東方十能力   作:nite

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百十六話 式神の儀

式神。

身近にいる例としては紫の藍、そして藍の式神の橙。橙に至っては式神の式神という複雑な立場である。

式神は主に二つのパターンに分けられる。紙など無生物を媒体にして簡単な命令を聞かせるという方法と、生き物を媒体に高度な命令を聞かせる方法だ。前者は多少の力があればそれなりに容易に可能だが、後者は生きている者を使うため結構な技量と強さがいる。今回の…ルーミアを式神にするというのは言わずもがな後者である。

俺は式神を作ったことがない。生き物もそうだが、紙で作ったものですら式神にしたことがない。俺の身近に式神を使う人がおらずあまり意識していなかったというのもそうだし、俺の仕事の関係上複数のものを連れ立つというのが向いていなかったのも理由の一つだ。

まあ紙の式神に関しては命令を遂行したあとはただの紙に戻すことも可能だし一度くらいは経験しておくべきだったかもな。

ルーミアは何を持って式神に…いや、筋は通っている。

式神というのは多少自由があるものの、主に比較的従う。それは主からの力の制限なども同様なのである。普通は式神が戦う時に力の制限を外し、通常は式神から攻撃されたりを防ぐために多少の制限をしている。

要はそれを俺とルーミアの間で行い、ルーミアの力を俺が抑えつけることが出来れば良いのである。

だが俺にできるのだろうか。さっきも言ったが俺は紙を媒体にした式神ですら作ったことが無い。だというのに最初から生き物、しかも相当な力を持つ妖怪を式神に…全くできる気がしない。

 

「あんたなら…力は十分…」

「ルーミア…」

「早くやりなさい!」

 

叫ぶルーミア。

力は十分…か…俺は正直言って強い方だとは思っていない。負ける時は普通に負けるしルーミアにだって勝てやしない。

いわばルーミアは俺よりも格上。格上の相手を従えるというのは相当に難しいと聞く。

そもそもどうやって式神にすればいいんだ。方法が分からない。流石にルーミアだって方法は知らないだろうし、霊夢なら知っているかもしれないが気絶中。さてさてどうしたものか。

 

「お困りかな」

「なっ」

 

背後から声が聞こえ振り返る。

そこに立っているのは式神のプロフェッショナル八雲藍。自らが式神でありながらも自らもまた式神を扱い式神を扱う程度の能力とまで言われている。

確かに藍は確実に知っている。経験も何回もあるだろう。

 

「式神というワードが聞こえたので、紫様に言われて参じました。式神の儀について、でいいかな?」

「ああ、俺にできるのか?」

「可能です。ですが今はあまり時間もないようなので素早く終わらせましょう。私がルーミアの気は引いておきますので私が説明するように動いてください。いいですか」

「分かった」

 

すると一瞬のうちに俺とルーミアの間に藍が割込みルーミアの注意を引いた。全く目視できなかった。藍も相当強いのが分かるな。

俺は攻撃態勢を解き藍の言葉に集中する。

 

「方法は色々ありますが、取り敢えず力を抑えるだけですので仮契約程度にしておきましょう。紙はありますか?それに契約の陣を書きます。私の言う通りに書いていってください」

 

幻空から紙とペンを出し藍の言う通りに書き結んでいく。

俺には分からない単語の数々。そもそも日本語ですらなく象形文字のような記号が多いのだが、藍が言う通りに書いていく。どれも正しいものだとははっきり言って言えないのだが、それでもなんとか書き終えた。

 

「仮契約では普通しないのですが、今回は相手が強いのと陣が正確ではないので血を使います。ナイフのようなもので指先を切り少しだけ血を陣に垂らしてください。その時に霊力を込めるのを忘れずに」

 

ナイフは持ってないため輝剣を出して指先を切る。普通に西洋剣ではあるが、能力のおかげで多少浮かせることができるので切りすぎないように注意しながら切る。

霊力を多めに含んでいる血が陣に垂れて陣の持つ効力が強まるのを感じる。よかった、一応は陣として活用することができているようだ。

 

「そしたら契約相手のことを強く意識しながら契約文を唱えます。今回の場合は…これです!」

 

そういうと藍の方から小さい紙が飛んでくる。スキマを使って出したのだろう。

その紙には契約するときに使うのであろう文言が書かれている。何度も使われた形跡があることから紫とか藍が練習するときに使ったものなのだろう。もしかしたら橙にさせようとして使ったのかもしれない。

その紙に書かれている文字を一言一句間違えないように、ルーミアのことを意識しながら唱える。

 

「我、汝を式として認め契約を結ばん!」

「はう!?」

 

ルーミアに霊力が繋がる。妖力を持つ妖怪と霊力はあまり相性が良くないのだがなんとか繋がったようだ。しかし契約が成功した感覚がない。初めてだから分からないだけで成功しているのか?

いや、違うな。まだルーミアの力を抑えれている感覚がないしルーミアも暴れているままだ。

 

「やはりルーミアの力が強すぎるようですね。妖力は扱えますか?」

「人間である俺が妖力を持っているはずがない。当然無理だよ」

「いえ、持ってる持ってないは関係ありません。扱う事ができるのかどうかです。それともしたことがありませんか」

「ない」

「では!」

 

その時俺にとても強い妖力が当たった。

藍の妖力だ。それが俺に当たっても雲散することなく漂っている。もしかしてこれを動かせと言っているのだろうか。しかし妖怪同士だとしても相手の妖力を操ることはできない。どうしろと言うのか。

 

「簡単です。その妖力をあなたの妖力にしてしまえばいいのです」

「俺のに?」

「その妖力に書き換わらない程度にあなたの霊力を混ぜてください。丁度いい所で止まればあなたの気質を持った妖力になるはずですよ」

 

言われた通りにする。

先程から藍の言う通りにしか動いてないな。まあしょうがないのだが。

霊力を少しずつ混ぜていく。やりすぎると反発しあって消えてしまうため慎重に、ゆっくり…

妖力が、徐々に、動くようになってきた。ああ、これか。藍が言っていたのは。確かに俺自身が妖力を持っていなくとも妖力を操ることは出来るようだ。

 

「なるほど。ここまでとは…流石紫様に認められているだけはあるか…では妖力を操って同じように式神の儀を行って下さい。陣はそのままでいいので今度はその妖力を込めて血を垂らしてください」

 

もう一度指先を切る。

もし俺が剣を浮かせることができなければ片腕がない今の状態では指先を切ることすらできなかっただろう。能力に感謝である。

血を垂らすと今度は先程とは違う形で力が強まる。そして先程の言葉をもう一度読み上げる。

 

「我、汝を式として認め契約を結ばん!」

「あ…」

 

すると今度はルーミアの動きが鈍くなった。

俺の操っている妖力がルーミアと繋がり…結ばれていく。目で見えるものではないのだが、感覚として絡まっていくのが分かる。これが式神の儀か…

 

「よし!では定晴殿、ルーミアに強く命令してください。今はルーミア自身も比較的受け入れようとしているようです。ルーミアの中の別の意識が妨害できないくらい強く!」

「ルーミア、止まれ!」

「ヤメロ…ダマレ…あうう…」

 

だめだ。ルーミアの中の何かに妨害されてしまう。

もっと強く、確実に、魂に働きかけるように…

 

『手伝ってやる』

 

狂気のバックアップ。魂としての強さが高まる。

 

「式神の命令で大事なのは意志です!自分は相手より強いのだとはっきり意識してください!」

 

ルーミアは俺よりも強いのは明白だ。そのせいで俺はなんとなくルーミアに気後れしていたのかもしれない。

意志の強さ。魂の強さ。俺はそれがルーミアよりも強いのだと強く意識する。

俺は仮ではあるがルーミアの主となるのだ。強く、意志を命令に込める。

 

「ルーミア、落ち着け」

「あ…う…」

 

先程とは違い強く言いつけるのではなく優しく、だが込めた意識は先程の比ではない。

ルーミアに言い聞かせるように、ルーミアの中の何かに邪魔されないように、ルーミア自身に言う。

それのおかげかルーミアの暴走状態が収まってきた。

俺が安心しかけると藍が俺にもう一言。

 

「まだです。儀式はきちんと終わらせないといけません。ルーミアに近付いて、今度は霊力で十分です。ルーミアに自分が主なのだと意識させてあげてください。方法はなんでもいいですが、絶対自分を意識する方法でやってください」

「絶対に意識する方法…」

 

ルーミアに近付く。

暴走状態は静まり弾幕もなくなった。普通に歩いても大丈夫である。

ルーミアの前に立つ。

…絶対に意識させる方法ってなんだ?ただのタッチでは足りないと言う事なのだろうが…さて何が必要なのか。攻撃?いや、最悪逆効果になる。俺がルーミアの主であると意識させる方法。というよりは俺の霊力をルーミアに意識させる方法だな。

妖力と霊力は反発する。ただ流すだけでは足りない。

そういえば昔誰かが言っていた気がする…確か確実に相手に気持ちを伝え中にある力を流す方法。…正直気恥しいし申し訳ないが…手っ取り早く終わらせるとしよう。

 

「ルーミア」

「え…あ…」

 

意識が朦朧としているようだ。藍が意識させろと言っているのはこれが原因かもしれないな。

顔をルーミアの正面まで下げて…

 

「?!」

 

口づけをした。

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