東方十能力   作:nite

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百三十七話 生き返り(元より死んでない)

スキマから出た先は元いた壁の前だった。人払いの結界が張られているのは紫の計らいだろう。

しばらくすれば三人が起きてあたりを見渡す。どうやら本当に秘封倶楽部の二人だけ記憶を消されたようだ。きっとスキマの中でしたのだろうが…あの中だと紫に好きなようにされるという点で言うとあそこは安全ではないのかもしれない。無闇に人を食べるような奴ではないけどな。

さて、蓮子は不思議そうにあたりを見渡しているがメリーは例の壁を凝視している。紫とてそんなすぐに閉じれるわけではないだろうしまだ何か違和感があるのだろう。というか異世界に紛れ込む前に戻っただけなのでそれも当然と言えよう。

しかし俺の方を振り返り何度も壁と俺に視線を移動させた後俺が何もしないので取り敢えずは諦めたようだ。きっと後日またここに来るのだろう。だがその時はルーミアも空那もいないから移動出来ず…そもそも紫が閉じているだろうから違和感がなくなって…可愛そうだが仕方がない。

 

「えっと…蓮子、メリー、俺達は用があるからまたな」

「ん?ああ、うん。分かったー」

 

蓮子が未だに不思議そうな顔と声で返事をする。記憶はどこから消されているのか分からないが、不自然にならないように配慮はされているはずだ。二人はそのまま駅の方へ向かった。まだある程度日は高いしこれから昼食でも食べて新たな冒険にでも出るのだろう。

空那を連れて水那と最後に会った場所へ向かう。水那の用が終わっているのかは分からないが、待っていれば来るだろう。

人目を避けつつ移動。こういう時人払いは便利だ。日陰を歩く時はルーミアの補助により相当暗くなって見えにくくなるしこの状態の俺達を見つけるのは能力者でもないと無理だろう。

予想通り誰にも見つかることもなくビルの隙間に入り込む。水那は…いた。前に水那が寝ていたところで座っておにぎりを食べていた。盗品だろうか。それを咎める立場も理由もないので特に何も言うことはないが。

水那がその気配探知により俺達の方へ目を向ける。そして空那に視線が移った時、その目は大きく見開かれた。

 

「お、ねえ、ちゃん…?」

「そうよ…水那…」

 

対する空那も感極まったのか若干の涙目だ。

邪魔しちゃ悪いと思って俺とルーミアはこの場を後にした。数十分後にくればいいだろう。

ルーミアの能力を使って誰にも見られることもなくビルの裏から出て自動販売機でジュースを買い、近くのベンチで休憩することにした。俺の後に続いてルーミアが隣に座る。

 

「ねえ定晴、これでよかったの?」

「どういうことだ?」

「だって姉に会っちゃったら水那は外の世界に残りたがるかもよ?」

 

それは最もな意見だ。多分水那が幻想郷に…俺達に着いてきてくれると言ったのは空那が死んだと思い、殆ど外の世界に対して未練が無かったからだろう。だがその姉が生きていると知れば残りたくなるかもしれない。

だが約束は守ってもらわねば。紫に言えば空那を一緒に連れてくることも出来る…と思う。まだ不確定要素だが、悪い結果にはならないよう祈るしかない。

暫くルーミアと適当に会話してから元の場所へ。これくらい待てば…話したいことは話しただろう。一応水那に今後の説明も頼んでいるから伝わっていればいいのだけど…

 

「…定晴さん」

「なんだ?」

 

戻ってきて最初に話しかけてきたのは空那の方。

どうやら表情を見るに、水那の移動の話を聞いて思う所があったのだろう。逆にそれ以外で俺に話しかける理由など無い筈だ。

 

「水那を連れて行くの?」

「一応その予定だ。勿論本人が嫌なら別口を探すことになるが…姉を見つけるという任務を完了すれば付いて来てくれるという約束を事前にしたから今更違われたくないな」

 

俺がそう言うと空那は水那の顔を見た。

対する水那は顔を伏せていてどんな表情をしているのかは分からない。元々は死んだと思っていた人が生きていて、尚かつ未だに自由意志にはならないものの選択肢がある。どうすればいいのか決められないのだろう…と思っていたら、水那が顔を上げて宣言した。

 

「うん、お姉ちゃん。私は行くよ」

「そう…」

 

水那のはっきりとした宣言。その顔に迷いはない。

空那が少し顔を俯かせる。悲しいような、寂しいような、それでいて若干喜んでいるような表情。

 

「水那、私はねあなたにもっと幸せになってほしいの。でもそれ以上にあなたの選択を邪魔したくない。今まで自由な選択肢なんて無かった生活だったから…だから私はその決断に異を唱えたりしない。だから…その……いってらっしゃい」

 

やはり寂しさが抜けきらない顔で、それでも姉が妹を送り出す時の優しい表情で空那は言った。

対する水那も若干涙目になりながら頷く。さて、これでミッション完了だ。

 

「紫ー」

「はーい、妖怪の案内人、八雲紫よ」

ぬるっと俺の横でスキマから顔を出す紫。若干奇妙だが、まあそれはいい。

紫に準備が出来たことを報告、紫もそれに了承しスキマを開いた。この先には幻想郷の原風景が広がっているのだろう。

水那の前に俺が入ろうとしたら紫から待ったがかかった。

 

「ん?どうした?」

「定晴はちょっと待ってて。先に水那ちゃんを送っちゃうから」

 

そう言ってスキマを水那の頭上に移動。頭から被せるようだ。

しかしなぜそんなことをする?まるで逃げられないようにしているみたいで、さながら虫を網で捕まえる時のように…

 

『無効化!』

 

急に狂気が能力を使用した。対象は水那の頭上に展開されているスキマ。俺の無効化によって紫のスキマは跡形も無く吹き飛んだ。

狂気とて俺であるのだから能力は使える。疲れるからしないが、狂気に結界を張ってもらいつつ俺が魔術詠唱をする、なんて真似も出来る。

しかし普段はそんなことはしない。そもそも狂気が能力を俺に断りもなく使うなんてありえないはずだった。

 

『おい、あのスキマには俺達が変な世界から戻ってきた時に通ったスキマと同系統の術の気配を感じたぞ』

『同系統…?まさか…記憶消去か?』

 

言葉は発さずとも狂気が頷いているのが分かる。

魂の中からでは周囲とコミュニケーションすら取れない狂気の代わりに俺が問う。

 

「紫、何のつもりだ」

「…そちらこそ、何のつもりなのかしら」

 

双方共に大量の怒気を含んだ問いかけ。

まさに一触即発であったのは言うまでもない。

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