実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。   作:田中スーザンふ美子

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櫛田ファンの皆さんごめんなさい!


58話 欲望の捌け口

「お邪魔します」

 

 電話を終えてから30分後。櫛田が部屋にやって来た。部屋に上げる際に彼女からシャンプーのいい香りがした。恐らくシャワーを浴びてきたのだろう。また櫛田はカラフルなパーカーにショートパンツと暑いのか寒いのかよくわからない恰好をしている。

 

「ごめんね。こんな遅くに」

「気にするな」

 

 お客さん用のクッションに櫛田を座らせる。

 

「風邪はもう大丈夫なの?」

「ああ。明日は学校に行くつもりだ」

「そっか。よかった」

 

 櫛田は心からそう思ってることだろう。なぜなら俺が学校に行かなければ、櫛田の状況が変わらないから。

 

「さっそく本題に入ろうか」

「……うん」

「大体の事情は把握しているつもりだ。まず船上試験と体育祭の際に龍園に情報を流したのは本当か?」

「本当だよ」

 

 櫛田がまっすぐ俺の目を見て答えた。

 少しは誤魔化すかと思ったが、彼女はあっさりと認めた。

 ここで誤魔化そうとしても自分の立場を悪化させるだけだと櫛田はわかってるんだ。

 

「船上試験で私と南くんが優待者であること、体育祭では参加表の情報を龍園くんに流した」

 

 事実確認をするように櫛田が続けて言った。

 

「……そっか。それで櫛田は何のために俺に接触しようとしたんだ?」

「嫌だな。界外くんなら、質問しなくてもわかるでしょ?」

「まあな。俺に助けて欲しいんだろ?」

「うん、そうだよ」

 

 櫛田のクラスでの立場は、たった一日で大きく変わってしまった。

 堀北の話だと普段親しくしている王さんと井の頭さん、櫛田に恋愛感情を持っている池も彼女と距離を置いてるとのことだ。

 王さんと井の頭さんはともかく、池ならクラスの雰囲気に流されず櫛田を庇いそうだと思ったが違ったようだ。

 また休み時間のたびに軽井沢に厳しく追及されたと報告も受けている。女子のリーダーである軽井沢の行動が、櫛田を庇う生徒が現れない大きな要因だろう。

 

「私を助けて」

 

 この言葉が帆波が発したものなら即答しただろう。だが助けを求めてるのは帆波じゃない。

 

「返事の前に櫛田に聞いておきたいことがある」

「うん」

「なんで龍園にクラスの情報を流したんだ?」

 

 ここで素直に答えてくれるかどうか。もしここで嘘をつくようなら櫛田を切り捨てる。俺はそう決めている。

 

「……堀北さんを退学させたかったから……」

「堀北を……?」

「うん」

「なんで堀北を退学にさせたいんだ?」

「それは……」

 

 ここで初めて櫛田が言い淀んだ。中学でクラスを崩壊させたことを俺に知られたくないのか?

 

「もしかして櫛田が中学の時にクラスを崩壊させたことと関係あるのか?」

「……知ってたんだ?」

 

 驚いたように目を見開きながら櫛田が問う。

 

「ああ。堀北から聞いた」

「……そっか。堀北さんから……。うん、界外くんの言う通りだよ。堀北さんは私と同じ中学出身で、私の過去を知ってるから退学にさせたいんだ」

 

 現在進行形か。どうやら櫛田はこの状況でまだ堀北を退学させることを諦めていないようだ。

 

「自分の過去を知ってる人間が同じ学校にいると不安だから。だから堀北を退学にさせたいんだな?」

「うん」

「やたら堀北に絡んでいたのもそれが理由か。過去を知ってる堀北を自分の管理下に置きたかった」

「さすが界外くん。そこまでわかってるんだ」

 

 俺の予想は当たってたわけだ。

 堀北の性格なら櫛田の過去を暴露したりはしない。でも自分の過去を知ってる人間が同じ学校にいるのは不安でしょうがない。だから堀北を退学にさせたかった。

 櫛田は自分を安心させたかったんだ。

 ただそれだけのためにクラスを裏切った。

 

「もう一つ。中学の時に何が起きたのか詳しく教えてもらえないか?」

「詳しく教えたら私を助けてくれるの?」

「お前を助けるために少しでも情報が欲しいんだ」

「ずるい言い方だな。それじゃ教えるしかないじゃん」

 

 折角のチャンス。櫛田の過去を丸裸にさせて貰う。

 

「いいよ。私が中学の時に犯した過ちを教えてあげる」

 

 櫛田はそう言うと、中学三年時にクラスを崩壊させた事件の詳細を語ってくれた。

 まず自分が他人より強い『承認要求』に依存していること。小学生の時は勉強と運動でそれを満たすことが出来たが、中学にあがると勉強と運動で1番になれず、欲求を満たすことが出来なくなったこと。その代わりに誰よりも優しく、誰よりも親身になり、クラスで一番の人気者になることで欲求を満たしたこと。そして自分の欲求を満たすためにやりたくないことをやり続けたことにより大きなストレスを抱えたこと。そのストレスを解消するために匿名のブログで吐き出したことを語った。

 

「ブログでストレス発散か」

「うん。でもある日、偶然私の匿名ブログがクラスメイトに見つかったの。幾ら登場人物の名前を伏せていても、書いてる内容が事実だから気づかれても仕方なかったと思う。クラスメイト全員の悪口を見つけられたんだから、嫌われるのも仕方ないよね」

「それが事件の発端か」

「そう。翌日にはクラスメイト全員にブログの内容が拡散しててさ、全員が私を責め立てた。今まで散々私に助けられてきたのに、全部の手のひら返して。身勝手だよね。私に告白してきた男子は私を突き飛ばしてきた。ブログで気持ち悪い、死んでほしいって書いてたから無理もないけど。とにかく私は身の危険を感じた。30人以上いるクラスメイト全員が敵に回っちゃったから」

 

 そのブログ見てみたい。まだ消してないかな。後で聞いてみよう。

 

「それで櫛田はどうやってその状況を打破したんだ?」

「クラスメイト全員の秘密をぶちまけただけ。誰々は誰々が嫌いだとか。ずっと気持ち悪いと思っていたとか。ブログにも書いてなかった真実をね」

 

 もしかしてうちのクラスも櫛田に秘密を打ち明けてる生徒がいるかもしれない。

 

「そしたら私に向かってきた刃の殆どが、憎い相手に向けられるようになった。男子は殴り合いを始めたり、女子も髪を引っ張り合ったりしてね。あの時は凄かったなぁ」

 

 今の話を俺ガイルの主人公が聞いたら、鼻で笑いそうだな。

 しかし櫛田の過去話が思ったより長い。まだ終わらないのかな。……自分から聞いておいてなんだけど。

 

「クラスの人間関係の内情を全部暴露されたんだから、そのクラスはもう機能しなくなるよね。私も当然学校から責められたけど、やったのは匿名でブログに悪口を書いただけ。それにクラスメイトに真実を話しただけだから学校も処分には困ったみたいだね」

「だろうな」

「自分のストレスの捌け口をインターネットにしてしまったのは失敗だね。不特定多数の人に見られちゃうし、情報は永遠にデータとして残ってしまうから。だからブログはやめた。今はストレスを言葉で吐き出すことで何とか我慢してる状態」

 

 それをたまたま綾小路に聞かれて、自分の胸を揉ませたうえで彼を脅したわけだ。

 

「不器用な生き方してるんだな」

「まぁね。でもそれが私の生きがいだから。皆から尊敬され、注目されることが何よりも好き」

「だからか?」

「え」

「だから人前で俺へのボディタッチが多いのか?」

「え、えっと……」

「例えば、夏休みにケヤキモールに行った時に腕を組んできただろ。あれもバカップルとして見られることで注目を浴びたかったのか?」

「……そ、そうだよっ! わ、悪い……っ!?」

 

 なにこの子。急に逆切れしてるんですけど。自分の立場わかってるのかな。

 

「別に。疑問が解消出来てすっきりした」

「そ、そう……。えっと、私からも聞きたいことがあるんだけどいいかな……?」

「いいぞ」

「ありがとう。……界外くんは、私が裏切り者だってわかってた……?」

「ああ」

 

 知ってたよ。じゃないとわざと参加表無くしたりしないから。

 

「い、いつから……?」

「船上試験の結果発表の時からだな」

「なんでわかったか聞いてもいいかな……?」

「簡単な話だ。うちのクラスの優待者を見抜かれたのが櫛田と南の二人だったから」

「ど、どういう意味かな……?」

「もう一人の優待者である軽井沢は当てられなかった。つまり龍園は優待者の法則性がわからなかった、若しくは信じられなかったと推測出来る。そして櫛田と南の二人が優待者であること、軽井沢が優待者だと知らない人物は一人しかいない」

「それが私だってこと……?」

「そうだ」

 

 2回目のクラスでの話し合いの時に、1回目の面子から櫛田だけ呼ばなかった。軽井沢が優待者だと俺たちがわかったのは2回目の話し合いの時だ。

 

「ちなみに櫛田が龍園と繋がってるのは結果発表前から薄々感じていた」

「なんで……?」

「一緒にデッキで夜空を見た時があっただろ」

「……うん」

「あの時、櫛田は旧Cクラスの"人"に会うことになったと言っただろ?」

「言ったね」

「自分では気づいてないと思うけど、櫛田は普段他クラスの生徒のことをクラスの"子"と言ってるんだよ。でもあの時はクラスの"人"と言っていた。だから親しくはない生徒と会うのかと推測したんだ。親しくない他クラスの生徒と会う理由。異性から告白されるか、もしくはポイントを見返りに自クラスの情報を流すか。だから俺はお前がクラスを裏切ってるんじゃないかと思っていた」

 

 結局俺の嫌な予想は当たっていたわけだ。

 

「まいったな。そこまで界外くんが頭が切れる人だとは思わなかったよ……」

「他に質問はないか?」

「最後に一つ。……私を助けてくれるの……?」

 

 真剣な表情で俺を見つめながら櫛田が聞いてきた。いつもならあざとい上目遣いで聞いてくるのにさすがに今回は控えたようだ。

 

「ああ。助けてやる」

「ほ、本当……?」

「その代わり条件が二つある。一つは堀北と俺を退学させるのを諦めること」

「ま、待ってっ。界外くんを退学にさせるつもりなんてないよ……っ!?」

 

 焦りながら否定する櫛田。

 

「でも俺も櫛田の過去を知ってるんだぞ。俺も堀北と同じだろ?」

「あ、いや、そうなんだけど……」

「まあいい。二つ目はもう二度とクラスを裏切らないこと。これが条件だ」

 

 後は櫛田がこの条件を飲んでくれるかどうか。立場を考えたら飲むしかないんだけどね。

 

「……それだけでいいの?」

「ああ」

「わかった。条件を呑むよ。だから私を助けて」

 

 イエス、マイロード。……立場は俺の方が上だから違うな……。

 

「了解」

「具体的にはどうするつもりなのかな……?」

 

 櫛田を助ける方法。そんなのは簡単だ。櫛田がクラスを裏切ったという事実を捻じ曲げればいい。そして俺だからこそ助けられる方法。

 

「櫛田は俺の命令で龍園に情報を流していたことにする。ようは二重スパイみたいなもんだな」

「二重スパイ……?」

 

 別に禁書3期が放送してるから言ってるわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。

 

「ああ。今まで櫛田が龍園に情報を流したのは、船上試験と体育祭の2回だ。間違いないな?」

「うん」

「船上試験では龍園の信用を得るために優待者の情報を流したことにする。幸い優待者の一人が櫛田だ。自分のプライベートポイントを増やすチャンスをなくしてまでクラスに貢献しようとした。どうだ?」

「で、でも南くんはどうするの? それに見返りに30万ポイントを貰ってるよ……?」

 

 そうなんだよね。南のプライベートポイントを増やすチャンスを潰してるんだよな。見返りのポイントのやり取りは録音にしっかり入っちゃてるし。でも問題ない。

 

「南に関しては問題ない。既に話をつけてる。見返りの30万ポイントはまだ残ってるか?」

「うん。私、無駄遣いしない方だから」

「ならそのポイントは俺の命令でクラスのために貯めてあると言えばいい。今から俺にポイントを譲渡しても怪しまれるだけだから、櫛田がそのまま貯めておいてくれ」

「わかった。それで参加表は?」

「それはもっと簡単だ。もともと俺はダミーの参加表をみんなに発表していた。Dクラスを潰す為にな」

「つまり参加表も界外くんの命令で龍園くんに情報を流したとことにするんだね……?」

「正解。これで櫛田は裏切り者から人気者に戻れるわけだ」

 

 戻れるだけじゃない。自分を犠牲にしてまでクラスに貢献していた。以前より櫛田の地位は確固たるものになるだろう。

 

「……やっぱり凄いや。龍園くんが勝てないわけだね」

「だな。櫛田は手を組む相手を間違えたんだ」

「そうだね」

 

 これで櫛田の問題も解決出来そうだな。やはりクラスに裏切者が居続けるのは対処が大変だからな。今のところ実害は船上試験でクラスポイントを100失ったくらいだ。

 

「話は終わりだな。明日は俺と一緒に学校に行こう。SHRの前にみんなに説明する」

「わかった。……でもいいのかな?」

「なにが?」

「裏切り者の私が何の罰もなく助けて貰えるなんて……」

 

 いいに決まってるだろ。ラッキーだと思えばいいじゃないか。

 

「……ごめん。やっぱり無理」

「え」

「片方だけがおいしい思いをする取引なんて信用出来ない」

「……どういうことだ?」

 

 なんか面倒臭い展開になってきたぞ。

 

「だってそれって界外くんの気が変わったら、どうにでもなっちゃうよね? もしかしたら私を途中で切り捨てるかもしれない」

「……可能性はないとは言えないな」

「だよね。……だからお互い公平な取引をしようよ……」

 

 櫛田はそう言うと、ベッドに腰を下ろしている俺にゆっくり近づき、跨ってきた。

 

「……何のつもりだよ?」

「今、私が取引の材料として使えるのは二つだけ。一つは私が知ってるクラスメイトの秘密。でも界外くんはそんなの興味ないよね?」

「ないな」

「だよね。だから私が界外くんに捧げられるのは、私の身体だけ」

 

 櫛田は俺に抱きつき、豊かな乳房を押し当てながら、耳元で囁いた。

 

「私の身体を好きにしていいよ。だから私を助けて欲しいな」

「……不安なのか?」

「不安だよ。界外くんの提案は魅力的。普通なら受け入れるだろうね。でも私は不安なの。界外くんがいつ私を切り捨てるか。このまま助けて貰ったら、私はそんな不安を抱えたまま、学校生活を送っていくことになる。そんなのは嫌」

「俺が何を言っても信じられないよな……?」

「うん。だから界外くんが私を切り捨てない確かなモノが欲しいの」

「それが"これ"か……?」

 

 もしかしたら櫛田は軽度な不安障害を抱えてるのかもしれない。クラスを裏切ってまで堀北を退学させるために龍園と手を組んだくらいだ。彼女は不安で不安で仕方なかったのだろう。そして今は俺に見捨てられないか不安がっている。

 

「そうだよ。……界外くんって帆波ちゃんともうヤったの……?」

 

 なんで帆波との関係を聞いてくるんだ。もしかして童貞だと馬鹿にするつもりか。でもここで変な嘘をつくと……。

 

「……してないけど」

「そっか。なら私を使って練習すればいいよ」

「…………は?」

「界外くんが帆波ちゃんと付き合ってなくても恋仲に近い関係であることはわかってる。だから帆波ちゃんとセックスする前に私で練習しようって言ってるの」

 

 練習って。櫛田の貞操観念が凄いことになってる件について。

 

「もちろん帆波ちゃんには言わないから安心して。それで一度試してみて、私の身体気に入ってくれたら、セフレになろうよ」

「せ、セフレ……?」

「うん。いつでもどこでも抱いていいよ……?」

 

 妖艶な笑みを浮かべながら言う。

 

「私は界外くんに助けて貰える。界外くんは都合のいいセフレが手に入る。これってお互いにとっていい取引だと思わない?」

「……確かに魅力的な提案ではあるな」

「でしょ。前に私のことクラスで一番可愛いって言ってくれたよね。そんな子を好きなだけ抱けるんだよ。だから……ね?」

 

 きっと中学時代の俺なら了承していただろう。

 櫛田は美少女だ。そんな櫛田をセフレに出来るなんて夢のようだ。けれど俺には帆波がいる。帆波を裏切るわけにはいかない。

 

「……お前の提案は受け入れられない」

 

 抱きついてる櫛田の身体を押して遠ざける。

 櫛田は眉を顰めながら問いてきた。

 

「……なんで? もしかして帆波ちゃんに悪いと思ってる?」

「ああ。あいつを裏切ることは出来ない」

「付き合ってないんだから裏切りじゃないと思うな」

「それでもだ」

 

 俺のDTは帆波に捧げると決めてるのだ。いずれは右手とサヨナラさ。

 

「……そっか。抱いてくれないんだ……」

 

 ぶつぶつ言いながら櫛田が立ち上がった。

 

「本当はこんなことしたくなかったんだけど……仕方ないよね?」

 

 櫛田がパーカーのポケットからカッターナイフを取り出した。

 そして俺の目を見ながら、ギギギと刃を出していく。

 ……あれ? いつ櫛田ヤンデレルートに入っちゃったの……?

 

「……ごめんね。界外くん」

 

 そう言うと、櫛田はパーカーを脱ぎ捨て、その下に着ているTシャツを思いっきり切り裂いた。

 

「な……っ!?」

 

 無残に切り裂かれたTシャツが床に落ちていく。そして櫛田の可愛らしいオレンジ色の下着が現れた。

 

「下も脱いじゃった方がいいよね」

 

 そう言いながら、ショートパンツを脱いでいく。

 

「あはは、結構寒いね」

 

 下着姿の同級生が苦笑いをしながら言う。

 

「……なんのつもりだ?」

「そんな怖い顔しないでよ。結構いい身体してるでしょ。あ、界外くんは私の水着姿見てるんだから知ってたか」

 

 なまめかしい微笑を浮かべながら俺に近づいてくる。

 

「抱いて」

「一度断ったはずだが」

「抱いてくれなきゃ界外くんにレイプされそうになったって他の部屋に駆け込むよ?」

 

そう来たか。清隆の時と同じパターンか。それだけ櫛田が追い詰められてるってわけか。

 

「……参った」

「諦めが早いね」

 

 再度俺に抱きつき、首に手を回しながら櫛田が言った。

 

「まあな。まさかここまでするとは思わなかった」

「私を甘く見てたってことだね」

「そうだな。……二つ聞いてもいいか?」

「いいよ」

「本当に一之瀬には内緒にしてくれるんだよな?」

「もちろん」

 

 信用出来ない。自分を守ってくれる人に想い人がいる。これも櫛田にとっては大きな不安要素だろう。だから俺と帆波の関係を壊し、俺を自分だけの駒にするつもりじゃないだろうか。

 

「もう一つ。好きでもない男に抱かれてもいいのか?」

「私、界外くんのこと好きだよ」

「え」

「だって顔もいいし、頭もよくて運動もできる。それにCクラスの頼れるリーダーだしね」

 

 リーダーは平田なんだけど。最近俺が仕切ること多いけどさ……。

 

「だから抱かれるなら界外くんが一番いい」

「……そうか」

「うん」

 

 ……駄目だ。もう我慢の限界だ。悪いけど櫛田には欲望の捌け口になって貰おう。

 

「とりあえず風呂場に行こうか」

「風呂場?」

「ああ。ここだと部屋が汚れちゃうだろ」

 

 櫛田の腕を掴み立たせる。そのまま風呂場の方へ連れて行く。

 

「……も、もう、汚しちゃうってそんな激しくするつもりなの……?」

「そうだな」

「一応、私も初めてなんだからね。優しくして欲しいな」

 

 マジか。こいつ処女だったのかよ。てっきり経験豊富だと思ってた。

 

「悪いけど優しくするつもりはない」

「え」

 

 脱衣所の前に立ち止まる。このまま櫛田を風呂場に連れ込めば彼女を好き放題出来る。けれど……

 

「やっぱいらないな」

「…………え?」

 

 体の向きを変え、腕を掴んだまま玄関に向かう。

 

「え、か、界外くん……? ど、どこに行くの……?」

 

 戸惑う櫛田を無視して玄関のドアを開ける。

 

「界外くん……?」

「俺の言うことを聞けない駒はいらない」

 

 そして下着姿の櫛田を廊下に放り出した。

 

「きゃっ!」

 

 いきなり廊下に掘り出された櫛田が勢いよく倒れる。

 

「い、いったぁ……。な、なにするの……?」

 

 戸惑いや非難を込めた目を俺に向けてきた。

 

「櫛田。お前は必要ない。じゃーな」

「……………………え?」

 

 そのまま玄関のドアを閉め、施錠した。

 

「え、ちょ、待ってよ……っ! 開けてよ! 開けてってばっ!」

「うるさいぞ」

「人来ちゃうってばっ!」

「そうか。そしたら俺にレイプされそうになったって言えよ」

「な……っ」

 

 下着姿で外に放り出してやったんだ。都合良いだろう。

 

「櫛田が言ってたじゃないか。抱くのを断ったらレイプされそうになったって他の部屋に駆け込むって」

「そ、それは……」

「このまま人が来るのを待ってもいいし、他の部屋に駆け込んでもいいぞ。隣の綾小路なら部屋にいるだろうし」

「……」

「ちなみに櫛田が学校に訴えても無駄だぞ。なにせ俺の部屋には監視カメラが設置してあるからな」

「か、監視カメラ……?」

 

 櫛田が何か仕掛けてくると予想して、博士協力の下、昨日設置したのだ。

 

「ああ。残念だったな。お前はただ俺に下着姿を披露しただけってことだ」

「そ、そんな……」

 

 櫛田は今どんな表情をしてるのだろうか。それを想像するだけでゾクゾクする。

 

「……お願い。開けて」

 

 それは弱弱しい口調だった。声量も大きすぎず、ドア越しの俺に聞こえる程度の音量で櫛田が懇願した。

 

「嫌だ」

「お願い。……え、エレベーターが上がってきてるの。お願い早く……っ」

「頭がいい櫛田なら何を言えば開けてもらえるかわかるだろ」

「……界外くんの提案を素直に受け入れる。だから開けて……」

 

 櫛田の言葉を聞き、玄関の施錠を解除し、ゆっくりドアを開けた。

 刹那、櫛田が部屋の中に駆け込んできた。櫛田が部屋の中に入ったのを確認してドアを閉める。

 振り返ると櫛田はキッチンの近くで、自分の身体を両腕で抱きしめるようにして、ひとしきりに震えている。

 さすがの櫛田も今のは堪えたようだ。

 

「……酷いよ」

「ん?」

「な、なんで……あんなことしたの……?」

 

 か細い声で櫛田が問う。

 

「なんで? それはお前が俺の言うことを聞かなかったからに決まってるだろ」

「……っ。……ひ、人が来たらどうするつもりだったの……っ!?」

「人が来たら櫛田にとって好都合だっただろ。俺にレイプされそうになったって言うつもりだったんだから」

「そ、それは……っ!」

 

 櫛田は俺を責めるように言う。……気に入らない。怒ってるのは俺の方だ。そもそもお前が素直に俺に助けられてればよかったんだ。そうすれば俺に惨めな姿を晒さなくてよかったのに。

 

「で、でも酷いよ……。下着姿の女の子を外に放り出すなんて……」

「酷いねぇ。酷いのは自分のためにクラスを裏切ったお前だろうが」

「……っ」

 

 本当に櫛田は酷い奴だ。せっかく普通に戻れたと思ったのに。このまま帆波と付き合えると思ったのに。

 俺の嗜虐心を刺激させやがって。

 ちくしょうちくしょうちくしょう。

 

「お互いが対等な取引じゃないと安心出来ない? お前の心情なんてどうでもいいんだよ」

「うっ……」

「それと一つ勘違いしてるようだから言っておく」

 

 俯いてる櫛田の髪を掴み、顔を上げさせる。

 

「い、痛い……っ」

「さっき俺の提案を受け入れるって言ったよな。あれは提案でもお願いでもない―――――――命令だ」

「ひっ……」

 

 恐怖で怯えた表情をする櫛田。目に涙を浮かべている。演技でも何でもない。自分の感情を表す素の表情。

 

「わかった?」

「……わかった。わかったから……離して……」

 

 ぱっと掴んでた髪を離す。そうすると櫛田は再度俯いて、すすりあげるようにして泣き始めた。

 ベッドに腰を下ろし、5分ほど待ったが、櫛田は一向に泣き止む様子がない。

 

「いつまで泣いてんだよ」

 

 櫛田の近くまで行き、ゴミ箱を軽く蹴り飛ばす。

 直後、櫛田の身体がビクンと大きく反応した。

 

「早く帰ってほしいんだけど」

 

 櫛田は涙を頬にへばりつかせたまま、恐る恐る俺を見上げた。

 

「いい加減泣き止んでくれない?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 そう言いつつも、大粒の涙と鼻水が溢れ続けている。

 残念だな、櫛田。俺に泣き顔を見せても余計酷い目にあうだけだぞ。

 

「もう一度外に放り出されたい?」

 

 櫛田の腕を掴み無理やり立たせる。

 

「や、やめて……っ。す、すぐに泣き止むからっ」

 

 いやいやと首を横に振りながら櫛田が言う。

 

「……もういいや。部屋に帰ってからゆっくり泣き止んでくれ」

 

 別に櫛田が泣き止むのを待つ義務はない。

 泣きながら部屋に帰ってもらえばいい。

 

「……はい」

 

 櫛田の返事を聞き、腕を掴んだまま部屋に連れ戻す。

 

「界外くん」

「ん?」

「着替え、貸してくれないかな……?」

「着替えねぇ。パーカーとショートパンツあるだろ」

「ぱ、パーカーは小さめのやつだから、上着がないとちょっと……」

「そんなの知らねぇよ」

 

 どうせ俺を誘惑するためにそんな服装で来たんだろう。

 

「……お願い……」

「……ジャージでいいか?」

 

 俺の提案にこくりと頷く。箪笥からジャージを取り出し櫛田の足元に放り投げる。

 それを拾い上げ、櫛田はすぐにジャージに着始めた。

 改めて櫛田の身体を鑑賞する。確かに帆波ほどじゃないが肉付きがいい身体をしている。大きな胸とお尻。けどくびれはしっかりある。自分で言うだけあって魅力的なプロポーションだ。

 

「……それじゃ私帰るね。明日何時にどこで待ち合わせすればいいかな……?」

「そうだな。8時10分にロビーで待ち合わせしよう」

「そんな遅い時間でいいの……?」

「なに? 俺に指図するつもり?」

「ご、ごめんなさいっ」

 

 結局、櫛田は泣き止むことなく、自室に帰っていった。

 予想はしてたが、まさか女子に迫られるとは思わなかった。

 俺に迫った櫛田は全く震えてなかった。処女のくせに大したものだ。

 俺なんて賢者タイムじゃなければ危なかったかも。もし抱きつかれた時に息子が勃起したら……完全に説得力なくなってたし。

 しかし久しぶりに女子を苛めたけどすっきりした。やっぱり俺ってドSなんだな。櫛田には悪いことしたかも……。いや、俺の嗜虐心を刺激した櫛田が悪い。

 だから櫛田には責任を取って貰おう。

 帆波と違って、櫛田を苛めてもそれほど罪悪感に苛まれなかった。

 きっと俺は櫛田のことを大切に思ってないのだろう。

 だから思いっきり虐められる。

 櫛田には助けたお礼として、暫く俺の欲望の捌け口になって貰おう。

 櫛田はクラスを裏切ったんだ。少しくらい酷い目に遭っても仕方ない。

 俺はそう自分に言い聞かせ、相棒に結果報告をするために携帯を操作し出した。




櫛田は帝人に助けて貰えることになった
帝人は苛めるのにちょうどいい女子を手に入れた

win-winですね!
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