何度も何度も、進軍を遅らせるために作戦を立てては実行、実行、実行…
奴等も俺たちが妨害工作をしているのは分かっているので、前もって妖力で防護していたり、ために横穴に入ったり…俺たちを攪乱させようとしているのが目に見えて分かった。
俺たちと奴等の攻防は始まってから既に三十分が経過していた。元々の進軍速度を見るに本当なら既に地上に到達していてもおかしくない時間だ。だが地上まだ先。どうやら俺たちの妨害工作が功を奏しているようだ。
しかし俺たちの妨害工作の作戦も段々底をついてきた。
俺たちがいるのは地底と地上を結ぶ穴の中心より少し上、地上よりの場所にいる。そのせいか地盤が柔らかい所も多く、下手に大きな振動を発生させれば地盤崩壊で穴が崩壊する可能性がある。
なので俺達も派手な妨害をすることが出来ず、地上に近付けば近付く程有効な手立てを打てなくなっていった。
「そろそろ地上が近付いてきたよ」
「分かってる」
ここまで来たら罠などのアイテムを使うのではなく自分たちで止めに行くしかないだろう。
となると誰が行くのかということで…
「あたいが行ってあげる!」
そう言って手を上げたのは地上の妖精チルノ。この作戦を理解しているのかどうなのか、そろそろ技で止めに行こうと俺が提案した瞬間チルノが真っ先に手を挙げたのだ。いつもこいつは余裕綽々な顔で自信満々に名乗り出るイメージがある。自分が最強であることを疑っていないようだ。
「あたいに任せればどんな奴でもカチコチに凍らせれる!」
「大丈夫か?チルノ。お前の力を信用していないわけではないが正直言ってお前の冷気では…いや待てよ」
そう言えば人質救出の時にチルノが出した冷気によって奴らは動きが鈍くなり、行動が出遅れていた。俺達も冷気に晒されれば動きが遅くなるが、それにしたってあまりにもな低速化だった。
そこで地底の妖怪に思いついた質問を投げかける。
「なあもしかして地底の妖怪って寒さに弱いのか?」
「地中はあまり気温変化がないからなぁ…」
「お空のおかげで年中温かいことが多いんだ」
そう答えたのはこいしと勇儀。
どうやら地底の妖怪はあまり寒さへの抵抗がないのかもしれない。ならばチルノでも十分足止めをすることが出来るかもしれない。チルノの冷気で奴らの動きを鈍くするだけでも進軍速度は低下する。
だがチルノ一人では不安だな。俺もついていこうかと考えていたらまた手を上げる者が。
「じゃあ私も行く!」
「こいし?」
「私の能力で敵を撹乱すればもっと効果的だと思うんだ!」
なるほど。確かにこいしの能力ならば敵を撹乱できるかもしれない。しかしこいしは能力を使っていても一度捕まっている。きっとこいしを捕まえるために何かしらの用意をしていたのだろう。そのため俺としてはあまりこいしを戦闘にいれたくないというのが正直なところだが…まあ今回は俺達も見ている中でだし気が付いたらいないなんてことはないとは思う。
万が一危険な場面になったら俺たちが出て援護する。また捕まって人質にされたりしたら目も当てられない。
「よし。チルノ、こいし、頼むぞ」
「ほいさー」
「任せなさい!」
そしてチルノが奴らの正面に現れる。こいしは能力を使って端っこの方へ。どうやらまだ気付かれていないようだが…
俺が行った時もそうだったが、どうもあいつらは何かが正面に現れた時は警戒して一度立ち止まるようだ。そのおかげで進軍も遅れているわけだからこちらとしても嬉しいが。奇襲が出来ないのが難点だな。
「あんたらよくもあたいを長い間閉じ込めたわね!あたいの冷気をくらいなさい!」
そう宣言するが早いか早速チルノは冷気を放出。
チルノが冷気を放出することができるのは人質解放の時に分かっていたため皆妖力で自らを包み防寒しているようだ。
しかしそこに突然の弾幕。冷気には耐えれるが弾幕には耐えられるようにしていなかったのだろう。被弾した者から落ちていく。
弾幕の主はこいし。チルノの冷気という存在のおかげで誰にも気づかれずに近寄ることができたらしくそれなりに近距離から弾幕を張っている。
能力を使っていてもこいしを見る事ができるやつがいるのかやはりすぐに気づかれる。しかしこいしに近付くことは出来ない。なぜならチルノがいるから。
こいしに集中しようとすればチルノによって凍らされてしまう。
チルノの冷気はとてつもない威力で、耐性が低い妖怪や妖力が少ない妖怪などはすでに一部を凍らされている。妖精といえど侮ってはいけない相手なのだ。
その様子を見ていた勇儀が俺の隣で小さく呟く。
「これで何分稼げるかねぇ…」
「たとえどんな生物であっても慣れというのがある。そろそろチルノを下げて別のやつが前に出よう」
「誰が行くんだい?」
「俺だ」
俺が言ったように、既に慣れ始めている妖怪がいるのか他の妖怪よりも素早く動いている個体がいる。しばらくすればチルノへの反撃を始めそうな雰囲気だ。そろそろだな。
「チルノ!」
「なによ定晴!」
「代われ!」
チルノの腕を掴み後方へと投げる。ついでにこいしも近くにいたので同じように後方へ投げる。二人は鬼たちによって安全に着地することができたようだ。
さて。次は俺の番だ。
いつものように結界を使う。今回は広範囲に、薄く、ばれないように…
そして俺は地底にて大人数相手の時用のスペルを使う。
散開【バウンドマジック】
俺が魔法を放つ。小さいものを複数。一つ一つの威力もそこまで高くなく一見脅威にはならない。
速度は遅い。そのため避けられる。しかしこのスペルの名前。【バウンド】とちゃんと書いてある。
その魔法はそのまま広範囲に展開していた結界に触れ…反射する。
まさか避けた魔法が戻ってくるとは思わなかったか被弾している者も多数。それでも俺は魔法を使うのをやめない。それがしばらく続けばどこから飛んでくるのか分からない弾幕の完成だ。
原理は簡単で、結界に魔法反射の効果を付与しただけだ。ちなみにこれ、魔法だけじゃなくて妖力も反射する。つまりあいつらが反撃しようとして撃ちだした弾も全てやつらを襲う攻撃になる。
とても強く感じるスペルだが欠点が多く、範囲を広くすればするほど制御が難しい。威力が高いものを受けると簡単に壊れる。物理攻撃に弱い。
今は反射してくる弾を警戒してか結界近くには近寄っていないようだが、鬼なんかが殴れば簡単に壊れる。それにずっと使っておくには俺の魔力量が足りないため、綻びが出る前に回収せねば…
そこに俺たちがずっと待っていた声が聞こえた。
「おにーさーん!」
「お燐!」
後ろを振りむけばお燐が地上の皆を連れているのが見えた。
さて、俺はいつも戦闘するときは周囲を常に警戒し不注意な行動をしないように心掛けているのだが、今回はずっと戦い続けてやっとの援軍が来たためか少し不用心だった。そう俺は、お燐を確認するために後ろを見てしまったのである。
後ろを向けば弾幕が途切れるのは当然の理。さすがは地上を侵略しようと集まった妖怪達だ。その隙を逃さず俺の背後をとった。
そして殴ってきたのは…鬼だったのだろうか。俺は確認することもできず強烈な打撃によって意識を暗闇に落としたのだった。
「定晴!」
お燐の呼び声に反応したせいか後ろを振り向いちゃった定晴が鬼の一撃で落ちていく。
まずい。私じゃ間に合わない。こういう時に私の能力は本当に使えないと実感する。心を読もうと無意識を操ろうと、目の前の人を助けることもできない能力なんて…
「さーだーはーるー!」
そう思っていたら私の横を高速で何かが飛んで行った。
あれは…魔理沙だ!
魔理沙は落ちていく定晴に追いつき、敵の攻撃を掻い潜りながら戻ってきた。さすが今まで色んな戦闘を繰り返して慣れているだけある。敵の攻撃を軽々避けて戻ってくる様は蝶のような軽やかさだった。
「おう!こいし!元気だったか?私は元気だったぜ!」
「定晴は!?」
「気を失ってるだけだな…普通鬼の攻撃を身に受けたら何かしら外傷とかあるはずなんだが、まあ定晴は本当に頑丈だな」
そう言って魔理沙は笑う。
それは本当に私もそう思う。だけど気絶している以上あまり放置しておくのも良くない。確か魔理沙は回復魔法みたいなのは苦手って言っていたしなんとか出来ないかな…
「大丈夫です。その内目が覚めます」
「えっと…」
「私は魂魄妖夢。定晴さんはしばらくすれば起きます。常に自分に再生が付いてて自然治癒力はとても高いと自分で言ってましたので」
どうやらお燐は結構な人数を連れてきたみたい。
しかしその中に純妖怪はいない。人間を抑止力にするという話は覚えていたらしい。
でもその中に霊夢はいない。いつも博麗神社でゴロゴロしている霊夢に会えないなんてことあるのかな。もしかすると抑止力に博麗の巫女は意味がないと連れてこなかったのかもしれない。後でお燐に聞こっと。
視線を定晴に移すと何故かもう怪我した部分の手当てがされている。目の前に私がいるのにどうやって…
「なるほど。これは確かに多い…けど問題はないわね」
「咲夜?お前いつ来たんだ。私が誘っても来なかったじゃないか」
「それは魔理沙の誘い方の問題よ。定晴様は紅魔館にとっても大事な人。関わっていると言えばお嬢様もすぐに許可してくれるわ」
「そりゃわるーござんした」
咲夜さんだ。フランちゃんの所に遊びに行ったときにいつも仕事をしていたことを思い出す。どうやらフランちゃんを助けた恩をここで返すらしい。
確か能力が時を止めるとか操るとかなんとか。それを使って一瞬で手当てを終えたのだろう。さすがメイド。
「取り敢えずこの軍を消しちまえばいいんだろ?」
「剣を教えてもらった時に話してたんですが、定晴さんは大軍を相手に戦ったことがあまりないとのことで」
「その分私達は異変解決の時に嫌というほど妖精とか他の妖怪が便乗して襲ってくるから大軍にも慣れてるし、適任ってことね」
そして魔理沙たちが大軍に突っ込んでいく。
やはり相手は人間だとなめているのか、妖怪たちは余裕の表情を見せている。
しかしやつらのその顔は次の瞬間、余裕から焦りへと変わったのだった。