀北がジト目で見てきた。
「堀北には手料理振る舞ってやる」
「……約束よ?」
「ああ。ただ今日は疲れたから今度な」
堀北にそう言うと、背後から視線を感じた。
振り向くと、佐倉と並んでる綾小路が俺を見ていた。
……わかったよ。お前にも手料理振る舞うよ。だからそんな目で俺を見るな。
俺が目でそう伝えると、納得したようで佐倉を連れてテーブルに向かっていった。
「……でも綾小路って特に頑張ってなかったような……」
♢♢♢♢♢♢♢
閉館時間が近づくと一之瀬が混みだす前に帰ろうと提案し全員が賛同する。
更衣室で着替えを終え、待ち合わせ場所に向かった。10分ほどすると全員集まり、帰路に就いた。
「ねえ帆波ちゃん、アイス食べたいなって思うんだけど。どうかな?」
網倉さんが一之瀬に提案をする。
「そうだねー。確かに食べたいかも」
アイスか。たまにはいいかもしれないな。
「良かったら少し寄り道して帰らない?」
一之瀬は近くのコンビニを見てそう言った。全員喉が渇いていたのだろう。反対意見は出なかった。全員で店内に入るとアイスコーナーに駆け寄るメンバーたち。堀北は飲み物にするか悩んでいるようだ。
「界外くんはなに買うの?」
「カルピスアイスバー。一之瀬は?」
「私はアイスキャンデーだよっ!」
なぜかドヤ顔で商品を見せつけてきた。
「それ美味しいのか?」
「美味しいよ。後で一口あげようか?」
「……いや遠慮しておく」
「そう。残念」
さすがにみんなの前じゃ無理だ。
購入を終えて外に出ると、全員集まりコンビニの空いたスペースで食べ始めた。袋を丁寧に破いて、カルピスアイスバーを口の中に運ぶ。
「これは……美味しい……」
久しぶりにアイスバーを食べたが、最高だった。
「そんなに美味しいの?」
隣に座る一之瀬が聞いてきた。
「ああ。やはりカルピスが最強か」
「本当に好きだよね。……妬けちゃうかも」
「え」
「あはは、冗談だよ。さすがにアイスに嫉妬したりはしないから」
どう返せばいいか困るんだけど。
「ねえ」
「ん?」
「明日から学校だよね」
「そうだな」
いよいよ2学期の始まりだ。どういう試験が待ち受けているのか。
「多分、龍園くんが何か仕掛けてくると思うんだ」
「だろうな」
夏休み中は特にトラブルは起きなかった。
「お互い気をつけないとね」
「ああ。……何か困ったことあったらすぐに言えよ」
「うん。界外くんも言ってね?」
「わかった」
正直龍園がなにを仕掛けてくるかわからない。
けれどやるべきことは決まっている。
「界外くん」
「なんだ?」
「2学期も沢山遊ぼうね?」
「ああ、もちろんだ」
彼女を守ること。
そして一之瀬帆波の笑顔を俺以外の人間に曇らさせないことだ。
来週からは体育祭編スタートです
綾小路の出番多くなるかも