「あぐぅ!?」
リボン型の封印をルーミアにつけた瞬間にルーミアが変な声を出す。どうやら効いているようだ。どこまで力を抑えることが出来るのかは分からないが、この隙に気絶なりなんなりさせるとしよう…と思っていたらルーミアから弱った、でも先程までとは違うしっかりとした意思を持つ声が聞こえた。
「あ…さだ…はる…私…」
「ルーミア…?」
少し前に起きたことと同じだ。やはりこれはルーミアの意識が一時的に出ているのだと見て間違いないだろう。
ルーミアの苦しそうな声を聞いて反射的に返事をしてしまう俺を見てルーミアが弱々しく笑う。
「…私ってば…弱いわよね…こんな簡単に…意識を本能に乗っ取られるんだから…」
「ルーミアは弱くない。今だって頑張ってるじゃないか」
ルーミアは強い。それは妖怪としての能力ではなく、意識の問題だ。今も苦しみながらも俺に言葉を紡いでいる。条件反射、無意識的なものなのかもしれないが、俺にルーミアの意思は伝わっている。
しかし当の本人の意思は弱く、あまり意味のあるものになるかは分からない。
「やるなら…はやくやりなさい…消し飛ばすなりなんなり…定晴にはできるんでしょ…」
「できる、けどしない。ルーミアにも生きていて欲しいから」
「だからあなたは優しいのよ。妖怪である私にもそんな風に優しく接して…あぐっ…」
またもやルーミアが若干苦しみだす。
封印が弱まるには早すぎるんではなかろうか。霊夢が即興かつ簡易的に作ったものではあるが、霊夢は博麗の巫女だし封印自体も相当高等な部類のものだ。ルーミア用の封印とも言えるこれが高々数分で解除されるとは思えない。
「早く…しなさいって言ってるでしょ…あ、ははは…違う!…人間は…餌…違う…定晴は…餌…違う…友人…チガウ…違わない!」
どうやらルーミアの中で本能と理性がせめぎ合っているようだ。
どちらもルーミアの声である筈なのに、本能と思わしき声はどこか異質。なんとなく背筋が凍るような声というか、相手を畏怖させるような声をしている。
狂気が取り乱すほどの感情だ。相手を恐怖させることは簡単にできるのだろう。
「あなたは…私は…ルーミアよ…ただの妖怪じゃ…フフフ…ワタシハ…やめて!…ワタシニキオクガアルカラ…やめてってば!…ケシテシマエバ…嫌、いやぁ…」
ルーミアが崩れる。そしてその瞬間、ルーミアの意識が乱れ、姿勢も安定していない今、ここで…対妖怪の最終手段を取る。
【浄化】
銘はない。そもそもスペルカードですらない。
俺が元々持っている浄化能力をルーミアの中心…魂に向かって撃った。
魂というのはその存在を大きく左右させる。人間の恐怖や思念の塊である妖怪にとっては人間のものよりも大切なものとされる。
「ナニヨアナタ…定晴、続けて…ヤメテ!イタイヨ!…これは私じゃないの…ヤメテヨ!サダハル!…うるさい!」
ルーミアの本能の声がする。
本能が悪いというわけではない。妖怪にとっては、特にルーミア程の知能がない妖怪にとっては大切な判断基準であり判断方法なのである。
だが人間側からすれば問題しかない。言っても聞かず、ただ淡々と一方的に食らいついてくる妖怪。それを良しとするはずがなかった。
人間サイドである俺は人間側の判断しかできない。相手の気持ちになって、などというのは到底不可能なのである。それぞれが一個人なのであるのだから協調というのは無理なのである。
だがそれは魂レベルまで行くとそうでもない。魂というのは生きとし生ける者全てが持つものであり、その存在は変わることはない。それ故魂に直接影響すれば…もしかしたらルーミアも…
「フ、フフフ…嫌だ…フフフフ…やめて…ハハハハ!…あ、ははは…あぐ…」
「ルーミア!しっかりしろ!」
「あ、ははは!はぁ…大丈夫よ…もう、全部ね…」
先程のように苦しんでいる様子はない。しかしルーミアの声は明らかに異質。
その声を聞いているだけで不快な気持ちにさせられるというか、その声を体が拒絶しているような…とにかくルーミアの何かがおかしくなっている。
「はぁ、はぁ…そろそろ…幕引きよ…人間!」
「そうだな!」
一気に浄化の出力を上げる。
最大出力と言っても過言ではないほどの浄化。この威力では紫ですら苦しむ。だと言うのに…
「残念ね!…そんな風に浄化しても私が闇を放出する方が早いわ!」
浄化作用は俺を中心に放出されている。いわば水を流しているのと同じであり、ルーミアがその速度よりも早く闇を出してしまえば俺の浄化作用は押し戻され逆に俺がルーミアの攻撃を喰らってしまう…なんとかしなければ…そうだ。今までしたことはないが、試してみる価値がある作戦。上手くいくかは分からないが今は取り敢えず実行!
結界を使って浄化の力を封じ込める。浄化の力には物質的な質量はないが、ものとしてそこに存在している。それを遮断する結界を使う事で浄化の力すらも抑え込み封じる事ができるのだ。
そして結界という箱に包まれた浄化の力を…全力投球。
「キャア!?」
ルーミアにヒット。この結界に攻撃能力はない。しかも妖力を封じる力もないため今のルーミアのように強い力を持つ妖怪に当たればすぐに雲散霧消してしまう。
しかしそのおかげで中に入っていた浄化の力が超至近距離で解き放たれルーミアに直撃する。これは…強力だが弾幕ごっこで応用できそうだな。これが終わったらスペル名でも考えておくか。
流石に放出する闇では間に合わなかったか妖怪の弱点である浄化の力を諸に喰らいよろめくルーミア。
「…そうよ…そのまま…私の中の固まった、闇を…ヤメ、やめなさい人間!」
「さっさと元に戻してやるよ。ルーミア!」
やはりと言うべきか。今はまだルーミアの闇の部分というか、裏の部分が勝っているようだが、未だにルーミアの正気の部分は抗っているらしい。
しかしこのような魂に関わるものは魂そのものをすり減らすことになる。長引かせればその分ルーミアは精神的にも、妖怪的にも衰弱してしまうだろう。
先程の浄化はルーミア全体を対象に行った攻撃なので特別な攻撃であるわけではないが…繰り返すには芸がないしルーミアも対処できるようになってしまうだろう。
俺の結界は専ら防御に優れている。そのため多分そこら辺の妖怪ですら結界で封印したりすることはできない。しかし今のルーミアを封じることができるのはひたすら攻撃するか結界を使うしかない。
今もルーミアは自分自身と戦っているのだからできる限り手荒なことはしたくない。そこが俺の甘い部分なのだろうが、俺としてもできる限り戦闘はしたくないのが俺の思いだ。
これはいわば魂の問題…狂気になら何とかできないだろうか。
『残念ながら無理だな。ミキみたいに特殊なやつならまだしも基本的に一つの魂に別の魂を入れることはできない。それは妖怪だろうが神だろうが関係ない。今俺がお前の中にいるのも能力の影響であるのを忘れるなよ。まあ俺の場合はお前の中の狂気でもあるのだから多少特殊なのだがな』
『そうか。じゃあ俺の魂から何かしら働きかけるってことはできないのか?』
『それも無理だな。魂はそれを個体として確立されているものだ。他者からそう簡単に影響を受けるものではない。それは魂同士だとしても変わらん』
八方塞がり…今回の問題はルーミアの中の問題。俺が出る幕ではないのかもしれない。だがこのまま放置していてもいい問題ではないため無視は出来ない。
なんとかしてルーミアの力を抑える事ができれば…
『考えすぎだ。取り敢えず一つの問題に絞って解決策を探せ。そう一度に何個も対処しようとするから悩むんだろうが。一番の問題はなんだ。こいつが力を暴走させて危険な状態であることだろうが。ならまずそれを解決する方法を探せ。魂だかなんだかはその後でも問題ない…とは言い切れないが今は重要なものでもないだろ』
…やっぱり狂気には助けられてしまう。
狂気は俺みたいに現在進行形で戦闘をしながら考えているわけではない。そのため人によっては何もしてないくせになんて言いたくなるかもしれない。
だがそのお陰で俺が見えない所や考えが及ばない所まで見れていて、尚且つ客観的な意見を言う事ができるという点では俺よりもよっぽどましだろう。
狂気の言う通りだ。まずはルーミアの暴走状態を止めなければいけない。そのためにはまず何をするべきか。
気絶させるか…?いや、根本的な解決には至らないだろう。多分目を覚ますとまた暴走状態になるだろう。ルーミアが暴走する原因を取り除くか暴走しても大丈夫なまでに力を押さえつけるしかないだろう。
俺の結界ではルーミアの力を押さえつけるには不十分だ。押し返される。今ルーミアはこの中途半端な状態に維持させることができているリボンの作成者、霊夢もまだ回復した様子はない。
しかし原因が分からない。原因を探すのと力を押さえつける、どちらがはたして早いだろうか。いや、時間的な問題ではないな。どちらかと言えばどっちの方がより確実か、だな。
早苗を呼べばもしかしたら封印してくれるかもしれない。だが俺はここを離れることは出来ないし、霊夢以外にここを通る人物はいない。なんなら近くにルーミア以外の妖力も霊力も感じない。人間は普段ここを通らないことはここに住んでいる俺が知っているし、妖怪はルーミアな強力な妖力を感じて逃げでもしたのだろう。誰かが助けに来てくれる可能性は低いな。
「食らえ!」
「あぐ」
二度目の投擲。
なんとか時間稼ぎはしているが…先ほども言った通り長引かせることは出来ない。多少博麗神社に向かう人が増える昼までは持たないだろう。
その時浄化の力によってまたもやルーミアの正気の声が聞こえた。
「私を…式神に…しなさい…」