東方十能力   作:nite

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百三十六話 脱出

「貴方たちは誰。私をここに呼んだのは貴方たちなの?!」

「違う。俺達じゃない。俺達だって巻き込まれた側だ。だから銃を下げてくれ」

 

銃を向けられたままの問答。緊張が凄い。

銃は幻想郷の住人からしても脅威となるはずだ。俺達がどれだけ頑張っても弾を銃弾ほど早く飛ばすことは出来ないからだ。例えそれが人殺しを目的とした弾だとしてもな。

だがそもそも幻想郷には銃という概念が広まっていないのだろう。ルーミアは銃になんも驚くこともなく彼女に近付いていく。

 

「あら、彼は私の大切な人なの。それに武器を向けるなんて、分かっているのかしら?」

 

そう言って彼女と向かい合うルーミア。きっと大人モードの時限定の怪しい笑みを浮かべていることだろう。しかし現時点ではそれは逆効果にしかならない。

案の定彼女はその銃を下げるどころかルーミアの頭に標準を合わせている。あれは…相当慣れている口だな。標準がブレることも無く正確な所に撃つことができるだろう。彼女はそのまま引き金を引いて…

 

「あらあら、そんなもの。私達に効くと思っているのかしら」

 

弾が消えた。

銃声は確かに聞こえた。現に銃の衝撃により少しだけ彼女も反動を受けている。だがルーミアに当たった様子はない。外したか?しかしあの構えとあの距離で外すとは思えない。

彼女もそれには思うところがあるようで焦りながらもルーミアに問う。

 

「なんで!なんで当たってないのよ!」

「それ、多分銃でしょ?話に聞いたことはあるわよ。弾を私達にはできないくらいの速度で撃つことができるって。でもね、その弾が私に届かなければ意味が無いのよ」

「おかしい!だって、私はちゃんと…」

「ええ、確かに弾は飛んで来たわ。見る事は出来ない速度でね。それで私は回避できないと思って弾を闇に落として消した。それだけのことよ」

 

闇に落として…消した?そんなことができるのか?

ルーミアって、実際戦いたくない相手一位かもしれない。無効化の能力がどれだけ通じるだろうか…紫も戦いたくない相手一位だな。同率一位である。

 

「闇に…どういうことよ!」

 

これはだめだな。ルーミアが彼女を益々激昂させてしまっている。

俺はルーミアと彼女の間に割りこんで強引に話を中断させる。このまま続くと事態が悪化するだけであるからだ。

 

「まあまあ落ち着いてくれ。ルーミアも、あまり相手を煽るようなことをするな」

「あら、私は煽ったつもりはないのだけど?」

「無自覚かよ…それはともかく、ルーミアは下がってくれ」

 

ルーミアを下げて彼女に向き直る。未だに銃を上げたまま、今度は俺の眉間を狙っている。正直に言うと銃を向けられること自体は慣れているのだが。

 

「あー、銃を下げてくれないか?あんなこと出来るのあいつだけで、残りの二人が怖がっているからさ」

「貴方たち、名乗りなさい」

「俺が堀内定晴、さっきのがルーミア。怖がっているのが宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンだ」

 

訝し気に後ろの秘封倶楽部の二人を見る彼女。勿論銃は上げたままだ。

二人が本気で怖がっていることを確認したのちに銃を下げた。

 

「私は空那よ。姓は無いわ」

「その名前…姓は無い…あんたが水那の姉か?」

 

その名前に反応する空那。これはビンゴだな。奇跡的にこのわけ分からない空間で捜していた人を見つけることができたようだ。

俺が水那の名前を知っていることを怪しく思ったのかまたもや銃を俺に向けて問う。

 

「あなた、水那に会ったのね?どこで?あなた、もしかして孤児院とかの人?」

「違う。俺は水那に頼まれて姉の行方を捜していた人だ。水那が別れも言えずに悲しんでいたからな。俺達のためにも水那の姉を捜していたんだよ」

「ふーん…それを信じるも信じないも後にするわ。私は向こうではどうなっているのかしら?」

「役所内でどうなっているのか分からないが少なくとも死亡扱いではないし死体も見つかっていない。水那は死んだと思っているけどな」

 

実際には死亡扱いとしているのかもしれないが、死体の情報とかが見つからなかったのならきっとそうなのだろう。

空那は銃を降ろして思案顔。どうも何か思うところがあるようだ。

 

「てっきりここは死後の世界と思っていたのだけど…轢かれた怪我もあるし痛みとかもあるから純粋にここは違う場所ってだけだったのね。謎が解けたわ」

 

轢かれてよく生き残ったなと思ったが、どうやら轢かれて体が大きく跳ねたらしい。そしてあの壁にぶつかったと同時に転移。轢かれた後の衝撃はゼロになり車にぶつかった衝撃のみが空那に怪我を負わせたらしい。どうりで生きているわけだ。

だがそれだけでは疑問が残る。そう、ここに来る方法だ。ただ壁にぶつかっただけでは足りない。ルーミアのした方法以外にないのだとしたらそこには妖力という力が働く必要があるのだ。

 

「あー、そういうことね。なんだ。貴方たちも同類なんじゃない。私は能力があるの」

「能力だと?」

 

初耳だ。少なくとも水那の会話の中で姉が能力を持っているなんて話は聞いたことが無い。

彼女は少しだけ躊躇った後に能力名を告げた。

 

「私の能力は、【妖力を操る程度の能力】よ」

「待った。今程度の、って言ったな?まさか…」

「私は一度妖怪に会ったの。その時に妖力を貰ってね。そいつが私の能力名をこう呼んだから私もそう名乗っているだけ。操る力も妖力も貰い物だから水那には能力は無いわ。なんで程度なのかは分からないけど…まあ操るだけだし程度って言ってもなんら不思議は無いわ」

 

きっと空那が会ったと言う妖怪は幻想郷を知っている。まさか妖怪が外の世界での創造物とされている東方projectに触れあったとも思えないし実際にそいつが幻想郷もしくは紫と接触したのだろう。相手に能力を授ける事ができると言うことは相当強い妖怪に違いない。

まさか…だが彼女が生きているということはその妖怪は空那を襲わなかったことになる。外の世界の妖怪は生きることにすら必死となり一人でいる人間であればすぐに喰らうのだが…やはり何者にも例外があるということだろうか。

 

「まあそういうわけよ。それで?私は元の世界に帰れるのかしら?」

「え、ああ。ちょっと待ってくれよ…」

 

どのみち俺達も帰らなければいけないのだから帰ることは出来るだろうが…空那は最悪無視するとして蓮子とメリーに紫の姿やスキマを見せるのはまずい。

色々と考えていたら俺達の左側から足音。

 

「あらら?こんなところで貴方たちは何を…んー?」

 

そこには赤い服に長くて白い髪をした女性が立っていた。

人間…に見えるのだがなぜか違和感がある。これまた石を拾った時と同じ違和感だ。つまり彼女はここの世界の人…もしくはこの世界にずっといた人ということになる。

 

「あー、俺は堀内定晴だ。あんたは…」

「私は神綺、ちょっと散歩をしていたのだけど…」

 

そういって秘封倶楽部の二人を一瞥し、ルーミアに視線を移す。なんだか不思議そうな顔で、若干微笑みながら空那も見て俺に近寄ってきた。

そして耳元で囁かれる。

 

「貴方、紫のお友達?」

「っ!?」

 

驚いてバックステップをしてしまう。

その反応を見て神綺は面白そうに笑っている。くそ、弄ばれた感じがする。

もう一度全員を見てから少し考えて、神綺は発する。

 

「帰り道が知りたいのかしら?いえ、定晴さんは知ってるけど少し困りごとがあるのね?」

「え、えっと…」

「まああの人の友達ならあの人の存在に関して困っているのでしょう。ふふ、人間なんて見るの久しぶりだわ~」

 

そう言いながら神綺は何かしらの魔法…だろうか。力が流れて俺とルーミア以外の三人が倒れた。いや、寝かされた。

 

「これでいいかしら?」

「え、あ、ああ。ありがとう。紫ー!」

「はーい、朝から晩まで。貴方のためなら喜んで、紫さんよ…なんでこんなところにいるのよ定晴。外の世界に送ったはずでしょ。あら、神綺じゃない」

「困っているようだったから手伝っていたのよ。皆を帰してあげて?」

 

紫が不思議そうな顔をするので説明をする。

外の世界で良い人を見つけたこと。連れてくるために約束をしたこと。捜している途中でここに迷い込んだこと…などなど。

一通り話を聞いて納得したか紫は頷いてスキマを開いた。

 

「その壁は危ないから後で塞いでおくわね。あとそこの三人からここでの記憶は消して…ああ、その妖力を持ってる子だけは残しておかないといけないのね。あとここについては…まあ時間がある時にでも聞きに来なさい。もしくは人形遣いの子にでも聞いてみると良いわ」

「人形使い?アリスのことか?」

 

その名に反応する神綺。何かアリスはここと関係がありそうだ。色々と謎は残るがまずは良しとしよう。気になればあとで実際に聞きに行けば良い。

俺とルーミアで三人をスキマの中に入れる。

 

「じゃ、いい結果を期待しているわね。それにしても何でそんな面倒なことしているのかしら」

 

何か紫が呟いているが俺達もスキマに入る。この奇妙な空間だが、安全であることは証明済みだ。

こうして俺達はこの謎の空間から抜け出すことに成功したのである。目的も達成したし、あとは水那に会うだけだ。

 


 

スキマが閉じたあと、幻想郷の賢者と魔界の神が会話をする。

 

「にしてもまさか定晴がここに来るなんてねー」

「定晴さんってやっぱり紫の知り合いなのね?どういう関係?」

「永遠の愛を誓い合った彼氏とかの…」

「ふーん、友人なんだー」

「なんでよー!」

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