実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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今期の嫁は五和とSSSS.GRIDMANのアカネですね
どっちもけしからん体をしている


52話 風が強く吹いている

 チャイムが鳴り、体育祭後半戦がスタート。推薦競技の時間を迎えた。まずは借り物競争。出場するのは各クラス6人ずつ。クラス1人ずつが走ることになっており4人一組で1レースとなる少数競技だ。

 

「綾小路、2位だからな。3位以下は駄目だぞ」

「こればかりは運によるだろ」

「運も実力のうちって言うだろ?」

 

 運も俺の味方のはずだ。なにせ勝利の女神に応援されてるんだからな。

 一之瀬がいる方を見てると、競技前審判たちから説明が入った。

 

「借り物競争では高い難度のものも設定されている。その場合は引き直しを希望することもできるが、次に引き直すまで30秒の待機が必要になる。希望者は競技中クジを引く地点いる審判に申し出るように。また3名がゴールした時点で競技は終了となる。以上だ」

 

 そんな補足説明を受け、3レース目に出場する俺は準備に入った。ちなみに綾小路は2レース目だ。

 程なくして1レース目が始まった。他クラスは運動神経の良い生徒を持ってきているようで池がスタートで出し抜かれる。

 とはいえ肝心なのは借り物の中身。最下位で箱まで辿り着いた池がクジを引いて中身を確かめる。上位陣は既にグランドを離れて指定された借り物を探しに動く。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら池が、スタート地点まで逆走してきた。

 

「綾小路! 左足貸してくれ左足!」

 

 いきなりカニバリズム的なことを言ってきたでござる。

 

「左?」

「靴だよ靴」

 

 どうやらクジの中身は『シューズ(左足)』のようだ。

 

「いや、オレが貸したらオレが走れなくなるだろ」

「げっ!?」

 

 どうやらクジの中身を見て考えなしに逆走してきたようだ。

 池は慌てて陣営へ駆けていった。他の生徒たちは借り物に苦戦してるようで、まだゴールに向かうものは見えない。結果、クジ運で勝機を見出した池が1位を飾る波乱の幕開けとなった。

 1レース目が終わるなり2コースの綾小路たちのスタートが鳴る。

 綾小路はクジの中身を確かめる。そして陣営に駆けて行った。

 

「さて中身は何やら」

 

 綾小路は陣営に辿り着くと佐倉に声をかけた。

 佐倉はあたふたしてる。なんか癒されるな。

 そして眼鏡を取り外すと、綾小路に渡した。

 

「眼鏡か」

 

 池に続いて綾小路もクジ運に恵まれたようだ。

 再びグラウンドに目を向けると、既にゴールに向かっている生徒がいた。龍園だ。

 あいつ、借り物競争にも出てたのかよ。……意外とイベント事が好きなのかな。

 結果は龍園が1位、綾小路は2位だった。

 

「次は俺か」

 

 スタート合図が鳴った。スタートダッシュに成功した俺は1位でクジ引きの場へ。

 

「さてさて、何が書かれてるんだ……」

 

 置かれた箱に手を入れる。中にはそれなりの数の紙が入ってるようだ。複数引かないように気をつけながら取り出す。四つ折りにされた紙を開くと……

 

『ヘアゴム』

 

 中身を見てすぐに陣営に向かって走る。他の生徒たちも俺に続いて陣営に駆けている。

 

「佐倉」

 

 陣営に着くとすぐに佐倉に声をかける。

 

「界外くん、なに?」

 

 久しぶりに眼鏡を外した佐倉を見た。……とてつもない美少女だ。思わず見惚れてしまう。俺以外の男子生徒も見惚れてるようだ。

 

「あ、あの……」

「あ、悪い。ヘアゴム貸してくれないか?」

 

 クジの紙を見せながらお願いをする。

 

「う、うん。いいよ。外すから待ってね」

「ああ。助かる」

 

 よかった。断られたらどうしようかと思ったよ。

 

「クジ運に恵まれたようね」

「他の生徒たちもまだゴールに向かってないから1位とれるかもよっ」

 

 佐倉がゴムを外すのを待ってると、堀北と櫛田が話しかけてきた。

 

「そうだな。Cクラスはクジ運がいいらしい」

「お待たせっ!」

 

 佐倉がヘアゴムを渡してきた。

 

「ありがとう。レースが終わったらすぐに返すな」

「うん。頑張ってね」

「うん。頑張る」

 

 俺がそう言いった瞬間、二人の女子から冷気が放たれた。堀北と櫛田だ。俺が佐倉に鼻の下伸ばしてるのが気に入らないようだ。

 でも仕方ないと思うんだ。だって元グラビアアイドルだぞ。一之瀬級のおっぱいの持ち主なんだぞ。

 ほら見てみろ。あの平田でさえ、眼鏡を外し、髪を下ろした佐倉に見惚れてるんだぞ。……いや、平田だけじゃない。Bクラスの男子たちも佐倉に見惚れてる。

 

「おいなんでお前らがここにいんだよ!?」

 

 山内が誰かに叫んでる。声をした方に目を向けるとそこには……

 

「お前らDクラスだろ!」

 

 Dクラスの石崎、小宮、近藤、金田の姿があった。

 敵陣営のテントによく来れたなこいつら……。

 

「可愛い」

「天使だ」

「なんで俺はCクラスじゃないんだっ!」

「う、美しい……」

 

 石崎以外は龍園の配下じゃねえか。こんなことして龍園に怒られるぞ。

 

「ひっ」

 

 男子たちの熱い視線に怯えた佐倉は俺の背中に隠れてしまった。

 

「君たち、何をしてるんだ!!」

 

 今度はDクラスの担任である坂上先生がやって来た。審議のメンバー全員集合じゃないか。

 

「早く自分たちの陣営に戻りなさい!」

 

 そう言いつつ、佐倉をチラチラ見る坂上先生。

 うん、気持ちはわかるよ。佐倉可愛いもんね。眼鏡外したら美少女とかどこの100%さんだよ。いや眼鏡かけてても可愛いけど。

 

「……松下、佐倉をお願いしていいか?」

「はいはい」

 

 松下はだるそうに返事しながら佐倉を背中に隠す。佐藤、篠原も佐倉を守るように囲い込む。

 ひと安心した俺は急いでゴールに向かう。他の生徒は借り物捜しに手こずってるようで、俺以外にゴールに向かってる生徒は見られない。

 そのまま1着でゴールイン。2着はBクラス。3着はDクラスだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ふーっ……なんとかDクラスに勝てたね」

「ああ」

 

 大天使雫たんの加護を得た俺たちCクラスは、四方綱引きを1位という最高の結果で終えた。

 

「このままいけばクラス別で1位はとれそうだね」

「そうだな。ただ2,3年の赤組が情けないから、赤組としては負けそうだけどな」

 

 3年の堀北会長、2年の南雲先輩。二人ともAクラスなので当然白組だ。恐らくこの二人が学年トップの運動能力の持ち主だろう。最優秀生徒はこの二人と争うことになりそうだ。

 

「こればかりはどうしようもないね」

 

 苦笑いしながら平田が言う。

 

「だよな……。とりあえず次の男女二人三脚を頑張るか」

「うん」

 

 陣営に戻り一休みするため腰を下ろす。

 

「界外くん、お疲れ様。はいこれっ」

 

 櫛田が労いながら俺の水筒を渡してきた。

 

「ありがとう」

「次の二人三脚頑張ろうねっ」

「もちろんだ」

 

 そう。男女二人三脚は櫛田と組むことになった。堀北とのペアよりコンマ数秒程度の差だったが櫛田とのペアの方がタイムがよかった為だ。

 

「……っ」

 

 そんな俺たちの様子を悔しそうな表情で堀北が見てくる。

 そんな目で見ないでくれよ。俺が櫛田を選んだわけじゃないんだぞ……。

 一休みし、俺たちは次の競技の準備に移る。

 

「よう界外、桔梗ちゃん」

 

 そう言ってやって来たのは柴田。そして網倉さんの二人だった。

 

「わー強敵だね。二人が一緒に組むなんて……」

「そんなことないよ。むしろ強敵はそっちでしょ」

「おい俺は強敵だぞ!」

「うっさい」

「……ごめんなさい」

 

 どうやら柴田は網倉さんの尻に敷かれてるようだ。なんか親近感が湧いてきたぞ。

 

「それより界外くんは男女別二人三脚出ちゃうんだ」

「え」

 

 網倉さんが非難したような目で言う。

 

「そりゃ界外は最優秀生徒を目指してるんだから出るに決まってるだろ」

「これだから男子は……」

「な、なんだよ……」

「別に」

「二人とも仲良いねっ」

「「どこがっ!?」」

 

 息ぴったりじゃねぇか。俺と一之瀬みたいに素直に仲良くすればいいのに。

 

「界外くん、もう結んじゃっていい?」

「オッケーだ」

 

 俺の返事を聞くと、櫛田はしゃがみ込み俺の足に紐を結びつける。

 

「もうちょっと待ってね。もうすぐ結び終わるから」

 

 何だろう。櫛田が俺に跪いてるようでゾクゾクしてきた。

 

「うん、これでよし!」

「ありがとな」

「ううん。絶対に勝とうねっ」

「ああ」

 

 紐を結び終えた俺たちだが開始までまだ少し時間はある。

 

「そういえば櫛田ってDクラスにも友達いるのか?」

「いるよ。どうして?」

「ほら、Dクラスって俺たちにいいようにやられてるだろ。なんか言われたりしないのかと思ってな」

「……あー、そうだね。特に文句や不満は言われたことないよ」

「ならいいんだ」

「心配してくれたんだね。ありがとっ」

「いや」

 

 悪いけど櫛田の心配はまったくしていない。裏切り者の心配をするほど俺は聖人じゃない。聖人はねーちんで十分。

 櫛田の様子を探りながら、俺たちは二人三脚に挑んだ。

 結果は1位。僅差の2位が柴田・網倉ペアだ。大接戦だった。体育祭で一番苦戦したかもしれない。

 

「やったね。1位だよっ」

 

 陣営に戻りながら櫛田が笑顔で言う。

 

「ああ。それと最下位はDクラスだった」

「え、うん、そうだね」

「これでDクラスを突き放すことが出来そうだ」

「……やたらDクラスに拘るね。なんでかな……?」

 

 そりゃお前が龍園と組んでるからね。

 

「今俺たちCクラスはBクラスとDクラスに挟まれてる状態だってわかるよな?」

「うん」

「だからだよ。上を目指すために下を突き放しておきたいんだ。ある程度余裕があれば上を目指すのに集中出来るだろう」

 

 もちろん嘘である。いくらクラスポイントが離れていようと龍園をノーマークにするわけがない。

 

「なるほど。確かにDクラスとはポイント差が大きいもんね」

「ああ。この体育祭でもっとDクラスを突き放したいんだ」

「そういうことだったんだね」

「このままいけばクラス別でCクラスは1位をとれると思う」

「みんな頑張ってるもんね」

「そうだ。それと一之瀬から嬉しい情報が手に入ったんだ」

「帆波ちゃんから?」

 

 悪い一之瀬。少し名前を利用させてもらうぞ。

 

「どうやら龍園が近々停学になるようだ」

「え」

 

 俺から告げられた衝撃の事実に櫛田の顔が強張る。

 

「龍園くんは何かやらかしたのかな……?」

 

 櫛田はすぐに表情を戻した。

 

「詳細はわからない。ただこれでDクラスは終わりかもな」

「……そうなの?」

「Dクラスは他クラスからクラスポイントが大きく離されてる。競技大会でも最下位が濃厚。そしてリーダーの停学。もう終わりだろ」

「……そうかもね」

 

 お前は組む相手を間違えたんだよ。いや、そもそもクラスを裏切ること自体を間違えてる。俺や綾小路を出し抜けると思ったのか。

 

「だからこれから先Dクラスの友達とやらに何か言われるかもしれない。気をつけてくれ」

「ありがとう。……もう私のこと心配しすぎだよっ」

 

 軽く肩を叩いてくる。

 

「櫛田は必要な存在だからな。心配もするよ」

「……私……が……必要……」

 

 これで裏切り行為を止めてくれるといいんだけど。

 小さく何かを呟いてる櫛田を連れて俺はテントに戻った。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 後半戦の最後、体育祭を締めくくる1200メートルリレーが始まろうとしていた。

 Cクラスは綾小路が1番手、2番手以降は須藤、堀北、小野寺、櫛田の順で、アンカーは俺の編成だ。

 上級生も入り混じった12人同時スタートの究極リレー。12人分のレーンを用意することが出来ないので、スタートは横並び。抜け出した人間からインコースを取って構わないルールになっている。つまり大切なのは最初の位置取り。そのため綾小路を1番手に編成したのだ。

 各学年、各クラスから選りすぐられた精鋭たちがグラウンドの中央に集まる。その中には堀北会長、南雲先輩の姿もある。

 

「綾小路頼んだぜ!」

 

 須藤が綾小路に激を飛ばす。陣営からも応援する声が響いた。相変わらずのクールフェイスでコースに入る綾小路。1年生は若干有利に出来ているようで、Cクラスは内側から2番手。3年のAクラスがもっとも外側という並びの配置だ。

 恐らく俺たち赤組は体育祭での勝ち目はほぼないだろう。ただクラス別としては1位をとれる可能性が非常に高い。そのため1年の他クラスには負けてはならないのだ。

 スタートを告げる音と共に、綾小路は好スタートを切った。

 必要以上に注目をされるのを嫌がりアンカーを辞退した綾小路だが、一歩目から11人を出し抜く勢いを見せては、嫌でも注目を浴びてしまうだろう。つーか浴びてる。

 

「すげっ、はやっ」

 

 隣で観戦する柴田も感心するほど、綾小路は圧倒的な走りを展開していた。

 2年、3年の男子たちは混戦に巻き込まれ位置取りに苦労している。その隙にどんどん突き放した綾小路が須藤にバトンを渡す。

 

「後は任せろ!」

 

 好リードに湧き上がるCクラス。

 運動能力だけ秀でてる夏目大好き野郎は、綾小路と同様に圧倒的な走りを見せる。

 次々と後続の生徒が後を追うが、開いた差は殆ど詰められることなく、計画通りのリードを保ったまま3番手の堀北へ。問題があるとすればここから。堀北を追走するのは男子生徒ばかり。足が速い堀北だがさすがに男子には適わない。リードが確実に詰められた状態で小野寺にバトンが渡った。

 やはり上級生は強い。1位でバトンを受け取った小野寺だが、すぐに3年Aクラスと2年Aクラスの生徒に抜かれてしまう。そして他クラスの生徒たちに続々と迫られる。

 3年Aクラスと2年Aクラスが頭一つ抜き出る形になった。周囲の予想通りの展開だろう。だが体育祭にハプニングは付き物。5番手へとバトンを繋いでいた3年Aクラスの女子が、次の走者まで後50メートルほどというところで躓き転倒してしまう。慌てて立ち直すも、その隙をついて2年Aクラスがトップに出るとたちまち猛烈な差が生まれてしまった。

 そしてCクラスにもハプニングが発生した。4番手で櫛田にバトンを渡そうとした小野寺だったが、焦ったのかバトンを落としてしまった。すぐに拾い櫛田にバトンを渡すも6番手まで順位を落としてしまった。あわよくば表彰台を狙えればと思ったが、厳しい戦いになってしまった。1年が上級生に苦戦してる中、Bクラスだけは3番手として懸命に食らいついていた。

 Bクラスのアンカーを務める柴田が興奮した様子で出番を待っている。

 

「この勝負は俺たちの勝ちっスね堀北会長。出来れば接戦で走りたかったっス」

 

 なんだこのキセキの世代の完璧模倣野郎みたいな口調は。

 

「総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けってところですかねー」

「本当に変えるつもりか? この学校を」

「今までの生徒会は面白味がなさすぎたんですよ」

 

 確かにうちの生徒会のメンバーは男子ばかりでつまらない。生徒会は女子4、男子1の構成でいいんだよ。女子オンリーでも可。

 南雲先輩が堀北会長に伝統がどうのこうの、新しいルールを作る、究極の実力主義の学校を作るとか言ってる。

 そのまま南雲先輩はバトンを受け取ってゴールに向かい旅立つ。

 それから程なくして柴田も2位という絶好の状況でバトンを受け取った。

 

「後は任せてちょんまげ!」

 

 下らないギャグを言いながら柴田が南雲先輩を追いかけるように駆けだした。

 間にいた生徒が抜けたことで、俺は堀北会長と目が合った。

 

「お前がアンカーか」

「一番速いのは綾小路なんですけどね。彼目立つの嫌いなんで」

「そうか。そういえばお前と戦うのはあの夜以来になるな」

「あれは戦いと呼べるんですかね……」

 

 俺が奇襲して金的を蹴っただけなんだが……。

 

「……ふむ。確かにそうだな。なら最後にお前と戦ってみるか」

「え。体育祭中にいきなり殴り合いとか勘弁なんですけど……」

「違う……」

 

 近づいてくる仲間の方に視線を向ける堀北会長。間近に迫ってるのに助走をする様子がない。

 そして身体をこちらに向けた。

 

「何してるんですか……?」

 

 クラスメイトが戸惑ってますよ。バトンを渡すために必死に走ってきたのに可哀相。

 

「ご苦労だった」

「え、あ、え、ああ……」

 

 5番手の走者からバトンを受け取り労う堀北会長。

 堀北会長の奇妙な行動にギャラリーたちの殆どが彼へと視線を向けただろう。3位だった3年Aクラスは次々と後続に抜かれ、ついにはCクラスの櫛田が俺に近づいてくる。

 

「仲間の頑張りを無駄にするとか最低ですね」

「自覚はある」

「後で橘先輩に説教されて下さい」

「わかった」

 

 堀北会長を嗜めてる俺だが、正直嬉しく思っている。ここまでして俺と戦いたかったのか。元アスリートの血が騒ぐ。

 

「……それじゃ勝負ですね」

「ああ」

 

 互いに笑みを浮かべながら助走に入る。

 

「界外くんっ!」

 

 櫛田から渡されたバトンを受け取り、俺は一気に駆けだした。

 そういえば今期陸上のアニメやってたな。

 俺のその映像を浮かべながら全速力で駆け前の走者へと距離を詰めていく。堀北会長も並走している。

 

「ウソだろっ!?」

 

 抜き去る際に生徒が度肝を抜かれた声を出していたが、スルーする。

 気持ちいい。

 楽しい。

 風が強く吹いている。

 まるでゴールまで後押ししてくれてるようだ。

 朝の日課のランニングとは違う。

 人と競いながら走るのがこんなに気持ちいいと思えるなんて久しぶりだ。

 隣を走る堀北会長との一騎打ち。

 俺は笑みを浮かべたままゴールに向かっていった。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「お疲れ様」

 

 競技を終えて戻ると堀北が労ってきた。

 

「ああ。まさか棚ぼたで3位入賞できるとはな」

 

 俺たち2人の驚異的な追い上げに慌てた3位の走者が転び、堀北会長の目の前の進路を塞いだ。堀北会長は避けたもののその僅かなロスは大きく、その間に俺は前に行ったのだ。

 

「嬉しくなさそうね」

「そんなことないけど……」

 

 確かに不完全燃焼だ。あんなハプニングで勝敗がついてしまったのは納得が出来ない。

 

「界外くん、お疲れ様っ」

 

 堀北に続いて櫛田もやって来た。

 

「凄い速かったねっ」

「そ、そうか……?」

「うん。堀北会長と競りながら走ってるのを見て興奮したよ!」

 

 堀北会長の方を見る。どうやら橘先輩に説教されてるようだ。

 やがて続々とクラスメイトが俺たちの下に集まってきた。

 みんなが笑みを浮かべるなか、一人だけ沈んだ表情を浮かべる生徒がいた。

 

「みんな、ごめんね……」

 

 小野寺だ。だいぶ自責の念に駆られてるようだ。

 

「私がバトンを落とさなきゃ1位を取れたかもしれないのに……」

 

 微かに目に涙を浮かべ、震えながらも謝る小野寺。

 

「そんなことないって小野寺ちゃん」

「そうそう。3位入賞したんだから十分だって」

「泣かないで」

 

 そんな小野寺を慰めるクラスメイトたち。その光景を見て俺はよりCクラスが好きになったような気がする。

 

「確かに小野寺が落としてなきゃなー」

 

 一人の心ない発言で場が凍り付く。発言者は……

 

「何言ってんだ春樹!」

 

 山内だ。こいつの辞書には思いやりという文字はないのだろうか。

 山内の一言で小野寺が声を詰まらせてむせび泣いてしまう。

 

「お前はこっち来い!」

 

 池が山内を嗜めながら離れたところに連れていく。

 

「彼には困ったものね……」

 

 堀北が呆れたように言う。

 

「そうだな」

「私が言えたことじゃないのだけれど、彼はもう少し思いやりを持った方がいいわね」

「まさか堀北から思いやりという言葉が聞けるとは……」

 

 入学当初の堀北に聞かせてやりたい。

 

「う、うるさいわね……」

「冗談だよ。ま、小野寺は須藤に任せておけば大丈夫だろ」

「……そうね」

 

 俺は小野寺に近づていく須藤を見ながら言った。

 

「小野寺、謝る必要なんてないぜ」

「……須藤くん……」

「バトンを落とすなんて誰にでもあることなんだ。今日はたまたま小野寺だっただけだ」

「でも……」

「それに小野寺は男子相手に頑張ってたじゃねえか。確かにお前はバトンを落としたけど、小野寺が頑張ってくれなければ3位入賞もなかったんだぜ」

 

 あいつは人を慰めるプロなんだろうか。須藤の言葉をメモして置こうかな。

 

「それに小野寺はアスリートだろ。なら大事なのは泣いて謝ることじゃなくて、今日の敗北を無駄しない為に何をすべきか考えることじゃねえのか?」

「……うん」

「それにリベンジする機会はすぐくるぜ」

「球技大会だね」

「ああ。今度こそ1位をとってやろうぜ!」

「そうだね。私、頑張るよ」

「へっ、小野寺は既に頑張ってるじゃねぇか」

「そ、そうかな……」

 

 須藤と小野寺のやり取りを温かい目で見守るCクラスの生徒たち。

 

「そろそろ結果が発表されるそうよ。行きましょう」

「ああ」

 

 閉会式と共に、結果が発表される運びになっている。

 生徒全員が巨大電光掲示板に目を向けた。

 

「それでは、これより本年度体育祭における勝敗の結果を伝える――――」

 

 赤組と白組に分けられた電光掲示板の数字がカウントを始め、数値が増え始める。

 全13種目のトータル得点点数。勝った組は……。

『勝利白組』の文字と共に点数が発表される。

 非常に競った試合だったが、AD連合の白組が勝利を収めた。

 

「続いてクラス別総合得点を発表する」

 

 学年毎のクラス別に分けた表示が一斉にされ、各クラスの得点が表示されていく。

 

 1位 Cクラス

 2位 Bクラス

 3位 Aクラス

 4位 Dクラス

 

「……ふぅ、よかったよかった」

「そうね。お疲れ様」

「堀北もお疲れさん」

 

 もし1200メートルリレーで3位入賞してなかったらBクラスに負けてたかもしれない。運がよかった。

 

「けど1位とったけどクラスポイント引かれるんだよな……」

 

 俺たちCクラスは総合1位により50ポイントを得たが、赤組の敗北から差っ引いてマイナス50ポイント。Bクラスはマイナス100ポイント。赤組として勝利したAクラスは3位なのでマイナス50ポイント。最下位のDクラスはマイナス100ポイントと、全クラスが後退する結果になった。

 

「報われないわね」

「だな」

 

 なんか結果を聞いてドっと疲れが押し寄せてきた気がする。

 

「続いて最優秀選手を発表する」

 

 学年別が最後なのか。……そっか。最優秀選手に選ばれた生徒は学年別優秀選手に選ばれないからか。

 俺は1200メートルリレー以外はすべて1位の結果を出した。この結果なら選ばれてもおかしくないと思うが……。

 

 最優秀選手賞 1年C組 界外帝人

 

 俺の名前が電光掲示板に表示された。

 

「……やった」

 

 もちろん狙っていたけど本当に選ばれるとは。てっきり全種目1位であろう堀北会長か南雲先輩かと思ったのに。もしかして最後のリレーの追い上げがいいアピールになったのだろうか。

 

「おめでとう」

 

 堀北が笑みを浮かべながら言う。

 

「……ありがとう」

「やったぜ界外!」

 

 須藤が背中を叩いてきた。痛いからやめて!

 須藤に続いて次々とクラスメイトに祝福される。殆どは無料で飯が食べれるから喜んでるんだろうな。

 

「ステーキ! 焼肉! すき焼き! しゃぶしゃぶ!」

 

 おい俺はそんなに奢らないぞ池。

 

「続いて学年別最優秀選手を発表する」

 

 学年別か。候補は平田、須藤、柴田、綾小路あたりだが果たして……。

 

 1年最優秀賞 1年C組 平田洋介

 

 イケメンランク2位の名前が電光掲示板に表示された。

 クラスの女子たちが平田に群がる。

 綾小路を見ると、ほっとした表情を浮かべている。

 綾小路を見続けてると、一人の女子が彼に声をかけてきた。

 坂柳の側近の神室という女子だ。

 どうやら神室に呼び出しを受けたようだ。恐らく坂柳の使いで来たのだろう。

 閉会式が終わり続々と生徒たちが帰路につく。

 教室に戻り携帯を見ると一之瀬からチャットが届いていた。

 

『下駄箱で待ってるね』

 

 この後は恒例の二人きりの打ち上げだ。

 汗をかいたのでシャワーを浴びたいが仕方ない。俺は制汗スプレーを思いっきりかけて待ち合わせ場所に向かった。




クラスポイント一覧

Aクラス: 874
Bクラス: 673
Cクラス: 577
Dクラス: 192

次回は帝人が一之瀬に襲われます
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