東方十能力   作:nite

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百十七話 目覚め

経口で霊力を流す。

皮膚を介するわけではないため直接相手の中まで力が届く。昔あった人はそんなことを言っていた。

正直相手は女性だし俺も何度もキスしたことあるわけではないので気恥しい。しかしだからと言って悩んでいたら問題が長引いてしまう。元々長引かせてはいけない戦いだ。少々強引だがキスさせてもらった。

 

「さ…定晴…?」

「悪いな」

 

ルーミアが一言呟くとそのまま気絶した。

暴走の反動だろう。この様子ではしばらくは起きないだろうな。

ルーミアを抱きかかえて藍のもとに向かう。

 

「えっと…驚きました。まさかキスをするとは…」

「昔誰かが一番確実なのだと言っていたのを思い出したからさ。だめだったか?」

「いえ、その…十分というか、十分すぎるんですよ。私が渡したのは仮契約の言葉で仮契約の陣なのです。でも、キスは相手との力を強く持ちすぎる。今ルーミアは仮契約という体のまま本契約と同じだけの関係があります」

「え、まじで?」

 

なんか悪いことをしたみたいだ。

中途半端な状態にしてしまったようだ。もしかしてやり直しの必要があるのだろうか。契約には成功しているようだけど。

 

「いえ、やり直しは必要ありません。ただ…本契約をあとでしたほうがいいかもしれません。そのままではあなたにもルーミアにもメリットがありませんので」

 

とのこと。

取り敢えずは大丈夫のようだ。

ルーミアはこれでいいとして…次の問題は霊夢だな。

霊夢はもう起きたのだろうか。俺を助けようとして途中で力尽きてしまった霊夢。木の下に寝かせるようにしていたが大丈夫だろうか。ありがたいことにルーミアと俺の戦闘の影響で未だに周囲に妖怪の気配はないため襲われたということはないだろうが…

 

「では行きましょう。霊夢もルーミアも博麗神社で寝かせて置けばいいでしょう」

 

そして霊夢の元へ。

未だに霊夢は寝息を立てながら俺が離れた時と同じ姿勢で寝ていた。俺はルーミアを抱いているので霊夢の方は藍に任せて博麗神社に向かう。

その道中…

 

「にしても藍たちはずっと俺たちの様子を見ていたのか?」

「ルーミアが暴走状態になってからですね。突如妖力が大きくなりましたから私達でも気が付いたんです」

「じゃあ俺の家を壊したやつのことは分からないか」

「すみませんが…家の方は紫様に言えばなんとかしてくれると思いますので後で伝えておきます」

「ああ、助かる」

 

そもそもルーミアがここまで苦しむことになったのはあいつが原因だ。

あいつが変なことをしたせいでルーミアは暴走状態になった。それは明白だ。

俺たちの戦闘を見ていたのだろうか。だが奴は自分も敵対されると判断して逃げた。ということは既に遠くまで行ってしまったのだろうか。幻想郷は広いわけではないが狭いということはない。捜し出すのは骨が折れるだろう。

博麗神社に着き裏に回る。ここにいつも霊夢や萃香が寝ている場所がある。

今日は生憎あうんも萃香もいなかったようだ。あうんは守ることが役目だろうにどこに行っているのだろうか。

 

「ここに寝かせておきましょう。ルーミアは隣の部屋でお願いします」

「分かった」

 

扉を開けて隣の部屋へ。

布団を敷いてルーミアを寝かせる。妖力は随分と減っているし狂気が言うには結構魂も衰弱してしまっているようだが、顔色はいい。妖力が安定すれば目を覚ますだろうとのこと。

 

「私は一度報告のために紫様のもとに帰ります。その時定晴殿のことも伝えておきますので依頼報告はしなくて大丈夫です。今は二人の傍にいてください。多分厨房などは自由に使っていいと思います」

 

そう言って藍はスキマを開いて帰ってしまった。

そういえば俺は朝食を食べていなかったな。朝食を食べようとしたらルーミアに話しかけられそのままやつが現れて腕を失いルーミアとの戦闘になった。

意識したら腹が減ってきたな。幻空の中に非常食を少しいれている。後で霊夢には食材を返すことを心に誓い博麗神社の厨房を使う事にした。

 


 

…ここはどこだろう。

確か定晴と話して、そのあと私の中の憎悪が私の意識を奪おうとして…そして…

っ!!!

意識したら、なんというか恥ずかしい。あそこで記憶がなくなっていたら楽なのに私の頑丈な妖怪の体はそんなことはなく、その時のことを鮮明に思い出せる。

奪われた…ファーストキス。

別に私は人間と違ってそういった感情に振り回されることはない、と思っていた。のに、意識すればするほどドキドキして、体は火照っていくのを感じる。悪い兆候だ。妖怪である私が人間相手に特別な感情を抱くなんて…

いや、でも今彼は私にとって特別な関係にある。主と式神、か。まさか私が式神に、しかも人間の式神になるなんて思ってなかったけど…意識すれば定晴との関係が分かる。

う~ん…この霊力と妖力が混ざり合ってる特殊な力の糸は私の主が近くにいることを物語っている。そういえばいい匂いがするな…料理中だろうか。

そういえば私の封印はどうなったのだろうか。リボンは付けられたけど、私でも分かるくらいあの封印術では不足していた。多分霊夢だと力不足だったのだろう。まあ幻想郷の人間の中で最強と言われているけどあれでもまだ少女だ。妖怪からすれば些細な時間しか過ごしていない。故に経験が足りなかったのだろうけど。

…そろそろ目を開けるかな。気分的にはまだまだ寝ていた気分だけどそもそもあまり睡眠を必要としない妖怪だ。一度起きてしまえば二度寝をするなんてのは難しい。諦めてゆっくり目を開けていく。

ここは…博麗神社かな。そういえばご主人様の家は吹き飛んだったのだと思い出す。ん?今変な感覚がしたな。まあいいか。

そのままゆっくり体を起こす。そして周囲を見渡す。どうやら私は博麗神社の一部屋で寝かされていたようだ。このとてつもなく綺麗に敷かれている布団。犯人は確実にご主人様。あれ、いや、そんなはずはない。

私が起きたのに気が付いたのか部屋の扉が開いて…

 

「ルーミア、起きたのか」

「ええ、ご主人様」

 

あ。

…私今素でご主人様って呼んだわよね。私式神の儀にここまで影響があるなんて知らないんだけど。そういえばさっきから意識の中でもそう呼んでいる気がする。

なんとかしないと、他の人がいるまで呼びそう。

 


 

ルーミアの部屋から物音が聞こえたので様子を見にいったらやはり目を覚ましていた。流石妖怪だな。まだ俺の料理も完成していないというのに目覚めてしまった。

しかし俺はその後に驚くことになる。

それは俺がルーミアに声をかけたとき。

 

「ルーミア、起きたのか」

「ええ、ご主人様」

 

ご主人様…?

いや、確かに式神からすれば俺は主なのだから関係的には不思議ではない。しかしルーミアは今までずっと俺のことを名前で呼び捨てにしていた。

それが突然ご主人様に変わるなんてことあるだろうか。別に俺は何も命令していない。命令したのはルーミアを落ち着かせたあれ一度きりだ。

どうやらルーミア自身も驚いているようでご主人様のまの形で口が固定されている。本人が意識していないというのに呼び方が変わるなんて随分とおかしな話だ。

 

「…忘れなさい。意識してないとそう呼んじゃうってだけよ」

「あ、ああ」

 

なんとも言えない沈黙。

聞こえるのは先程まで俺は料理していたものの煮る音だけであり…ん?

 

「やっべ」

 

急いで火を止める。

煮過ぎてしまうところだった。もう既に昼前の今では朝食にしては足りないと判断し、幻空の中にあった肉を神社にあった調味料を使って煮ていたのだ。そこにじゃがいもをいれて…肉じゃがだ。

一応俺、ルーミア、霊夢の分を作った。見た感じ霊夢はまだ起きていないようだし先にルーミアと俺で食べてしまうか。食べるかな。

 

「頂くわ」

「了解した」

 

皿に盛りつけて二人分を準備する。

どうにも式神と主という関係になったせいかルーミアと二人きりだと落ち着かなくなってしまった。

もしかしたら先程ルーミアにご主人様と呼ばれたのも原因かもしれないな。忘れろと言われたが衝撃的過ぎてしばらくは忘れられそうにない。

 

「いただきます」

「……いただきます」

 

俺が言ったあと一拍遅れて言うルーミア。やはりルーミアにも気まずさみたいなのがあるのだろうか。

黙々と、食器と食器が触れ合う音のみが響きその他は静寂が広がる。

なんとか場を持たせないといけないな。この空気は俺が苦手なやつだ。まあこの空気が好きな人なんてそこまで多くないだろうけどな。

 

「体は大丈夫か?」

「ええ、なんともないわ。そもそも貴方が優しくしてくれたおかげで身体的にはそ損傷はほとんどないからね」

「精神的な面ではどうだ?」

「まだぐちゃぐちゃしてる…けど今は貴方が抑えてくれてるから大丈夫…」

 

そこまで言うと何かを口ごもるルーミア。

まだ何か問題があるのだろうか。精神的な部分は他者から見て分かるようなものじゃないので言ってくれないと分からないのだが…と思っていたらルーミアが口を開いた。

 

「…その、ありがとね。助けてくれて」

「そんな、これは依頼だ」

「じゃあ依頼じゃなかったら?」

「その時は私情で助けてるよ」

「…やっぱりお人よしじゃない。そんな風に言われると私も勘違いするわよ?」

 

勘違い?なんのことだろう。

それに俺はお人よしではない。必要のないことは基本的にしないからな。したいことをするだけだ。

その後は無言の時間が続き、食べ終わる。その間も霊夢は目を覚まさなかった。再生の能力はかけたから傷はふさがっているはずだが、相当疲れていたのだろう。無理をさせてしまったな。

 

「それでルーミアはこれからどうするんだ」

「そうね…取り敢えず力の封印をしないとね。妖力消費多いし何より今までみたいに気軽に人里に入れないじゃない」

「じゃあリボンがいるのか。前に使っていたのはどうしたんだ?」

「封印を解かれたときに朽ちちゃった」

 

まあルーミアも相当昔から生きている妖怪のようだし、ずっと封印の形をとって保っていたのだろう。封印が解けて役目が終わったら流石にリボンも朽ちるか。

だがだとすればどうすればいいのだろうか。幻想郷のどこかにはルーミアの力を再封印することができる人がいるのだろうか。

 

「そのことなんだけどね…定晴にやってもらえないかしら」

「俺に?俺は封印なんてできないぞ」

「いえ、私の…ご、ご主人様なんだからできるはずよ。私の力を抑えている今の状態を強くしてリボンに込めればいい筈」

 

今は俺が直接ルーミアに力の一部を流して落ち着かせている。きっと俺の命令の効果もあるのだろうが、この力が途切れたらどうなるか分からない。だからその役目をリボンにさせるということか。

できるか分からないけど、一度やってみるか。

 

「じゃあお願いね」

「おう、任せろ」

 

そしてその日からルーミアの頭には今までとは違う、少し柄がかわいらしくなったリボンが付くようになった。因みにこのリボンはルーミア自身でも触ることができる。そのため着脱可能であり、やろうと思えば力を開放した大人モードに任意でなれるということ。

周囲から見た感じの感想は「ルーミアがあのリボンを触ったりしているときはどことなく嬉しそう」だそうだ。勿論それは定晴もルーミアも知らない。

 


 

「なんだ、どっちも倒れなかったのかよ。堀内の力が増しただけ…やっぱりしばらくは表に出ない方が良さそうって事だね」

 




式編、終
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