雪の華   作:ウメ、

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第五話

「出場者の方はこちらにお願いします!」

 

係の人から声がかかる。

これから入場の仕方など軽くリハーサルをしたら、すぐに本番が始まる。

事前のくじ引きの結果、私たちの出番はオーラス。目立つには申し分ない。

いよいよ私のユキを、私とユキを世界に披露する時だ。

 

 

 

*****

 

 

 

「よっしゃ、準備はいいか?」

「はい」

「おう」

「任せて」

 

三人からそれぞれに気合いの入った声が上がる。

ユキは今までの練習の成果を発揮しようと意気込むし、チカは出場を知った日から密かに練習を重ねていたらしい。

揺杏は新部長になり時間の無い中、五人それぞれに髪飾りを作ってくれた。

成香だってきっと・・・

 

「待ってください。もう一度おトイレ行ってもいいでしょうか?」

「またか?もう時間ないぞ?」

「だって緊張でー」

 

一人だけ昨日のオーディションからずっと緊張してるらしい。

一目見れば誰の目にも明らかだ。

緊張でダンスの練習も上手くいかず、さらに緊張する悪循環。

インハイの先鋒戦の方がよっぽど大舞台だと思うけど。

本人曰く

「心の準備時間が足りな過ぎるんですよ!!」

とのことだ。

成香には悪いが一人下手っぴなのがいてもいいと思う。

むしろいた方が面白いんじゃないかと思う。

だからサプライズにしたんだし。

 

「大丈夫だって成香」

「先輩?」

「良くても悪くてもネットで話題になるくらいだって」

「学校では有名人になれるかもな」

「失敗したって可愛いから大丈夫よ」

「どれも大丈夫じゃないですよ!!」

「慰めにすらなってないですね」

 

そう言ったユキは緊張なんてどこ吹く風だ。

白を基調としたアイドル風の衣装に雪の結晶を象った髪飾り。

その佇まいはもう昔のユキではない。

どこか影があり暗かった頃とは違う、強くしっかり前を向いている。

 

「ユキは少しリラックスな、気合い入りすぎだ。もう始まるけど、出番はまだ一時間以上先だぞ」

「ようやく本番だと思うとつい」

 

こんなに前のめりなユキも珍しい。

 

「まずは他の参加者の歌も楽しむぞ。ほらさっき戦隊物みたいな全身タイツいたぞ?」

「ヒーローだったら爽先輩は間違いなく赤ですね」

「ユキは白かピンクかな」

「揺杏先輩と成香先輩は青か緑、黄色でしょうか」

「チカは敵の女幹部だな」

「なんで!?」

 

チカは案外ノリノリでやりそうだけど。

ムチ持って襲い来るチカ、力がつき逃げ惑う成香、そこに颯爽と現れる私達。

結構楽しそうな気がしてきたぞ。

 

「私もヒーロー側に入れなさいよ!4vs1なんて卑怯じゃない!」

「まってチカセン」

「何?」

「今いい衣装が閃きそう。・・・ちょっとエロいやつ」

「誰が着るかっ!」

「チカちゃんの女幹部・・・」

「成香は想像しないで!お願い!」

 

チカの女幹部、成香でなくても想像しちゃうな。

ちなみに私はすぐ逃げる。

 

「ひー」

 

気の抜けた声と一緒に成香がチカから距離をとる。

 

「な、何を想像したの?」

「日頃の行いの賜物だな」

「あんたたちより優しくしてるわよ!そのニヤニヤした顔止めなさいよ!ねえ成香。ほら私は優しいわよ?」

 

何を想像したかは聞いてもいいのだろうか?

チカの精神衛生上、闇に葬った方がいい気もするな。

 

「チカ先輩は相変わらず成香先輩には弱いんですね」

「弱いとはまた違う気もするけどな。それよりリラックスはできたか?」

「はい。もう大丈夫です」

 

あとは出番に合わせて少しずつテンションを上げていこう。

そこにちょうどよく声がかかる。

 

「それでは入場しますのでリハーサル通りにお願いします!!」

 

五人それぞれに反応する。

みな緊張したりワクワクしたりそれぞれ。

私も緊張と期待に体が震える。

一歩踏み出そうとしたとき、後ろから手を取られる。

 

「ねぇ爽、一ついい?」

「なんだこんな時に。チカもトイレ行きたくなったか?」

「そういうのじゃなくて。・・・無茶はしないでね」

「無茶?しないって」

「・・・・・・」

 

チカの疑うような目が印象的だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「さあ今日の出場者の入場です」

 

放送が始まり、司会者の一声で入場が始まる。

一人一人入場するたびに歓声は大きくなる。

鳴りやまない歓声と万雷の拍手が耳に届く。自分が舞台に上がったのだと自覚する。

揺杏が誰にともなく呟く。

 

「すごい歓声だな」

「たまにはこういうのもいいな」

 

気分が高揚してくる。早く歌いたい、そんな想いまで湧いてくる。

チカや成香も同じようで、さっきまで緊張で真っ青だった顔が今は紅潮している。

 

(これがアイドルの見ている世界か)

 

ユキにアイドルについて教えたつもりだったが、私は何も知らなかったのだと思う。

ここに一人で立ち、この歓声を倍返しするような仕事。

とても私には勤まらないと思う。

ユキはどうだろう?とふとユキを見る。

 

「・・・・・・」

 

目に入ったのは、手を振り笑顔で歓声に応えるユキ。

その笑顔は観客を癒し、一挙手に皆が注目する。

 

(・・・・・・)

 

いつかの未来、観客席からステージのユキに向かって手を振る自分を妄想する。

ユキが本物のみんなのアイドルになること。

漠然とあった不安の正体、ユキへ踏ん切りが着かなかった訳を悟る。

しかしもう手は打った。

今日この舞台でユキは私だけのアイドルになる。

 

 

 

*****

 

 

 

「続いての方どうぞー」

 

のど自慢も終盤にさしかかる。

この組が終わればついに私たちの出番だ。

さすがに私も緊張してくる。

みんなと同じように頭の中で歌詞や振付を反芻する。

ユキだけがただじっと舞台を見つめていた。

 

カーン

 

鐘の音が鳴り、歌が遮られる。

司会者が一言声をかける。

つまり私たちの出番だ、緊張が一気に高まる。

 

「次は本日最後の組になります。どうぞー」

 

五人で飛び出す。

私たちのことを知ってか知らずか歓声が高まる。

そんな中センターに陣取るユキが静かに宣言する。

 

「20番。曲は『時にはHAYARIに流されて』」

 

イントロが流れ、ダンスを始める。

お客さんからの期待を乗せた手拍子が聞こえてくる。

さっきまでの緊張が嘘みたいだ。

自然と顔が笑顔になり、体が動く。成香もぎこちないながらも一生懸命踊る。

そして

 

「――――――」

 

ユキの歌声が会場に響き渡る。

一瞬歓声が鳴りやみ、ユキの歌に聞き惚れる。

鳥肌が立つ。

この歌が私に向けられている事実に興奮する。

 

「――――――」

 

次のコーラスで歓声が一気に溢れかえる。

その歌声は歓声をかき分け一人一人にしっかり届いているようだ。

 

「――――――」

 

その声が仕草が表情が皆を魅了する。

何かを訴えかけるその様に全員が惹かれ、込められた感情に感じ入る。

 

「・・・」

 

躍りながら驚いていた。オーディションでも上手いとは思ったが、ここまでとは思わなかった。

これなら優秀賞もいける!

そう確信したとき

 

「きゃっ」

 

成香が転ぶ。

直ぐに助けに向かうか、成香なら大丈夫と躍り続けるか一瞬迷う。

その間にいち速く動いたのはユキだった。

 

「――――――」

 

歌を途切れさせることなく、成香に手を差し出す。

成香はその手を取り、立ちあがり躍りに復帰する。

元から脚本通りだとすら思える自然な流れ。

さらに歓声が大きくなり、最高潮を向かえた。

そして・・・

 

カンカンカンカーン

 

最高評価を伝える鐘が鳴る。

万雷の拍手の中ユキの舞台が終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは私の舞台だ。私の目的を果たそう。

 

 

 

 

 

「ユキ!!」

「爽先輩!」

 

大声でユキを呼び、全力で抱き締める。

ユキは合格の歓喜で抱き返してくれる。

 

「・・・」

 

それでも私はユキは私の物なのだと、観客にテレビの前の視聴者に見せつけるために。

これでもかと放すものかと抱き締め続ける。

ユキも困惑しだす。

 

「先輩?」

「・・・ユキ」

 

一瞬この後の事を考える。

迷いを振り払い覚悟を再確認する。

そしてその困った顔に唇を近づけていく。

逃げないのを確認しさらに近づけ

 

「爽!!」

 

チカが大声とともに私たちの間に割って入る。

少し遅れて揺杏と成香も加わり五人の輪になり合格を喜ぶ。

止められるとは思ってもみなかった。

輪の内側では私は焦り、ユキは困惑し、チカからは攻めるような視線を浴びていた。

 

 

「合格おめでとうございます。今のお気持ちは?」

 

司会者の声で輪がとけ、ユキがインタビューに答える。

 

「まるでアイドルみたいでかっこよかったですよ」

「ありがとうございます。アイドルを目指しているので嬉しいです」

「あなたならきっとなれますよ。最後にお所とお名前をどうぞ」

「有珠山高校の真屋由揮子です」

 

一通り答えて席に下がる。

その後のプロの歌も最終結果発表も私は上の空で過ごした。

私は失敗した、それもしてはいけないことをしようとして。

私はユキの近くから離れるべきなのか。

今の関係は壊れてしまうのか。

そんなことばかりが頭に過り、良い可能性なんて考えられなかった。

どうやら私たちは最優秀賞は逃したらしかった。

 

 

 

*****

 

 

 

のど自慢に出場し優秀賞を取ってから、私の周りは更に騒がしくなりました。高校でも声をかけられる数がたくさん増えました。

 

でもあの日以降一つの声が私の周りから聞こえなくなりました。

爽先輩は私を避けるようになりました。

会いに行ってもダメですし、チカ先輩に頼んでもダメでした。

 

あの時舞台上で爽先輩が何をしたかったのか、今なら分かります。

でも今爽先輩が何故私を避けるのかが分かりません。

それでも私は爽先輩のために・・・

 

そんな悩みを抱えていた私に一本の連絡が来ました。

タイミングに運命を感じるようでした。

ただ私一人で考えるには大きすぎて。

 

「揺杏先輩、成香先輩少し相談があります」

 

 

 

 

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