恋…人…へ?いや、違う違う!私は別に定晴にそんな感情抱いてなんか…なんか…くぅ、今更言い訳などできそうにもない。そもそも白玉楼で定晴と魂魄妖夢の立ち合いを見てる時に自覚してしまったのだ。私はご主人様…定晴のことを好きなのだと。
ただ恋人なんて…そんな…妖怪と人間の恋が成就しにくいのは知ってる。だから私はそこで線引きをしているのだ。ともかく今はこいしに返事をしないと…
「恋人なんかじゃないのだー」
「でも凄い定晴のこと信頼してるよね。しかも部屋も宛がっているみたいだし…」
この妖怪、結構察しが良い。
確かにご主人様のことは多分誰よりも信頼している。式神が主を信頼するのは当然だと自分の中で決めつけているけど、実際のところ多分恋してるからなんだと思う。
でも今日会ってから私とご主人様の信頼度を見るところなんてなかったはずだ。戦闘とか会話があるのならまだしも、正直今日は寺子屋から後はあまりご主人様とは会話していない。そういえば前大ちゃんに距離が近いとかなんとかで疑われたような記憶がある。もしかして私って意外と自覚してないだけで無意識にご主人様の傍にいようとしてるのかな。
こんなことなら昔寝泊まりしてた所で寝ればよかったかなぁ…まだ一応あっちにも服は置いてあるし、風呂とかそういうものはないけど人里で弁当を買っていけば一週間くらいは生活できるだろう。正直今更この生活から離れるなんてできそうにないけど。多分起きた時定晴がいないのにご主人様って呼んじゃいそう。空しい。
いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃないのだ。なんとか言い訳しないと。
「い、居候なのだー。皆には秘密だから魔理沙には遊びに来たって言ったけど…」
「ふーん…」
全然納得してくれない!
やっぱり今日の雑談の中で感じていた探りってのは気のせいじゃなかったのだ。ご主人様も私もそれに気付いて色々と話して躱したと思ったのだけど、やはりこいしは納得してなかったみたい。あのお燐っていう愛称がついてる死体運び妖怪は納得してくれていたのに!
「…ルーミアちゃん。やっぱり何か隠してるね」
「隠し事なんて無いのだーわはー」
「前チルノちゃんたちと話してた時より喋り方に違和感がある。前はちゃんと無意識だったのに今は意識してる感じ…」
何この妖怪こわ!
嘘でしょ。私の話し方は前にずっとやってた影響で少し意識するだけで前と同じ幼い口調ができるから殆ど無意識みたいなものなのに、その少しの差を感じ取ったってこと!?無意識妖怪ってそういうところに敏感なのかな…
これ逆に変なところまで勘づかれそう。ちょっとだけバラシてしまった方が安全かもしれない。ご主人様に迷惑かけたくないし。
「実は前に定晴に救われたから信頼はそれが影響なのだー。喋り方は気のせいじゃないかー?」
必殺【気のせい】
スペルカードみたいになったけどこの際気にしない。気のせいっていうのは言われたらそっかって言わざるを得ないのだ。得ない筈なのに…
「気のせいじゃないよ!分かるもん!」
えぇ…ここまで来るともう私も言い訳するのが至難になってきた。
何でもかんでも気のせいだと言ってしまうとそれはそれで疑われることになるし、かといって式神の話や封印解除の話をできるはずもない。こいしはまだそこまで信頼できると判断できない。霊夢とか紫さんとか閻魔様とかそういった特殊な立場の人なら勝手に言い触らしたりしないと分かってるけど、他の人にはできない。特にチルノみたいな妖怪には絶対にしてはいけない。文屋にでもした暁には一日で幻想郷中にこの話が広がってしまうことだろう。
「じゃあ質問なんだけど…」
「うん」
唾を飲み込む。
こいしが第三の目を閉じていてよかったとこんなに思った事はない。彼女の姉に会ったら漏れなく…私の恋心も含めて…バレてしまうのは目に見えている。姉の方は会ったことないけどさとり妖怪だしあまり信用できない。あくまで私の偏見だけど。
こいしからの質問はいたって単純なものだった。
「定晴のこと何て呼んでる?」
「定晴」
「嘘」
「へ?」
いやいや、確かに定晴って呼んでる。その呼び方はこいしも昼間の間で聞いているはずだ。それを嘘だと言われるのは流石に私も驚くしかない。
「ルーミアちゃん、いつもは別の呼び方してるでしょ」
「なんでそう思うのだー?」
「ルーミアちゃん、凄いその呼び方意識してるみたいだもん。喋り方以上に」
…こいしって実は大妖怪なんじゃないの?もしくは第三の目が実は閉じているんじゃなくて薄目を開けているとか…
確かにこの呼び方は相当意識している。喋り方は前から慣れたものだから良かったが、呼び方に関しては元々私は定晴と呼んでいたはずなのに意識しなければご主人様と呼んでしまう。思考内では何度意識してもご主人様って呼んじゃうくらいだから式神の影響は大きいようだ。藍さんとか橙は名前に様付なのになぜか私はご主人様固定。仮契約なのに本契約をしている影響なのかもしれない。その場合は原因はご主人様のキ、キ、キスにあるとしか思えない。未だにあの時を思い出すと熱くなるのはどうにかならないものか。
「…よし!」
何がよし!なのか。そういえば先日外の世界に行った時にそんなことを言っている猫を見た様な気がする。確かあれは結局何に対してよし!なのか分からないっていう画像だったと思うけど…
「定晴ー!ルーミアちゃんと恋人なんだってねー!」
何に対してよし!って言ったの!
「違う!そんなこと言ってないじゃん!私とご主人様はそんな関係じゃ…」
「ほうほう…ご主人様ねぇー?」
あ、終わった。
ごめんなさいご主人様。私はダメな式神です。私から関係のことは秘密にしようと言ったにも関わらず私から言ってしまいました。
そもそもドアが挟んでいるうえさっきの黒猫はお風呂。定晴は冗談であるのが分かっているだろうに私は変に焦って無意識に呼び方をいつものようにしてしまった。無意識を操るってこういう能力じゃない筈なんだけどなぁ…でも気付かなくするっていうのも能力なんだろうし、案外私はいつの間にか能力の影響を受けていたのかもしれない。
「ねえルーミアちゃん、説明してくれる?」
「…定晴ー…」
ドアを開けてご主人様を呼ぶ。はぁ…どう言い訳しようかな。
「どうした?」
「実は…」
やってきたご主人様に事のあらましを説明する。どうやらさっきのこいしの声も聞こえていなかったようだ。そうなると私が焦ったのは本当に意味のない墓穴だったみたいだ。本当にごめんなさい…
「なるほど、ルーミアやらかしたな」
「はい、やらかしちゃいました…」
もう言い訳の一つもできやしない。今回に限ってはいつもはフラットに話しているご主人様に対しても敬語になってしまう。
「仕方がない…こいし、実はな…」
ご主人様は私の代わりに説明してくれる。
私のこと、式神のこと、その後のこと…式神にした経緯を説明するには私が暴走した話をしなければならないので最終的には殆どを説明することになった。
「なるほどー納得ー!」
「まあ大体はこんな感じだ。こいし」
「んー?」
ご主人様がこいしの方に手を置いて顔を近づける。
「このことは誰にも言うな。お燐やさとりにもだ。こいしはさとりの能力が効かないからな。いいな?」
「う、うん…」
ご主人様の出す威圧に押されて固くなるこいし…あれでも何か威圧されてって感じじゃなさそう…
「んじゃまた何かあったら言えよ」
そう言ってご主人様は部屋を去っていった。
そこでこいしに私から質問を投げかける。そう、顔を赤くしているこいしに。
「ねえこいし?もしかしてご主人様のこと…」
「っへ!?何!っていうか私も気になるんだけどさっきのだとルーミアちゃんがそんなに信頼する理由が分からない!」
露骨に話題を変えたこいし。もう秘密を知られたのだからこいしに対しては口調や呼び方を変えなくてもいいのは楽だ。だからって他の人に知らせるつもりはないけど。
「こいし、そんなに顔を赤くして…」
「違うの!その、その!えっと…あーもう!何か定晴に近付かれてすっごいドキドキする!」
どうやら私と違ってこいしはまだ自覚していないようだ。
教えないでいれば私のポジションは確固としたものになるだろうけど、ここで何も教えないで想いに気付かないままってのもかわいそうだ。
仕方がない。先輩ってわけじゃないけど気持ちの名前を教えてあげないと。
「こいし、それが恋よ」
「こい?池を泳いでる?」
「それは魚の鯉」
「誰かの意志による?」
「それは判断の故意」
「濃淡?」
「それは強弱の濃い…ってベタなネタをしてるんじゃないわよ!」
おっと、少し強くいってしまった。
ただこいしの反応が少女漫画で見たことあるような反応だったので流石に私も突っ込まざるを得なかった。
「恋って…うう~…ねえ、なんでそんなことが…あー、信頼ってそういうことなんだ」
「な、なによ…」
「はは、私もルーミアちゃんも定晴に対する想いは同じなんだね」
勘づかれた。ヒントは無かったと思うけど。
でもまあこの際それはもういい。同じ恋心を持ってるのなら…もう…
「はぁ…これが恋かぁ…ドキドキするよ…」
「しばらくすれば慣れるわよ」
「ドキドキしなくなるの?」
「え、いや、ドキドキもするし…表に出さなくなるってこと」
現に私も同じようにご主人様に近付かれたらドキドキして顔が熱くなる自信がある。
表に出さなくなるのは日頃のドキドキだけだ。多分ご主人様の方から何かされたらドキドキするし、私みたいな妖怪になって何を言うんだって話だけどキュンキュンもする。ご主人様は女たらしだと思う。
「それでこいしは何が原因で好きになったの?」
「実は…」
二人でその夜は色々と話した。
多分最近会った妖怪の中で一番仲良くなったと思う。
こいしを家に呼んでからここまでは全部12/13に書き上げてます