雪の華   作:ウメ、

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第八話

チカと一緒に空港行きのバスに乗り込む。

座席に座ると、スマフォの写真を眺めながらユキと出会ってからの期間を思い出す。

 

(本当に色々あった。やっぱり終わらせたくないな……)

 

私の本音、自然な気持ち。

心が揺れ動く。

 

 

ふぅと息を吐き心を落ち着かせようとスマフォをしまおうとする。

しかしふと手が止まる。

私が奇跡の一枚と自称するユキの写真だ。

 

(あれ?いつもと違うような……)

 

ユキに別れを告げられ、吹っ切れたからだろうか?

写真が今までとは違うように見える。

 

よく見る、そしてわかった。

私がこの写真を気に入った理由が。

 

 

写真に写るユキは、何かを欲しがるような、何かをねだるようなそんな表情をしていた。

 

 

 

(私は『ユキに私を欲してほしい』と思っていた訳だ。)

 

 

 

今思えば一目惚れだったのかも知れない。

 

 

私は初めて会った時から、ユキが本当にアイドルになれると信じて疑わなかった。

こんなに可愛い綺麗な子は他にいないし。

こんなに人を夢中にできるんだから。

 

 

 

私のやり方も感情も色々回り道をして躓いて来たけど、自分の気持ちだけは初志貫徹していたのかな。

 

やっとそんな風に思えた。

 

 

 

*****

 

 

 

空港に着くと揺杏が仁王立ちで待ち構えていた。

 

「待ってたぞ、爽!さあこっちだ、後戻りは無しだぞ」

 

何となく嫌な予感がしたが、大人しく揺杏に着いていく。

何かあったとしても私のすることは変わらない。

 

 

暫く歩くと開けた場所にでた。人も少なくガラッとしている。

 

そこにユキはいた。

 

キャリーバッグを手に成香と何やら話をしている。

こちらからでは顔は伺えないが、見るからに東京行きの準備は万端のようだ。

 

 

「今さらビビらないでしゃんとしなさい」

 

どう声をかけたらと悩んでいるとチカに背中を押される。

 

「そんなのいつも通りでいいわよ」

 

それが難しいんだ、と思いつつ一歩を踏み出した。

 

 

 

「おうユキ、久しぶり」

 

 

 

*****

 

 

 

「おうユキ、久しぶり」

 

爽先輩はいつも通りにそう話しかけて来ました。

 

それから少しの間お互いの近況など、当たり障りのないことを話しました。

 

 

爽先輩は私が東京へ行くことを知っています。

今日ここに来てくれたと言うことは、その前に私に伝えたいことがあるんだと思います。

 

それが何かは分かりません。

ですが聞かないと後悔するに違いありません。

 

 

会話が止まったタイミングに思い切って聞いてみます。

 

「今日は来てくれてありがとうございます。何か私に伝えたいこととかありますか?私は先輩に伝えたいことがあります」

「……あるよ。今日はそのために来たんだ」

 

最初は驚いたような表情をした爽先輩ですが、ハッキリと「ある」と言いました。

 

そして話し始めました。

 

 

「まず一つあの突然の電話。確か『今までありがとうございました、さよなら。』だったか?最初は悲しかったしへこんだ。でも冷静になると……失礼なんじゃないか?」

「……へ?」

 

予想外の言葉に反応できませんでした。

 

「麻雀もアイドルも一緒にやって来た先輩にあれだけで別れの挨拶を済ませるのはちょっと礼儀が足りない」

「……」

 

予想外かつ妥当な指摘に相変わらず反応出来ません。

 

「私が教える。だからもう一度私とアイドルを……」

 

そこで先輩は口を閉じ、何か考えているようです。

私としては「もう一度私とアイドルを目指す」そう言って貰えるだけで充分です。

ですが、先輩の言いたい事とは少し違うようで。

絶対に危機逃さないよう次の言葉を待ちます。

 

 

「ユキ、改めて言うよ。私はずっとユキが好きだった。だから私と一緒にじゃない。……私だけのアイドルになってくれ」

 

 

静かに力強く語る先輩の言葉。

やっぱり私には予想外でした。でも今度はしっかり体が心が反応します。

 

気づいた時には泣きながら爽先輩を抱き締めていました。

 

 

 

*****

 

 

 

「私だけのアイドルになってくれ」

 

そう言った私をユキは泣きながら抱き締めてくれた。

宝物に触るようにそっと抱き返した。

 

 

「落ち着いたか?」

「……はい」

 

真っ赤になった目でユキは答える。

私の目も少し赤らんでいる。

 

「答えを聞いてもいいか?」

 

やはりユキの言葉としてしっかりと聞いておきたい。

 

「私は……ずっと爽先輩のためにアイドルを目指して来ました。ですから先輩だけのアイドルになれるならこれ以上のことはありません。……私もずっと好きでした」

 

そしてもう一度抱きしめ合う。

一緒にいた時からこうなることは、実は簡単な事だったんだと思う。

それを私が遠回りをし、ややこしくし、難しくしてしまった。

でもその分、今腕のなかにいるユキが本当に愛おしく大切に思う。

もう離さない。

 

 

 

 

 

 

「いやーお疲れ。良いもの見せてもらったよ」

「私もドキドキしちゃいました」

 

外野から眺めていた揺杏たちが話しかけてくる。

私も二人には聞きたい事があった。

 

「今回の件どこまでが本当でどこまでが仕込みだったんだ?」

 

揺杏たちが何かしているとは思っていたが、実は良く分かってなかった。

 

「東京の事務所からスカウトされたのは本当だぞ」

「はい。ただスカウトは受けていません。今回東京に行くのも事務所とかアイドルの仕事を見学させてくれるというので」

 

「それを聞いて使えると思った私がチカセンに協力を扇いだ」

「ごめんね、爽。私は全部知ってたの」

「……」

 

空いた口が塞がらなかった。一番の味方が敵だった訳だ。敵というのは可笑しいかも知れないけど。

 

「チカは演技頑張りすぎじゃないか?人間不振になりそうだ」

「そんなに!?まあ言った事は私の本音だからあんまり演技なんてしてないわよ」

 

それを聞けて良かった。

チカも揺杏も心配させていたことに改めて頭が下がる。

そして

 

「成香は何もやってくれなかったんだな」

「わ、私だって一緒に作戦を考えてました。あとは黒百合の花を気づかれないようにおいたのも私です」

「ありがとうな」

 

成香も本当に考えてくれたのだろう。

あとユキと一緒にいてくれたんだと思う。

 

「でもあの黒百合はやり過ぎじゃないか?怪しすぎるし意図もイマイチ分からない」

「あれは私がお願いしました」

 

やはりユキの提案だったのか。

 

「ユキから聞いて無きゃあの伝説も知らなかったぞ。殿様を呪うやつ。というか怖いことするな」

「確かにあの話は怖いですね」

 

それを私に贈るか。嫌われているからかとも考えたんだ。

 

「黒百合には他にも逸話があるですよ。北海道、アイヌに伝わるものが」

 

それは初耳だ。

だが黒百合の逸話だ。あまり良いものとは思えない。

 

「好きな人への想いを込めた黒百合をその人の近くにそっと置き、相手がその黒百合を手にすれば、いつの日か二人は結ばれるという言い伝えがあるそうです」

 

とてもロマンチックな話だ。

私は黒百合を手に取った事を思いだしほのかに赤くなる。

 

「ただ呪いや媚薬の類いだと解釈されることの方が多いみたいです。でも呪いというには綺麗だと思いませんか?」

「そうだな。こんな呪いなら私は歓迎だ」

 

私はユキへの告白を決意して黒百合を手に取った。

呪いなんかに負けないと意気込んで。

あの時から呪いにかかっていたのかも知れないけど、今はその事にさえ感謝を覚えた。

 

 

 

*****

 

 

 

「『私だけのアイドルになってくれ』ってちょっとダサくないか?」

「そうですか?私は素敵だと思いますよ」

「成香、私だけのアイドルになってくれない?」

「へ?……それは素敵です」

 

外野が勝手に何かやっているがそろそろ飛行機の時間だ。

ユキと繋いだ手に自ずと力がこもる。

 

「爽先輩。今回はただの見学ですからあまり心配しないでください。必ず帰って来ますから」

「そうだよな。待ってるから連絡もするからな」

 

そう言いながらも手を放す気にはなれなかった。

最近の出来事で私はとても弱くなってしまったようだ。

 

「それじゃあ先輩、一つ約束しましょう」

「なんだ?今なら何でも聞いちゃうぞ」

「ありがとうございます。……私が帰って来たらキスしましょう。二人だけで」

「……約束だぞ」

 

のど自慢で私がしようとしたキス。

私の一番の間違いだ。

それを約束してくれた、本当に嬉しかった。

 

「それじゃあ爽先輩。そろそろ時間ですので」

「待ってるから、頼れる先輩になるから。……帰ってこいよ」

「はい。行ってきます」

 

 

ユキはそう言うと振り返らずに言ってしまった。

 

私は強くなろう。

ユキを支えられるように。

頼れる先輩としてパートナーとして。

 

私はユキの背中にそう誓う。

 

 

「ユキーーー!!またなーーー!!」

 

 

ユキはアイドルになる。

なら私も大きくなろう。

アイドルを腕のなかに抱えられるくらい、よそ者の言葉なんて届かないくらい。

 

ユキの背中に何度も誓った。

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。

思い返しても反省点しかない作品でしたが、完結出来たことだけは良かったです。

完結できたお陰か
だんだん自分の書きたいものも見えて来ました。

もし次回作があれば、その時はまたよろしくお願いします。

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