さて、今日の目的地は紅魔館。魔力の扱いをパチュリーに教わりに行くのだ。というのも、パチュリーから借りた本は内容こそ理解出来るが、実際やるとなれば剣術ならまだしも魔術の方はからっきし実践できなかった。俺の経験不足だろうとのことで本を返しに行った時に約束してもらったのだ。
魔理沙に何度も盗まれていたせいか俺が本を返すというだけで少し機嫌が良さそうだったのも約束してくれた理由の一つかもしれない。
本日ルーミアはチルノと遊ぶらしいので不在。なんでも最近は氷鬼が流行っているらしく、チルノが鬼でタッチされてなくともチルノの射程圏内に入ったら凍らされるという理不尽な鬼ごっこらしい。子供らしい遊びをしてほしいものだ。いや、これも子供らしいと言えば子供らしいのか…?
それはともかく、今日の俺は一人で目的地に向かう。最近はルーミアが一緒にいることが多いので一人でいるこの感覚は久し振りだ。外の世界では基本的に一人で毎日過ごしてたから常に騒がしい幻想郷に慣れるとなんだか寂しく感じる。
霧の湖を飛ぶこと数分。いつもの真っ赤な館が湖の畔に現れる。門の前に降りて門番に挨拶する。門を超えていくと魔理沙に間違えられて攻撃されることがあるらしいとは霊夢の談。
さて、ではその肝心の門番はと言うと…
「…むにゃ…」
「寝てる…」
知ってた。
そもそも惰眠異変の時に寝ていたのはいつものことが続いていただけであり、異変が終わろうともこの門番は起きることはないのである。今日は紅魔館に来ることを前もって連絡しているので、それを待つために起きているかなとも思っていたけど、俺の期待はあえなく粉砕されたのであった。
さて、正直連絡はしているし紅魔館の連中とは全員と面識があるので無視しても問題はないだろうけど…多分そろそろ俺が来た事を確認して銀の…
「みぎゃああああ!」
…ナイフが美鈴の頭に刺さった。
妖怪であってもナイフが頭に刺さるのは間違いなく致命傷。それを何度もされているのに生きているので美鈴は強い妖怪であると認識せざるをえないが、ナイフを刺した張本人は人間なのであるのだから力の関係図はどうなっているのか分からない。
「はぁ…いつもいつも駄門番が申し訳ありません。次寝ていたら定晴様も容赦なく頭に輝剣なり浄化魔法なりぶつけて構いませんので…」
「流石にそこまでの勇気はない」
美鈴なら大丈夫だろうが、無抵抗の妖怪を攻撃するのは何でも屋で妖怪を何度も退治している身であっても気が引ける。
さて、美鈴を起こしながら瀟洒に登場したのは十六夜咲夜。やはり信頼すべきはメイド長であるか。正直毎度毎度寝ている門番を置いといて意味はあるのかと思うが、まあずっとここに配属されているのならそれなりに功績でもあるのだろう。もしかしたら左遷の可能性もあるが。
「いらっしゃいませ定晴様。準備はできてますのでご自由にお入りください。私はこの問番の問題をこってりと説きますので」
いつものことなので突っ込まない。
紅魔館からすれば俺は信頼できる相手なのか、最初こそ咲夜に案内されたが最近は俺は一人で館に入り、咲夜は美鈴を叱るという構図ができあがっていた。
俺もそれに慣れて美しく整えられた庭を横目に見つつ館に入る。と同時に腹に衝撃が走る。
「お兄様ー!」
言わずもがなフランだ。
フランは必ず一回はどこからともなく俺の腹部に向かって高速で突っ込んでくる。問題はそれがいつどこからなのかが分からないことだ。そのせいで館の扉を開ける前からフランが突っ込んでくるまでずっと身体強化をかけていなくてはならない。
唯一の安心点はフランが庭で突っ込んでくることがないということだ。庭はあまり影がないし、日傘を持っていると俺にバレるため庭ではしないことに決めているそうで、身体強化は館の扉を開ける直前で良い。どのみち持続させ続ける必要があるので正直あまり大きな差はないが。
「はぁ、フラン。今日定晴が来たのはフランと遊ぶためじゃなくてパチェに魔術を教えてもらうためよ。離れなさい」
そして階段を下りてくるレミリア。
レミリアは階段を下りながら話すという構図が気に入っているのか分からないが、俺が来ると必ず入ったタイミングで階段を下りながら話しかけてくる。まさか俺が来るまで階段の脇で隠れているとは思えないし、咲夜に俺が来た事を教えてもらったら急いで階段の近くで待ち伏せているのだろうか。そう考えるとなんだか笑えて…笑うとレミリアからグングニルが飛んでくるので笑わないが。
フランも前もって今日の俺の目的は知っていたはずだが、それでも文句を言うフラン。
「パチュリーずるい!」
「あなたはいつも遊んでもらってるじゃない!今日くらい我慢しなさい」
「定晴は私と遊ぶのー!」
なんというか子供っぽい部分が抜けきらないのがフランの特徴だ。
レミリアとは五歳しか変わらないのにここまで性格に差があるのはなぜなのだろう。狂気の影響なのか…しかし狂気は俺が払ったはずだし…少しだけまだ残っている?…いや、だがそんな素振りは…
どれも憶測の域を超えないし、本人に訊いても分かることではないだろうから保留。
取り敢えずフランのご機嫌取りのためのスイーツを渡そう。
「ほら、フランとレミリアにスイーツを作ってきたから落ち着け」
「わーい!これは…?」
「どら焼きだ。あんこ以外にもクリームだとかフルーツだとか色々な味がある。二人が食べられないものは咲夜とか美鈴にあげてくれ。その分多く作ってるから」
どら焼きなんて作るのは初めてだったが、なんとか能力やら人里の人の協力を借りて作ることができた。一応何度か挑戦して美味しくできるようにはなったので満足してもらえるだろう。因みにあまり美味しくできなかった試作品の数々は問答無用でミキの腹の中に叩きこんだ。
どら焼きの入った袋を受け取ったフランがレミリアの元にかけていく。
「お姉さまー!青い狸貰ったー!」
「どら焼きでしょ」
なぜそれを知っている。
まさか幻想郷にもドラ〇もんが流れ込んで…外の世界で忘れ去られたわけではなかろうな。きっと香霖堂とかに偶々紛れ込んだのだろう。青い狸が忘れ去られたとしたらそれなりに大問題だ。
レミリアが袋の中を確認して満足そうに微笑むと俺に向かってお礼と共に案内をしてくれる。
「いつもありがとね。あまり日本のものは食べないからこういうのはフランにもいい刺激になるわ。パチェは魔術訓練のために裏庭にいるわ。そこらへんに小悪魔がいるはずだから案内してもらいなさい」
「分かったありがとう」
フランの意識は既にどら焼きに移動したようで、特に邪魔されることなく進む。
レミリアが言う通り近くに小悪魔を見つけたので案内されながら進む。
そして連れてこられたのは裏庭。そこには既にパチュリーが大きな魔方陣を書いて待機していた。
「定晴さん。これから魔術適正を見させてもらうわね」
どうやら教練の前に診断をするらしい。