昼間の喧騒はなんだったのかというほどに静かになった夜の街。時間は深夜…丑三つ時。飲み屋街であればまだ活気もあるだろうが、今回の目的地はそこではない。どちらかと言えば誰もいない、近寄らない場所が目的だ。
ルーミアに能力を使ってもらいながら俺も風の能力や身体強化の能力を使って捜索する。ここで必要なのは捜索対象にできるだけ勘づかれないようにすることである。最終的には話し合いをすることになるが、拉致というわけにはいかない。いや、紫であれば拉致して連れてくるのだろうが。
未成年の少女、無能力者、辛い経験があって消えたいと思っている。二つ目に関しては外の世界で当たることなどほとんどないだろうから心配していないが、そも見つけることができていないので心配をする以前の問題だったりする。
「いたか?」
「…あっち」
そういってルーミアが路地裏の奥を指さす。
そこには弱弱しくも確かに霊力を感じた。どうやらこの先に誰かがいるようだ。ルーミアに訊いてみたところ少女だったという。今は蹲って寝ているらしいから近寄るにはチャンスだと言うが…
ルーミアと目を合わせて合図し奥へと進む。そこは都会の中なのかと問いたくなるほど暗く静かな場所だった。誰も存在に気付いていないのかゴミすら落ちておらず、その雰囲気は一人でいれば気分も落ち込んでいたことだろう。俺は森の中や洞窟などで依頼を受けていたので慣れているけど都会の人々にとっては正真正銘未知の領域と言っても過言ではないだろう。
ルーミアに案内されるまま暗い道を進む。魔術でほのかに明るい魔力弾を生み出して更に奥へ。ここはビルが密集している場所のようでさながら迷路のようでもあった。確かにここならば警察から逃げることもできるだろう。
歩くこと数分、見つけた。ビルの側壁に背を預けるようにして体操座りの姿勢で顔を埋めて寝ている。しかし、あれは警戒している。雰囲気、霊力の動き、環境、様々な面から見たところあの少女は寝てはいるが何かあれば、近くに誰かが近づけばすぐに逃げ出せるようにしている。その証拠にとても見えにくいが細くて透明な糸が地面スレスレの所に張ってある。ここからは見えないがその先端は音が鳴る装置が付いているのだろう。
どうしたものか。見た目からすれば十歳前後、能力者かは分からないが外の世界で能力者など稀有なので問題ないだろう。経験については聞くしかない。三つ目の条件である感情の部分は拉致しても分からない部分でもある。俺が問答無用に拉致をするような性格じゃないと分かって紫はこの条件を付けくわえたのだろうか。紫が外の世界の人間に向き合う、なんてことはないだろうからな。
「どうする」
「…私が向こう側に行って逃げられないようにするからご主人様はこっちから」
「了解」
小声で作戦会議、ものの数秒で完了。
ルーミアが頭上を通って向こう側に行ったのを確認したあとに俺が透明の糸を超える。多分近付くだけでも起きる。慎重に、慎重に…
少女まであと数メートルというところでとうとう少女が起きた。顔をあげて俺の方を見るとすぐさま起き上がり反対側に逃げ出す。その動きは今までも何度もそうしてきたように手慣れたものだった。
少女は前方にルーミアがいることを視認してもその足を止めることはない。だが今回はただの保健所の大人ではない。幻想郷の能力者と妖怪だ。
ルーミアは闇を練り上げて壁を生成。俺に攻撃した時に実体化した闇が生成されていたがそれの応用だろう。殺傷能力がない普通の壁である。しかし高さは六メートルほどはあるか、少女には超えることもできないだろう。石の壁などであれば壁の凹凸を掴んで攀じ登ることもできただろうが、今回の壁は闇により練り上げられた凹凸が一切ない真っ黒の壁である。そもそも光を吸収するためシルエットにしか見えない壁が突如目の前に出現したら驚くしかない。
少女は壁に触れるが登れない事を確認すると今度はこちらを向き走り出した。どうやら壁が登れないと判断し俺の方を抜けようと思ったのだろう。だが残念、俺とて散々外の世界の妖怪と追いかけっこをしてきた身だ。紫みたいなデタラメ能力でもなければ超えられない。
巨壁【五十メートルの進撃の壁】
ネタの気持ちで作ったスペルカードだったが予想外のところで役に立った。巨大な結界が俺と少女の間に出現する。ルーミアの壁よりも薄いだろうが、その分広い。強度に関しても大人が全力で殴ってもびくともしない折り紙付きである。
少女はその結界に触れると登れないと判断し諦めた…と思ったら次はビルの側壁を登り始めた。相当捕まりたくない理由でもあるのだろう。ロッククライマーも驚く速度でビルの側壁を登っていく少女。流石に俺たちもあそこまでの速さで壁を登ることなどできそうにない。
飛ぶけどね。
風の能力で飛翔し一瞬で少女に追いつく。流石に空を飛ぶとは思っていなかったようで顔が驚愕に染まっている。それもしょうがないだろう。俺だって一般人だったら人が道具も無しに空を飛ぶなんで思わない。
ビルの側壁に捕まったまま静止する少女。数秒ほど空を飛ぶ俺と見つめあうと遂に諦めたか地面に降りた。
勿論結界と闇の壁は残っている。こうなれば袋のネズミである。俺とルーミアが近づく。少女の顔は苦渋に染まり目は反抗的な、憎悪の目をしている。過去に相当大人と色々あったのだろう。この年で大人とのいざこざとなれば十中八九親だろうけど。学校の先生という可能性もあるが、そもそもこの時間にこんなところに一人でいる時点で明白と言ってもいい。
「すまんな。こちらも依頼でね」
俺が話しかけても口を開かない。きっと保健所とか少年院の人とでも思っているのだろう。依頼という言葉を聞いて探偵みたいな役職を思い浮かべているかもしれない。しかしそのどれもが外れである。
「俺は堀内定晴、んでこっちがルーミア。俺たちは幻想郷っていう所から来た能力者だ」
そういうと目が怪しむ目になる。それもしょうがない、普通ならその反応だ。俺も能力者じゃなかったら紫の話を信じなかったかもしれない。あの時は紫は空間にぽっかりと開いたスキマから話かけてきていたらから信じないということもできなかったかもしれないが。
このままいっても埒が明かないのでさっさと説明を続ける。そもそもスペカも闇の壁もそれぞれ霊力、妖力を消費し続けている。存在を維持しているだけなのでまだ少ない方だがいつかは切れてしまう。勿論数十分で切れるほど俺たちの霊力量、妖力量は少なくないのだが。
「聞かせてもらっていいか、なんで大人から逃げているのか…とその前に名前は?」
「…」
うーん、俺ってば少女と話すの下手すぎ。
こうなれば…ルーミアに任せるとしよう。
「ルーミア、リボン」
「え、私なの?定晴がやりなさいよ」
「俺は説明が下手なんだよ。概要は知ってるだろ」
溜息をつきながらリボンを頭に装着するルーミア。すまん、後でお詫びに何かしてやるから。
リボンを付けたことで背が縮んでいくルーミア。その様子に少女は驚きを露わにする。空を飛んだり凹凸が無い壁を作ったり背が縮んだりとこれだけあれば能力者ってのも信じてくれてもいいと思うんだが。背が縮むと言うだけであればコ〇ンでもあるか。
少女モードになったルーミアが少し幼く話し始める。
「私達はあなたを捕まえにきたわけじゃないのだー。実は人員不足で重要な役職の跡取りを探しているのだ。だからそれに適しているかを見極めたいから話してくれないかー?勿論条件に合ってるからって問答無用で連れて行ったりしないのだ」
「…ふーん」
初めて口から声を発する。口は開けていないけど。
今度は俺たちを凝視し始めた。話せる相手か見極めているのだろう。
暫くした後に少女は今度は口を開いて話し始める。
「私は水那、姓はありません。あなたたちは本当に保健所の人じゃないんですね」
そこから話し始めた過去の話に俺達は頭を悩ませることになる。