実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
「ぎゃははははは! ばっか、お前それ面白すぎだって!」
2時間目の数学の授業中、今日も池が大声で談笑していた。
死んでくれないかな。
俺はお前と違って、真面目に授業を受けたいんだよ。
入学してから3週間、池と山内の2人に須藤を合わせて陰で3バカトリオなんて呼ばれている。
しかし3バカトリオといっても、この全国屈指の名門・高度育成高校の入試を合格した男たちだ。きっと授業を真面目に受けなくても、成績に差し支えはないのだろう。
俺も入試の主席合格者だからといって、油断してられない。
「うーっす」
授業も後半に差し掛かろうという頃、教室の入り口が五月蠅く音を立てて開き須藤が登校してきた。
「おせーよ須藤。あ、昼飯食いに行くだろ?」
池が離れたところから須藤に声をかける。数学教師は注意するどころか須藤に目もくれず授業を続けている。全ての教科の先生が私語も遅刻も居眠りも、全て黙認。その態度に最初は遠慮がちだったクラスメイトも、今では自由気ままに過ごしている。
俺のように真面目に授業を受けている生徒はごく少数だ。
後で後悔するがいい。ポイントが下がってることにな!
そう。俺は橘先輩から支給されるポイントが変動されるという情報を得ていた。
まあ、俺が予想した内容を伝えて、合ってるかどうかだけ答えてもらっただけなんだけど。
やはり監視カメラは学年関係なく全クラスに設置されており、生徒の授業態度もチェックされてるそうだ。
先生たちが放任主義なのも頷ける。真面目に授業を受けない生徒たちはポイントが減少されていることを知り、悔い改めるのだろう。先生が注意するより、そっちの方が効果は抜群だろう。
俺がポイントの減少をされることはないだろう。10万もあるしダリフラのブルーレイでも買おうかな。
3時間目の日本史。担任の茶柱先生の授業だ。授業開始のチャイムが鳴っても騒ぎ立てている教室に茶柱先生がやって来る。それでも生徒たちは騒ぐのをやめない。
「ちょっと静かにしろ。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けてもらうぞ」
「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」
「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」
一番前の席の生徒たちにプリントを配っていく。そして俺の机に1枚のテスト用紙が届く。主要5科目の問題がまとめて載った、それぞれ数問ずつの、まさに小テストだ。
「えー。聞いてないですよー」
「そう言うな。今回のテストはあくまで今後の参考用だ。成績表には反映されることはないから安心していいぞ。ただしカンニングは厳禁だがな」
成績表に『は』か。つまり成績表以外に反映される、という意味だろうか。
俺の気にしすぎか。念のため橘先輩に聞いてみるとするか。教えてくれるといいけど。
いきなりの小テストが始まり、問題に目を通す。拍子抜けするほど、殆どの問題が簡単だった。
受験の時に出た問題よりも2段階くらい低い。いくら何でも簡単すぎだ。
そう思いながら問題を解いていくと、ラスト3問は桁違いの難しさだった。数学最後の問題は高校1年で解けるようなレベルじゃなかった。
テストの問題内容のバランスがおかしい。成績表に反映されないのに、このテストで一体何を図ろうとしているのだろうか。
とりあえず頑張って解くしかないか。
♢♢♢♢♢♢♢
昼飯を終えた俺は、図書室で橘先輩と雑談をしていた。
「小テストの問題の一部が難しすぎたと」
「はい。明らかに高1じゃ解けないレベルでした」
「解けなかったんですか?」
「解けましたけど」
「解けてるじゃないですか!」
「いや、予習していたおかげです」
「予習ってもしかして2年の範囲を?」
「はい。そうですけど」
橘先輩が唖然としている。何かおかしなことを言ったのだろうか。
現在、とあるラブコメ漫画の勉強キャラの主人公を見習っている俺は、録画したアニメを消化しつつ、予習・復習ばかりしていた。
「はぁ。なんで君みたいな子がDクラスなんでしょう」
「え」
「あっ」
「今のはどういう意味ですか?」
「あ、いや、今のはですね……」
明らかに橘先輩が動揺している。眼が世界水泳並に泳いでる。
俺みたいな子がDクラス。まるで俺がDクラスにいるのが不思議という意味で捉えられる。
そういえば茶柱先生がクラス替えはしないと言っていた。
「橘先輩。教えてください。誰にも言いませんから」
「で、ですが……」
「橘先輩しか頼れる人がいないんです」
「うっ」
「お願いします」
俺がそう言うと、橘先輩は諦めたような顔をして、先ほどの発言の意味について教えてくれた。
この学校は優秀な生徒たちの順にクラス分けになっていること。最も優秀なクラスがAクラス。つまり俺が在籍しているDクラスは最底辺ということだ。
生徒の評価は、学力だけでなく、社交性など含めた総合力で評価されるらしい。総合力なら俺はDクラスが妥当だよね。とほほ……。
また、クラスは運命共同体であり、ポイントは個人でなくクラス単位で変動されるということ。
つまり俺たちDクラスの今までの授業態度からすると、来月の支給ポイントが大幅に減少されるということだ。……さすがに0ポイントってことはないよね?
「まさかクラス単位だったなんて……」
「絶対誰にも言っちゃ駄目ですよ!?」
「……はい。わかってます。……はぁ……」
「そんな落ち込まないで下さい。Dクラスだからって界外くんがいい子なのは変わらないんですから!」
いい子って……。俺もう高校1年生なんですけど。
それよりクラスポイントか……。駄目だ。さすがにショックが大きい。俺個人が頑張っても意味がない。クラス全体で頑張らないといけないのだ。
恐らくこのシステムの仕組みをDクラスで知ってるのは俺だけだろう。いずれ全員知ることになると思うけど。
ただ橘先輩との約束があるので他言することは出来ない。彼女は俺を信用して教えてくれたのだ。この情報を他言することは橘先輩を裏切ることになる。
「ちなみにクラスポイントが増えるイベントはあるんですか?」
「ありますよ。イベントの詳細は言えませんがそこは安心して下さい」
「わかりました。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。ちなみにポイントは大丈夫ですか?」
意気消沈している俺を気遣ってくれてるようだ。
橘先輩が天使に見えてきたぞ。天使といえば一之瀬はこのシステムの仕組みに気づいてるのだろうか。まあ、BクラスもAクラスの次に優秀な生徒が揃っていることだし、恐らく気づいているだろう。
それより橘先輩の質問に答えなくては。
「はい。無駄遣いはしてないので大丈夫ですよ」
「本当ですか? もし困っていたら言ってくださいね」
「いや、女子からポイントを借りるのはちょっと……」
「いえ。私は頼りになる先輩ですから。どんどん頼ってください!」
「あ、ありがとうございます」
この人大丈夫かなあ。なんか悪い男に引っかからないか心配になってきた。
昨日だって沢山の書類を運ばされていたし。女子に持たせる量じゃないだろう。俺が通りかかったからよかったものの、また怪我されたら困るし。
生徒会で仕事を沢山押し付けられてるのではないだろうか。
それならば俺も橘先輩の負担を少しでも減らせるよう手助けしようじゃないか。
♢♢♢♢♢♢♢
5月最初の学校開始を告げるチャイムが鳴った。
今朝ポイントを確認したところ支給ポイントは0だった。俺たちやっちまったな……。
程なくして、手にポスターの筒を持った茶柱先生がやって来る。その顔はいつもより険しい。
「これより朝のホームルームを始める。が、その前に質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」
茶柱先生がそう言うと、数人の生徒がすぐさま挙手した。
俺も聞きたいことがあるがこのタイミングではない。
「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてなかったんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?」
「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月も問題なく振り込まれていることは確認されている」
「え、でも……。振り込まれてなかったよな?」
本堂や山内たちは顔を見合わせた。何人かの生徒は気づいていなかったらしく驚いているようだ。
「……お前らは本当に愚かな生徒たちだな」
「愚か? っすか?」
「座れ、本堂。二度は言わん」
「さ、佐枝ちゃん先生?」
よくこの状況で佐枝ちゃん先生って言えるな。俺には無理だ。
本堂は茶柱先生の聞いたことがない厳しい口調に腰が引け、そのままズルっと椅子に収まった。
「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけが忘れられたという可能性もない。わかったか?」
「いや、わかったかって言われても。実際振り込まれてないわけだし……」
本堂は戸惑いながらも、不満げな様子を見せる。
いや、さすがに気づこうぜ。俺だってポイントが変動されることはだいぶ前からわかっていたぞ。
「ははは、なるほど。そういうことだねティーチャー。理解出来たよ」
高円寺が声高らかに、笑った。そして足を机に乗せ、偉そうな態度で本堂を指さす。
「簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」
「はぁ? なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるはずだろ」
「私はそう聞いた覚えはないがね。そうだろ? 界外ボーイ」
「うぇ!?」
ここで俺に振るなよ。変な声が出ちゃったじゃねえか。
水泳の競争以降、たまに高円寺が俺に話しかけてくることがあった。半分は何言ってるか意味が分からなかったけど。
それよりクラス中の視線が俺に一気に集まってるんだが……。
「そうだな。ポイントは振り込まれるが毎月10万とは聞かされてない。恐らくDクラスの授業態度が酷くて支給されるポイントがなくなったんだろ」
「界外の言う通りだ。遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。ひと月で随分とやらかしたもんだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイント全て吐き出した。それだけのことだ。入学式の日に直接説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そしてお前たちは今回、0という評価を受けた。それだけに過ぎない」
「茶柱先生。僕らはそんな話、説明を受けた覚えはありません……」
平田が手を挙げる。流石クラスのリーダー。こんな時も率先して行動するのは見習いたいものだ。
「なんだ。お前らは説明されなければ理解できないのか」
「当たり前です。説明さえしてもらえていれば、皆遅刻や私語などしなかったはずです」
「それは不思議な話だな平田。遅刻や授業中に私語はしないことは当たり前のことだろ。小中学校で教わったはずだ」
「そ、それは……」
「現に平田も含め少数だが真面目に授業を受けている生徒もいただろう。全員が当たり前のことを当たり前にこなしていたら、少なくともポイントが0になることはなかった。全部お前らの自己責任だ」
真面目に授業を受けていた生徒たちに救済措置があってもいいんじゃないだろうか。まあ、怖くて言えないけど。
「それに高校1年に上がったばかりのお前らが、毎月10万も使わせてもらえると本気で思っていたのか? 優秀な人材教育を目的とするこの学校で? ありえないだろ、常識で考えて。なぜ疑問を疑問のまま放置しておく」
これは俺にとっても耳が痛い話だ。でもクラスメイトの前で先生に質問するのは意外と勇気がいるんだよ。
平田を見ると彼は悔しそうな姿を見せるが、すぐに先生の目を見た。
「せめてポイントの増減の詳細を教えてください……」
「それはできない相談だ。詳細な査定の内容は、教えられないことになっている。企業の人事考課と同じだ。しかし、そうだな……。一つだけいいことを教えてやろう」
そう言うと、先生はクラスを見渡した。
「遅刻や授業態度を改め、今月マイナスを0に抑えたとしても、ポイントは減らないが増えることもない。つまり来月も支給されるポイントは0ということだ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係ない、という話。どうだ、覚えておいて損はないぞ?」
これは完全に担任が自分のクラスを潰しにかかってるじゃないか。今の説明じゃ遅刻や私語を改めようという生徒の意識が削がれる。
このままでは、とある高校の某ヒーロー科のようにクラス全員除籍もありえるのでは。
俺がしょうもないことを考えているとチャイムが鳴り、ホームルームの時間の終わりを告げた。
「どうやら無駄話が過ぎたようだ。本題に移るぞ」
手にしていた筒から白い大きめの紙を取り出し、黒板に張り付けた。
そこには、AからDクラスの名前とその横に、最大4桁の数字が書かれていた。
俺たちDクラスは0。わかってたけどこうして見せられると気分が落ち込むなあ。
ちなみに他のクラスはというと、Cクラスが490。Bクラスが650。Aクラスは940だった。
Aクラスは9万4千ポイントも手に入るのか。羨ましすぎる。
「お前たちはこの1か月、学校で好き勝手な生活をしてきた。学校側はそれを否定するつもりもない。ただ、それらが自分たちにツケが回って来るだけのこと。得たものをどう使おうがお前たちの自由だ。ポイントの使用に関してもそうだ。事実、その点に関しては制限をかけなかっただろう」
つまり自己責任ということだな。
なんか池や山内がわめいてるが自業自得だろう。後先考えずポイントを消費するからこうなる。あいつら貯金はできないタイプだな。
「なんでここまでクラスのポイントに差があるんですか」
平田があまりに綺麗にポイント差が開いてることに気が付いたようだ。
「段々理解してきたか? お前たちがなぜDクラスに選ばれたか」
「そんなの適当じゃないんですか?」
「クラス分けってそんなもんだよね?」
「もしかしてバカテスと同じでござるか!?」
各々、生徒たちは友人と顔を見合わせている。最後に発言した人、正解。
「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けがされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。駄目な生徒はDクラスへ。つまりお前たちは、最悪の不良品だということだ」
最悪の不良品か。俺は入試の主席合格者なんだけど……。まあ、中学時代の内申も評価基準に入ってるんだろうな。氷菓を愛読して評価を落とした。……笑えねえ。
「そして1か月ですべてのポイントを吐き出したのは史上初だ。逆に感心した、立派立派」
茶柱先生のわざとらしい拍手と誰かの腹鳴が教室に響く。誰だよお腹鳴らしたのは。
……俺だった。今日は寝坊をしてしまい、朝食をとる時間がなかったのだ。まあ、発信音が俺であることはばれていないだろうし大丈夫だろう。
お腹の音を気にせずに平田が再度質問をする。
「このポイントが0である限り、僕たちはずっと0ポイントのままということですね?」
「ああ。だが安心しろ、ポイントがなくてもこの学校では生活できるようになっている」
確かに0ポイントでも生活はできるけど、甘い蜜を吸ってしまった生徒たちに0ポイント生活は無理だろうな。
俺だって買いたいものは沢山ある。0ポイントのままじゃ非常に困る。
「俺たちはこれからずっと他のクラスの奴らに馬鹿にされるってことかよ!」
須藤が机の脚を蹴った。物に当たるのはやめろ。前の席の子がびっくりしてるだろうが。
「何だ、お前にも人の評価を気にする気があったんだな。なら、頑張って上のクラスに上がれるようするんだな」
「あ?」
「クラスのポイントは金と連動してるだけじゃない。このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映されるということだ」
Cクラスとは490ポイントの差がある。俺たちがCクラスに上がるのは非常に厳しいだろう。
「さて、もう一つお前たちに残念な知らせがある」
黒板に一枚の紙が追加するように張り出された。そこには俺たちDクラスの生徒全員の名前と、名前の横に数字が記載されている。
「この数字が何か、不良品のお前たちでもわかるだろう」
多分、この前やった小テストの結果だな。よし、100点は俺だけだ。橘先輩に報告したら褒めてくれるだろうか。
「先日やった小テストの結果だ。お前たちは一体中学で何を勉強してきたんだ?」
一部の上位を除き、殆どの生徒は60点前後の点数だった。30点以下の生徒も見受けられる。
え、この点数の低さは何だ? みんな難関な入試を突破してきた精鋭たちじゃないのか? 授業態度が悪いだけで勉強はできる人たちじゃなかったのか?
「よかったな、これが本番だったら7人は退学になっていたぞ」
「た、退学? どういうことですか!?」
「なんだ、説明していなかったか? この学校では中間テストと期末テストで1科目でも赤点を取ったら即退学だ」
「ふざけんなよ! 退学とか冗談じゃねえよ!!」
「私に言われても困る。この学校のルールだからな」
「ティーチャーの言うように、このクラスには愚か者が多いようだね。君もそう思うだろ? 界外ボーイ」
「いや、そこで俺にふるなよ……」
爪を研ぎながら、足を机に乗せたままの高円寺が偉そうに微笑む。
いや、爪とぎするなら下にティッシュでも敷けよ。
「何だと高円寺! お前だってどうせ赤点だろ!」
「フッ。どこに目がついてるのかねボーイ。よく見たまえよ」
高円寺の点数は90点。堀北、幸村という人と同率で2位だった。
あいつ、勉強も出来るのか……。
「絶対須藤と同じ馬鹿キャラだと思ってたのに……」
クラス中からそんな声が聞こえてくる。
「それからもう1つ付け加えておく。この学校は高い進学率と就職率を誇っている。恐らくお前たちも、目標とする進学先や就職先を持っていることだろう」
俺は持ってないけど。環境を変えたくてこの学校に入学しただけなんだよな。まあ、これから見つければいいだろう。
「だが世の中そんな上手い話はない。この学校の恩恵にあやかれるのは上位のクラスだけだ」
「つまりその恩恵を受けるにはCクラス以上に上がらないといけないということですか?」
「それは違うな平田。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしかない」
「そ、そんな……聞いてないですよそんな話! 無茶苦茶だ!」
「無茶苦茶な話ではないぞ幸村。学校も優秀でない生徒たちを企業や大学に紹介するわけにはいかないからな」
あの眼鏡が幸村か。覚えておこう。堀北と一緒でプライド高そうだなあ。
お、なんか高円寺と言い争ってるぞ。ヒートアップしてるのは幸村だけだが。
あいつも希望を抱いてこの学校に来たんだろう。だからこの現実を受け入れられないんだろうな。
てか、高円寺ってお坊ちゃんだったのか。
「浮かれていた気分が払しょくされたようで結構。中間テストまでは後3週間、頑張って退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」
赤点を取らずに乗り切れる方法? 勉強以外になにがあるというのか。
それより先生が話を締めようとしている。あのお願いをしなくては!
「先生、ちょっといいですか?」
「何だ界外。質問か?」
クラス中の視線が一気に俺に集まる。
ひええ。緊張するから俺のことは気にしないで各自勉強でもしててくれないだろうか。
「質問というかお願いになるかもしれないんですけど……」
「なんだ?」
「中間テストで1位をとったら特別ボーナスってあるんでしょうか?」
「特別ボーナスだと?」
「はい。以前に水泳の授業で競争をして、1位を取った生徒には5千ポイントのボーナスがあったんです」
「なるほど。……そうだな、いいだろう。学年1位をとった生徒には特別に5万ポイントを与えよう」
「本当ですか!?」
「ああ。質問は以上か?」
「はい。ありがとうございます!」
「他に質問がある生徒はいないな。それじゃ私はこれで失礼する」
少し強めに扉を閉めると、茶柱先生は教室を後にした。
がっくりとうな垂れる赤点組とは正反対に俺の心は気分上々だった。
よし。これで一之瀬と遊んだり、ラノベを買うことが出来るぞ。
しかし5万ポイントか。計画的に使わなくては。
「ちょっといい?」
「ん?」
顔を上げると目の前に堀北が立っていた。
俺に何か用なのだろうか。俺の席まで来るなんて珍しい。
「ちょっと来て」
「え、おい」
堀北はそう言うと、俺の手首を引っ張って廊下へと連れ出した。
初めて女の子に手首を引っ張られた。やだ、ドキドキする。
「単刀直入に言うわ」
「いや、その前に手を離してくれないか」
「え」
「恥ずかしいんだけど」
「……ああ、ごめんなさい。これくらいで照れるなんて、毎朝女を連れて通学してるのに免疫がないのね」
「一緒に通学してるだけで手を繋いでるわけじゃないからな?」
「そう。まだ顔が赤いわよ」
「う、うるさい。……それより用件は何だよ」
「あなたの知ってることを全部教えて」
「……は?」
俺の知ってること、とはこの学校のことだろうか。だけど何で俺に聞いてくるんだ?
「あなた、今回茶柱先生が説明したこと前から知ってたわよね」
「……なんでわかった?」
「まったく動揺がなかったから。それにお腹を鳴らして緊張感もなかったわ」
思いっきりばれてた。恥ずかしくて死にたいんだけど。
それよりなんで両方ともわかったんだ。堀北はエスパーだったのか。
「それと最後の質問を聞いて確信したわ」
「最後の質問って特別ボーナスのことか?」
「そうよ。あんな質問が出来るのはクラスポイントが0であることを受け入れ、既に気持ちを切り替えてる人にしか出来ない質問だわ」
「……」
「もし茶柱先生から聞かされた上でクラスポイントのことを知ったなら、あんな短時間で気持ちを切り替えることなんて出来ないはず」
高円寺は短時間で切り替えていたけどね。いや、最初から気にしていないのか。
それよりこいつぼっちのくせに観察力あるな。いや、ぼっちだからあるのかもな。
「それで俺が知ってるこの学校のことを教えてほしいってわけか」
「ええ」
さてどうしようか。俺が苦労して集めた情報をただで教えていいものか。いや、橘先輩のおかげでそこまで苦労はしていないけど。
橘先輩から他言無用と念押しされた情報も茶柱先生より解禁されたからなあ。
俺が教えるとしたら監視カメラとクラス対抗のイベントが目白押しなことくらいなんだが。
「……そうだな。俺が知ってること教えてやってもいいが……ただじゃ教えられない」
「対価が必要ということ?」
「ああ」
「わかったわ。いくら払えばいいのかしら?」
勢いで言ったのの、女子からポイントを貰うのも気が引けるな。
どうしよう……。
「えっと、ポイントはいいかな」
「は?」
「いや、堀北も今月0ポイントだからやりくり大変だろうし」
「それじゃ私は何を払えばいいの?」
「そうだな……手作り弁当とか」
「…………は?」
ひぃ。そんな睨むなよ。冗談で言っただけなんだ。
堀北に精神ズタボロにされる前に謝っておこう。
「わかったわ」
「え」
「お弁当を作ってくればいいのよね?」
「あ、ああ。……いいの?」
「あなたが言ったんでしょう」
「まあ、そうなんだけど……」
「休み時間も終わるし、この話の続きは放課後でいいかしら?」
「ああ。廊下で話す内容じゃないしな」
「そうね。それじゃまた後で」
そう言うと、堀北は教室に戻っていった。
取り残された俺は1人、廊下に佇むのであった。
♢♢♢♢♢♢♢
そして放課後。俺と堀北が教室を出ようとしたところで平田が声を掛けてきた。
「堀北さん、それから界外くんもちょっといいかな。今からポイントをどう増やすかみんなで話し合いをするんだけど、2人も参加してくれないかな?」
「ごめんなさい、今から用事があるの。それに私は意味のないことに付き合うつもりはないから」
おい。もう少しオブラートに包んで断れよ。平田が可哀相だろ。教室から出るのを邪魔されて苛立っているのはわかるけど。
「そ、そうか。ごめん……界外くんは、どうかな?」
「悪い。俺も堀北と同じで用事があるんだ」
「そっか……」
「でも明日以降は空いてるから、勉強会とかするなら手伝うぞ」
「本当かい? 助かるよ!」
「その時はまた声をかけてくれ」
「うん。それじゃまた明日」
教室から出て数分歩いたところで、堀北が急に立ち止まった。
「ねえ、少し寄りたいところがあるのだけれどいい?」
「茶柱先生に文句を言いに行くのか?」
「……そうよ。私がDクラスだなんて納得がいかない」
適当に言ったら正解だった。堀北もプライドの塊みたいなものだからなあ。
きっと茶柱先生から不良品だと言われた時、物凄い顔をしてたんだろう。
「まあ、堀北も俺も学力だけならAクラスだろうな」
「……どういう意味?」
「後でまとめて説明する。だから先生に文句言いにいくなら明日にしてくれ」
俺が歩き始めると、堀北も黙ってついてくる。どうやら職員室に行くのは諦めてくれたようだ。
それよりどこで話すんだろうか。場所を決めてなかった。適当に喫茶店かファミレスだろうか。
女子と2人で飲食店に行くのは久しぶりだ。また一之瀬とファミレスに行きたいなあ。
♢♢♢♢♢♢♢
15分後。
なぜか俺は自室に堀北を招いていた。
いやいや、なぜこうなった。適当に飲食店でドリンクバー飲みながら話すんじゃなかったの?
ていうか自室で女の子と2人って物凄い緊張するんですけど。しかも美少女だし。
「意外と片付いてるのね」
「い、意外とはなんだ。俺は綺麗好きなんだよ」
「そう。それと将棋盤があるけど、あなたに一緒に将棋を指してくれる人なんているの?」
「……いない。いつも1人で詰将棋してる……」
なんで女の子を自室に招いて心を抉られないといけないんだよ。
こっちはただでさえ緊張してるのに。いつもより少しだけでもいいから優しく接してくれないだろうか。
「将棋のことはいいから本題に入るぞ」
「そうね」
心を落ち着かせた俺は約束通り堀北に情報を提供した。
どうやら堀北も監視カメラの存在に気づいていなかったようだ。
「そういえばこれもあるんだった」
俺は机の引き出しから一枚の紙を取り出し堀北に渡した。
「これは?」
「校舎内にある監視カメラの設置場所リストだ」
「……いつの間にこんなの作ったの?」
「入学して一週間位経った頃には完成していたかな」
「……そう。頂いていいの?」
「ああ。そういう約束だろ」
「そうだったわね。……それともう一つ」
「クラス分けのことだよな」
「ええ」
何故、俺や堀北のような学力に優れている生徒が落ちこぼれのDクラスに割り当てられたのか。
「まずこの学校は入試の成績だけで生徒の振り分けを行っていない。なぜなら入試主席の俺がDクラスだから」
「あなたが?」
「ああ。俺って堀北より学業優秀なんだよ」
先ほどの仕返しで堀北を煽ってみたところ物凄い形相で睨まれた。
綺麗な顔が台無しですよ、堀北さん。
「えっと、それでだな。俺がDクラスになった理由なんだが」
「わかっているの?」
「俺、中学の時に友達が全然いなかったんだよ」
「……だから?」
「それが原因でDクラスになったと思う」
「もしかして……」
どうやら堀北は気づいたようだ。俺が、堀北がDクラスになった理由を。
「クラス分けの査定に社交性や協調性が入ってる」
「……」
「堀北も友達いなかったろ?」
「……そうね」
「まあ、総合力で学校は俺たちを評価しているってことだな」
「けれど平田君や櫛田さんはどうなの? 彼らは総合力は高いと思うけど」
確かにそこなんだよな。
テストの点数もよく、櫛田は知らないが運動神経もいい平田。更に協調性もある2人がDクラスの理由。
橘先輩が嘘をつくわけがないので、平田と櫛田にもDクラスに配属された理由があるはずだ。
「……少し強引な考えなんだが、中学時代に何か問題を起こしたんじゃないか?」
苦し紛れだがそれくらいしか考えられない。
これが某古典部の男子生徒なら説得力のある説明が出来るんだろうなあ。
「問題を起こした……そうだわ、思い出した」
「思い出したって何を?」
「……櫛田さん。彼女は私と同じ中学出身よ」
「堀北と櫛田が?」
まさか堀北と櫛田が同じ中学だったとは。しかし思い出したっていうのは、2人は接点はなかったということか。
「ええ。彼女は優等生だったけれど、ある事件を起こしたわ」
「事件?」
「詳細はわからないけれど、彼女の手によってクラスが崩壊したらしいの」
櫛田が中学の時に事件を……。クラスを崩壊させるって何をやらかしたんだろうか。
しかしあの櫛田がねえ。あざとい系ナンバーワン美少女の櫛田が。裏で俺たちクラスメイトを馬鹿にしているんだろうか。一度でいいから裏の顔を見てみたい。
てか、櫛田が堀北にしつこく絡んできた理由って……。
「……櫛田は堀北を自分の管理下に置きたかったのかも」
「え?」
「櫛田が堀北にしつこく絡んできた理由だよ。自分の秘密を知ってる人間を放置させるより、近くにいさせた方が安心出来るだろ?」
「なるほど、そういうことね。私は別に事件のことなんてどうでもいいんだけど」
「お前がよくてもあっちがよくないんだよ。まあ、櫛田のことはとりあえず静観でいいんじゃないか」
「そうするわ」
まさか堀北からクラスメイトの情報が手に入るとは思わなかった。
「界外くん」
「なんだ?」
「私はAクラスを目指す。いいえ、必ずAクラスに上がってみせる」
おお、堀北がカッコいいことを言っている。結構熱いところもあるんだな。
前向きな発言をしたということは、自分がDクラスに配属されたことを少しは受け入れられたのかね。絶対に納得はしていないんだろうけど。
「だからあなたに協力をお願いしたいの」
「わかった」
「即答ね」
「俺もクラスポイントを増やしたいからな。堀北のような強い覚悟はないが、クラスポイントが増えた結果Aクラスになるなら全く問題ない」
「そう。それじゃこれからよろしくお願いするわ」
「こちらこそ。……それよりもう1人協力してもらった方がいいやつがいるんじゃないか?」
そう。これも橘先輩から入手した情報。入試で全教科50点だった生徒がいる。ちなみにその生徒は今回の小テストも50点だった。
橘先輩、俺に情報を提供しすぎじゃない?
「誰のことを言っているの? 平田くんと櫛田さんならお断りよ。信用できない」
「違う違う。俺が言ってるのは綾小路だよ」
「綾小路くん?」
「ああ」
堀北が酷く驚いた顔をしている。
俺は綾小路の入試と小テストの点数がすべて50点であったことを説明した。
「それを狙ってとったのなら凄いと思うけど。どうしてそんなわけがわからないことを……」
「さあな。ただ天才がすることは凡人には理解できない、という言葉もあるからな」
綾小路が天才かどうかはわからない。ていうかどうでもいい。
堀北に綾小路も誘ってもらって、俺と綾小路が親しくなればいいのだ。
堀北が近くにいれば、池たちは寄ってこないだろう。堀北のことを苦手にしているみたいだし。そうなれば必然的に男子は俺と綾小路の2人だけになる。結果仲良くなれる。
「というわけで綾小路も誘っておいてくれ」
「私が?」
「だって堀北が言い出しっぺだろ。責任持って誘ってくれよ」
「はぁ、わかったわ」
その日の夜。
予習をしていると、綾小路も協力してくれることになったと堀北からメールの着信があった。
これで今まで以上に綾小路と接点を持つことができる。いずれ将棋を指せるといいなあ。
明日は堀北の手作り弁当が食べれる。生まれて初めての女子の手作り弁当だ。
ちなみにこの日の夜は興奮して眠れなかった。
学生データベース
名前:界外 帝人(かいげ みかど)
クラス:1-D
学籍番号:S01T004777
部活動:無所属
誕生日:3月15日
身長:170センチ
体重:60キロ
-評価-
学力:A
知性:B-
判断力:B+
身体能力:A
協調性:D-
-面接官からのコメント-
学力、身体能力は非常に高く、面接時の態度も良好。
小学校ではバスケット、中学校ではバレーで全国大会に出場するなど結果も出している。この点だけ言えばAクラス相当の実力者である。しかしながら継続性や協調性においては多少欠けている部分があり、中学校では孤立していた。中学3年時に友人は出来たようだが、社交性は低いと思われる。よってDクラスへの配属とする。
-担任メモ-
少数ではあるが友達が出来、楽しく過ごしているようです。さらなる社交性の向上に期待します。