東方十能力   作:nite

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百二十話 三途の川

ルーミアに腕を引かれながら歩く。

地面はお世辞にも整えられているとは言えないためこの状態だと歩きにくいのだが、俺が拒絶するとルーミアがショックを受けそうだからずっと言えないでいる。

歩くこと十分程度、とうとう川が見えてきた。

 

「ここか?」

「ええ。ここが三途の川よ」

 

三途の川。

死後訪れる場所として死神が幽霊となった死者たちを彼岸へと運ぶ場所。長さはその者が生前にしたことや得たものを総合して決まり、悪いことをした者はその分長く運ばれることになる。

当然だが対岸は見えない。霧なのだろうか、川の上は微妙に見えにくくなっているためどういう原理で川の長さが変わるのかもわからない。

 

「死神ってのも実体を持ってるのか?」

「そうねぇ…多分聞いた話だとそこらへんに…いた」

 

ルーミアが指を刺した先には人影。どうやら岩の上で寝ているようだ。

まさかあれが死神だとでもいうのだろうか。あそこまで無防備で寝ているので全くと言っていいほど死神としての風格がない。

強いて言うならば岩に鎌が立てかけており、死神ってやっぱり鎌を持ってるかとか思っていたらルーミアが岩に近付く。

 

「あ、定晴ー」

「ん?」

「今から起こすから話は定晴がしてね」

 

俺が返事をする前にルーミアは妖力弾を寝ている人物にぶつける。

それって起していいやつなのか?体調が悪いとか休憩時間であるという可能性はないのだろうか。ただルーミアがまたかみたいな顔をしているのに少々引っかかるが。

妖力弾によって叩き起こされた人はそのまま周囲を焦って見渡す。

 

「はいはい!四季さま!寝てないですよ!寝てない…あれ?確か…ルーミアとか言ったっけ?なんでこんなところにいるんだい?」

「私じゃなくて定晴なのだー」

 

一瞬にしてルーミアが口調を変える。手慣れたもんだな。

ルーミアに対して関心していたら寝ていた彼女が俺の方に近付いてくる。

 

「あんた、人間かい?まさか自殺かい!?やめときな、ここで死ぬとめんど…後々厄介だからさ」

「別に自殺じゃない。というか今面倒って言わなかったか」

「言ってない」

 

赤い髪に青い服を着た女性。

結構身長は高め。外の世界でイメージされている死神とは似ても似つかないが、鎌の扱い慣れてる感じは多分彼女が死神なのだろう。

 

「今適当に幻想郷を見ててな。三途の川はまだ来てなかったから来ただけだ。俺は堀内定晴。外来人だ」

「あたいは小野塚小町。死神だよ」

 

やはり死神か…なんというか面と向かって死神だって言われても実感が湧かないものだな。俺が死んだわけではないからかもしれないが。

そういえばさっき起きた時に気になることを言っていたな。聞いてみるか。

 

「さっき四季様って言ってたよな。それって映姫のことか?」

「おや、四季様を知ってるのかい。そうだよ四季様はあたいの上司なんだ。今頃彼岸で死者を裁いてるんじゃないかねぇ」

「小町は何してたんだ?休憩時間なのか?」

「そうさ。仕事が一段落着いたからね…」

「何を言っているのですか小町」

 

高い声がして小町の後ろを見るとそこには小町の上司、四季映姫の姿が。

いつもの帽子を被り板を持っている。そういえばこの板の名称をまだ聞いていなかったな。何か特別な意味があるものなのだろうか。

映姫は怒ったような…というか完全に怒っている表情で小町を睨みつけている。

 

「小町、あなたは何をしているのですか。あなたの仕事は寝る事でも嘘をつくことでもなく、霊をこちらに運ぶことです」

「あたいは定晴に話掛けられてやむを得ず話しているわけで…」

「話は聞いていましたよ。貴女、寝ていたとかいうじゃないですか。どういうことでしょうね?」

「あ、ははは…」

 

残念だが全て聞かれていたようだ。

映姫は小町が仕事をせずに休んでいたことにご立腹のようだ。小町の仕事が滞れば映姫の仕事にも支障が出るためこうして気が付いて叱りに来たのだろう。

 

「まあ貴女の処遇は後に決めます。早く仕事に戻りなさい!」

「はいぃぃ!」

 

小町が若干涙目になりながら川の方へ走っていく。

映姫はというと俺の方を向いて話し始める。

 

「さて、貴方はこんなところで何してるんですか?」

「ちょっとした幻想郷巡りだよ」

「ほう。あら?」

 

そう言ってルーミアを見る。

俺が振り返ってルーミアを見るとバツが悪そうな顔をしている。何かあったのだろうか。

暫くルーミアを凝視していた映姫だったがその後俺の方へ向き直り話す。

 

「どうやら…式神にでもなったのでしょうか」

 

まさかの映姫にバレてしまった。

普通は相手を見ただけでは式神かどうかが分からないはずだ。藍や霊夢などその方向にそれなりに知識のある人であれば多少見分けを付ける事ができるらしいが、映姫が式神の知識を得ているとは思えない。力の波長でも読み取ったのだろうか。

因みに俺は分からない方の人間だ。ルーミアと一度契約したにせよ流石に分からない。そもそも藍が言っていた本契約というのをまだしていない。方法すら知らないのだが、どうやらこれにはルーミア自身もいろいろ準備があるらしく、ルーミアだけは藍に方法を教えてもらっているらしい。

 

「私は人々を裁いているのです。多少の力の繋がりならわかるんです」

「なんだ。そういうことか。てっきり映姫が式神でも作ったのかと…」

「閻魔は式神を作れないのです。力の質が違いすぎるのでね」

 

そういえばそうか。

ルーミアと契約するときも力が合わなくて藍に妖力を一部を譲ってもらったのだった。それなりに妖怪との接点が多い人間の霊力ですらあまり合わないというのに映姫のような特殊な力が他の種族に合っているとも思えない。

そういえば俺に合わせた妖力ってどうなったんだ?

 

『知らねえのか?ルーミアと契約した影響で常に一定量保持するようになったぞ』

『え?まじで?』

『定晴自身は妖力を生み出せないがルーミアから一部供給してもらってる感じだな。だが本契約ではないせいか供給が不安定だな』

 

ということは俺は今妖力を扱えるということなのか?

ルーミアの力を抑えているだけの契約であるはずだが、藍が言ったとおりキスがいけなかったということか。

狂気と話していたら映姫に変な目で見られた。

 

「まあ…貴方は不思議な人ですね。まあ観光目的で来たというのであれば軽く説明してあげても構いません。小町の仕事の邪魔をされるよりましです」

「お、おう」

 

とても申し訳ない感じがする。

小町と話したのは流れだったし元々小町が寝ていたのが問題なのであって、それを起こした俺達に非は無いはずだ。強いて言えば小町と一切話さずに仕事へ送り出すことだったのかもしれないが、小町と会ったのは初めてだし三途の川に来ること自体初めてな俺に察しろと言うのは少々酷ではないか。

 

「三途の川は見ての通り死神の職場と言っても構いません。死後霊魂だけとなった者たちを裁くために彼岸へ運ぶのですが、その要所がここです。なので先程のように死神が仕事をサボっているとそれがそのまま我々閻魔の仕事に影響します。彼岸は我々閻魔の職場です。その者が生前どんなことをしたのかによって死後の行く末が決まります。大体は冥界に行ってもらって次の転生を待つのですが、生前多くの罪を犯したものは暫く地獄に行き労働してもらいます。地獄もいいところですよ?労働内容はそれなりに大変ですが、労働環境はいいですしきちんと罪を償えば転生することができます。あ、因みにですがこの川の幅はその人によってまちまちなのですが、たまに死神に突き落とされる魂があって…まあ相当な罪人だけですけどね。この川は浮力が発生しないので気を付けてくださいね、落ちたら上がれないので」

 

早口で説明する映姫。

なんかところどころ不穏な単語が混ざっていたりもしたが、大体説明は分かった。流石日頃色んな人に説教して回っているだけあるな。説明が分かりやすい。

 

「まあ概要は以上です。質問は?ない?それならいいのです。ここは特に面白いのもないので他の所がいいですよ?例えば…命蓮寺にでも行ってみてはいかがですかね。それでは私は仕事に戻ります。それでは」

 

質問を聞いておきながら返事を聞かないというのはどういうことなのだろう。それだけ急いでいるってことなのかな。

俺に一通り説明し終えるとさっさと三途の川を超えて戻っていった。

命蓮寺か…そういえば人里にそんな建物があったとかなんとか聞いたことある気がするな…

なんとなくこれ以上お前はここにいるなと暗に言われたような気がして居心地が悪いので離れることにしよう。

 

「ルーミア、行くぞ」

「…まさか閻魔にばれるなんて思わなかったぁ…」

 

ルーミアはルーミアで緊張していたようだ。

俺も吃驚したし、多分まだ映姫には凄い力があるに違いない。

その映姫が言った命蓮寺。日はまだ高いしこのまま行ってしまうことにした。

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