東方十能力   作:nite

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百三十二話 トラウマ

「私は四人家族だったの。両親とお姉ちゃん、そして私。私が小学生になる前に両親が離婚。父に連れてかれた私とお姉ちゃんは毎日…」

 

水那の口から出るのはトラウマレベルの…いや、実際トラウマであろう日々。

離婚を機に性格が変わった父親、壊れていく体、学校ではイジメに遭い不登校に。姉に持ちかけられて家を出た水那たちはこの世界の厳しさを味わった。

生きる為に犯罪も犯している。大人に捕まりたくない理由もそれらしい。窃盗、不法侵入、器物破損…挙げられる犯罪は少年法に守られているとは言え軽いものではない。殺人や暴行はしたことないというからマシなのかもしれないが。

そして先日、とうとうずっと支え合っていた姉が逝った。警察から逃げる途中で転倒、道路上で転んだためそのまま通った車両に轢かれたらしい。死体も何も見ることができないまま走り去ったという。それは姉が最期に遺した言葉…

 

『生きて、水那』

 

ただその一言だけを糧に今日まで生きてきたという。

何度も死のうと思ったし、捕まってしまおうかとも思った。だがそれを己が許さない。

…壮絶である。紫の言う条件には適している、がこれはなんと言うか連れて行っていいものなのか。

例え血縁が狂った親だけになろうとも、血を分かつ姉がいなくなろうとも、たった一人になろうとも…彼女はここで生きてきた。そんな彼女が幻想郷なんて来たいと思うだろうか。

紫から連れてこられない少女には出来る限り幻想郷のことは言わないで欲しいと言われている。そもそも外の世界では東方Projectは架空の存在なのだから信じる人も多くはないと思うが。

 

「ルーミア、どうする?」

「どうするも何もこの子でいいんじゃない?賢者さんに言えば?」

 

まあそうか。この子は適任だと言えるな。

早速簡単に概要を伝える。凄く訝し気な顔をしていたが今はそれでいい。そう簡単に信じられる話じゃないからな。説明したのは俺たちが欲している博麗の巫女とその役割についてだ。幻想郷については話していない。

博麗の巫女と言うと東方を知っている人ならばすぐに反応するだろうが、水那は反応を示さない。きっと話を聞いた限りそういったものに触れる機会もなかったのだろう。そもそも小学校に入るくらいの子が知っているようなコンテンツではないのだが。

水那に来ないかと言ってみたところ…

 

「まあ行く分にはいいんですけど、それならしたいことはしてもいいんですよね」

「したいこと?」

「言うならば思い残しです。今すぐにってわけでもないんですよね?」

「ああ、そうだ」

 

思い残しか…この子には色々とありそうだ。かくいう俺も実は外の世界でやりのこしたことはある。この子がやり残したことをしている間に俺もそれを終わらせてしまおうか。

どのみち俺のことは後でいいので先に水那のしたいことを終わらせてからでいいか。早めに終わらせる手伝いくらいならできるだろう。

 

「水那、俺たちも手伝えることがあるなら手伝うぞ」

「別にいいです。一人でできるので…そもそも貴方たちも犯罪者になりますよ?」

「別に構わん。だって俺は銃刀法違反してるし、殺人紛いのこともしてきたからな」

 

といっても人の姿をした妖怪を退治しただけなのだが。昼間は近所にいい顔をして夜は話しかけてきた人間を喰らうという質の悪い妖怪だった。俺がしたことは妖怪退治だったが、そいつは人間の姿で死んだため傍から見れば殺人ということになる。

輝剣はあるだけで銃刀法違反だし、意外に俺も犯罪者である。

 

「でもいいです。一人でできるので…あ、でも…」

 

そう呟くと水那は思案顔になる。案外表情がコロコロ変わって面白い子だな。いつもはここまで無いんだろうが、俺たちが怪しすぎるというのもある。いい話をして誘拐するという可能性もあるというのに…といっても先程の能力を見ては普通の人間ではないのは見て分かるというものか。

 

「…すみませんが一つだけ犯罪を犯してくれませんか?」

 

おう、なんというか凄い誘い文句だな。俺達じゃなかったら頷くやつなんて一人もいないだろう。

水那に言われたのは彼女の姉の死体の捜索。一度戻ってみたけどどこにもなかったため警察が回収したと思われる。そのため警察から奪いたいと言うのだが…うん、犯罪だねこれ。場合によっては血縁関係がある人物などは受け取ることができるのだが、今回の場合姉が犯罪を犯しているというのが厄介で俺たちが受け取りに行ってすんなりいくとは思えない。姉も少年法に守られているため逆に保護者側が面倒になるのである。

ともかく死体を受け取り自分で埋葬したいとのこと。

 

「よし、任せろ。連絡手段はあるか?」

「スマホなんて持ってないですよ。当然ですが」

「じゃあ…」

 

藍に教えてもらったばかりの式神の出番だ。紙を媒体に、連絡が取れるように…

出来た。念じながら話しかければ声が届く。動作確認も良好。一度式神のプロに教えてもらったとはいえ外の世界でも使う事ができたのでよかった。とはいえ二、三県を跨ぐと声が届かなくなるので注意だな。

そこらへんを説明して水那に渡す。これで何かあっても大丈夫だろう。

 

「ありがとうございます。じゃあもう少し寝てていいですか?」

「え、あ、そうだな。そういや夜だったな。俺達は取り敢えず去るから事が終わったら連絡してくれ。姉は俺たちに任せてくれ」

 

そこまで話したら水那が眠りについた。俺たちも立ち去る。

 

「そうだルーミア。ここから出るとこ見られたくないから俺も闇に混ざれないか?」

「残念だけど無理よ。だってあなた常に浄化の力が出てるから攻撃に使うような密度の闇じゃないと届かないのよ」

「そうか…」

 

では諦めて静かに行動するとしよう。路地裏から出てきたところを見られれば変な目で見られるのは当然というもの。

さっさと移動してしまおう。

帰り道は特にアクシデントも無く部屋まで戻って来れた。では早速作戦会議と行こう。水那の姉を回収するのだ。

だがどこに行けばいいのだろうか。こういった場合検視され死体は警察が回収することになっているらしい。しかし姉が死亡したと思われる日は結構前であり、検視は終わっていると考えていい。血縁者が受け取りに来なかった場合は血縁者に理由を聞いて受け取るかどうかを判断させるらしい。今回の場合は母か父、しかし聞いた話だとあんな父が受け取るとは思えない。母は母でどこにいるのか不明。

死体を受け取る人がいない場合はその市区町村長が受けとり埋葬などの行為をするらしい。そしてその全ての情報は役所に記録されていると思われる。

となれば最初の目的地は役所だな。強行するならば侵入なんてこともできるが、死体の行方を聞くだけならば普通に手続きをすればいいだろう。きっと死体の所在くらいなら聞ける。多分。

ということで俺達はしばらく水那の手助けをすることになった。

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