実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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よう実も禁書も可愛いキャラ多くて困りますね


51話 相棒が女子を脅して利用してる件

 午前最後の種目である200メートル走が始まった。俺は6レース目で自分の番が来るのを待ちながら綾小路と話していた。

 

「界外」

「どうした?」

「約束通り弁当は作ってきたか?」

「作ってきたよ」

「そうか」

 

 俺の回答に満足げな表情を浮かべる綾小路。もしかしたらこの男は俺の料理なしでは生きられない身体になっているのかもしれない。

 

「でも俺の弁当でいいのか? 今日は高級弁当が無料で配布されるらしいぞ」

「その高級弁当がお前の弁当より美味しい保障はないだろ?」

「そうだな」

 

 確かに俺の弁当の方が美味しいだろう。学校に大量に配布される弁当に俺の弁当が負けるはずがない。

 

「この200メートル走が終われば昼休みだ。最後にひとっ走り頑張ろうぜ」

「ああ。まあ頑張らなくても1位はとれるがな」

「そ、そうか……」

 

 こいつナチュラルに頑張ってる生徒たちを馬鹿にしたぞ……。

 

「しかしまいったな」

「なにが?」

「今のところオレは全種目1位だ」

「そうだな」

 

 Cクラスで全種目1位を達成してるのは俺、綾小路、平田、須藤、堀北、小野寺の6人だ。

 

「午後の競技も負けることはないだろう」

「お、おう……」

 

 俺は自分のことを自信家だと思っているが、こいつはそれ以上だな。

 

「このままだと最優秀生徒に選ばれる可能性もある」

「確かに」

「それは避けたい。なので1種目だけ2位でもいいか?」

「……いいよ」

「助かる」

 

 綾小路は必要以上に目立ちたくないもんね。こればかりは仕方ない。それに綾小路が脱落してくれたら俺が最優秀生徒に選ばれる可能性が高くなる。

 綾小路と歓談を続けてると、自分の番がやって来た。

 

「それじゃ行ってくる」

「ああ」

 

 スタートラインに立つ。特に強者は見当たらない。結局200メートル走も1着でゴールインした。

 

「お疲れ様」

 

 先にレースを終えた平田が労う。

 

「おう。これで午前のプログラムは終わりだな」

「そうだね。午前中だけで種目を大分消化したけど、体力の方はどうかな?」

「問題ない。毎朝堀北と(ランニングを)やってるおかげで体力がついたからな」

「……………………え?」

 

 俺が堀北との日課を明かすと、平田がきょとんとしてしまった。

 

「ま、毎朝、堀北さんと、やってる……?」

「ああ」

「一之瀬さんじゃなくて……?」

「堀北とだけど。なんで一之瀬の名前が出てくるんだ?」

「え、いや、だって……」

 

 平田が困惑しているようだ。一体どうしたんだろうか。

 

「そ、そんなに体力がつくものなのかい……?」

「ああ。毎日二人とも汗だくだぞ」

「そ、そんなに激しくやってるんだ……」

 

 ぶつぶつ言ってる。こんな状態の平田を見るのは久しぶりだ。

 

「堀北さんまでセフレだったなんて……」

 

 何言ってるか聞き取れない。平田は何を言ってるんだ。

 

「僕、顔を洗ってくるよ」

「おう」

 

 平田はそう言うと、ふらふらしながらテントを後にした。

 

「平田の様子がおかしいようだが、どうしたんだ?」

 

 レースを終えた綾小路が聞いてきた。

 

「わからん。毎朝俺と堀北が走り込んでるのを教えたらあんな状態になった」

「そうか」

「朝から沢山の種目をこなしてるんだ。疲れてるのかもしれないな」

 

 昼休みを利用して体力の回復に努めてもらおう。

 女子の種目も問題なく終わり、昼休憩となった。

 俺と綾小路が移動しようとしていると、堀北と櫛田が現れる。

 

「界外くん、お昼にしましょう」

「界外くん、一緒にお昼食べよっ」

 

 そう言って俺に声をかけてきた。綾小路もいるんだけど彼女たちには見えていないのだろうか。ミスディレクション発動しちゃってるの?

 

「いいけど、綾小路もいるからな」

「いたのね」

「いたんだ」

 

 おかしい。今のところ全種目1位というヒーロー級の活躍をしてる綾小路がこの扱い。この世界は間違っている。

 

「……俺の友達にそういう態度をとるのはあまり好きじゃない。綾小路、二人で食べよう」

「「え」」

「いいのか?」

「いいよ。それじゃーな」

 

 さすがに今のには、むっとしたので彼女たちを置いて歩き出す。

 

「ご、ごめんなさい……。い、今のは冗談なの……」

「ごめんね。つい悪ふざけしちゃって……」

 

 暫くの間フリーズしていた堀北と櫛田が、俺たちを追いかけながら謝ってきた。

 

「だそうだ。どうする?」

「どうするも何もオレはどうも思ってないが」

 

 綾小路は気にしていないようだ。それともこの二人のことをどうも思ってないという意味だろうか。

 

「それじゃ四人で飯食べるか」

「え、ええ。……その、本当にごめんなさい」

「綾小路くん、ごめんね?」

「気にしてないからいい」

 

 それから適当に陣取りブルーシートを敷いて昼食が始まった。途中から松下、佐藤、篠原の三人も合流し7人の男女グループが出来上がった。暫く食事に興じていた俺たちだったが、やがてポツポツと食べ終わる者たちが出始めたところで佐藤が寄ってきた。

 

「ねえねえ」

「ん?」

「綾小路くんって運動神経よかったんだね」

 

 どうやら佐藤は綾小路に注目しているようだ。

 

「ああ。足ならクラスで一番速いぞ」

「そうなんだ……。てっきり読書好きの文学少年かと思ってた」

「つーか、綾小路はリレーに選ばれてるだろ。それで足が速いってわからなかったのか?」

「えっと、リレーの出る人たち把握してなくて……」

 

 おい。この女はホームルームで何を聞いてたんだよ。

 俺がジト目で見ていると、佐藤が弁明を始めた。

 

「ち、違うの……。私が出ない種目だから興味がなかっただけで……」

「おい」

「お、応援はするから! ね?」

 

 応援はするから見逃してくれってことだろうか。

 

「ま、別にいいけど」

「さすが界外くん。太ももが太い!」

「懐が深いだろ……。佐藤ってここまで馬鹿だったっけ?」

「馬鹿じゃないし。今のは似てるから間違えただけだから」

 

 どこが似てるんだよ。

 それより佐藤が綾小路のこと聞いてきたってことは、女子にも注目される存在になってきたってことだ。

 

「それでいいよ。それで綾小路がどうしたんだ?」

「ううん。少し興味持っただけ」

「そっか」

 

 喜べ綾小路。お前に興味を持った女子が現れたぞ。……アホだけど。

 

 昼食を食べ終えた俺は、一之瀬と体育館裏に来ていた。

 

「昼休みに悪いな」

「ううん。それで話ってなにかな?」

「一之瀬は自分のクラスの点数は把握してるか?」

「ある程度はね。さすがに正確な点数は把握してないかな」

 

 だろうな。あんな短時間で次々と種目が消化されていく中で、自クラスの点数を正確に把握するなど不可能に近いだろう。

 

「そうか。自クラスの種目の組み合わせはどう思う?」

「うーん、普通かな。予想が外れて1着を取れそうな子が取れなかったりすることもあるけど」

「なるほど」

 

 どうやら龍園は種目の組み合わせはCクラス用に配置したようだ。つまり龍園はBクラス全体ではなく、一之瀬個人を攻撃しているということか。

 用件が済みテントに戻ろうとしたところで、Bクラスの女子が慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「あ、いたいた。一之瀬さん、少し話があるんだけどいいかな?」

「冴木さん、どうしたの?」

「えっと……」

 

 冴木という女子が俺の方がチラチラ見てくる。どうやら邪魔のようだ。

 

「それじゃ俺はテントに戻るよ」

「待って」

 

 一之瀬に腕をぐっと掴まれた。

 

「彼も一緒に話を聞いてもいいよね?」

「えっと……」

「いいよね?」

「あ、うん……」

 

 怖い。一之瀬怖い。笑顔という名の圧力で冴木を頷かせたぞ……。

 

「それで話ってなにかな?」

「……あのさ、一之瀬さんと接触して倒れた斎藤さん大怪我したみたいなの。今は起き上がれないほど酷いみたいでさ。それで……斎藤さんが一之瀬さんを呼んで欲しいって言ってるみたいなんだ」

 

 体育祭が終わってからだと考えてたが、思ったより早く呼び出しがかかったな。

 

「そっか。斎藤さんは今どこかな?」

「保健室だよ」

 

 そんなやり取りがなされ、冴木は俺の腕を掴んで離さない一之瀬を連れて保健室の方角に足を向けた。

 保健室に辿り着くと室内には星之宮先生がいた。

 

「一之瀬さん、せっかくの昼休みにごめんね~。界外くんとデート中だった?」

「いえ。デートは放課後にする予定です」

「そうなんだ~。青春ね~」

「あ、あの先生……」

 

 冴木が星之宮を急かすように言う。

 

「あ、ごめんごめん」

「一体どういうことなんですか?」

 

 先ほどからカーテンで仕切られたベッドから女子のすすり泣くような声が聞こえている。少しだけカーテンを開けてくれた星之宮先生。その奥に見えたのはベッドの上で横になっていたDクラスの斎藤だった。すぐにカーテンを閉めると、俺と一之瀬を廊下に連れ出した。

 

「一之瀬さん、障害物競争で斎藤さんと接触して転んだの覚えてるかな~?」

「もちろんです」

「そのことなんだけどね……斎藤さんが言うには一之瀬さんが意図的に転ばせたと言ってるのよね」

「そんなわけないです。偶然の事故です」

 

 一之瀬がはっきりとした口調で否定する。

 

「私もそう思いたいのよね~。けれど状況が悪いのよ」

「状況とは?」

「斎藤さんが言うには、まず走ってる最中に一之瀬さんが繰り返し自分を気にして振り返ってたと証言してるの。検証のためにビデオを確認したんだけど、確かに一之瀬さんが3度斎藤さんの位置を確認してるのよね~」

「そ、それは……斎藤さんに繰り返し名前を呼ばれたからです。それで振り向いたんです」

「……なるほどね~。しかしけっこう問題が大きいのよね。強く一之瀬さんに脛を蹴られたと言っててね。事実、後の競技は全て欠席してるのよ。実際に斎藤さんの怪我の状態を診たんだけど酷い状態だったのよね。それも作為的なものを感じるような」

「私は何もしてません。事実無根です」

「もちろん先生は一之瀬さんが無実だと信じてるわよ~。ただ状況を考えると審議に入る可能性が高いのよね」

「そ、そんな……」

 

 ここにきて戸惑いを見せる一之瀬。……演技上手いな。

 

「斎藤さんは学校側に訴えると言って聞かないようなの。映像や証言を聞く限りでは取り下げることは出来そうにないわ。向こうにしてみれば泣き寝入りになるものね。これがどういうことかわかる?」

「……悪魔の証明ですか」

 

 地球上に魔術師がいる、と証明するには地球上のどこかで魔術師を一人見つけるだけでいいが、地球上に魔術師がいないと証明するには地球上をくまなく探さなければならず、事実上不可能だ。それを悪魔の証明という。魔術師といえば今夜は禁書の放送日だ。一之瀬と打ち上げして帰宅したら仮眠するか。

 

「それよりなぜこの場に冴木さんがいるんですか?」

「私斎藤さんと同じ部活なんだ。……休憩の合間に様子を見に来たら、話を聞かされたんだよね」

「そうなんだ」

 

 同じ部活か。それなら冴木が事情を知ったうえで一之瀬を探しに来ても違和感はない。

 

「えっと、斎藤さんと話せますか?」

「どうかしら。今は情緒不安定だからね~」

「お願いします」

 

 一之瀬が頭を下げると、冴木さんも同じように頭を下げた。それより一之瀬はいつになったら俺の腕を離してくれるのだろうか……。

 

「わかったわ。少し話を聞いてみようかしら」

 

 星之宮先生の許可を貰ったところで、龍園が保健室に向かって歩いてきた。両ポケットに手を入れて歩くと転んだ時に大変だぞ。

 

「随分と大変なことになってるみたいだなぁ」

「龍園くん……」

「お前もいんのかよ。すけこまし野郎」

 

 だから誰がすけこましだコラ。星之宮先生も笑ってないで注意してくれよ。

 

「いちゃ悪いかよ。お前こそなんでここにいるんだ?」

「斎藤から相談を受けて飛んできたところだ。まさかあの怪我が意図的だったとはな」

 

 そう言い、横を通り抜け保健室に入っていく。俺たちも後を追う。保健室に入るなり龍園は斎藤がいるベッドのカーテンを開いた。

 

「おう斎藤。大丈夫か? 随分と酷い目にあったそうだな」

 

 龍園の姿を見るなり斎藤は怯えに拍車が迫り、露骨に体を震わせた。

 

「足を怪我したんだって? ちょっと見せてみろ」

 

 そう言って龍園はシーツの下に隠された斎藤の包帯を巻かれた痛々しい足を引っ張りだした。

 

「こりゃヒデェ。よくまぁこんなことが出来たもんだなぁ」

「ごめん……。私頑張ろうとして次の競技にも参加しようとしたんだけど……でも足が言うことを聞かなくって……それで……っ!」

「自分を責めるなよ斎藤。お前が二人三脚に出ようとしたのは知ってる」

「龍園くん……」

 

 こいつら演技上手すぎだろ。もしかして練習でもしたのだろうか。だとしたら爆笑ものなんですけど。

 

「斎藤さん、私を呼び出したってことは、私に言いたいことがあるんだよね?」

 

 茶番を見せられ続けて痺れを切らしたのか、一之瀬が二人の会話に割り込んだ。

 

「一之瀬さん……倒れた私に言ったよね……絶対に勝たせない、って……」

「私はそんなこと言ってないよ」

「一之瀬さん、競技中に後ろを随分気にしていたわね。どうして?」

 

 星之宮先生が改めて同じ疑問を投げかけた。

 

「後ろから斎藤さんに何度も名前を呼ばれたからです。最初は無視してたんですけど、明らかに様子がおかしいので振り向いたんです」

「そうなの斎藤さん?」

「私、一度も呼んでませんっ」

 

 星之宮先生の確認にも、斎藤は全く認めず否定した。

 

「……ぷぷっ、もう駄目だ……」

 

 笑いを堪えるのも限界だ。つーか早く終わらせてくれないと貴重な昼休みが終わってしまう。

 

「何笑ってやがる?」

 

 龍園が眉を顰め聞いてきた。

 

「いや、お前たちがあまりにも滑稽に見えたからさ。……一之瀬、もういいだろ」

「……そうだね。斎藤さんの証言も聞けたわけだし……そろそろいいかな」

 

 俺と一之瀬を全員が怪訝そうに見てくる。

 

「星之宮先生、先ほどは言ってなかったんですけど、証拠はあるんです」

「証拠って?」

「斎藤さんが私の名前を呼んでいた証拠です」

 

 一之瀬はそう言うと、ポケットからICレコーダーを取り出した。

 

「これは……?」

「ICレコーダーです。競技中にずっとつけてました。これに斎藤さんが私の名前を読んだ音声が録音されてます」

 

 刹那、俺と一之瀬以外の全員が驚愕の表情を浮かべた。

 

「ICレコーダー……」

 

 斎藤が弱弱しく呟く。

 

「……待てよ。斎藤が一之瀬の名前を呼んだからってどうした。一之瀬が斎藤を怪我させていない証拠にはならないだろ」

 

 らしくないな龍園。普段のお前ならここで引いてるんじゃないか。

 

「つまり他にも証拠があれば納得してくれるのかな?」

「あ?」

「例えば……龍園くんが斎藤さんに私を巻き込んで転倒するよう指示した音声データとかさ」

 

 一之瀬の発言に再び驚愕の表情を浮かべる一同。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 話は3日前にさかのぼる。

 

「面白い情報が手に入った?」

 

 自室で夕食を食べ終え、食器を片付けようとしたところ、綾小路から「面白い情報が手に入った」と言われたのだ。

 

「ああ。これを聞いてくれ」

 

 そう言うと、綾小路は携帯を操作し始めた。

 そして携帯からどこかで録音したかのような、雑多の混じった音が聞こえてきた。

 

『いいかお前ら。Bクラスの一之瀬帆波をハメるために、潰すためにはどうすればいいか、その策を受けてやる。一之瀬にムカついてる奴も多いだろ。面白いものを見せてやるよ』

 

 それは龍園の声だった。体育祭で実行する戦略を練っている時の会話だろう。それより……

 

「待て。どこに行く気だ」

 

 立ち上がった俺の腕を掴む綾小路。

 

「龍園を潰してくる」

「落ち着け。まだ一之瀬は手を出されていない」

「出す前に潰す。半殺しにしてやる」

「だから落ち着け。お前がここで暴走しても仕方ないだろ」

「……わかった」

 

 危ない。完全に思考がぶっ飛んでいた。どうやら一之瀬のことになると理性がぶっ飛んでしまうのは変わっていないようだ。

 

『障害物競争でお前は一之瀬と走って接触しろ。何でもいいから転倒するんだよ。あとは俺が怪我を負わせてあいつからポイントをぶんどってやる。土下座のオプション付きでな』

 

 落ち着いた状態で録音を聞く。とうとう龍園が仕掛けてくる。

 

「録音はこれで終わりだ。櫛田のことも話してくれればよかったんだけどな」

「……これ誰が録音したんだ?」

「Dクラスの真鍋だ。少し脅して言うことを聞かせている」

 

 何この人怖い。もしかして軽井沢も脅されてるんじゃ……。

 

「そ、そうか……。なんで俺に……?」

「一之瀬のことだったからな。もし一之瀬が龍園がにやられたらお前は暴走すると思った。だから録音を聞かせた」

「一之瀬に教えていいんだよな?」

「ああ。正直Bクラスを助けることになるが……。お前の暴走を止めるためには仕方ない」

「……ありがとう」

 

 その後、すぐに一之瀬を部屋に呼び出して録音を聞かせた。

 綾小路は気を利かせて自室に戻っていた。

 

「……これって……」

「ああ。この音声データをどう利用するかは一之瀬の判断に任せる」

「これ、誰が録音したの……?」

「Dクラスの協力者だ。名前は言えない」

 

 綾小路の貴重なスパイだ。いくら一之瀬だからといって名前を明かすわけにはいかない。

 

「……そっか。界外くん」

「ん?」

「教えてくれてありがとう」

 

 一之瀬は俺にゆっくりと近づき、そして抱きついた。

 

「私のために色々頑張ってくれたんだね」

 

 彼女の淡い髪の香りがそっと俺の鼻を打つ。

 

「嬉しいよ。本当にありがとう」

 

 俺は何もしてないので、こんなに感謝されると心が痛い。

 

「いや」

「わかっていたけど、私ってDクラスの人たちから結構恨まれてるんだね」

 

 1学期はBクラスと旧Cクラスのいざこざが多かった。龍園の策を一之瀬が破る。そのたびに使いの生徒は龍園に怒られていたのかもしれない。それなら一之瀬を恨むのもわかる。

 

「Bクラスのリーダーだからな。仕方ないだろ」

「うん」

「それでどうする? 龍園の策にはまったふりして、この音声データを提出すれば、停学に追い込めるかもしれない」

 

 リーダーが停学なればDクラスのダメージは計り知れないだろう。

 

「……そうだね。その作戦に乗るよ」

「いいのか? 先手を打って先生に音声データを提出するのも一つの手だぞ」

 

 そうすれば本番で一之瀬に手を出してこなくなるはずだ。

 

「ううん。折角のチャンスだもん。利用させてもらうかな」

「……わかった。無理はするなよ」

「うん。……もう少しこのままでいていい?」

「いいぞ」

 

 そのまま二人で抱きしめあった。さすがにこの雰囲気で一之瀬が耳責めを要求してくることはなかった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「一之瀬さん、どういうこと?」

 

 星之宮先生が問う。

 

「そのままの意味ですよ。斎藤さんは龍園くんの指示で私を巻き込んで転倒したんです」

「ほ、本当なの……?」

「はい。それと斎藤さんに怪我をさせたのは龍園くんです。これも音声データを聞けば確認できます」

「……そう。その音声データはICレコーダーに入ってるのかしら?」

「いえ。SDカードに入ってます」

 

 一之瀬は携帯からSDカードを抜き、ICレコーダーと一緒に星之宮先生に渡した。

 

「ありがとう。これとICレコーダーは大切な証拠品として預からせていただくわね」

「よろしくお願いします。……それじゃ戻ろっか?」

「そうだな」

 

 一之瀬と共に保健室を後にする。

 

「……携帯持ってきてたのか?」

「うん。昼休みに仕掛けてくるかもと思ってね」

「なるほど」

 

 一之瀬と話しながら廊下を歩いてると龍園に呼び止められた。

 

「待てよ」

「……何だよ?」

「喜べ。お前らのおかげで俺は停学になりそうだぜ」

 

 相変わらずクククと笑いながら龍園が言う。

 

「よかったな。これで石崎と停学コンビの仲間入りだ。仲良くしろよ」

「ほざけ。……まさかうちのクラスに裏切り者がいるとはな」

「気づかなかっただろう。俺のエージェントは優秀だからな」

 

 俺じゃなくて綾小路のエージェントなんだけどね。

 

「誰だ?」

 

 いやいや教えるわけないでしょ。どうやら龍園は相当動揺してるようだ。

 

「俺と関わったことがあるCクラスの生徒なんて限られてるだろ。……例えば俺の下着を盗んだ女子とかな」

「伊吹か?」

「本人に聞いてみてくれ」

「……はったりか。つくづくムカつく野郎だぜ」

「そろそろ行っていいか?」

「……この借りは必ず返させてもらう」

 

 ここでお前には無理だとか言ったらまた怒るんだろうな。

 

「楽しみに待ってるよ」

「ぶっ殺す」

 

 結局怒られてしまった。何を言えば正解なんだよ……。

 

「界外くん行こっ」

「あ、ああ……」

 

 一之瀬に腕を引っ張られ再び歩き出す。暫く背中に龍園の視線が感じられた。

 

「界外くん、大丈夫?」

 

 下駄箱で靴に履き替えながら一之瀬が言った。

 

「何が?」

「龍園くんのこと。……そろそろ暴力に訴えてくるかもしれないよ」

「……大丈夫だろ」

 

 心配なのは俺じゃなくて一之瀬なんだよ。

 

「前みたいに無茶しちゃやだよ」

 

 そう言いながら俺の手を握ってきた。

 抱きついてこなかったのは橘先輩に注意されたからだろうか。

 

「佐倉さんを助けた時みたいな無茶はしないで。約束」

「わかった。一之瀬も無茶しないでくれよ」

「うん。何かあったらすぐに言う。前に約束したもんね」

「ああ」

 

 俺たちは暫くの間見つめ合い、テントに戻っていった。

 一之瀬成分を補充したので午後の競技も頑張れそうだ。




次回で体育祭編完結です
久しぶりにあの元グラビアアイドルが活躍します
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