ごしゅ…定晴が妖夢と一緒に修行を始めた。
妖夢は二刀流で戦う剣士。能力も剣術を扱うというもの。弾幕ごっこが決闘方法として主流の幻想郷で近接の剣術なんてあまり強くないと思ってたけど、定晴の戦い方を見て剣術もなめれるものではないと知った。
そもそも定晴は剣で弾幕を切るということを平然としているが、普通はそんなことできない。弾幕というのは高密度の力の塊であり、切る場所やタイミングを間違えると爆発する。それを平然とやってのける定晴は化け物だと言えるかもしれない。
妖夢はまだそこまでいけないようだが、もし同じように剣で切り裂くことができるようになれば…遠い話でも無いだろう。
見ると定晴は結構細かいところまで正確に注意しているのがわかる。何を言っているのか妖力で戦う派の私には分からないが、まあ大方体の動かし方だろう。言われたとおりに動けるようになればいつかは…それに妖夢は自分自身が置いた弾幕であれば切れるらしい。あくまでそういう噂を聞いただけだけど、あの剣の説明をされると大概切れぬものはほとんど無い、みたいなことを言われる。弾幕がそのほとんどの中に入っているかは不明だが。
…はっ。
だめだめ。何見惚れてるのよ。
キスをされてから変に意識するようになってしまった私は定晴の前だと妙にドキドキしてしまうようになってしまった。
流石に私は人里で売ってる少女向けの小説のように分からないわけじゃない。伊達に何年も生きてるわけじゃない。ここまでドキドキしたのは生まれて初めてだけど。
これは恋だ。いや、式神になって、キスをされたから衝動的なものでいつかは元に戻るのかもしれないけど。
私は普通の少女のように恋をしている。人間は食料であって、また美味しい料理を出してくれるだけの生物だと思っていたのだけど…
あの私の封印を解いた奴に感情をグチャグチャにされて、他の生物を下等生物にしか感じなくなった時。定晴は私のことを必死に助けようとしてくれた。今でこそ再生しているけど、当時は左腕を無くしていたはずだ。だというのに…
そのせいか暴走状態の私の思考の中にもスッと入ってきた。定晴の能力に浄化や結界があったのも功を奏したのかもしれないけど、定晴のことはちゃんと認識できた。
私があの日の朝、定晴のところに行ったのはほんの気まぐれだ。定晴は謙遜しているけど、正直私より定晴の方が何倍も強い。そんな相手と真っ向勝負したところで負けるのは目に見えている。最悪殺される可能性もあったので戦わないように言いに行ったのだけど…こう、その後好きになってしまったら、まるで好きな人とは戦いたくなかったみたいになってしまう。
違うのだ。あの時は料理上手な人間としか思っていなかった。宴会の時に食べる紅魔館のメイドの料理に負けず劣らずの味を常に提供してくれるので信頼をしていたのは事実だけど、感覚としては博麗の巫女と同じくらいにしか思っていなかった。のに…のに…
…あまり考えないことにしよう。定晴のことを考えると変にドキドキして熱くなってしまう。私は妖怪だ。人間と結ばれるなんて…あれ、でも慧音先生とか香霖堂の店主って半人半妖で…ということはその親は人間と妖怪が結ばれていて…つまり私と定晴が結ばれても問題はないということで…ってだめだめ。考えないって決めた傍から考えてどうするのよ。却下よ却下。
あ、定晴と妖夢が模擬戦を始めた。
定晴って色々と美しいよねぇ…これは好きになる前から思っていたことだったけど。
いつぞやのチルノ対定晴の時も、先日の私と戦った時も、定晴は綺麗な戦いをしている。なんとなく演舞を見ているような気持ちになるのもそれが原因だろう。
鬼のように多少の被弾でも怯まずに突っ込んでくるわけではなく、魔法使いのように遠くからチマチマと陰湿に攻撃するわけでもなく、弾幕を避けつつ攻撃をする。
その点で言えば弾幕ごっこにおける戦い方は霊夢や魔理沙みたいな異変解決組と似ているだろう。弾幕を避け、相手が倒れるまで、またはスペルの時間が切れるまで自分の攻撃を撃ち続ける。
弾幕ごっこは元よりその美しさを競う決闘方法だ。その判断基準は一般的には弾幕に向けられているが、私はその弾幕を張る人自身の美しさも必要なのではないかと思う。
「おーいルーミア。そこにいても暇だろ?少し手伝ってくれ」
「ん、分かったのだー」
妖夢がいるので幼少モードで話す。
定晴がいなければ意識せずとも話せることが多いのだが、どうしても定晴の前だと気が緩んでしまって意識しないと普通の口調で話してしまいそうになる。
どうやら私と妖夢の模擬戦らしい。といっても普通に勝負するわけではなく、私が一方的に弾幕を張り妖夢がそれを避けていくというもの。剣術の構えを戦闘中でも崩さないようにするためらしい。
適当に弾幕をばら撒く。それを妖夢が剣で捌いたり転がったりして避けていく。少し意地悪で軌道を描くように撃つと妖夢が反応出来ずに被弾。
まだまだね。これくらいなら余裕で避けてくれないとやりがいも無いというもの。
何度か繰り返したら私は下げられ定晴の指導が再開される。
意識しているわけではないのだけど、何故か定晴を目で追ってしまう。だめだめ、こんな分かりやすい恋なんて私らしくないわ。
ただ、話を聞くところによると定晴って結構鈍感らしいのよね。どうやら過去の出来事がきっかけで自分に向けられている好意に気付けないらしいけど、あまりその辺の話は知らない。いつか定晴自身の口から聞いてみたいところだけど。
最近私が同居するようになって定晴と会話することも増えた。そのお陰でそれなりに定晴については知っている。
なんで私が同棲しているかと言うと、それは…その…一緒に…あーだめ。心の中ですら言えないわ。いつか直接、なんて思うけど少なくとも今の状態じゃ無理ね。恋に振り回されている今じゃ。
ただ説明する分には問題ない。本命は、出来るだけ近くに…っていうのだけど、他にもご飯を調達しなくてもいいとか、毎晩ベッドで寝れるとか、衛生面での問題を気にしなくてもいいとか利点はいっぱいだ。
周囲から見れば私が定晴と一緒にいるのは不思議だろうけど、そこはもう妥協するしかないわね。なんとか誤魔化して、少なくとも絶対にあの文屋には見つからないようにして生活するほかない。
多分しばらくすれば慣れる。もしくはこの感情がなくなる。今までこんな想いを持ったことがない私が人間相手に恋だなんて、そこらへんの妖怪に聞けば愚かだなんて言われるでしょうね。多分私もその立場だったら同じように言うだろうし。
ただいざ自分が言われる立場になると言われても良いみたいに思ってしまう。というのも、やたらと私は今幸福なのだ。
日々色んな刺激に触れ、食事は美味しく、睡眠もばっちり。風呂に入ろうと思えば入れるし、読む本だってある。何より好きな人といられる。ここまで幸せなことはないだろう。
まあ正直に言うと妖怪の私に睡眠だとかは必要ないし、一番お腹が膨れるのは人間を喰らうか驚かすかした時なので前半分はあまり意味がない。風呂は気持ちいいし本だって多少読むからそちらはいいのだけど。
やはり一番大きいのは…定晴と…ご主人様と…一緒に…こんな人を食べられるわけがない。というか式神である私に主を食べるなんてできるはずが無いのだけど、それ以上に好きな人を食べれるほど私は無感情ではない。なんなら好きな人は出来るだけ一緒いたいと思う方だ。
ただ定晴は私の式神化は不可抗力だったから、封印出来るとなれば式神解除しちゃうんだろうなぁ…あ、だめ。なんか悲しくなってきた。まだそんな話は聞かないし確定したわけでもないのに変にシュンとしてしまう。
捨てられる、という表現は適切ではないのかもしれないけど…捨てられないようにしないと。自慢ではないけど、封印解除した私はそれなりに強い。闇を操る能力は定晴みたいに浄化能力を使える人に対しては滅法弱いけど、その力を持たない相手なら相当いい勝負ができると自負している。
大丈夫よ、私。戦闘に役立つと知れば定晴だって私を式神のままでいさせてくれるはずだわ。式神になると主から力の供給がある代わりに色々と面倒なことがあって、並の妖怪なら解除して欲しいと願うはずなのに。どうしてこうも私は定晴の式神でいたいのか。式神でなくとも定晴にアプローチしたりはできるというのに。
まあ理由は純粋に定晴とのつながりが消えるということに対する恐怖心なのだけどね。今は定晴に惚れてるのでこれに関しては今のままだと進展は無さそうだ。
あ、修行が一段落着いたみたい。奥から幽々子が現れる。その手に持つのは団子…おやつだ!