実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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最近朝比奈先輩も可愛く見えてきました


55話 球技大会②

 金曜日。球技大会の日がやって来た。この5日間は色々なことがあった。赤司モードでメンバーを鍛えたり、女子バレーの指導をしてる時にサーブが堀北の顔面に直撃したり、茶柱先生に煙草臭いと指摘し傷つけたりした。

 本当に色々なことがあった。

 

「界外、どうしたんだ?」

 

 物思いにふけてると須藤が声をかけてきた。

 

「何でもない。それより早く着替えて体育館に行くぞ」

「おう」

 

 毎日2時間の練習に放課後の自主錬。人事は尽くした。負ける気はしない。

 

「界外くん、みんな着替え終わったよ」

 

 平田が報告してきた。

 

「よし。それじゃ行こうか」

 

 不敵な笑みを浮かべみんなを率いて体育館に向かう。

 体育祭と違い球技大会に開閉式はない。試合以外の時間は自由行動も許されている。もちろん試合以外の時間は体を休めることは必須なので、俺のチームに試合後に遊びまわる馬鹿はいない。

 体育館に着くと俺たちに視線が集中する。体育祭で1位だったので注目されているのだろう。

 

「なんだあいつら」

「雰囲気がやべぇぞ」

「界外以外全員ピリピリしてるぞ」

 

 周りが何か言ってるが集中してる俺には聞こえない。

 コートを見るとBクラスとDクラスの試合が行われていた。Bクラスの面子で俺が知ってるのは的場だけだ。どうやらBクラスはソフトボールに力を入れたらしい。対してDクラスはバスケ部の小宮と近藤、ハーフの山田と強力な面子が揃っている。

 

「Dクラスが勝ちそうだね」

「そうだな。平田、みんなにアップをさせておいてくれ」

「試合見なくていいの?」

「問題ない。これくらいなら事前情報がなくても十分戦える」

「わかったよ」

 

 女子バレーが行われてる隣のコートに向かった。我がCクラスとDクラスが戦っている。Cクラスのメンバーは堀北、櫛田、軽井沢、小野寺、篠原、森の6人だ。点差を見ると15-8でCクラスがリードしている。1セット21点の1セットマッチなので、このままいけば勝てそうだ。

 

「俺もアップするか」

 

 バスケのメンバーがいる場所に戻り入念にアップをする。アップを怠ると怪我に繋がるから全員に入念に行うよう言ってある。

 アップを終え全員集合させる。

 

「それじゃ1試合目のスタメンを発表する」

 

 安西先生ポジションの博士がやりたそうな顔をしてるが無視する。

 

「俺、須藤、平田、三宅、本堂。最初はこの5人で行く」

 

 ポジションは以下の通り。

 

 PG 界外

 SG 平田

 SF 三宅

 PF 本堂

 C  須藤

 

 綾小路は点差関係なく中盤に出場させる予定だ。

 

「界外」

 

 須藤が係員から受け取った黄色のビブスを渡してきた。番号は4番。以前練習で違う番号のビブスを着ようとしたら須藤に怒られてしまったことがある。4番以外のビブスを切るのは須藤にとって許せないことらしい。

 

「ありがとう」

「おう」

「もうすぐ出番だな」

 

 最初の相手はAクラス。コートの反対側を見るとAクラスの面々が集まっている。正義や葛城など俺がしる生徒はいない。正義と戦ってみたかったのに残念だ。

 試合終了のホイッスルが鳴った。結果は21対46でDクラスの勝利だった。

 係の生徒が急いでモップをかける。

 

「Aクラス、Cクラスの出場選手はコートに入って整列してください」

 

 審判に促されコートに入り、整列をする。

 刹那、赤司をトレースする。

 練習で素の状態でプレイしたが、赤司をトレースした時と比べると散々な出来だったので、赤司をトレースした状態でプレイすることに決めた。

 

「洋介、健、明人、健太。僕の期待を裏切るなよ」

 

 赤司をトレースしてるのでチームメイトを下の名前で呼んでいる。ちなみに健太は本堂の名前だ。最初はみんな名前呼びに驚いていたが、今は慣れてくれたようだ。

 

「おうよ!」

 

 須藤が元気よく返事をする。他の面子も表情を見る限り問題なさそうだ。程よい緊張感を持っている。

 対してAクラスは俺たちを見て戸惑っているようだ。なんでだろう。

 まあいい。今は試合に集中だ。

 試合開始の笛と共に始まるジャンプボール。須藤が競り勝ち、ボールが俺の下に渡る。

 

「行くぞ」

 

 刹那、須藤と三宅が前線へと到達する。相手は試合開始直後に速攻されるとは思わなかったようで面を喰らっている。

 俺は対峙するAクラスの生徒を巧みにボールを操り、手を返すと、体を回転させ、華麗に抜き去った。

 そして前線に走り込んだ須藤にパスを供給する。

 

「おっしゃー!」

 

 丁寧にレイアップを決める須藤。

 

「先制だぜ!」

 

 須藤が笑顔で自陣に戻って来る。

 

「健」

「おう!」

「なぜダンクをしなかった?」

「え」

「最初にダンクをかましておけば相手チームにもっと動揺を与えられたはずだ。球技大会だからって手を抜いたか?」

「あ、いや……。わりぃ」

「わかればいいんだ。次は頼んだぞ」

「おう」

 

 俺に注意をされ須藤の表情が沈む。チームメイトはそんな須藤を慰めたりはしない。なぜならこの5日間で見慣れた光景だからだ。

 やるからには全力で勝利を掴む。

 中途半端なプレイをする者はコート上に不要。

 練習中に何度も言った言葉だ。

 

「この試合一気に決めるぞ」

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「そんな……」

 

 Aクラスの生徒が呟く。

 1Q終了まで1分を切っていた。スコアは31-7でCクラスがリードしている。

 俺のゲームメイク、平田のスリーポイント、須藤のゴール下、三宅の器用貧乏、本堂の平均的なプレイでAクラスを圧倒していた。

 

「くそ、なんなんだよっ!」

 

 マッチアップする生徒に対し距離を詰めた厳しいチェックをする。抜かれるリスクは高まるが、冷静さを失っている相手には有効なディフェンス。

 焦って俺を抜こうとする生徒からボールを奪取する。

 

「あっ」

「雑だな。焦っても僕は抜けないぞ」

 

 一気に前線の三宅にボールを放り込む。すぐに相手が詰め寄ってきたが、冷静にフリーの平田にパスをする。

 平田がスリーポイントシュートを放つ。美しい放物線を描いたボールがゴールに吸い込まれた。

 直後、1Q終了のホイッスルが鳴る。

 スコアは34-7でCクラスが圧倒的リードをしている。

 

「ふぅ。思ったより大したことないでござるな」

 

 ベンチで堂々と座っている博士が言う。

 確かに予想より楽に試合を運べている。秀でた選手も見当たらない。

 

「洋介」

「なんだい?」

「最初の3分はお前にボールを集める。あいつらの心をへし折ってやれ」

「わかったよ」

 

 試合が進むにつれて相手チームのマークが緩くなっている。

 バスケは走りっぱなしの過酷なスポーツだ。更にAクラスは大量の点差をつけられている。体力的にも精神的にもきつい状況だろう。

 

「もうへし折れてそうだけどな」

「かもしれない。だがまだディフェンスをする気力はある」

「おいおい。ディフェンスをする気も起きないほどへし折るつもりかよ……」

 

 三宅が呆れたように言う。

 

「全力で相手を叩きつぶす。明人もスポーツをしているならわかるだろう」

「いや、俺弓道部だから」

 

 そういえばそうだった。昨日弓道のアニメが放送してるのを教えたな。

 

「清隆。健太と交代だ。2Qの頭から出ろ」

「わかった」

「健太、よくやった。次の試合も頼んだぞ」

「お、おうっ!」

 

 本堂も経験者じゃないのによくやってくれた。

 

「さああと10分だ。僕たちの力を観客を含め全員に示そう」

 

 いつの間にか観客が増えていた。Cクラスの女子はもちろん、一之瀬の姿も見受けられる。

 ただ赤司をトレースしてるのではしゃぐことは出来ない。この状態でいつものように一之瀬とイチャイチャしてたらキャラが崩壊してしまう。まあ試合が始まれば嫌でも集中するので問題はない。

 

 そして第2Q目が始まった。

 1Q目と同じく須藤がジャンプボールを競り勝つ。

 

「このままやられるつもりはないぞ!」

 

 交代で出場した生徒が俺に吠える。どうやらまだ諦めていないカッコいい野郎がいたようだ。

 

「そうか。だが前半とは同じと思わないことだ」

「……え?」

 

 俺はノールックでパスを出した。

 

「誰もいないぞ! どこにパスを出して――――」

 

 生徒の声が途切れる。理由は、すでにゴール下の須藤の手にボールが渡っていたからだ。

 いったい何人の生徒が気づいただろう。綾小路のミスディレクションを駆使した中継によるパスを。

 フリーでボールを受けた須藤がダンクを叩きこむ。

 ど派手なプレイに観客が湧いた。

 

「ダンクだ! すげぇ!」

「つーか今のなんだったんだ? いつの間に須藤がボールを持っていたぞ!」

「黒子のバスケじゃね?」

 

 最後のやつ正解だ。

 

「よし。どんどん清隆を使うぞ」

 

 一発目から綾小路を使えたのはよかった。Aクラスの生徒たちが激しく動揺している。

 相手ボールからのリスタートだが、明らかに集中を欠いていた。

 

「甘いな」

 

 死角から忍び寄り、スティール。ボールがはじけ飛んだ先には平田が待っている。

 

「綾小路くん、ナイスだよ」

 

 落ち着いてスリーポイントを決める。これでスコアは39-7。30点差がついてるがCクラスに油断している生徒はいない。全員すぐに自陣に戻り、ディフェンスに集中する。

 そこからはCクラスの独壇場だった。いや、虐殺ショーと言っても過言じゃない。

 あさっての方向に放たれたパスを綾小路が軌道を変更する。ノーマークの味方にボールが渡り、次々と得点を重ねていく。

 いつの間にかAクラスの選手と応援する生徒たちは、まるでお通夜を連想させるほど肩を落としていた。

 そして試合終了のブザーが鳴る。

 スコアは69-9。Cクラスの圧勝で終わった。

 

「ありがとうございました!」

 

 整列を終え、コートの外に出る俺たち。本来ならクラスの女子たちが労ってくれるはずだが、雰囲気がおかしい。……もしかして引かれてる?

 

「とりあえずクールダウンしようか」

 

 平田がみんなに声をかける。

 

「そうだな。次の試合は30分後か」

 

 体育館の時計を見ながら三宅が答える。

 

「それじゃいったん外に出ようぜ。ここじゃ邪魔だろ」

「だな」

 

 須藤に同調する綾小路。

 誰一人勝利を喜んでる者がいない。

 勝って当たり前。

 そんな雰囲気を俺たちは醸し出している。

 ……そうか。おかしいのはみんなじゃない。俺たちなんだ。どうやらみんなの意識を高めすぎたかもしれない。しかし今さらもとに戻すことは出来ない。

 球技大会終了まで後2試合。このままやっていくしかない。

 

「お疲れ様界外くん」

「お疲れ様っ」

 

 体育館を出る直前に堀北と櫛田が声をかけてきた。

 

「そっちもお疲れ様。お互い初戦勝利だな」

 

 バレーで奮闘していた二人を労う。

 

「……なんだよ?」

 

 二人が不思議そうな顔で俺を見ている。

 

「いえ。試合中と大分雰囲気が違ったから」

「うん。さっきまで凄い怖かったけど、今はいつもの界外くんだね」

「……そんなに怖かったのか……」

 

 確かにリアルに赤司みたいなのがいたら怖いか。だから小学生の時に試合に勝っても黄色い声援を浴びなかったんだろうな。

 

「う、ううん! 怖いって言っても私は大丈夫だからねっ!」

 

 櫛田が焦ったようにフォローする。

 

「大丈夫だ。相手に威圧感を与えれるし、そう思ってもらった方が好都合だ」

「そ、そうなの……?」

「ああ。それよりそろそろ試合じゃないのか」

 

 女子バレーを見るともうすぐで試合が終わりそうなスコアだった。

 

「うん。それじゃ行ってくるねっ」

「ああ」

 

 櫛田が駆け足でCクラスの女子たちが集まる場所に向かっていった。

 

「堀北は戻らないのか?」

 

 そんな櫛田をよそに堀北はずっと俺を見つめたままだ。

 

「……私は好きよ」

「え」

「試合中のあなたの顔。……いいと思うわ」

 

 マジか。堀北は赤司みたいなのが好みだったのか。

 

「そ、そうか……」

「ええ。それじゃ行ってくるわね」

「いってらっしゃい」

 

 堀北は小さく手を振り、櫛田の後を追いかけていった。

 

「まさか堀北がね……」

 

 そういえば思い当たる節がある。

 堀北会長だ。あの人は堀北を見る時はいつも冷たい視線を向けていた。

 なるほど。赤司モードの俺を兄貴と重ねてるんだな。まったく拗らせたブラコンだぜ堀北は。

 

 2試合目のBクラスとの試合も俺たちCクラスの勝利で終わった。スコアは67-6で圧勝だ。

 試合中の動きを見た限り、運動能力に秀でた生徒はおらず、バスケは捨てているように感じた。恐らく一之瀬ではなく神崎の指示だろう。ソフトボールはBクラスの勝利の可能性が高そうだ。

 Bクラスとの試合を終え、引き上げようとすると周りから無慈悲という言葉が聞こえてきた。

 無慈悲。

 周りからしたらそう見えてしまうのだろう。だがスポーツで試合中に手を抜くのは相手に失礼にあたる。それが球技大会だとしても。だから無慈悲と言われようが俺たちは全力で相手を叩き潰すのみだ。

 

 次の試合まで40分以上時間があるので、クールダウンを終えた俺は体育館裏にこっそり設置されているベンチに腰を下ろしていた。

 今日の試合を振り返る。

 久しぶりにバスケの真剣勝負が出来るのは嬉しい。けど物足りない。相手が弱すぎる。先週の体育祭は楽しかった。特に堀北会長との1200メートルリレーだ。どうやら今日はそれ以上に興奮することは出来なさそうだ。

 

「あ、いたいた」

 

 声ですぐわかる。俺の勝利の女神だ。

 

「一之瀬か」

「はろはろー。お疲れ様」

「お疲れさん」

「隣座っていい?」

「もちろん」

 

 了承すると、一之瀬が俺の隣に腰を下ろした。

 

「バスケ凄いね。2試合とも圧勝だね」

「まあな」

「うちのクラスもボロ負けしちゃったね」

 

 苦笑いしながら一之瀬が言う。

 

「Bクラスの男子はソフトボールに力入れてるんだろ?」

「やっぱわかっちゃった?」

「そりゃ試合すればわかるよ」

「そっか。あ、私の判断じゃないからね?」

「それもわかる。神崎の判断だろ」

 

 慎重な神崎らしい判断だ。俺たちもソフトボールは捨てたようなものだしね。

 

「うん。私が界外くんが小学生の時にバスケで全国優勝したことを教えたら、凄い警戒しちゃってね」

「そっか」

 

 予想通りの答えが返ってきた。

 

「一之瀬は調子どうなんだ?」

「私はチームの足を引っ張らないように必死な感じかな」

「一之瀬は運痴だもんな」

「また私を馬鹿にしてる!」

 

 頬を膨らませながら肩を叩いてきた。

 

「悪い悪い。それより試合は大丈夫なのか?」

「うん。まだ30分あるから。……だからね」

「ん?」

「少しこうしてていいかな?」

 

 そう言うと、一之瀬は俺の肩に頭をのせて寄りかかってきた。

 

「また橘先輩に怒られるぞ」

「これくらいなら大丈夫だよ。いいでしょ?」

「わかったよ」

「やった。ありがとっ」

 

 今度は手を握ってきた。甘えん坊モード炸裂である。

 

「界外くん」

「どうした?」

「あのね、もし私たちBクラスの女子バレーチームが優勝したら、お願いを一つ聞いてほしいの」

「お願い?」

「うん。もちろんCクラスの男子バスケチームが優勝したら、私も界外くんのお願いを一つ聞くつもり」

「俺も……?」

「そうだよ。何でもいいよ……?」

「な、何でも……」

 

 何でもお願い事を聞いてくれるのか。……なんか興奮してきたぞ。

 

「うん。……どうかな?」

「……わかった」

「ありがと。私、次の試合頑張るねっ!」

「俺も頑張るよ」

 

 さて一之瀬は俺にどういったお願いをしてくるのだろうか。願わくば俺の加虐心をくすぐらないお願い事であって欲しい。

 

「うん。……あ、そういえば界外くんに聞きたいことがあったんだけど」

「お願い事の次は聞きたいことか。なんだ?」

「……私、いつ水着姿見せればいいの……?」

「あ」

 

 それね。うん。完全にお願いするタイミングを見失ってしまったんだよね。

 

「もしかして忘れてた……?」

 

 ジト目で一之瀬が見てくる。

 

「忘れてない。タイミングを逃してしまっただけだ」

「タイミング?」

「ああ。もう少し後にしようと思ってたら10月に入ってしまってな」

「うん」

「さすがにこの季節に水着にさせると風邪引くだろ?」

 

 季節は10月の中旬。夜も少しは冷えるようになってきた。

 

「大丈夫だよ。だって部屋の中だし」

「え」

「だから早く言ってよ。私、水着を箪笥にしまわないで待ってたんだよ?」

「うっ」

「それとも界外くんは私の水着姿見たくないの……?」

 

 一之瀬が潤んだ目で見つめてきた。もちろん上目遣いのオプション付きで。

 

「……見たいです」

「ほんとに?」

「本当」

「……よかった。それじゃ今日見せてあげるね」

「今日っ!?」

「うん。……嫌なの?」

「嫌じゃないです」

 

 久しぶりに一之瀬にマウント取られてるな。これも俺の性癖が矯正されたからだろう。

 

「ふふふ。それじゃ今日は水着姿で打ち上げしよっかな」

「……つまり俺の部屋でってことか?」

 

 さすがに水着姿でファミレスやカラオケで打ち上げはしないだろ。

 

「うん。帰りにコンビニで飲み物やお菓子買おうよ」

 

 お菓子か。まあ球技大会も終わるし、たまにはいいか。

 

「わかった。……本当に水着姿で打ち上げするのか?」

「するよ。私の今年最後の水着姿堪能して欲しいな」

 

 艶めいた笑みを浮かべながら一之瀬が言う。

 わかりました。思いっきり堪能させていただきます。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 一之瀬との魅力的な約束を終えた俺は、最終戦であるDクラスとの試合に挑んでいた。

 DクラスはA、Bクラスより確実に強い。だが俺たちには勝てない。

 試合当初は須藤がゴール下でアルベルトに苦戦していたが、体格だけでは須藤に勝てなかったようだ。

 試合中盤の今では須藤を全く止められていない。

 小宮と近藤はバスケ部だが特に秀でたところはなく、俺たちの脅威にはならなかった。

 スコアは41-12でCクラスがリードしている。

 

「清隆、出ろ」

 

 本堂との交代で綾小路がコートに入る。

 そしてミスディレクションを駆使したプレイで更にリードを広げていった。

 またもや周りの生徒から無慈悲という言葉が聞こえてきたが気にしない。

 

 試合終了まで後3分。勝敗は明らかなので観客も盛り上がっていない。だがこの状況の中、Dクラスに諦めない生徒が二人いた。小宮と近藤だ。意外と根性があるんだなと感心したが、こいつらが頑張ってる理由は観客を見てすぐにわかった。

 佐倉だ。

 珍しく眼鏡をしていない佐倉が応援している。恐らく綾小路を応援してるんだろうけど。

 小宮と近藤は佐倉にいいところを見せたいのだろう。その気持ちは十分わかる。俺も一之瀬の前ではカッコいいところを見せたい。

 けれど勝負は残酷である。

 小宮と近藤が全くいいところを見せないまま、試合終了の時間が迫っている。

 そんな時だった。

 俺は自陣でボールを後ろにいた綾小路にパスをした。

 違和感を感じたのはパスを出した直後だった。

 なぜボール運びをしないで後ろにパスを出した。

 そもそも中継役である綾小路がなぜ俺の後ろにいるんだ。

 

「確かこうだったか」

 

 背中がゾクッとした。

 待て。綾小路は何をしようとしてるんだ。

 確認しようと後ろを振り返るとそこには……

 

「……っ!」

 

 俺のパスを手のひらで押し出そうとする綾小路の姿だった。

 そして綾小路の手から尋常ならざるスピードのパスが放たれた。まるでレーザービームのようなパスがゴール下に走り込んでいる須藤の元へ突き進んでいく。

 

「……駄目だっ! とるなっ!!」

 

 ボールを受けるため、手を出そうとした須藤に大声で指示を出す。

 その声に反応し、須藤は伸ばしていた手を引っ込める。

 受け手を失ったボールは、そのまま壁に激突した。

 直後に激しい衝突音が館内に鳴り響く。

 そして衝突音の次に待っていたのは、静寂。

 綾小路のイグナイトパスに試合を見ている全員が放心してしまっている。

 それほどまでに強烈なパスだった。

 

「……清隆、凄い目立ってるぞ」

「失敗したか」

 

 こんなパスを出せば目立つに決まっている。

 目立ちたくない綾小路に心情の変化でもあったのだろうか。

 試合が終わったら聞いてみよう。

 結局試合は53-15でCクラスの圧勝で終わった。

 試合後にボールが激突した箇所を見てみると、思いっきり凹んでいた。

 もしこのパスを須藤が受けていたらと思うとゾッとする。

 この日初めて俺は相棒に恐怖感を抱いた。

 

 球技大会は全球技無事に終了した。

 各球技の結果は以下の通りだ。

 

・男子バスケ

 1位 Cクラス

 2位 Dクラス

 3位 Aクラス

 4位 Bクラス

 

・男子ソフトボール

 1位 Bクラス

 2位 Aクラス

 3位 Dクラス

 4位 Cクラス

 

・女子バレー

 1位 Bクラス

 2位 Cクラス

 3位 Dクラス

 4位 Aクラス

 

・女子ソフトテニス

 1位 Aクラス

 2位 Bクラス

 3位 Cクラス

 4位 Dクラス

 

 球技大会の結果を踏まえての獲得クラスポイントは以下の通り。

 

 Aクラス……プラス90cl

 

 Bクラス……プラス130cl

 

 Cクラス……プラス90cl

 

 Dクラス……プラス50cl

 

「やっぱりBクラスは強いな」

 

 放課後。俺は教室で黒板に貼りだされた結果が記載された紙を見ていた。

 

「そうね。Aクラスとの差も縮められなかった」

 

 隣に並ぶ堀北が腕を組みながら不満げに言う。

 

「けれどあなたが得た150ポイントが加算されるから私たちは」

「ああ」

「来月からBクラスね」




ぶっちゃけ綾小路のイグナイトパスがやりたいだけでした
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