翌日、自分の寝室で起きた俺はやはり自分の家はいいなということを再確認しつつ(幽香の家が悪いわけではないが落ち着かない)朝食を摂るためにリビングへ。
今日の朝食は素早く済ませるために前もって準備していた冷凍のものを温めて食べる。俺の魔術は全体的に弱いためこういった何かを温めると言うだけの方が扱いやすいと言う利点がある。要は電子レンジが必要ないのである。
冷凍庫から料理を出して魔術に当てる。熱量的言えば電子レンジ程度にはあるのだが、人体に影響が出ない安心設計。魔術での熱なので有害なものが出ないのも安心できる。
「それって今日の食事かしら」
「ああ、そうだ」
「私も貰っていい?」
「ダメに決まって…!?」
魔術を中断し後ろに飛び退く。
生憎と後ろには棚がありぶつかってしまったが、それよりも…
「ルーミア?」
「ええ、おはよう。定晴」
何故か俺の家にルーミアがいた。
いつ入ってきた?俺の家には入ると勝手に警報のようなものが俺に届く結界が張ってある。それ自体には音はないため侵入者は俺に連絡が行っていることに気付かないまま…というのがこのシステムの狙いなのだが…結界を探る。反応はなし。
この結界は俺が寝ていようが外出していようが張られ続けている。そもそも結界の陣を家の中に敷いているからだ。それをすり抜けられるのはミキや紫など一部の能力者に限られる。
例えルーミアが強くなったところで瞬間移動は闇とは違うから使えるはずがないのだが…
「なんで入れた、みたいな顔をしているわね。簡単よ、闇に紛れて入ってきた。私は闇となって光と同じタイミングで入る。でも私自身はそこに存在しているようで存在していないようなものだから結界に探知されない…ま、感覚的なものもあるから言葉じゃ分からないでしょうけどね」
俺の疑問をくみ取ってルーミアが答えてくれるのだが…まさか存在を消していたというのだろうか。確かに外の世界のアニメには影に入るとか影の中を移動するみたいな能力者が描かれることがあるが…まさかルーミアはその域に達しているのか?
だとしたら俺たちはルーミアを捕まえるのは途端に困難になる。外の世界では広い部屋に誘い込んで光を当てるみたいな方法で倒していたような気がするが、ここは幻想郷。森も茂みも沢山ある。それに伴い影なんて見渡す限りどこにでもあるのだ。
平原など一部の場所ではその限りではないが、ルーミアがほいほいそこに誘い込まれてくれるとは思えない。明らかな罠だからな。俺だって近寄ろうとしない。
「もう、あなたまた考える癖が出てるわよ。私が目の前にいるというのに随分と余裕なのね」
「あ、ああ、すまん」
「謝られるところじゃないのだけど…」
何故かルーミアが呆れた顔をしている。いや、何故かってのはおかしいか。原因は俺以外にあり得ない。考え事をしている間に攻撃されても対応できる自信はあるのだが、確かにこう対面したまま会話しているにも関わらず考え事に耽るのは失礼にあたるな。
少しの間ルーミアは呆れた顔をしていたが、しばらくすれば大人モードのルーミア特有の怪しい笑みに変わった。
「それで?こんな朝早くに俺に何の用だ?」
「まあ、せっかちね。ま、いいけど。今日はちょっとした忠告よ。貴方に対するね」
「忠告?」
ルーミアが今から攻撃を始める…とかは忠告しないか。そもそも目の前に本人がいるというのに一々忠告してから攻撃するなんてことはしないだろう。
となるとルーミア以外の…
「こーら。いい加減叩くわよ?よく聞きなさい」
「ぐ」
まるで触手のように動いた闇は俺の頭を押さえて無理やりルーミアの方へ向かせた。だめだな、俺はどうしても考え事をする癖が抜けないようだ。
「私からの忠告ってのはね。私のこの封印を解いたやつの事よ」
「え?でもそれって前聞いても答えてくれなかったじゃないか」
「あんなところで聞くからでしょ。この家の中は結界が多重に張られているおかげで賢者みたいな奴以外には盗聴される可能性がないから安心できるの。いい?私のこの封印を解いたやつは封印を解いたあと私に言ったの。堀内定晴を殺せってね」
「じゃあルーミアは犯人とグルってことか?」
「レディの話は最後まで聞くものよ。私は確かに一度定晴を殺そうとした。平原に闇の大結界を張るという方法でね。まあ先に博麗の巫女がかかっちゃって面倒なことになったけど、一昨日やっと貴方を捕まえることができた。その時は殺す気満々だったのだけど…色々あって殺すのはやめてそこらへんの洞窟に放置しておいたわ。ちゃんと誰かにやられないように闇の結界も張ってね」
まさか、ルーミアが助けてくれていた…助けてくれたというのはおかしいか。見逃してくれていたというのか。
確かにあそこらへんはお世辞にも安全な場所であるとは言えない。普通の人間があんなところに放置されたところで寝ているところを別の妖怪に襲われて終わりだろう。
あの当時何の疑問にも思わなかったが、誰にも襲われていないのはルーミアのおかげだったというのか。洞窟を出てすぐに幽香の家に向かったため気にしなかったが、振り返れば闇の結界の一部くらいは探知できたかもしれない。
「それを奴…私の封印を解いたやつは見ていた。そいつは強大な力を持っていて、私一人じゃ勝てないの。だから昨日は弁明に必死で貴方に会うことができなかったわ。そんで奴が寝ているはずのこの時間にやってきたってわけ。あいつは定晴、貴方を狙っている。確信的な殺意を持っている。それが何故だかは知らないけどね」
「ルーミアよりも強いんだろ?俺に勝てるとは思えないのだが…」
「大丈夫、貴方は私よりも強いわ。それにまだ何か隠しているんでしょ?」
まさかルーミアは俺のあれに気が付いたというのだろうか。
だがあれは一度も幻想郷で使っていないし、外の世界でも片手で数えられるほどしか使っていない。ルーミアが知る由もないし、俺を狙っているという奴も知る方法はないはずだ。それとも俺がそれを使った時から俺のことを狙っていたというのか。
「ま、私の忠告はここまでよ。そして次はお願い」
「お願い?」
「ええ。私の事を捜すのをやめてもらえるかしら?」
「ほう?」
ここに来てルーミア本人からの捜索中止願い。
俺が受注しているのは紫、そして霊夢からなので俺の一存で決める事ができないのだが…取り敢えず理由を聞いてみる。すると
「私があなたに会うと私は貴方と戦うことになる。貴方は霊夢よりも強いから私としても無駄な消耗は避けたいってのと…個人的に貴方とは…戦いたくないの」
「でもルーミアが受けているのは俺を殺せって事だろ?それって契約違反みたいなものにならないか?」
「確かにこれは私の封印を解いた対価の交換条件みたいなものなのだけど…別に殺せとは言われたけど捜せと言われているわけではないから、問題ないと思うわ。それに別に破ったところで問題は無いしね。多分私はそいつに殺されるだろうけど」
悲しそうにそう呟くルーミア。
屁理屈のようにも聞こえるが、筋はまあ通っている。そいつがこれで頷くとは思えないが。
なぜルーミアが個人的に俺と戦いたくないのかは知らないが、まあもしもの時のために俺も体力を温存しておきたい。多分今回の事件での最終決戦はそいつとの戦闘になるだろうからな。
「話は以上よ。本当は私もうここで隠れていたいのだけど…それだといつかあいつにバレると思うから。私はもう行くわね」
「え、ああ。分かった。お前からの願いも忠告も聞くことにするよ。今日からは黒幕の捜索だな」
「いや、その心配はないさ。堀内。闇妖怪は裏切ったとなれば私は行動するに限る。もう回りくどいことはしない。狂気も…反乱も…封印解除も…」
その声が響くと同時に俺の家の壁が吹き飛ぶ。
そして土埃の中から一つの人影が現れるのだった。