実力至上主義の学校に入学する。そして美少女と出会う。 作:田中スーザンふ美子
櫛田が本格的にヒロインレースに参戦
翌朝。俺は久しぶりに登校中に注目を浴びていた。原因は隣を歩く女子生徒。
「ごめんね。私のせいで界外くんまで変な目で見られちゃって」
櫛田桔梗。
我がCクラスの人気者だったが、今は裏切り者のレッテルを張られている少女だ。
昨晩。俺は櫛田を部屋に招き入れ、なんだかんだあったが彼女を助けることになった。そのため帆波ではなく櫛田と一緒に登校をしている。
「別に。好奇な視線を向けられるのは慣れてる」
「そっか。帆波ちゃんとのあの噂だね」
懐かしい。無人島試験の際、俺と帆波が神社の本殿でよろしくやっていたと龍園がホラ吹いたせいで、暫くの間注目を浴びることになってしまった。
そのおかげで帆波との距離が縮まったので結果オーライともいえるけど……。
「そうそう。つーか普通に接してくるんだな」
「え」
「昨日結構酷いことしたと思うんだけど」
昨日。俺は下着姿で迫ってきた櫛田を廊下に放り出したり、髪の毛を掴んで凄んだりしてしまった。
「……そうだね。あんな酷いことされたの初めて」
だろうね。櫛田は人に好かれるよう努力してきた人間だ。あんな仕打ちを受けたのは初めてだっただろう。
「DVされる女性の気持ちが理解できたかも」
「おい」
「ごめんごめん。冗談だよ」
クスクスと笑う小悪魔。どうやら昨晩の件は引きずっていないようだ。
「……また泣かしてやろうか?」
「いいよ。ついでにベッドの上で鳴かしてもらいたいかな」
なんて下品なんだこの女。……いや、彼氏でもない男に胸を揉ませる女だ。以外と下ネタ好きなのかもしれない。これは処女と言ってたのも疑わしいですね。
そうこう下らない話をしてるうちに学校に辿り着いた。上履きに履き替え教室に向かう。廊下でも好奇な視線に晒されたが、気にせず歩き続ける。やがて教室に着き、扉の前で立ち止まった。その際に櫛田の顔が少し強張るのがわかった。
「緊張してるのか?」
「少しね」
朝のSHRが始まるまであと5分。その5分間で櫛田の今後の学校生活が決まる。緊張するのは当たり前だろう。
「まあ泥船に乗ったつもりで安心しな」
「それ全然安心出来ないよね? それとも私と一緒に退学してくれるってこと?」
「なんでそうなるんだよ」
退学なんてするわけないだろ。帆波と離れ離れになっちゃう。
「開けるぞ」
「……うん」
ガラガラと扉を横に開く。そしてゆっくりと足を踏み入れた。
「あ、界外くんじゃん。おはよう」
「おはよう、佐藤」
「風邪治ったんだ?」
「まあな」
「そっか。だったら今週一緒にアニメを――――――――」
佐藤の言葉が途切れる。俺に続いて教室に入ってきた櫛田が視界に入ったのが原因だろう。
「悪い。その話は後でな」
「う、うん……」
俺が櫛田と一緒に教室に入ったことにより、生徒たちがざわめきだした。
教壇に向かおうとすると、予定通り一人の女子が立ちはだかった。
「なんで界外くんが裏切り者なんかと一緒に来てるわけ?」
軽井沢恵。清隆の協力者。そして今は櫛田救出作戦の仲間でもある。
「それを今から話すよ」
「ふーん。わかった」
櫛田を睨みつけながら軽井沢は自席に戻っていった。
あの子、こういう役似合いすぎでしょ。
「えっと、みんなに聞いてほしいことがあるんだけどいいか?」
教壇に立ち、教室内を見渡しながら言う。生徒たちの顔を見ると、高円寺以外は俺の話をきちんと聞いてくれるようだ。
「聞いてほしいことって櫛田さんのことかな?」
平田が挙手しながら聞いてきた。
「ああ。みんなの誤解を解こうと思ってな」
「誤解?」
「そうだ。櫛田はクラスを裏切っていない」
俺の言葉に先ほど以上に教室内がざわめきだす。
「でも音声データがあるだろ。あれで裏切ってないとか無理あるんじゃないか?」
幸村が眼鏡をくいっとしながら言った。
「それは仕方ないさ。実際櫛田はクラスの情報を龍園に流してたんだからな」
「だったら……」
「ただし俺の命令でな」
「……命令?……どういう意味だ?」
眉を顰めながら幸村が問う。いつもなら質問者ポジションは池だが、今日は質問しないで大人しく聞いてる。想い人の櫛田が苦境に陥ってるので無理もないか。櫛田苦境。……なんちゃって。
「そのままの意味だ。俺が櫛田にCクラスの情報を流すよう指示したんだ」
またまた教室中がざわざわし出した。茶柱先生もいつもこんな光景を見てるんだな。
「なんで桔梗ちゃんにそんな命令をしたんだよ?」
池が不満げな表情を浮かべる。
「櫛田にDクラスをスパイするようお願いしたからだ。櫛田は他クラスに友達が多い。だから他のクラスの生徒と接触しても違和感がない櫛田に協力をお願いしたんだ。まず船上試験では龍園の信用を得るために優待者の情報を与えた。ちなみに知ってると思うが優待者の二人とは、櫛田と南の二人だ」
「あ、ああ……。それは知ってるけど……」
「櫛田は50万プライベートポイントを手に入れるチャンスを犠牲にしてまで俺に協力してくれたんだ」
「……そ、そうだったのか……」
さすが池。単純すぎるぞ。他人の話を信じすぎる。
「ちょっと待ってよ。確か櫛田さんって龍園くんから30万ポイントを譲り受けてたよね?」
またしても軽井沢が櫛田を追い詰める。
「ああ。けどその30万ポイントは手つかずだ。なにせクラスのために使用するポイントだからな」
「クラスのため?」
「ああ。この学校ではポイントで買えないものはないのは知ってるだろ?」
「まぁ……ね」
「だから俺と櫛田はクラス用にポイントを溜めることにしたんだ。今のところあまり溜まってないけどな」
「そうだったんだ……。でもなんで金曜にそのことを言わなかったわけ?」
当然疑問に思うだろう。その場で櫛田が事情を説明していれば、この状況は防げたはずだ。
「それは私から言うね」
隣に立つ櫛田が言う。
「私が事情を説明しなかったのは、界外くんとの約束があったから」
「約束……?」
首を傾げる軽井沢。……今の動作、ちょっと可愛いじゃないか。
「うん。私がDクラスのスパイをしようとしたことは、界外くんと二人だけの秘密だったの」
おい言い方を変えろ。これじゃ俺と櫛田が親しい間柄みたいじゃないか。
「だから界外くんに確認する前に、事情を説明することが出来なったの」
「……そっか」
軽井沢は納得したように視線を下にずらした。
これで櫛田はクラスのために50万プライベートポイントを諦め、いくら自分が攻められようが、俺との約束を守った健気な女子と認定されたはずだ。
「後、体育祭の参加表無くしただろ? あれわざとだから」
クラスメイトたちから「は?」と聞こえた。
俺はみんなの反応を無視して話を続ける。
「最初に発表した順番はダミーなんだ。櫛田に龍園に偽の順番の情報を流してもらうためにな」
「なるほど。それでCクラスはDクラスに勝利した個人種目が多かったのね」
堀北が補足する。ちなみに堀北も今回の作戦の仲間だ。
「ああ。つまり櫛田が龍園に情報を流してくれたおかげで、俺たちは学年1位になれたわけだ」
「そ、そうだったのか……」
櫛田の信者であろう男子たちが反応する。
「なので櫛田は龍園にクラスの情報を流したが、裏切ってはいない」
「みんな、混乱させちゃってごめんね」
櫛田が申し訳なさそうな顔をして謝罪した。それは今回の件なのか、今までクラスを本当に裏切っていたことに対するものなのか、それは彼女にしかわからない。
俺たちの話が終わると、すぐに始業開始のチャイムが鳴った。
朝のSHRが終わると、クラスメイトが次々に櫛田の席に向かい、謝罪をし始めた。特に櫛田と仲が良い王さんと井の頭さんは泣きながら謝っていた。当然櫛田は二人を責めることはなく、二人を優しく抱きしめていた。
これで櫛田の学校生活は安泰だろう。……今後も裏切ることがなければだが。
裏切り者から再び人気者になった櫛田とは反対に俺は櫛田信者共から文句を言われた。クラスのアイドルを利用したのだから仕方ない。だが俺の作戦のおかげで試験を勝ち続けられていることを説明すると、引きさがってくれた。やはり世の中結果が全てだ。
櫛田信者共が去ると、清隆がやって来た。ちなみになぜ名前呼びしてるかというと、平田が球技大会後に名前で呼び合わないかと提案してきた為だ。反対する者はおらず、俺たちバスケメンバーはお互いを名前で呼ぶことになった。
「お疲れさん、帝人。どうやら上手くいったようだな」
「ああ」
♢♢♢♢♢♢♢
話は先週の木曜の夜にさかのぼる。夕食を食べ終え、一人でアニメ鑑賞をしているとインターフォンが鳴った。玄関のドアを開けると、そこには思いがけない人物が経っていた。
「……軽井沢?」
「夜遅くにごめん」
なぜ軽井沢がこんな時間に俺の部屋にやってきたんだろう。
「どうした?」
「いきなりあいつに界外くんの部屋に行くように言われたんだけど……」
「あいつって清隆のことか?」
俺の問いに軽井沢が頷く。
「人に見られると嫌だから上がっていい?」
「……いいけど」
失礼な奴だな。俺だって彼氏持ちの女子を部屋に上げるなんて嫌なんだからな。
軽井沢を部屋に上げ、適当に座らせる。
「……本当にアニメ好きなんだ」
テレビ画面を見ながら軽井沢が呟いた。エッチなアニメじゃなくてよかった……。
「まぁな。それで肝心の清隆は?」
「そのうちくるんじゃない」
「そっか」
「うん」
……………………。
駄目だ。会話が続かない。ギャルなら佐藤で慣れてるなずなのに……。
「あ、あのさ……」
「ん?」
「あいつから私のことってなんか聞いてたりする……?」
「いや。軽井沢が清隆の駒になったことくらいしか知らない」
「駒って……。あいつ、やっぱムカつく……」
どうやらいいように利用されて清隆にぷんぷんな様子だ。
「それより彼氏いるのに男の部屋に上がっていいのか?」
「え」
俺の質問にキョトンとする。
「……本当に何も聞いてないんだ」
「ん?」
「まあ、界外くんなら言ってもいいかな」
「なにが?」
勝手に話進めないでくれる? つーか早くアニメの続きを見たいんだけど。
「私、洋介くんとは付き合ってないんだよね」
「………………は?」
「ある事情で付き合ってるふりをしてもらってるの」
つまり軽井沢と洋介はニセコイカップルだったってことか。俺も以前に帆波となりかけたが、まさか他にニセコイしてる人たちがいるとは思わなんだ。
「だからか!」
「なにが?」
「前に洋介に聞いたことがあるんだ。軽井沢に(指を)しゃぶってもらったことがあるかって」
「な……っ!?」
「答えはなしだった。僕たちはピュアな関係と言ってたからさ。そういう意味だったのか」
「し、しゃぶるって……。変態っ!!」
軽井沢が顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。なんだこの女。いきなりヒスって怖いんだけど。
「どこが変態なんだよ。しゃぶる方は真面目にしゃぶってるだけなんだぞ」
「さ、さっきから何なの……っ!?」
「お前が何なんだよ……」
「も、もしかして一之瀬さんにやってもらってたりするわけ……?」
「ああ。してもらったけど。無人島試験の時に森で」
「森でっ……!?」
あわあわと軽井沢がテンパりだした。こいつ見てて面白いな。
暫く軽井沢を鑑賞してると、清隆が部屋にやって来た。
「悪い。遅くなった」
「遅い! 界外くんからセクハラされまくって大変だったんだけど!」
「俺がいつセクハラをしたんだよ!」
この女。今度は狂言しやがった。そろりそろりと部屋から出やがれ。
「そうか。それはよかったな」
「「よくない!」」
「二人とも学校の掲示板は知ってるな?」
反論する俺たちを無視して携帯を操作する清隆。
「あ、ああ」
「うん。知ってるけどそれが何なの?」
「今すぐ掲示板を見て欲しい」
清隆に言われ、携帯を操作し掲示板のページを開く。
掲示板を見るのは久しぶりだ。前に見た時に、帆波の中傷が酷かったので、それ以降見るのは控えていた。
1年生専用のスレッドを表示させ、中身を見ると帆波に対する書き込みは少なくなっていることがわかった。かわりに俺に対する書き込みが増えていた。
「界外くんって生徒会の書記と佐倉さんにも手を出してるの?」
掲示板の内容を見たであろう軽井沢が質問してきた。
「してない。一緒に遊びに行っただけだ」
「ふーん。他にも色々書いてあるよ。何人の女の子に手を出してるわけ?」
「だから出してないっつーの」
物理的に手を出したのは堀北一人だ。
「それより最新の書き込みを見て欲しいんだが……」
俺と軽井沢のやり取りに呆れた様子の清隆が言う。
「最新のね……。これか?」
「櫛田桔梗はDクラスに自分のクラスの情報を流してる?」
俺と軽井沢は同じタイミングで清隆が見せたかった書き込みを見つける。そのレスには書き込みだけでなく、音声データが添付されていた。ダウンロードし、再生をすると櫛田と龍園の会話が聞こえ始めた。
「……これって何なの?」
「櫛田が龍園にクラスの情報を流してる音声だな」
軽井沢の問いに淡々と清隆が答える。
「もしかしてこれ書き込んだのは龍園か?」
「だろうな。龍園以外にこの音声データを持ってるものはいないだろ」
「そうだな」
清隆の言う通り、龍園以外に櫛田との会話を録音したデータを持ってる生徒はいないだろう。
しかしこれで櫛田も終わりか……。これが全員に知れ渡れば、櫛田の居場所はなくなるだろう。
「……ねえ、なんで櫛田さんはこんなことやってるわけ?」
軽井沢が当然に疑問に思うことを声に出す。
「わからん。その理由をこれから調べるつもりだ」
「調べるってどうするの?」
「帝人が調べてくれる」
「俺かよ……っ!?」
「櫛田も帝人になら教えてくれるだろう」
「確かにそうかもね」
清隆と軽井沢のその自信満々で言える根拠を教えて欲しい。
「これは櫛田の裏切り行為を止めさせるいいチャンスだ。上手く行けば櫛田も駒に出来る」
"駒"というワードが耳に入った瞬間、軽井沢が清隆を睨んだ。清隆はそれを気にせず、淡々と話を続ける。
「まずは一度櫛田を徹底的に追い詰めよう」
清隆の作戦はこうだ。まずクラスの皆に掲示板の書き込みを見て貰う。翌朝、教室で軽井沢が櫛田を糾弾する。女子のリーダーである軽井沢が櫛田を裏切り者と罵れば、彼女をフォローする女子はいなくなず手筈だった。
「まず櫛田を孤立させる。恐らくすぐに帝人に助けを求めるだろう」
俺は清隆に翌日は欠席するよう言われた。そして日曜の夜まで櫛田との接触を避けることもお願いされる。頼りになる俺と接触させないことで、櫛田の精神をすり減らさせるようだ。
そして日曜の夜遅い時間に櫛田と接触する。その際に助ける代わりに色々と情報を仕入れること。これが今回の俺たちのミッションだ。
「ねえ、櫛田さんをどうやって助けるの……?」
「それは帝人が答えてくれる」
「自分で答えろよ……。つーか軽井沢も少しは自分で考えてみろよ。簡単だから」
「いいから早く教えてよ」
この女は……。すぐに他人に答えを求めるから馬鹿なんだぞ。
「俺が櫛田に命令してクラスの情報を流していたと言えばいいんだよ」
「……は? それじゃ界外くんも櫛田さんと同じになっちゃうじゃん」
「違う。Cクラスの今までの特別試験と体育祭の結果を思い出してみろ」
「……全部勝ってる?」
「そうだ。船上試験では龍園の信用を得るために情報を流した。体育祭ではわざと偽の参加表の順番を伝えたことにすればいい」
これは船上試験で他クラスの優待者を見抜き、体育祭でクラスを仕切った俺しか出来ないことだ。
軽井沢の顔を見ると、かみ砕けていないようだったので、清隆に後は任した。
清隆が軽井沢に説明してる間に、堀北に電話をして、今回の作戦内容を伝えた。櫛田を助けることにあまり納得はしていないようだったが、堀北も協力してくれることになった。
金曜の夜。清隆の予想通り、櫛田が部屋にやって来た。携帯の電源をずっと切っていたので、業を煮やして俺に会いにきたのだろう。俺の看病のふりをした堀北が対応し、櫛田は渋々自室に戻っていった。櫛田を追い返した時の堀北の満足げな表情は今でも忘れられない。ちなみに堀北は夕方から夜遅くまで俺の部屋にいて、ずっと将棋を指していた。
土日も携帯の電源は切ったままにした。そして日曜の夜に櫛田に連絡し、部屋に招き入れた。
結果、櫛田が裏切った理由も聞けて、作戦は上手くいったと思う。櫛田に肉体関係を求められたことはみんなに内緒にしている。
♢♢♢♢♢♢♢
しかし櫛田の下着姿やばかったな。凄い柔らかそうな身体をしていた。
「帝人、ぼけっとしてどうした?」
「んぁ?」
しまった。櫛田のあわれもない姿を思い出してしまっていた。
「な、なんでもないっ!」
「そうか」
危ない危ない。俺には帆波という心と体に決めた女の子がいるというのに。
櫛田め。俺の心を乱しやがって。また苛めてやる。
「界外くんっ」
そう心に決めた直後に櫛田がいつもの笑みを浮かべてやって来た。どうやら生徒たちの謝罪タイムは終わったらしい。
「……なんだよ?」
「えっと、その……」
服屋らしき買い物袋を抱えてもじもじし出した。
「こ、これ……」
櫛田はそう言うと、買い物袋を俺に渡してきた。……何だか嫌な予感がしてきたぞ。
買い物袋を受け取り恐る恐る中身を取り出す。袋の中身は……
「ジャージか?」
清隆が呟く。
「昨晩はありがとう。界外くんの匂いがして、気持ちよく寝れたよ」
頬をこれでもかというくらい赤く染めて櫛田が言った。
直後、教室内が黄色い歓声と怒号に包まれた。
「きゃー!!」
「界外!! おまえなにしてくれてんのぉぉぉぉぉぉぉ!?」
うるさいうるさい。この女の演技に気づけよ。陰でこの女に馬鹿にされてるのに気づけよ。
「界外くんに抱きしめられてる感じがしたよ」
このクソアマなに爆弾を投下してくれてんの。
おかげで堀北と松下から冷たい視線を浴びせられてるんだけど。清隆はいつの間にかいなくなってるし。
「……ちょっとこっち来い」
「うん」
だからいちいち頬を赤く染めるな。
俺は櫛田の腕を掴み、廊下に連れ出した。
「何のつもりだよ?」
「うーん……昨日の仕返し的な?」
顎に手を当て首を傾げながら櫛田が言う。
「そのあざとい動作もやめろ」
「あざといって酷いな。鬼畜DV野郎くん」
「黙れ処女ビッチ」
「処女ビッチって酷いな。昨晩抱きしめあった仲なのに……」
悲しそうな表情を浮かべる。本当にあざとい。
「お前が抱きついてきただけだろうが」
「そうだっけ? ……もうそんな睨まないでよ。調子に乗ったのは謝るから」
「……お前、自分の立場わかってる?」
「わかってるよ。だから界外くんに捨てられないように頑張ってるんだよ」
ずいっと顔を近づけてくる櫛田。
「だから気が変わったらいつでも抱いていいんだからね」
耳元でボソッと言った。
ちょうど他のクラスの生徒たちが歩いてきたタイミングで。
「これで他のクラスの人たちにも私と界外くんの関係が怪しまれるようになるかな?」
「はっ。夏休みに腕を組んでるところを見られた時点でそう思われてるぞ。だから櫛田の今の行動は全くの無意味だ」
「え、そ、そうなの……?」
ざまぁみろ。……あれ? ぜんぜんざまぁみろじゃないじゃん。むしろ櫛田の思惑通りじゃん。
「そうなんだ……」
なんだ? 今度は素で照れてるように見えるぞ。……よくわからん。
「それじゃ教室に戻るから」
「あ、待ってよっ」
袖をつまみながら櫛田が後をついてくる。
「おいやめろ」
「なにが?」
「……本当にお前はいい度胸をしてるよ」
「だからなんのことかな……?」
あれだけ酷いことをすれば大人しくなると思っていた。けれど櫛田は以前より俺との距離を縮めようとしてくる。どうやら逆効果だったようだ。
なんであんな酷いことをされたのに、俺と親しくなろうとするんだろうか。俺とこれ以上親しくしても櫛田にメリットがあるとは思わない。
まさか本当に俺に恋愛感情を持っているのだろうか。
やっぱり女の子が何を考えてるのか理解するのは難しい。
「ねえ、何のことかな?」
櫛田がほくそ笑みながら聞いてくる。
ちょっとムカついたので脛を軽く蹴った。
「いたっ……。な、なにするのっ!?」
「ムカついたから蹴った。後悔はしてない」
「女の子を蹴るなんて最悪なんだけど」
うるさいな。櫛田なら多少乱暴に扱っても大丈夫だと思ったんだよ。
「だったら俺の機嫌を損ねるようなことはしないことだな」
「……本当最低」
「お前がな」
今思えば、この時から俺と櫛田の歪な関係が始まったのかもしれない。
積んでる本を消化したいのでしばらく週一で投稿になります
基本土曜0時なのでよろしくです