ルーミアの攻撃を結界で弾きながらたまに輝剣や魔術で対抗する。
先程まで限界まで暴走していた魔力も霊力も今は完全に落ち着いており、普段通りに使う事ができる。それにルーミアが半狂乱であるため攻撃を避けるのもそこまで難しくはない…が、苦戦を強いられる。
ルーミア自身が強くなっているのもそうだが、なにより今の俺は左腕がない。戦闘中に腕を再生できるほど俺の能力は強くないし、なにより戦闘中でなくとも一度無くなってしまった腕を完全に再生させるには最低でも三日程度かかる。
そのため俺は攻撃手段が限られてしまっているのだ。
俺が騎士モードなんて密かに呼んでいる輝剣を右手に、結界を左手に持つという形態は使う事ができない。左手に持つ結界は左手を媒体に結界を展開しているため浮かせて張るよりも消費霊力は少ないのだが、今はそれができないため浮かせた結界で対応している。そのせいかいつもより霊力の減りが早いのも問題である。
「逃げないで!」
「避けてるだけだ!」
いやまあ同じと言えば同じだが。
ルーミアは未だに周囲が見えていないようで全方向にがむしゃらに弾幕を撃っている。
威力は致死量だし密度も申し分ない。しかし適当に撃っているせいで俺の方に来る量が少ないおかげで何とかなっている。これを何度も弾くとなると結界も保たないだろう。
まあ俺の事を認識しているためか俺の方に飛んでくる量はそれなりに多いが。
冷静さを欠いているらしくスペルを使う様子もない。まあ通常弾幕でこれなんだ。スペルを使ったところで然程意味は無いのかもしれないが。
元よりスペルというのは霊夢の考えたスペルカードルールにおいて相手を殺さないように、そして弾幕を美しく見せるためのものだ。人間を素手で殺す事が可能な妖怪からすれば枷以外の何物でもない。
「いい加減に、しろ!」
「どっちが!」
現在は均衡状態。だがもしルーミアの錯乱が治り本気で殺しに来れば俺は為すすべなく殺されるだろう。
今のルーミアは俺の方に飛んでくるものが多いにせよ適当に弾をばら撒いているに過ぎない。だがそのせいで近付くことが出来ずただただ体力と霊力を消費していっている。
多分だが総量で言うと俺の霊力よりもルーミアの妖力の方が多い。となると持久戦を続けると負けるのは必然的に俺となる。
なにかルーミアの気をそらすとか均衡状態を打破する一手を打つことができればいいのだが…
「人間は私の食料!抵抗せずに食われなさい!」
「この自然界のどこに無抵抗で食べてくれという獲物がいるか!」
一応会話は可能…なのだが、話す事は基本的に同じこと。
ルーミアがどうしてこの状態になったのか原因を突き止めてなんとかすれば均衡は崩れるだろう。だがその時人間に対する憎悪が残っていたらルーミアを助長するだけになってしまうが。
理想はルーミアの妖力を再封印すること。だが前のようにリボンを付けるというのはあまり現実的ではない。この猛攻を避けつつルーミアの頭にリボンを付けるなど難易度が高すぎる。
だからと言ってこのルーミアを遠隔で封印できるかと言われるとそれもまた難しい。今のルーミアは全身に闇を纏っているのだ。元々ルーミアが操っていた闇には当たり判定は無かった筈だが、今の闇にはばっちり当たり判定がある。多少の封印や攻撃は弾いてしまうだろう。
誰かが気が付いて援軍に駆け付けてくれれば良いのだが…生憎の早朝。通行人は期待出来ない…
「霊符【夢想封印】!」
「きゃあ!」
突如ルーミアを襲うカラフルな弾幕。
このスペルカードを使う事ができるのは幻想郷には一人しかいない。
「定晴さん。大丈夫かしら?爆発音が聞こえたから起きちゃったんだけど、ラッキー…だったのかしらね」
一度神社に帰ったことで衣服である巫女服こそ綺麗ではあるが、未だに身体の傷は癒えていない霊夢だ。
全身の至るところに傷が残っており絆創膏やら包帯やらが巻かれている。
確かに霊夢のおかげでルーミアの不意打ちには成功した。しかし今の霊夢がルーミアの弾幕に一発でも当たったら確実に落ちる。
俺はそれを霊夢に伝えるのだが…
「あら、助けてあげたのに定晴さんは酷いわね。まあ言いたいことは分かるわ。でも私だって負けっぱなしは嫌なのよ。危ないと思ったら自分の判断で帰るしいいでしょ」
とまあ一方的に決めつけ残る霊夢。
先程霊夢のスペルカードが直撃したルーミアは全然元気にしている。やはり纏っている闇が攻撃を弾いているようだ。しかし無傷というわけにはいかず少しだけ呼吸頻度が増している。
霊夢が来たのであれば…もしかしたら行けるのか?
「霊夢、前までルーミアを封印していたやつって作れるか?」
「うーん…一時的に封じることが出来るやつなら出来るけどずっと効力があるのは無理ね。まあ一時的にでも止めれれば退治でもなんでも出来るだろうけどね。どうする?」
「よし。俺は時間を稼ぐから霊夢は準備を頼む」
よし。これならなんとかなる。
ルーミアを退治することが出来るならば…依頼は、成功だ。だが、俺の中でまだ少し腑に落ちていない部分もある。このまま退治していいのだろうか。
半永久的に封印することができないのならここで倒すしかない。しかしこの倒す、は気絶させるではなく文字通り再起不能の状態にする。言い換えれば殺すということになる。
このルーミアを放置すれば幻想郷の全ての人間を襲うのだろうという予想は簡単にできる。そして現在それ以外の方法はない。
多分幻想郷の人間の中で最も結界術に精通しているのは霊夢だ。早苗はどうだか知らないけど妖怪の山は遠いから呼びに行く暇はない。
その霊夢でも一時的に力を抑え込むという方法しかできないのならきっとそれが最善手なのだろう。だがそれでいいのか。ルーミアだって封印が解かれただけなら俺のことを助けるほどには思考することが出来た。
奴がルーミアに何か変な事をしたせいでルーミアはこんな事になっている。今のルーミア自身は本望のように話しているが…
「だから…女性を目の前にして考え込む癖、なんとかならないの?」
「…え?」
「………まあ人間はご飯よね」
今ルーミアはなんと言った?
確かさっきの台詞はルーミアがおかしくなる前に、俺に忠告した時の言葉だ。しかもルーミアは最初に「だから…」と言った。つまり先程までの俺のやり取りを覚えている…?というか俺を俺として認識したのか…?
「ルーミアお前さっき…」
「……食料に言っても仕方ないわ!さあ、狩りの再開よ!」
そう言ってルーミアの目には狂気の色が宿る。
妖怪の、ルーミア特有の赤い目だ。
『さっき…一瞬だが狂気が飛んだ気がした』
『狂気がそう言うならそうなんだろう。なあ、またなると思うか?』
『それは分からん。だが可能性はある。特に霊夢がこのまま封印を上手くかけることができた時に狂気が抑えられて話すこともできるかもしれない』
ならばやはり耐久戦。そして今度は退治だけの選択肢ではない。
もしかしたら…可能性の一つで確率も低いものだが…ルーミアを退治せずになんとか出来るかもしれない。
ルーミアを止めるため、そして霊夢の封印の準備が整うまで…俺とルーミアの耐久戦が続く。