実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
9月1日。とうとう2学期が始まった。
ショートホームルームの時間になり、茶柱先生がやって来た。
「おはよう。早速クラスポイントを発表する」
茶柱先生はそう言うと、大きな紙を黒板に貼り付けた。
そこには、いつもと同じように各クラスのクラスポイントが書かれている。
俺たちDクラスは627。Aクラスが924。Bクラスが773。Cクラスが292
よかった。夏休みに問題を起こした生徒はいなかったようだ。
「おめでとう。今日からお前たちはCクラスだ」
直後、多くの生徒から歓喜の声が上がった。
「よっしゃー!」
「Cクラスに昇級!」
「今日は一段と座禅が捗りそうだぜ」
いつもなら大騒ぎする生徒たちに眉を顰める茶柱先生だが、表情はとても柔らかく見える。
茶柱先生なりに俺たちの努力を認めてくれたのかもしれない。
「2学期でDクラスがCクラスに昇級したのはお前たちが初めてだ。よくやった」
まさか素直に褒めてくれるとは……。明日は大雨かな。
失礼なことを考えてると、松下に肩を叩かれた。
「やったね」
「だな。俺を称えてもいいんだぞ」
「うざっ」
冗談で言っただけなのに酷い。
最近松下の俺への扱いが雑なような気がする。
「9時10分から体育館で始業式がある。遅れないように」
茶柱先生はそう言うと、教室を去っていった。
生徒たちは大量のポイントが手に入ったためだろう。何を買うか、どこに出かけるかなど話をしているのが聞こえた。
「界外くんは何か買うの?」
松下が訪ねてきた。
「オーブンレンジを買う予定だ」
「オーブンレンジ?」
「ああ。ケーキやお菓子を作ろうと思って」
「相変わらず女子力高いね」
松下が呆れたように言う。
「何だよその顔は?」
「別に。作ったら食べさせてね」
「あいよ。松下は何か買うのか?」
「洋服かな。大きな買い物はしないよ」
意外だ。お金=ポイント大好き松下なので、高い物でも買うのか思ってた。
「ほら、貯金しておいた方が何かあった時のために便利でしょ?」
「そうだな。前に茶柱先生はポイントで買えないものはないと言っていた。つまりトラブルがあった時もポイントで解決できる可能性もあるというわけだ」
「ま、問題は起こさないようにするけどさ」
確かに松下なら問題を起こす可能性は低いだろう。ただトラブルに関しては巻き込まれる可能性もある。その為にもポイントの貯蓄はしておいた方がいい。
「松下から佐藤や篠原にも言っておいてくれよ」
「もちろん。佐藤さんなんて無駄遣いしそうだしね」
「私がなに?」
佐藤と篠原がやって来た。篠原を見るのは特別試験以来だ。
「佐藤さんが無駄遣いしそうだから注意しておけって界外くんに言われたの」
「おい」
「ひどーい! 私だって貯金くらいするから!」
佐藤が非難するような目つきで見てくる。
「言ったのは松下だから。俺は佐藤と篠原に注意するようお願いしただけ」
「つまりそれって私たちが無駄遣いしそうと思ってたわけでしょ?」
篠原がジト目で睨んできた。
「……トイレに行ってくる」
分が悪いのでトレイに逃げ込むことにした。
まさか2学期初日から安息の地に向かうことになるとは思わなかった。
午後の授業は2時間ホームルームになっている。
茶柱先生がやってくると淡々と説明を始めた。
「2学期は9月から10月初めまでの1ヶ月間、体育祭に向け体育の授業が増えることになる。新たな時間割を配るから大切に保管するように。それと体育祭の資料も配るから、先頭の生徒はプリントを後ろに回していくように」
体育祭という言葉を聞いた途端一部から悲鳴が上がる。恐らく運動が苦手な生徒たちだろう。
「……だる」
隣人の松下も体育祭は好ましくないようだ。
「先生、これも特別試験の一環なんですか?」
クラスのリーダー平田が挙手した後に質問をする。
「どう受け止めるのかもお前たちの自由だ。どちらにせよ各クラスに大きな影響を与えることに違いはない」
そう言って肯定とも否定とも取れない曖昧な答え方をする茶柱先生。相変わらず意味深な発言が好きですね。
「それでは体育祭について説明する。今回は全学年を2つの組に分けて勝負する方式を採用している。お前たちCクラスは赤組に配属が決まった。そしてBクラスも同様に赤組として戦うことになっている。この体育祭の間はBクラスが味方というわけだ」
まさかBクラスと協力どころか共闘することになるとは。俺としてありがたいけれど。
「まずは体育祭がもたらす結果に目を通せ。何度も説明する気はないからな、一度でしっかり聞いておくように」
茶柱先生はプリントをペシペシと叩きながら要チェックポイントを伝えていく。要チェックや!
耳を傾けつつプリントへと視線を落とす。そこに書かれてあるのは以下の通り。
・体育祭におけるルール及び組分け
全学年を赤組と白組の2組に分け行われる対戦方式の体育祭。
内訳はBクラスとCクラスが赤組。AクラスとDクラスが白組。
・全員参加競技の点数配分
結果に応じて1位15点、2位12点、3位10点、4位8点が組に与えられる。
5位以下は1点ずつ下がっていく。団体戦の場合は勝利した組に500点が与えられる。
・推薦参加競技の点数配分
結果に応じて1位50点、2位30点、3位20点、4位10点が組に与えられる。
5位以下は2点ずつ下がっていく(最終競技のリレーは3倍の点数が与えられる)
・赤組対白組の結果が与える影響
全学年の総合点で負けた組は全学年等しくクラスポイントが100引かれる。
・学年別順位が与える影響
総合点で1位を取ったクラスにはクラスポイントが50与えられる。
総合点で2位を取ったクラスにはクラスポイントは変動されない。
総合点で3位を取ったクラスにはクラスポイントが50引かれる。
総合点で4位を取ったクラスにはクラスポイントが100引かれる。
「簡単な話、気を抜かず全力で競技する必要があるということだ。負けた組が受けるペナルティはけして軽くない」
確かにクラスポイントが100引かれるのは大きい。それと勝った組にポイントは与えられないのだろうか。
「あの先生。勝った組は何ポイント得られるんですか? 記載がないみたいなのですが」
さすが平田。俺が聞きたいことをすぐに先生に聞いてくれる。
「何もない。マイナスという措置を受けないだけだ」
「うへー。全然おいしくないじゃん」
教室内が騒がしくなるのも無理がない。今までは大きなリスクと同時に大きな見返りが用意されていた。なのに今回の体育祭はそれが見当たらない。
「クラス別のポイントもしっかり計算されることになっているから注意するように。仮にBクラスが飛びぬけて活躍してお前たちの属する赤組が勝利したとしても、Cクラスの総合点が最下位だった場合には100ポイントのペナルティを受けることになっている」
つまり相手のクラスに頼って勝利しても損をするということ。両方のクラスが活躍しないといけない。
プリントを引き続き見ると、特別ボーナスのようなものが見受けられた。
・個人競技報酬(次回中間試験にて使用可能)
各個人競技で1位を取った生徒には5000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で3点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)
各個人競技で2位を取った生徒には3000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で2点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)
各個人競技で3位を取った生徒には1000プライベートポイントの贈与もしくは筆記試験で1点に相当する点数を与える(点数を選んだ場合他人への付与は認められない)
各個人競技で最下位を取った生徒にはマイナス1000プライベートポイント(所持するプライベートポイントが1000未満になった場合には筆記試験でマイナス1点を受ける)
・反則事項について
各競技のルールを熟読の上遵守すること。違反した者は失格同様の扱いを受ける。
悪質な者については退場処分にする場合有。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。
・最優秀生徒報酬
全競技でもっとも高得点を得た生徒には10万プライベートポイントを贈与。
・クラス別最優秀生徒報酬
全競技でもっとも高得点を得た学年別生徒3名には各1万プライベートポイントを贈与。
個人ボーナスに関してはあまり魅力を感じないな。これが1学期なら喜んでいただろうけど。
その後も茶柱先生の説明は続いた。
学年別で点数が下位10名の生徒にペナルティを科すこと。これは博士が心配だな。
種目も説明され、全員参加種目が9つ、推薦参加種目が4つと全13種のラインナップだった。全員参加の種目の多さに生徒たちが不満の声を上げるも当然種目が減られることはなかった。
種目の説明が終わると、先生に提出する参加表について説明をされた。参加表には全種目の詳細が記載されており、生徒たちで各種目にどの順番で参加するかを決めるようだ。また参加表の受理後に順番の変更は認められないとのことだった。
また堀北からの質問で、当日に欠席者が出た場合の対応についても説明を受けた。『全員参加』の種目は失格となるが、『推薦競技』の場合は10万ポイントを払えばメンバーチェンジは可能とのことだ。
「説明は以上だ。次の時間は第一体育館に移動し、各クラス他学年との顔合わせとなる。以上だ」
時計を確認して茶柱先生が続ける。
「まだ20分授業時間が残っている。残りの時間は自由に使っていいぞ。雑談するなり真面目に話し合うなり」
茶柱先生がそう言うと、俺の下へ堀北と櫛田が集まってきた。
「界外くん、作戦会議よ」
「界外くん、私と二人三脚出ようよっ」
櫛田の発言に堀北が噛み付く。
「櫛田さん。彼と二人三脚をするのは私よ」
「なんで決めつけてるのかな?」
「私の方が櫛田さんより足が速いもの」
「二人三脚は足の速さよりパートナーとの相性が重要だと思うな」
人前で喧嘩はやめて! 松下も笑ってないで止めて!
「えっと、とりあえずクラスの話し合い次第じゃないか。俺たちだけで決めても仕方ないだろ」
「……そうね」
「そうだね。でも界外くんと一緒に二人三脚出たいなっ」
櫛田はそう言うと、俺の手を握ってきた。堀北はそれを見て眉を顰める。
笑顔の櫛田。櫛田を睨む堀北。この光景は体育館に移動するまで続いた。
♢♢♢♢♢♢♢
2時間目のホームルーム。全学年の顔合わせのため俺たちは第一体育館に移動していた。
体育館へと集められたのは、総勢400名以上にも及ぶ大勢の生徒と教師。
集められた生徒たちが床に座ると、3年Bクラスの生徒が赤組の総指揮を執ることが発表された。
その生徒からありがたいアドバイスを頂いた後、各学年で集まって話し合いをするよう指示をされた。
指示を出されたがCクラスの生徒は動こうとせず、座ったままでいると、一之瀬と神崎が歩み寄ってきた。
「やっほー、界外くん」
右手を軽く挙げ、一之瀬が声をかけてきたので腰を上げる。
「おっす」
「今回はよろしくね。力を合わせて頑張ろう!」
「そうだな」
でもうちのクラスのリーダーは平田なんだよね。その平田はというと……
「平田くんもよろしくねっ」
「こちらこそ」
いつの間にか俺の隣に立っていた。全然気づかなかったぜ……。
「界外、平田、よろしく頼む」
「こちらこそ」
「神崎くん、よろしくね」
今日も神崎はイケメンだな。うちのクラスの女子が何人か顔を赤くしてるのが見える。
「とりあえず近いうちに話し合いをしよっか。どうかな?」
一之瀬が訊ねる。
「そうだね。団体競技もあるし話し合いは必須だと思うよ。界外くんはどうかな?」
「だな。個人競技はともかく団体競技があるからな」
「だよね。それで界外くんにお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「体育祭は界外くんが仕切ってくれないかな?」
なぜ俺が……。もしかして平田は疲れているのだろうか。
「一之瀬さんも僕より界外くんの方がやりやすいでしょ?」
「え、わ、私……っ!?」
「うん」
「そ、それは、その……」
顔を赤くしてあたふたする一之瀬。超可愛いんですけど。
「神崎くんはどう思う?」
平田が問う。
「そうだな。界外の方が一之瀬のやる気が出るだろうな」
「ちょっと神崎くんまでからかわないでよっ!」
「すまん」
まったく悪そうに思ってない神崎。もしかして一之瀬はクラスで弄られキャラなのかもしれない。
「界外くん、どうかな?」
平田が再度訊ねる。
「わかった。俺でいいなら人事を尽くすよ」
「ありがとう。もちろん全力でサポートするから頑張ろう」
「ああ。というわけでよろしくな」
一之瀬に手を差し出す。
「……うん。よろしくね」
俺の手をぎゅっと握る一之瀬。やばい。このまま抱きしめたい。
「話し合いをするつもりはないということか?」
少し離れたところから、おっさんのような声が体育館に響いた。何事かとみんなの視線が集まる。
その声の主はAクラスの葛城だった。どうやら体育祭は葛城がAクラスを仕切るようだ。坂柳は運動が出来ないようなので今回も静観するみたいだ。
「こっちは善意で去ろうとしてんだぜ? 俺が協力を申し出たところでお前らが信じるとは思わない。時間の無駄だろ?」
「……そうか。わかった」
「それじゃーな」
龍園は笑い、Dクラスの生徒たちを率いて歩き出す。
「向こうは大変そうだね」
一之瀬が龍園たちを見ながら言う。
「そうだな。俺たちはBクラスと共闘出来てラッキーだったよ」
「こっちこそだよ。一緒に頑張ろうね?」
「うん、頑張る」
「お前たちはいつまで手を握り合ってるんだ?」
神崎が俺と一之瀬を見て指摘してきた。
「……ごめんっ」
「いや、俺の方こそ」
慌てて手を引っ込める俺と一之瀬。人前で恥ずかしいことをしてしまった。
「と、とりあえず話し合いの日程についてはまた今度決めよっか」
「そうだな」
そのままお互いのクラスは体育館を後にした。
一之瀬とは団体競技以外にも龍園について話し合わないといけない。
けれどそれは明日以降だ。何故なら今日は映画館デートだから。以前から約束していたキミスイの映画を観に行くのだ。
♢♢♢♢♢♢♢
放課後。俺は一之瀬と映画館に足を運んでいた。
公開初日ということもあり、館内には大勢との生徒が見受けられる。
俺たちは混雑することを予想し、事前にネットで予約していたので、スムーズに館内に入れた。
「人多いね」
隣に座る一之瀬が言う。
「だな。ネット予約しておいてよかっただろ?」
「うん。アニメだからそこまで人入らないと思ってたんだけどね」
確かに実写よりは宣伝は少なかった。けれど内容は最近のJKが好きそうなものなので、俺は混雑すると予想していた。
「カップル多いね」
「……確かに」
一之瀬の言う通り館内には男女で来ている観客が多い。俺と一之瀬もカップルに見られてるだろう。
「私、泣いちゃう気がする」
「その時は慰めてやるよ」
「うん。慰めて」
一之瀬の表情が切なく紅潮している。
「もし界外くんが泣いたら、私が慰めてあげるからね?」
「……その時は頼むよ」
「頼まれましたっ」
今度は明るい表情で敬礼のポーズをとる一之瀬。表情がコロコロ変わって面白いな。
やがて館内が暗くなり始めた。上映の時間が来たようだ。
俺は暗くなるとすぐに一之瀬の手に、自身の手を重ねた。
「……っ」
一之瀬が驚いたように俺を見てくる。
この前は一之瀬にやられたからな。今回は俺からしてやったぞ。
そして今回は手を重ねるだけじゃない。こちらを見る一之瀬を無視して、手をにぎにぎする。
にぎにぎしてるうちに一之瀬は受け入れたようで、横を向くのをやめてスクリーンに顔を向ける。
上映終了後。館内に涙を流す少年の姿があった。ていうか俺だった。
「界外くん、大丈夫……?」
涙目の女子に慰められ、涙が止まらない男子。
「……うん……」
ハンカチで目からあふれ出る液体を拭うが、まったく止まらない。
「よしよし」
そんな俺を見て、一之瀬が頭を撫でてきた。
おかしいな。上映前は俺が一之瀬を慰めるつもりだったのに。
「界外くんは感受性が高いんだね。だから涙が止まらないんだと思うよ」
慰めるだけじゃなくフォローもしてくれるなんて。いい子すぎるんだけど。
「私、界外くんのそういうところ……好き……」
「……っ!」
泣いてるときにそんなこと言わないでくれ。照れてそっぽを向こうとすると、顎を掴まれる。一之瀬の白く柔らかい指が肌に食いこんできた。
「や……あっち向いちゃ駄目だよ……こっち見て」
「……あ、あまり、泣き顔を見せたくないんだけど……」
「だーめ。界外くんだって私の泣き顔何回も見たでしょ……?」
4,5回は見てるかな。最初は一之瀬が泣いてる姿を見たくないと思っていたけれど、最近は泣き顔を見るとそそられるようになってしまった。
「だから私にも界外くんの泣き顔見せてよ」
「俺の泣き顔を見てもしょうがないだろ……」
「ううん。しょうがなくないよ。……えいっ」
突如一之瀬に抱き寄せられる。そして顔を豊満な胸に埋めさせられた。
「むぐっ」
「上映前に言ったでしょ。界外くんが泣いたら、私が慰めてあげるって」
やばい。ちょっと苦しいけど、柔らかくてたまらん。
「次のお客さん入るまで時間あるから。こうしてよ?」
一之瀬にそう言われ、10分以上顔を埋めただろうか。いい加減息が苦しくなってきた。
そろそろ限界だと思い、首を横に振る。
「……あんっ……う、動いちゃ駄目……」
そんなこと言われても。もう限界なんです。
抗議する一之瀬を無視して、ゆっくりと彼女の胸から顔を離す。
「あ、もう……」
俺が離れたのがご不満なようで、口を可愛らしくすぼめている。
「悪い。息苦しくなってきてな」
「そっか。それなら仕方ないよね」
「ああ」
やっぱり巨乳って時に凶器にもなるんだな。
「そろそろ行こうぜ」
「……まだ私が慰められてないから駄目」
「もう泣き止んでるだろ」
俺がそう言うが、一之瀬はいやいやと首を横に振る。
「ほら行くぞ」
「や」
なんでこの子、俺の前だと子供になっちゃうんだよ。体育館でのカッコいい一之瀬はどこに行った。
「寮に帰ったら慰めてあげるから」
「……ほんと?」
「本当。だから行くぞ」
「……うん」
ようやく一之瀬を立たせることが出来た。
映画館をあとにし、寮に向かい歩き続けるも、一之瀬が腕に抱きついてるせいでペースが非常に遅い。
「一之瀬、歩きづらいんだけど」
「私は歩きづらくないよ」
いやいや、絶対歩きづらいでしょ。
「とりあえずモール内はやめないか?」
「なんでモール内はだめなの?」
それは松下が今日ケヤキモールに遊びに行くと言ってたから。一之瀬に抱きつかれてるところを見られたら、またゴミを見るような目で見られてしまう。
一之瀬に抱きつかれるのは嬉しい。けれど松下の好感度が下がり、今後堀北と佐倉のフォローなどに協力してもらえなくなると非常に痛いのだ。
「何でも。いいから離れろよ」
少し強めの口調で言ってみた。
「……………………え?」
俺がこんな態度をとると思わなかったのだろう。一之瀬は信じられないような顔を向けている。
「……か、界外……くん……?」
「さっさと離れろって」
「……そ、そんな怒らないでよ……」
映画を観て涙腺が緩くなってるのか、一之瀬が泣き始めた。
「うっ……。ぐすっ……」
俺はそんな彼女を見て、罪悪感を覚える。だがそれはすぐに形を変えて、やがて加虐心をくすぐり始めた。
泣きながら俺の腕に抱きついてる一之瀬を振り払う。
「……や、やだぁ……」
拒絶反応を見せられたのがショックだったのか、涙を拭いながら俺の腕に縋り付いてくる。
やばい。そろそろやめないと歯止めがきかなくなる。
とりあえず謝ろう。
そう思い一之瀬に声をかけようとしたところ、鋭い視線を感じた。視線の元を辿ってみると、そこには……
「最低」
またもや俺のことをゴミのような目で見る松下の姿があった。
「あ……」
固まってる俺をひと睨みし、松下は去っていった。
失敗した。腕組みより見られてはいけないところを見られてしまった……。
「……ごめんなさい……嫌いにならないでぇ……」
隣には一之瀬が体を震わせながら嗚咽を漏らしていた。
気持ちを切り替える。松下は明日釈明すればいい。まずは一之瀬を何とかしないと。
「えっと、俺の方こそごめん。その怒ってないから」
「……ホントに?」
「本当」
「ならなんで、あんなこと言ったの……?」
涙を拭いながら一之瀬が問う。
「……いや、その……一之瀬を苛めたくなって……」
「え」
「わ、悪かった……」
謝罪はするけどこれからもやらかしてしまうだろう。それほどまでに俺の加虐心が強くなってしまっている。
「……酷いよ……。私、本当に嫌われたのかと思ったんだよ……っ!」
「それはない。俺が一之瀬を嫌うことは絶対ないから」
それだけは神に誓って言える。
「……っ。ひ、卑怯だよ……」
「何が?」
「ひ、酷いことしておいて……。そんなこと言うなんて……」
むすっとした表情で一之瀬がそっぽを向く。
「これじゃ怒るに怒れないし……」
よかった。これ以上怒られることはないようだ。
「本当にごめん」
「……うん」
「とりあえず帰ろう。寮に帰ったら慰める約束もあるし」
一之瀬が頷いたのを確認し、再び歩き出す。
「……ねえ」
「ん?」
「腕組んでもいい……?」
「……いいよ」
さすがにここで嫌とは言えない。逆に仲良く腕組みしてるところを松下に見せたほうが釈明しやすいかも。
「ありがと」
恐る恐る俺の腕に抱きつく一之瀬。
「えへへ、よかった……。寮に帰るまでこうしてるからね」
泣き腫らした顔で笑みを浮かべる一之瀬。泣いた後の笑顔もそそられる。
寮に辿り着き、エレベーターに乗り込むと一之瀬が真正面から抱きついてきた。どうやら部屋まで我慢出来なかったようだ。今日は一之瀬に酷いことをしたので、彼女好きにさせようと思い、されるがままに抱きつかれた。
部屋に入ると、ベッドまで連れていかれ、あの夜と同じ恰好で抱きしめるようお願いをされた。
ベッドに座り、一之瀬が膝に跨る。なんかもう息子が反応してるのがばれてもいいような気がしてきた。
今回は制服同士だったので、前回より肌の温もりは感じられなかった。
だが一つだけ問題が発生した。一之瀬が耳責めを要求してきたのだ。耳責めは慰める行為と結びつかないことを説明するも彼女は聞き入れず、結局耳責めをすることになった。
行為中にまたしても加虐心がくすぐられてしまい、一之瀬を泣かしてしまった。行為を止めるよう懇願する彼女を無視して責め続けた。
謝っては慰めて泣かせる。
それを何度も何度も繰り返した。
彼女の喘ぎ声で興奮してしまったのだろう。最後は彼女の耳を思いっきり引っ張ってしまった。……痛かっただろうな。けれど一之瀬は大きく喘ぐだけだった。
もしかして一之瀬はマゾなのだろうか。それなら俺の歪んだ性癖を受け入れてくれるかも……。いや、楽観的な考えは止めよう。
行為を終えた一之瀬の顔は、涙と涎でグッチャグチャだった。あんな下品な表情の彼女を見るのは初めてだった。そんな一之瀬を見てまた加虐心がくすぐられそうになったが我慢した。
その後、泣き腫らした顔の一之瀬を外に連れ出すわけにもいかず、コンビニで二人分の弁当を買ってきて夕食を済ましてから一之瀬と別れた。
今日わかったことが二つある。一つ目は一之瀬の泣き顔が可愛いこと。二つ目は自分がライトどころかドSになっていることだ。
こうして俺の非常に濃厚な2学期初日が終了した。
♢♢♢♢♢♢♢
彼と別れた私は、洗面所の鏡で泣き腫らした自分の顔を眺めていた。
「ふふ、酷い顔」
今日は彼に沢山泣かされた。そして鳴かされた。
映画館デートの帰り。彼の腕に抱きついていたら、離れるよう彼に言われてしまった。もちろん離れる気はなかったので、抱きついたままでいたら、彼に怒られてしまった。
初めて彼に拒絶された。
その瞬間、私の頭の中が真っ白になった。
彼に嫌われてしまう。
彼に捨てられてしまう。
絶望的な未来が瞬時に頭の中によぎった。
涙があふれ出た。映画を観て涙腺が緩くなっていた影響もあったと思う。涙が止まらなかった。
そんな泣いた私を彼は冷たくあしらった。
涙を拭いながら彼に縋るも、彼は冷ややかな目を私に向けるだけだった。
もう限界だった。
私は彼に謝りながら嗚咽を漏らし続けた。
やがて彼が私に謝ってきた。
どうやら私を苛めたかったらしい。
酷い。
私は本当に嫌われたのかと思ったのに。
私は彼を非難しようとした。
だがその気持ちはすぐになくなった。
なぜなら彼が私を嫌うことは絶対にないと言ってくれたからだ。
彼は卑怯だ。
そんなことを言われたら、私の心は幸せに満ち溢れるに決まってるのに。
案の定彼を怒ることは出来なくなってしまった。
寮についてエレベーターに乗った瞬間、彼に抱きついた。すぐに彼の温もりが欲しかった。
幸い彼の部屋がある階まで、エレベーターが止まることはなかった。
彼の部屋に着いて、私は彼にあの夜と同じように私を抱きしめるようお願いをした。
私を泣かしたことに罪悪感を抱いていたのだろう。彼はすぐに了承してくれた。
彼をベッドに座らせ、膝の上に跨り、しばらくの間抱きしめあった。
前回はショートパンツだったが、今回は制服なのでスカートを着用していた。そのため私のショーツが彼のズボンと触れ合ってるいる。
そのことに気づいた私は、性的興奮を催してしまった。
私は思い切って彼に耳責めするようお願いをした。
彼は最初は断ったが、私がしつこくお願いをすると、渋々了承してくれた。
そしてあの夜の続きが始まった。
彼は私の耳の色んな箇所をネチネチといやらしく責めた。
やがて耳の内側を責められた私はイってしまった。
一回で終わると思ったけれど、彼はすぐに耳責めを再開した。
私は何回もイかされてしまった。途中で彼に止めるようお願いをしたが聞き入れてもらえなかった。逆に泣きながら懇願する私を見て、彼の耳責めは激しさを増していった。
きっと泣いてる私を見て、彼も興奮してきたのだろう。
だって証拠にあそこが反応してたし。
もちろん私もあそこをぐしょぐしょに濡らしていたけど。
恐らく下着越しに彼の制服にも染みが出来たと思う。
30分ほど責め続けられて私は解放された。
すぐに彼が謝ってきた。
もちろん私は彼を許した。なぜなら彼は悪くない。悪いのは耳責めをお願いをした私、イきそうだからって途中でやめるよう懇願した私が悪いのだ。
数分抱きしめあい、耳責めを再開するようお願いをした。
そして私は彼に何度も鳴かされ続けた。
最後は思いっきり耳を引っ張られて、派手にイってしまった。
愛撫されるより乱暴にされる方が感じるなんてやばいかも……。
行為を終えた私の顔は涙と涎で酷いことになっていたと思う。
行為を終えると、彼がコンビニでお弁当を買ってきてくれた。きっと泣き腫らした私を外に連れ出したくなかったんだろうね。
夕食を食べ終え、彼の部屋を後にした。
「今日は幸せだったなぁ」
彼は私と同じで歪んだ性癖を持っている。
これからも私は彼に泣かされるだろう。傷つけられることもあるかもしれない。
でもそれでいい。
やっと私に欲望をぶつけてくれるようになった。
こんなに嬉しいことはない。
愛しの彼の欲望を受け止める。
なんて幸せなことなんだろう。
恐らく今日は抑えていた方だと思う。
もっと泣かしてもいいんだよ。
もっと傷つけてもいいんだよ。
彼になら何をされても構わない。
それほどまでに私は彼を愛してるのだ。
「だから早く私を傷物にしてね、帝人くん」
主人公がこうなったのも一之瀬のせいなのです