東方十能力   作:nite

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百十ニ話 真犯人

ルーミアがさっと臨戦態勢を取る。

姿は未だに見えない。しかし先程の口振りから察するにルーミアが言っていた警戒すべき相手…今回の黒幕であるのは明らかだった。

相当大規模に破壊したのか土埃は中々晴れない。今日は風が殆どないのかあまり流れないのも一つの原因だろう。近付けば相手は分かるが何をされるか分からないのでこうしてここから見ていることしか出来ない。

 

『は、はは』

『どうした、狂気?』

『てっきり俺は霊夢に付いていた狂気はルーミアのものだと思っていた…が、犯人はあいつだ。ルーミアを経由した上で未だに霊夢に残るとか…どんだけ狂気に満ちてんだよ…』

 

呆れたような、或いは絶望したような声を出す狂気。

感情の念が他のものに付着するなんてことは滅多にないと先日狂気は言っていた。だというのに奴は一人を経由した上で残るほどの強い狂気を持っている。そして多分…この狂気の当て先は俺だ。

 

「堀内、僕からすれば初めましてではない。勿論君だって初めましてというわけじゃない。まあ君の事だから忘れているだろうけどね」

 

口調は丁寧…だというのに言葉の節々から怒りに似た負の感情を感じる。まるで俺と話す事すら嫌悪しているかのように。

 

「もういいさ。失敗してもどうてことはない。堀内、君の中に眠るものを…開放してみな」

 

その声が聞こえた瞬間…俺の中にある魔力、霊力、果てには魂の根幹から何かを引っ張り出そうとするような感覚が俺を襲った。

体中が震え、霊力の暴走を止める事ができない。なんとかして止めなくてはと思ってはいるのだがいつもなら普通にできている制御が今は全くきかず押さえつける事しかできない。

なんとか抑えようと体を抑える…と、腕が弾けた。左腕が肩の部分からまるで水風船を割るように中から吹き飛んだ。

フランの時も腕は吹き飛んだが、あの時は切り落とされるような吹き飛び方だった。そのため再生の能力を使えばそれなりに早く回復することができたのだが、今は違う。どうしても無くなってしまったものを再生させるには時間がかかるのだ。

 

「うーん…姿を見せたくないから敢えて埃を残しているのだけど、多分今の音はどこか吹き飛んだかな?その姿が見れないのが残念だよ」

 

若干笑いながら言う犯人。

せめてあいつの姿を見る事ができれば今後の犯人捜しにも簡単になるのだが、今は得意な風の魔法すらも使う事がままならない。多分今使ったら魔力暴走を抑えきれずに今度こそ全身が吹き飛ぶだろう。

 

「こんの!」

 

ルーミアが奴に向かって攻撃をする。ルーミアからすれば俺を討つには大変良い状況だと思うのだが、もしかしたら助けてくれているのかもしれない。

しかしルーミアの攻撃は当たらなかったようでルーミアは苦い顔をする。もしかしたら今までも何度か攻撃しているが一度も成功したことがないのかもしれない。

 

「うーん…じゃあ君には僕の手助けをしてもらおう。僕はさっさと堀内を殺したいんだ」

「誰があんたの手助けをするか!私は私の道を行くわ」

「あらら、でもさ、なんで君は堀内を助けるんだい?彼は人類の敵だし妖怪の敵なんだよ?ここで僕と一緒に奴を殺せば君にとっても良いことのはずだ。なんなら手伝ってくれたらその後君の事は優遇しよう。僕が他の事をすることになっても君には危害を加えない事を約束しよう」

 

何故ルーミアが俺を助けようとしているのか分からないが…いや、ルーミアとしてはあいつに従いたくないだけだろうが…奴が俺のことをそこまで殺そうとしている理由が分からない。

自慢ではないが俺は俺に依頼してきた依頼主の事は大体憶えている。だが俺の記憶に奴が依頼したという覚えはない。それに俺はずっと外の世界で仕事をしてきたからこのように能力を使う事ができる人間から依頼を受けたことはない筈だ。魔力や強い霊力など特殊な力を持っていたら俺か狂気が気づくからな。

奴が良待遇を取引に持ち出しても未だに首を振らないルーミア。とうとう奴はしびれを切らしたかルーミアを誘うのをやめた。

 

「はぁ…複数人を同時にするのは無理なんだけどな…まあいいや、僕のことを攻撃対象と見るならば君も排除しなければならないね。どっちかに滅んでもらおうか」

 

奴がそう言うと俺を襲っていた謎の力が収まった。

と同時に今度はルーミアが苦しみだした。その顔は歪み苦しむような、しかし悦に入るような表情をしている。

 

「あ、ぐ…ふふ…ぐう」

「君には強制的に手伝ってもらう…いや、これは僕の手伝いではないね。ただ堀内の敵になるだけだ。堀内を殺したら僕の事も狙うだろうし今日はここで退散させてもらうね。どちらが死んでも僕は構わないのだけどどちらかと言うとルーミアに頑張ってもらおうか」

 

そういうと奴の気配が消えて土埃が消える。そこに奴の姿はない。どうやら土埃も奴がわざと発生させていたようだ。

しかしルーミアが苦しんでいるのは変わらない。俺が近づき助けようとすると…

 

「あ、はは…はははは!」

 

突如として笑い出すルーミア。その表情に苦痛の色は見えない。どうやら苦しみからは解放されたようだ。しかし何かがおかしい。

ルーミアは笑いを抑えるとこちらを向いて隠すことも無く大量の殺気を飛ばしてきた。

 

「はぁ…いいご飯があるじゃない…」

「ルーミア?どうしたんだ」

「ふふふ…人間は餌…誰でも…ね」

 

そういうとルーミアは俺に闇を飛ばした。当たれば確実に死ぬであろう攻撃だ。一昨日戦った時の闇の力とは比べ物にならないほど強くなっている。ルーミア自体の妖力は然程変わっておらず、妖力を開放してはいるものの総量自体は変化がなさそうだ。となるとこれがルーミアの本気ということになる。

先程のルーミアの説明から察するに一昨日は全く本気ではなく、むしろ割り増しで力を抜いていたようだ。

しかし今は全力で俺のことを殺そうとしている。原因は言わずもがなさっきの奴がやった何かだろう。ルーミアが苦しんだ後逆に喜ぶような表情をしているのもそれが原因だろう。

 

『突然狂気がマックスになった。感情全てが狂気と憎悪にまみれている。対象は人類全て、幻想郷だろうが外の世界だろうが関係なく全ての人間のことを恨み憎んでいる。普段はここまで分からないんだが、まったく隠すこともないようだ。相当憎悪が強いんだろう』

 

狂気が冷静に説明する。

どうやら先程奴がしたのはルーミアに憎悪を植え付ける事のようだ。ということは奴の能力は干渉系の…植え付けるとかか?しかし俺を襲った謎の力が分からない。暴走状態の植え付けだろうか。

狂気の言った通り殺意も憎悪も全く隠す気が無いルーミア。しかも周りもほとんど見えておらず俺を狙う攻撃もいくつか全然違う方向に飛んでいる。どうやら半混乱状態でもあるらしい。

 

「さあ!死になさい!人間!」

「ルーミア!落ち着け!」

「煩いわねぇ…あんたのことなんか知らないわ」

 

どうやら俺の事も憶えていないらしい。いや、憶えていないと言うよりも俺を攻撃していることを意識していないということだろうか。人間全てに憎悪を持つというルーミア、俺はただの一人の人間でしかなく敵でしかない。ということなのだろう。

このルーミアを放置していたら幻想郷に住む人間は蹂躙されてしまうだろう。ここで俺が止めるしかないわけだ。

 

「しょうがない…少々痛いが我慢しろよ!ルーミア!」

「人間風情が抵抗?生意気ね!」

 

崩壊した自宅…そこで俺は生死を、そして幻想郷の未来をかけた戦いを開始するのだった。

 

 

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