輝剣による攻撃が晴れ、紫は未だに浮いていた。
だが体の節々に怪我をしているせいか態勢が少し変だ。それに妖力も少ない。しかし撃墜まで至れなかったのもまた事実。
輝剣を生成には相当な魔力を消費した。いや、空になった。魔術はもう使えない。それに俺の魔力量だと足りなかったので霊力すらも使い生成した。
俺の残存霊力は…残り僅か。辛うじて立っていられる分しか残っていない。勝算は、既に無い。足掻けるとこまで足掻きはするが、これは俺の負けだろう。
と思ったら…
「ふふ、あははは!はぁ…やっぱり定晴は強いわねぇ…私の負けだわ」
「どういうことだ?」
「だって、そこまでの本気を見せつけられて、まだ嫌がるなんて子供みたいじゃない。こんな風にされたのだから私の負けよ」
うーむ…そう言われると俺も子供っぽいみたいになるが…人間としての責務を果たしたのだ。水那には辛い記憶もあるだろうが、それから逃げるなんてしてはいけない。外の世界の記憶は保持したままにしてもらおう。
「というわけで、定晴の言い分は飲ませてもらうからその代わり手伝いなさい。博麗の巫女という役職になるにあたって面倒なことではあるのは確かなんだから」
「そんくらいはするさ。それは紫と戦う時は分かっていることだ」
スキマで元の場所に戻る。俺たちが戦った跡地は悲惨なことになっているが、誰もいない場所を選んだだろうし紫が後で元に戻すだろう。
水那が心配そうに見つめている。というか俺の傷を気にしている。紫の攻撃は殺傷性が高いわけではないのでそこまで傷は負っていないが、戦闘後に無傷というわけにはいかない。体の方はあとで再生するとして衣服は…買い直すか作り直すか。折角外の世界に来ているのだし買いたい物を買ってから帰るのも一つの手だな。今着ているものは俺でも作ることは出来るけど、材料が足りない。
ルーミアは…若干涙目になってないか?確かに式神なのに紫との戦闘に連れて行かなかったのはショックかもしれないが、例え本気モードのルーミアでも紫のスキマには相当苦戦するだろう。ルーミアには怪我してほしくないし、これは人間と妖怪の問題だったので妖怪のルーミアは水那と共に置いていった。
紫が溜息混じりに口を開く。
「じゃあ水那ちゃんは今から博麗神社っていう所に連れて行きます。定晴とルーミアも来てね」
「了解」
「空那ちゃんって言ったかしら?妹に酷いことはしないって約束するから安心なさい」
「分かり…ました。水那、頑張ってきてね。行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
二人の最後の挨拶も済み俺達四人はスキマの中へ。一度決めた約束は破らないから心配はしていなかったが、狂気も今回のスキマは普通の移動用のスキマだと言う。俺たちで完全に判断することはできないが、問題ないだろう。何かあったらミキにも頼んで二人で紫を殴ることにしよう。
移動時間僅か五秒。外の世界から幻想郷の物理的な距離は分からないが、結界など色んなものが間にあるというのにそれらに一切の影響を与えず一瞬で移動することができるスキマ能力は本当に厄介だ。しかもこの使用方法は本来の使用方法ではないのも驚きだ。俺に比べて汎用性がどれだけ高いのかがわかるだろう。
スキマが消えて目の前にあるのは博麗神社。そこには霊夢の他に藍、橙、それに俺が知らない赤い服を着た女性もいる。
「ふーん…この子ねぇ…私よりも随分と小さいし…それにまだ私には必要ないでしょ。跡取りなんて」
「あのねぇ、何度も言ったでしょ。何が起こるか分からないんだから備えておくのは大事なのよ。霊夢だってその年齢で博麗の巫女やってるじゃない」
確かに紫の言う通りだ。
水那よりも大人と言えど霊夢はまだ少女の部類に入る。先代の巫女が何歳だったのかは知らないけど、今の霊夢が博麗の巫女をするぐらいだ。霊夢に何かあって水那が霊夢くらいの年齢で博麗の巫女を継ぐ可能性もある。その場合は今の水那の年齢から修行などは始めておいたほうが良いだろう。
紫から順に水那に自己紹介をしていく。
「改めて、私が八雲紫よ。幻想郷の賢者…管理人みたいなことをしているわ」
「私が八雲藍だ。紫様の式神で主に紫様の補助をしている」
「私が橙です!藍様の式神で補助をしています!」
「そして私が博麗の巫女をしている博麗霊夢よ。あなたからすれば先代に当たるけど、今は全然現役でさせてもらってるわ」
四人が挨拶をすると次は赤い服を着ている女性が水那、そして俺にも視線を向けて挨拶をする。
「貴方も初めましてですね。堀内定晴さん。茨木華扇です。修行の身ではありますが仙人です」
仙人か…長い白髭を垂らしてご年配の男性がフォッフォッフォとか言っているようなイメージがあったが…そもそも幻想郷では大体の重要な役職とか特別な職業の人は女性だし今更だろう。未だに人里以外の男性の友人は霖之助だけだ。外の世界のゲームでも女性ばかりだったのでまさかとは思ったが、本物も同じような見た目ばかりだ。一度外の世界で販売されているゲームをして皆のことを理解するのもいいかもしれない。ネタバレになるだろうが幻想郷内の厚い本を読むよりも効率的に知ることができるだろう。
閑話休題
五人の挨拶が済んだところで水那も挨拶をし返す。俺も便乗して華扇に挨拶をする。
「水那です。姓はありません。よろしくお願いします」
「名前を知っているようだが、俺が定晴だ。よろしくな華扇」
ルーミアは…華扇とは面識があるようだな。話したことはあまり無さそうだけど、初対面っていうわけでもなさそうだ。
華扇は雰囲気がとても映姫に似ている。なんとなく説教好き…とは違うだろうがそういう類のことを霊夢によく話していそうだ。勿論これは俺の偏見である。
水那が紫に連れられ神社の中へ。俺もそれについていく。ルーミアはストップがかかり霊夢と話すことにしたようだ。どうやら先日のルーミアの事件からまともに会話していなかったようで色々と霊夢も話すことがあるようだ。
紫がスキマから石のようなものをだす。これは…霊夢が持ってる陰陽玉だな。大きさも殆ど同じ。
「さて、これは水那ちゃんの練習用の石よ。取り敢えずは渡しておくわね。使うのは空を飛んだりできるようになってからでしょうけど持っておいて損は無いわ。定晴、手伝って」
「何をすればいい?」
「水那の周囲の境界を弄って幻想郷に慣れさせるから負荷が無いように無効化を使い続けて。霊力は…ルーミアにでも貰いなさい。妖力の変換もできるようになったんでしょう?」
そう言って紫は水那の周囲の境界を弄りだした。目に見えるものではないが、何かしらの違和感が生まれるため俺でもいつ始まったのかくらいは分かる。
存在の境界を弄るのはその者に大きな負荷を与えるため、俺はその負荷のみを無効化する。反動がないというのは物理的にはとても不思議な現象だが、俺の無効化は…というより幻想郷では物理現象などという常識は通用しない。空を飛んでいる時点で物理などあってないようなものだ。
ルーミアとの繋がりを利用してルーミアから妖力を貰い無効化に使う。無許可だが…繋がりを見ても嫌がっている様子はないのでそのまま使わせてもらおう。今は封印状態だからそこまでの量を貰うわけにもいかないしなるべく俺の残存霊力と併用する。残ってる量などたかが知れているので意味ないか。
時間にして三十秒。俺の霊力もルーミアの妖力も丁度切れた所で紫の儀式が終わった。
「はい、取り敢えずこれで大丈夫だから。力の使い方とかは霊夢や華扇に修行を付けてもらう中で身につけなさい。定晴もお疲れ様。今日はもう休んでいいわよ。水那への説明は私達が済ませちゃうから」
そう言われ俺は神社を出る。これ以上働けと言われたところで働くことなどできないのだが。
ルーミアも妖力を吸われた影響で少し疲れている。何もしていないのに疲れるなど不思議な体験だろうけど、今日はルーミアもゆっくり眠らせることにしよう。後で家の中で封印を解いて溜まっている妖力を体内に巡回させればルーミアもある程度復活するだろう。
後ろから紫たちの説明する声が聞こえる。きっと早速明日から水那は博麗の巫女としての修行を始めるのだろう。空を飛べないと移動は不便だし、先程紫が言った力の使い方について調べていくに違いない。
こうして幻想郷の住人がまた一人増えた。ここで外の世界の話は終わり、舞台はまたも幻想郷に戻る…
地下深く。幻想郷では旧地獄とも呼ばれている地底で一人と一匹…
「我慢ならないし会いに行っちゃおー」
「それで怒られるのあたいなんですけど…はぁ…」
館の主に秘密で二つの影は地上への移動を開始した。